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REDとパン焼き娘コンテスト  作者: 山田露子 ☆ヴェール小説4巻発売中!
2.ぶっ飛び、おとぎの国レース

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2.伝説のネズミチューチュー拳の使い手


 いきなり杖を突きつけてくるなんて、とんだ歓迎の仕方もあったものだとREDは思った。モコモコお手々を前に出し、体の周辺にシールドを張る。腕を上げたことで、あることに気づいた。


「うん? なんだこれ?」


 突き出した右手首に、いつの間にか金属製の腕輪が嵌っている。こんなもの、つけた覚えがない。


 ネズミ鼻をヒクヒク動かしながら、背を丸め、おっかなびっくり腕輪を覗き込む。表面に光った文字が浮かび上がり、クルクルと回転して流れて行った。REDは難しい顔で、それを眺めおろした。回る文字を追いかけようとして、頭もフラフラ動いているし、ネズミ鼻の下がすっかり伸びてしまっている。


『あなたはおとぎの国レースの参加権を獲得しました! ネズミチームとして参加してください。一着のチームが勝者です。蜂飛行機から落ちた場合は、その時点で失格となります。負けたチームは、おとぎの国から一生外に出られません』


 REDの口があんぐりと開く。


「一生ここから出られない、だって? 困るよ! タンスの中に、とっておきのチョコチップクッキーを隠したままなんだ!」


 地団太を踏み、イーッとなっていたら、近くでおかしな気配を感じた。ふと顔を上げると、シールドにビッシリと張りついて、こちらを恨めしげに見つめるネズミたちの姿が。半透明の壁を突き破ろうとしているのか、シールドに顔を押しつけすぎて口回りがベロンとめくれ、ピンクの歯茎や白い前歯がむき出しになっている。REDはぎょっとしてたたらを踏んだ。


「うわ、怖っ!」


 ネズミたちは全部で三匹。一番目を引くのが、ピンクの毛並みをしたやつだ。――突然変異かな? とREDは思った。これまで生きてきて、ピンクのネズミなんて見たことがない。体も小さいし、女の子だろうか。このピンクネズミがルビーの杖を手に持っている。


 それから体がでかいマッチョネズミが一匹。こいつはかなりいかつい顔をしている。ピンクちゃんに対する距離感が妙に近いので、もしかすると狙っているのかもしれない。


 最後の一匹は、ひょろひょろした弱そうなやつだ。毛並みに艶がないし、垂れ目で攻撃力ゼロって感じ。


 三匹のネズミが口をパクパク開けて、身振り手振りで何か言っている。動きからしてやかましいのだが、シールド越しゆえ、音声は入って来なかった。


「なんだって?」


 REDはネズミ耳に手を当て、シールドのほうに一歩近寄った。すると三匹の口の動きが激しくなる。でもやはり何も聞こえない。ネズミたちが透明なシールドにグイグイ体を押しつけるので、うねった毛並みを内側から眺める形になった。


 この時のREDはさほど脅威を感じていなかった。というのも、こちらは魔力が絶大なので、誰もこの防御壁を破れないだろうと高を括っていたからだ。


 ところが。


「え?」


 ピシ、とひび割れる音がして、シールドに亀裂が入った。REDは目をまん丸く見開いた。


 なんで? どうして?


 上を向き、下を向き、状態を探る。相手が強いのか? いや、そんな感じはしない。……ということは、つまり?


「私の魔力が弱まっている?」


 さっき、『境界ヲ修復シマス』っていうアナウンスがあったけれど、あのせい? ここは力のある魔法使いが構築した世界で、取り込まれた者は、そのルールに縛られてしまうのだろうか?


 REDが迷い込んだということは、境界に脆弱な点があったのだろう。しかし異物(RED)が入り込んだことを察知し、修復された。しっかり密閉したことで、縛りがより強固になったようだ。それによりREDは魔力の大半を抑え込まれている。陸上で速く走れても、水中に放り込まれたら動きが鈍るのと同じだ。


 三匹のネズミたちがジェスチャーで『出て来い!』と繰り返すので、どのみちシールドが破られるのも時間の問題だろうと、REDは観念して魔法を解除した。




***




 いきなり殴りかかってくるかもしれないので、REDは半身に構え、警戒態勢を取った。小っちゃなネズミ拳を軽く握り、腕を軽く揺する。


 ――来るなら、来ぉい! 電光石火のネズミパンチでやり返してやる!


