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法律が力となる!コミュ障弁護士の異世界判決録  作者: 著者:窓際ななみ 労働法監修・解説:曽利和彦(特定社会保険労務士)
コミュ障弁護士の異世界判決録1
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専門家による解説

曽利和彦(特定社会保険労務士)先生による、解説になります。

 商人のクリムさんと冒険者のソリッドさんの間で起きたトラブルを、現実世界の労働法の視点で考えてみましょう。

 まずは、事実関係を整理します。


・事実関係

 商人のクリムさん(以下「クリム」)は、冒険者のソリッドさん(以下「ソリッド」)を雇い、荷物の運搬と護衛の仕事を命じた。

 ソリッドが荷物の運搬の道中にモンスターに襲われ、積み荷の一部が売り物にならなくなった。

 そのため、売り物にならなくなったリゴンの代金を回収できなかった。


・争点

 1.代金を回収できなかったことによる損害の責任は誰にあるのか?

 2.損害を賠償すべきなのは誰なのか?


・それぞれの主張

 【クリム】

 荷物を運搬するということは、すべて正常な状態で届けるべき。

 しかし、一部が破損してしまい、売り物にならなくなったのは、モンスターの襲撃を防げなかったソリッドの落ち度である。

 その結果、代金の一部を回収できなくなったのだから、ソリッドが弁償すべきである。


 【ソリッド】

 道中にモンスターがいることは事前に分かっていて、運搬の仕事を命じているはず。

 こちらも荷物を必死に守ったが、すべてを正常に守ることはできない状態だった

 わざとやったわけではないのだから、弁償する必要はない


 お互い譲らないようで、困りましたね。

 これは現実世界でも、実際に会社と従業員の間で起こりうる問題です。

 例えば、飲食店でアルバイトをしていて、お皿やコップを割ってしまった。

 トラック運転手が事故を起こして、運んでいた荷物を壊してしまった、などなど。


 普通に考えると、壊してしまった人が弁償すべきとなるでしょう。

 例えば、あなたが友人から借りたラノベにコーラをぶっ掛けてしまっとしたら?

 当然、弁償すべきですよね。


 でも労働法では、このような考え方をしません。

 事故を起こした張本人は従業員ですから、事故を起こした当人が全額弁償すべきである。

 確かに会社の主張は筋が通っています。

 しかし、実際に従業員が全額弁償するケースはほぼ認められず、会社が従業員に弁償させられる範囲を制限しています。


 どうしてなのでしょうか?


 なぜなら、会社は事業を行って収益をあげており、事業を行うには事故が起きる危険性を孕んでいるからです。

 ちょっと分かり難いので、飲食店を例に考えてみましょう。


 飲食店では、お皿やコップなどの食器を扱います。

 ホール係は食器を運ぶときに、落として割ってしまう可能性があります。

 調理場で食器を洗っているときに、壊してしまう可能性もあります。

 飲食店で事故が起きる危険性とは、このようなことをいいます。


 つまり、最初から食器やコップが壊れる可能性があることを分かっているのに、実際に壊したから従業員にその損害を請求することはおかしい、というわけです。

 本編でクリムが行っている事業は、リゴンを市場へ運び、それを買い取ってもらうことで収益をあげることです。

 リゴンを市場まで運ぶ道中には、モンスターが出現するので、運搬中に事故が起きる危険性を孕んでいる事業なのです。


 だから、クリムはリゴンの損害の全額をソリッドに請求することはできないのです。

 とはいえ、ソリッドが全く弁償しなくてもよいわけではありません。


 モンスターからリゴンを守れなかったのは、ソリッドの責任です。

 ソリッドの仕事が荷物を運搬するだけなら、モンスターと戦って荷物を守る責任がありません。

 でも、ソリッドは冒険者としてモンスターと戦う仕事も契約していたのですから、弁償を全額免れることはできないのです。

 労働法の観点から考えると、ソリッドはリゴンの損害のうち、4分の1を負う必要があります。


 なぜなのでしょうか?

 労働法では仕事中の事故による損害賠償は、会社と従業員で公平に分担するという考え方をしているからです。

 公平というのは、半分ずつにするという意味ではありません。

 会社と従業員、それぞれの過失を見極めて、責任を負うべき範囲を決めるということです。


 会社が事故が起きないよう、あるいは起きた事故への対応策を事前に講じていたのか?

 従業員は、会社の指示をちゃんと守っていたか?


 このような内容をきちんと整理して、責任の割合を考えるのです。


 ですから、従業員が何度注意しても事故を起こしてしまったり、わざと事故を起こしたりといった特別なケースを除くと、会社が従業員に対して全額を損害賠償するのは、非常に難しいといえるのです。


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