頭のおかしい女
街の入り口に到着する。
街の通路は、白い煉瓦のようなもので組み立てられているようで、いかにも産業の街という感じを醸し出していた。
通路に沿って、お店と思われる家がずらりと並んでいる。
異世界の商店街といったところだろうか。
白く染められた家の屋根には、それぞれ独特の装飾がされており、家ごとの独創性を主張していた。
「なんか、掃除大変そう……。」
情緒もへったくれもない感想をつぶやくと、私は街に入ろうとする。
「これは貴族の方でしょうか、サントノレ第5街へようこそ。どうぞお入り下さい。」
街の門番だろうか。彼らが私の服を見ると、深く敬礼をして街に招き入れる。
私も軽い会釈をしつつ、街の中に入ることにした。
ギルドへ向かう間、少しゆっくり街の様子をみることにした。
中々活気に満ち溢れていた。
お店の前で、雑談を楽しむマダム。
中央の十字路の真ん中には小さな噴水があり、子どもたちが周りで水をかけあいながら遊んでいた。
少し歩くと食品の露店が多くなってきた。店の主人が声を上げ、自慢の商品をアピールして仕事に精を出している。
ああいう風にされると、なんとなくどの食品も美味しく見えてしまう。
仕事が終わったら、ミスターGのために何か買っておこうかな。
そんなことを思っていると、この街のギルドが見えてきた。
「うわ!確かに教会っぽい感じよね。」
塔のように長い建物。天辺には十字架ではないが、この街のシンボルなのだろうか、少しオシャレなケーキのようなオブジェクトがついていた。
窓ガラスもスタンドグラスのような、独特の模様で色がついたものになっており、日の光が反射してた場所は、綺麗な輝きを発していた。
ギルドといわれなければ、教会だと誰もが思ってしまうのではないだろうか。
ギルドの入り口の方にいくと、入り口の前で何やら人溜まりがあった。
耳を済ますと、誰かが言い争いをしているようだった。
様子を見てみようとすると、人溜まりの外側で、困った顔をしながら様子を伺っている白い独特の制服を来た女性を見つけた。
服装を見る限り、どうやらこのギルドの関係者のようだったので、私はその女性に話しかけてみた。
「あの?何かあったのですか。」
「あ……はい……あ、もしかして貴族の方ですが、お見苦しいところをお見せしてもうしわけありません。」
「実は、商人にギルドから積荷を運ぶ依頼をしたのですが、どうも途中で魔物に襲われてしまい、一部の商品が駄目になってしまったのです。」
「ほうほう。」
「ギルドとしては契約上、駄目になった商品の料金分は依頼料から差し引くことになっているのですが……。」
「なるほど、それで商人が駄々をこねている……と。」
「あ、いえ、ギルドと商人との取引については問題なかったのですが……。」
「あ……そうですか……。」
ちょっと早とちりをしてしまったようだ。
私は、もう少し話を聞くことにした。
「では、あの争いは誰と誰が?」
「商人と運搬・護衛として雇った冒険者との間で、問題が生じたようでして……。」
「どうやら商人が、駄目になった商品の損害分を全額を冒険者に負担させようとしたようで、冒険者側が商人に文句をいっているようなのです。」
「あーなるほど。」
「はい……騒ぎが大きくなってしまったので、仲裁役の方をお待ちしているのですが、まだこちらに到着していないようで……。」
つまり今回の仕事は、この件という訳だ。
争っているのは、どうやら屈強な男性同士のようだった。
流石に、こんな華奢な体型の女性が仲裁役に来るとは思っていないのだろう。
そんなことを思っていると、騒ぎの中心と思われる男二人がこちらに不機嫌そうな顔でこちらに歩いてくる。
「カスタード長!この国では、商品の損害はすべて護衛した奴らが全て負担するのが常識だよな?」
「そ……そうですね、クリム商人……。」
その辺の男の二倍はありそうな筋肉な腕を持った男性が、鼻息を荒くしながら先程の女性に迫っている。
戦士枠というか狂戦士っぽい役割が適役なきもするが、どうやら彼が商人らしい。
名前は【クリム】さんかな。
「いやいや、まってくれよカスタードさん。ギルドは中立的な立場だろ?俺達の国では、こういった場合は責任者が全額負担しているんだよ!」
「……は……はい……ギルドは……中立です……よね……ソリッドさん……。」
こちらは、見るからに冒険者という格好をしたさわやか系青年だった。
名前は【ソリッド】さんらしい。
ソリッドさんの全身のあちこちに銀色の装飾をした防具がつけられているが、どこもかなりの真新しい傷を受けていた。
かなりの戦闘があったに違いないだろう。
二人の男性に言い寄られてギルドの女性。
話を聞いていた限りでは、ギルド長の名前は【カスタード】さんになるだろう。
うーん、すごく美味しそうで甘そうな名前……。
などと思っていると、カスタードさんがの涙腺がついに崩壊してしまったらしい。
「うう……ひどい……私だって……こんなに頑張っているのに……。」
それを見た男二人は、お互い顔をにらみ合わせる。
「おい、お前のせいでカスタード長が泣いてしまったではないか!」
「なんだと!私のせいだというのか?元はといえば貴様が報酬をしっかり払わないのがいけないのだろう!」
再度、言い争いが勃発する勢いになってしまった。
この世界は7つの国で成り立っているが、それぞれが独自の法やルールを持っている。
その為、様々な国の人間が集まるギルドでは、こういった問題が良く起きるのだ。
そう!こんなトラブルを解決するのが私の役目なのだ!
目を輝かせた私は、早速、このトラブル仲裁をすることにした。
その場から少し離れると、民家の横に丁度よい石台があったので、そこに上り立つ。
そして深呼吸をすると、軽くポーズを決め、群衆に向かって言い放つ。
「ふふ……ふっふっふっ……、どうやら私の出番のようですね。」
石台の上で、私は更に華麗なポーズを披露する。
「我こそは、この争いの渦中に降り立ち裁きの天使!!」
「異世界の弁護士、畑楽法子なるぞ!!!」
元の世界のか細い声とは違い、威風堂々とした美しき私のボイスが民衆を虜にしたようだ。
群衆の視線は、石台で華麗にポーズを決めている私に釘付けだ。
ああ、この感覚。元の世界では感じることのできなかった、正にエクスタシー。
「おい、お前のせいで、あのねーちゃんがおかしくなっちまったじゃねーか!」
「俺のせいだというのか!あの女がおかしくなったのは、貴様のせいだろう!」
「えーーーーん!えーーーーーん!」
傍から見ると、頭のおかしい女が石台に乗り、それを二人の男が責任について言い争い、ギルド長は泣き叫ぶ……といったある意味地獄絵図な風景だった。
「ちがーーーーう!!!」
私は大声で叫ぶと、最終兵器を掲げることにした。
「これを見なさい!!!」
私は、ミスターGから受け取った虹色の装飾品を掲げる。
すると、そこ装飾品から鮮やかな虹の光が漏れ出し、辺りを光り輝かせるのだった。
これこそ、この世界の7人の国王が認めたものだけ持つことを許される、なんちゃらかんちゃらという宝具だった。
名前が長くとても発音が微妙だったので、私は【異世界の弁護士バッジ】と呼ぶことにしている。
掲げた宝具を目にするとすると、途端にギルド長のカスタードの態度が急変する。
「ああ!ようこそ!我が街のギルドへ、異世界の弁護士様!お噂はかねがね聞いております。」
「さぁ!クリム商人、ソリッドさん。ここは異世界の弁護士様に、是非ともお二方について審判していただきましょう。」