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1.皆の嫌われ者


 王都の外れに、一軒の小さなパン屋さんがある。


 ゆるやかにカーブする坂を上がっていくと、左手に三角屋根の建物が見えてくる。


 尖った形の、可愛らしい赤い屋根。白い壁を這う、緑あざやかなつた


 扉の上にはパンのイラスト入り看板が下がっている。


 見た目は素敵なパン屋さん――だけどお客はひとりもいない。


 お店の前を三人の子供が通りかかった。子供たちは奇妙な歌を歌っている。


『♪悪魔のパン屋に気をつけろ~

 パン屋に住んでる怖い魔女~

 そいつが魔法をかけてくる~

 昔、子供がさらわれて~

 魔法をかけられ、ネズミにされた~

 悪魔のパン屋に気をつけろ~

 子供をさらって食べる気だ~

 お店のパンは毒入りで~

 食べるとカエルにされちまう~♪』


 歌い終えた子供がにやにや笑いながら、ポケットから卵を取り出した。


 それを振りかぶって、パン屋の扉に投げる。


 ――グシャ!


 卵が潰れて、扉のガラス部分に張りついた。それがゆっくりと下に垂れていく。


 ――カランカラン!


 扉が内側から開き、上についている鈴が鳴った。


 中から十八歳くらいの女の人が出て来た。金色の髪がキラキラ輝き、瞳は優しいスミレ色。見た目はとても可愛らしい女の人だ。


 彼女は潰れた卵を見て、怒った顔をしている。


「――こら! 食べものを粗末そまつにするんじゃありません!」


 パン屋の女の人が腰に手を当ててそう言うと、子供たちは目を丸くして叫んだ。


「わぁ、魔女が出た!」


「逃げろ、魔法をかけられるぞ!」


「捕まったら、殺されちゃうぞ!」


 子供たちは一目散いちもくさんに逃げ出す。


「待ちなさい! 悪いことをしたら、まず『ごめんなさい』でしょ!」


 女の人が注意をするけれど、誰も聞いていない。子供たちはネズミよりも速く駆けて、あっという間にいなくなった。


 ひとりになったパン屋の娘は小さくため息を吐き、汚れた扉を眺める。


 まったく困ったものね……娘はバケツに水をくんできて、雑巾を濡らして掃除を始めた。潰れた卵を拭き取りながら、


「うちのパンはどこよりも美味しいのに」


 と寂しそうに呟く。


 味は最高なのに、この店にパンを買いに来るのは、たったひとりだけ。


 この店でパンを買おうという変わり者など、ほとんどいない。


 ……どうしてこの美味しいパン屋が、町の皆から嫌われているのだろう?


 それには深い理由があった。



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