 トン、トン、とその場で軽くジャンプする、やる気マンマンなRED。


「お前たちぃ! そっちがやる気なら相手をしてやるが、絶対後悔するからな! 俺様は伝説のネズミチューチュー拳の使い手、さすらいのRED様だ! めっちゃタフなイケメンネズミだからな! もうなんちゅーか、グーでやったるからな!」


 シュッシュッ、とシャドウでパンチを繰り出し、無駄にでんぐり返しをして、両手を飛び立つ白鳥のように広げ、片膝をついたキメポーズを作る。


 もしもこの場に王様がいたなら、無言で俯き、顔を手のひらで覆ったことだろう。婚約者の残念な言動を見聞きするのは、なんというか、メンタルを削られるものである。王様、いなくてよかった。


 ひょろひょろネズミが後ずさり、


「うわ、すっごく強そうなやつだぁ! なんというタフガイぶりだろう!」


 と恐れおののいている。今にも腰を抜かしそうだ。


 すると体の大きなネズミがずい、と前に進み出て来た。


「ほう、伝説のネズミチューチュー拳の使い手だとはな。どんなもんか、戦ってやろうじゃないか」


「吠えヅラかくなよ!」


「お前こそな!」


 顔を突き合わせて一触即発ピリピリムードになっていると、ピンクネズミがぐい、と割って入った。


「今は仲間割れしている場合じゃないですよ! ネズミ同士、助け合わないと!」


 どうでもいいが、ピンクちゃんは声がものすごく可愛かった。バックにピンクのお花の幻影が飛ぶくらい、甘々な女の子らしい声だ。


「ハニー」


 デカネズミが参ったな、というようにピンクちゃんを眺めおろす。REDは首を突き出し、マジマジとピンクちゃんを見つめた。


「え? ハニーって、恋人を呼ぶ時のやつだよね? 君ら付き合っているの?」


 するとピンクちゃんがアワアワと両手を動かしながら(杖を持っているので、大変危険な動きだった)、可愛いリアクションをした。REDはこれを『キャンディ・リアクション』と名付けた。


「ち、違いますぅ! ハニーはあだ名なのです」


「ああ、なるほど。君、ハニーっていうんだ。可愛いから、似合うね」


「そ、そうですかぁ? 照れますぅ」


「おい! ハニーを口説くんじゃねぇ!」


 デカネズミが目を剥いて怒鳴る。


「君はなんていうの?」


「俺様はビッグだ。体がでかいし、男としても存在がビッグだからな」


「あ、そう」


 REDは自分が質問したくせに、面倒そうに聞き流した。どうでもいい相手から垂れ流されるどうでもいい自慢って、真面目に聞くのしんどいよな、と思いながら。


 ビッグにはさほど興味がないので、視線をヨワヨワ君に転じる。


「それで君は?」


「あ、僕はグリーンピースっていうあだ名なんだ」


「グリーンピースぅ? すごいね、それ」


「すごいかな」


「なんでグリーンピースなの?」


「ほら、僕っていかにもモブって感じがするだろう? 脇役、つけ合わせ。だからグリーンピース」


 確かにグリーンピースは、肉料理のつけ合わせのイメージがあるけれども。だけどそういうあだ名をつけるのって、本物のグリーンピースに対しても失礼な気がするなぁとREDは思った。ベーコンと炒めると、美味しいのに。


 複雑な気持ちでグリーンピース君を眺めると、彼のネズミヒゲはガタガタと波打っていて、そういった細部まで弱々しかった。でも性格はすごく良さそうだ。


 REDはポンポン、と彼の肩を叩いた。


「平和で良いあだ名じゃないか。もっと自信持てよ」


「ありがとう」


 グリーンピースがはにかんで笑う。なんだかんだ、いい空気になった。


 するとハニーがウルウルした瞳でREDにすがってきた。


「大魔法使い様! 助けてくださいませ!」




***




 王宮にいた王様は、突然REDの気配が途切れたことに気づき、中空に視線を彷徨わせた。


「――RED」


 声音に切羽詰まった響きがある。


 会議をしていた大臣が呼びかけるのを制し、王様は窓を開け放った。するとどこからともなく赤い魔法の絨毯が飛んで来て、窓の下で止まった。


「あとは頼む。しばらく留守にする」


 王様はそう言い置き、魔法の絨毯に飛び乗った。大臣が慌てて窓際に駆け寄った頃には、王様の姿はどこにもなかった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 困りましたね…王様来てくれるのかな、同じチームに入れないと勝っても一緒に帰れないな、ネズミなら同じチームになれるかな。
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