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法律が力となる!コミュ障弁護士の異世界判決録  作者: 著者:窓際ななみ 労働法監修・解説:曽利和彦(特定社会保険労務士)
コミュ障弁護士の異世界判決録2
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専門家による解説

曽利和彦(特定社会保険労務士)先生による、解説になります。


 カンパニーの社長ウエハースさんと、元従業員のムラビさんとの間で起きたトラブルを、現実世界の労働法の視点で考えてみましょう。

 まずは、事実関係を整理します。


・事実関係

 社長のウエハースさん(以下「ウエハース」)は、新規で従業員を募集し、ムラピさん(以下「ムラビ」)を雇用した。

 ウエハースの事業は、日用雑貨などを取り扱う商店である。

 ムラピの仕事の内容は、会計や商品の搬入、顧客対応、調理、掃除など多岐にわたる。

 応募条件は未経験可となっていた。

 ムラビは三日経っても、すべての仕事を完全に覚えることはできなかった。

 ウエハースは、能力不足を理由にムラビを解雇した。


・争点

 応募条件が未経験可であっても、能力不足を理由に解雇できるのか?


・それぞれの主張

【ウエハース】

 採用時に約束した業務内容をちゃんとこなせないのは、十分な仕事ができていないので解雇されて当然である。

 仕事のできない従業員が社内にいると、他の従業員あるいは業務に悪い影響を与えるので早急に排除(解雇)すべきである。


【ムラビ」

 未経験可という条件で従業員を募集していたのだから、すぐに仕事ができないのは当たり前である。

 業務内容は店舗運営全体に関わるもので、すぐに完全に覚えられるものではない。

 にもかかわらず、わずか三日で能力不足と判断することは、できないのではないか?


 このようにお互い主張が噛み合わない状態です。

 これは、現実世界でもよく起こる問題です。


 確かにお給料をもらうということは、与えられた業務内容を遂行することで、それに対する対価として支払われるものです。

 この点において、ウエハースの主張は間違っていないように思えます。


 しかし今回の事案では、ウエハースの主張は通らないのです。


 ポイントは、ムラビが採用された際の条件、『応募段階で未経験者歓迎』としていたことが重要です。

 元々、全ての仕事ができないことはわかっていた訳ですから、それは会社が教えるべきことなのです。

 実際三日で、全部覚えることなど普通できることではありません。


 会社が従業員を雇うときに、どのような条件で雇うかというのは、非常に重要なポイントです。


 例えば、学校を卒業して新卒で就職するケースを考えると全員未経験です。

 会社が未経験とわかっていて採用しているのですから、能力不足という判断をするには十分な検証期間が必要になります。

 会社が一生懸命教えたとしても、従業員の能力不足で覚えられないという場合は、解雇が有効になるケースもあります。

 一般的には三ヶ月から六ヶ月程度というのが多いようですが、これは業務内容に応じて考える必要があります。


 また、能力不足を客観的に証明するのは、難しい問題です。


 同じタイミングで、複数人採用して一人だけがどうしても覚えられないというケースであれば、その従業員が能力不足であると、会社は主張しやすくなります。

 今回のように、ムラビが能力不足であることを証明する為の比較材料がなく、ウエハースの独断で判断しているため解雇が無効と判断される可能性が高いのです。


 会社が従業員を雇うときに、総合職という雇い方があります。

 これは、特定の仕事を決めずに会社の業務全体を行うというポジションです。

 大企業に新卒で入社した人だと、このケースが多いでしょう。


 最初は営業部でも、後に経理部に入ったり開発職に入ったりなど、色々な部署を経験するという育成プログラムを組むためです。

 このようなポジションで雇われている場合は、ある仕事ができなかったとしても、他の部署の仕事ができる可能性がありますので、すぐに解雇というのは難しいのです。

 営業はできなくてもマーケティングの仕事は得意という可能性もありますし、経理部門に配属したら能力を発揮する可能性もあります。


 ただし、中途採用で特定の仕事を行ってもらうことを目的に、中途採用されたケースはちょっと考え方が変わります。

 例えば、新製品の開発のために特殊な技術を持っている人を雇う、あるいは海外との折衝のために英語力の高い人を雇うというようなケースでしょうか。


 このような条件で採用された人が、業務に必要な能力を有していなかったことが分かった場合、会社が解雇する場合、解雇が有効になるケースがあります。

 なぜなら、特定の能力を有していることが条件で採用しているのですから、その能力がないとなれば、明らかな能力不足になるからです。

 先ほどの総合職のように、他の部署に転換すれば良いのではという判断は、このケースでは適用されません。


 このような内容を考慮し、ムラビの解雇は無効と考えるのが、妥当といえるでしょう。

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