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法律が力となる!コミュ障弁護士の異世界判決録  作者: 著者:窓際ななみ 労働法監修・解説:曽利和彦(特定社会保険労務士)
コミュ障弁護士の異世界判決録1
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異世界の弁護士

異世界ファンタジー×専門家による法解説 新しい形のライトノベルです!

少し変わった、ほのぼの?ファンタジーをお楽しみ下さい。


労働法監修・解説 曽利和彦(特定社会保険労務士)


 「ふぅ……。」

 私はため息をつきながら、デスクの上の過去の判決例が記載された資料の整理を終える。

 

 窓の外を見ると、既に日が落ちており、街の外灯のきらびやかな光が窓に写り込んでいた。

 今の私の沈んだ生活は真逆だなと、心の中でつぶやいてしまう。


 私の名前は、畑楽法子はたらく のりこ

 とある弁護士事務所にお世話になっている新米弁護士だ。


 弁護士といえば一般的に先生と呼ばれる花形職と思われがちだが、弁護士にもピンからキリまでありまして、私はその一番キリの方だった。 

 幾つか仕事を紹介してもらったりはしたものの、コミュニケーションが苦手は私は、依頼人の信頼を得ることができず、仕事が取れない日々がずっと続いていた。

 この事務所にも在籍はしてはいるものの、ただ家賃を払って居候しているだけの【いそべん】(居候している弁護士の略)と囁かれ、弁護士界隈でも見下された存在なのである。

 

 「やっぱり、どうもこっちの世界の人間だと緊張して、うまく喋れないのよね……。」

 そんなことを呟きつつ、私は机の上の整理を行い、帰り支度を始めた。

 そう、私にはこれから行かなければ行けない場所があるのだ。


 「お……お疲れ様でした……。」

 か細い声で、私は帰りの挨拶をする。

 まだ事務所内には何人か残っていたが、仕事が忙しいのか、はたまた無視されているのか挨拶が返ってくることはなかった。


 「はぁ……。」

 私はため息をつくと、事務所のドアを開け退社するのだった。

 

 季節は秋、風も冷たくなり冬の到来を感じさせる、肌寒い夜だった。

 時計をみると、時間はPM6:00を指していた。


 事務所は繁華街の中にあるため、この時間は仕事を終えたサラリーマンで、どこのお店も賑わっていた。

 私は繁華街の人混みを押しのけながら、目的の場所を目指す。


 繁華街を抜け、少し入り組んだビル街の路地奥に私は進んでいく。

 すると、薄暗い一本道の奥に小さなビルが見えてくる。

 私はビルの前に立つ。

 ここには呼び鈴も無いため、扉をノックする。 

 しばらくすると、扉がカタカタと揺れ自動ドアのように開いていく。

 最初は心霊現象かと驚きはしたが、毎日通っているのでもう慣れてはいた。


 「お…お邪魔します。」 

 私はビルに入ると、その横にある受付にいく。

 受付には、このビルには似合わない、オシャレなスーツを着こなしている茶髪の青年が、笑顔でこちらを向いていた。

 コミュニケーション力の低い私でも、お近づきになりたい……そんな魅力的な容姿だった。


 「……こ、こんにちは……。ミスターG」


 「やあ、今日も来てくれたんですね。助かりますよ。」


 彼の名前はミスターG。本名は知らない。

 ただ、彼との出会いが、私の今までの弁護士人生を変えたと行っても過言ではないだろう。


 「さっそく今日もお願いできますか?先生。」

 先生――!なんとも心地良い響きだった。

 私は頬を赤くして照れてしまう。普段あまり先生と呼ばれないため嬉しかったのだ。

 

 「は、はい……今日もよろしくお願い致します。」 

 そういうと、ミスターGは赤い布切れを持って、受付から出てくると私の後ろに移動する。

 そして、赤い布で私を目隠しにする。

 一応言っておくと、特殊プレイとかそういった類のものではない。


 どうやら、こうしないとその場所に行けないというルールということだった。


 目隠しした私は、ミスターGに連れられてビルの奥へ進んでいく。

 幾つかの扉を進むと、途中なんともいえない浮遊感に襲われる。

 平衡感覚が狂った感じだ。

 私はミスターGの手をぎゅっと握ると、身を任せるのだった。

 

 「……。」

 そして、しばらく進んでいくと、辺りから温かい風が吹き抜けてくるのを感じた。

 どうやら、目的の場所についたようだ。


 「お待たせしました、先生。」

 そういうとミスターGは、私の目隠しを外してくれた。


 私は、そっと目を開ける。

 眩しい光が私の顔を照らしつける。私は目を細め周りを見渡した。

 

 そこは、一面に野草が敷き詰めあっている丘の上だった。

 空を見上げると、そこには澄み切った青い空が広がっていた。

 少し強い日差しが青い空を通して、大地をキラキラと照らしているような感じもする。

 

 私は両腕を目一杯広げ、深呼吸をする。

 草の匂いのするそよ風が吹き、私を突き抜ける。

 普段では味わうことのできない、とても良い心地よさだった。

 

 「今日も来てしまったわ。この場所に。」 


 そう、ここは私達の世界とは異なる世界――。

 異世界の国【エクレイア】だ!



 「それでは先生、こちらを。」

 そういうと、ミスターGは私に荷物を渡してくれた。


 私は貰った荷物を確認する。

 この国の衣装一式、そしてある程度の貨幣、そして虹色の装飾品だった。


 衣装に関しては流石に元の世界の服では目立ちすぎるため、この国の衣装を準備してもらっている。

 もっとも、そのへんの町人が着るような服ではなく、貴族が着るような装飾が幾つか散りばめられているような豪華なものだった。


 私はこそこそと近くにある茂みに隠れ、服を着替えることにした。

 ミスターGの方をみると、私に背を向けて着替えを待ってくれている。

 さすが、こういったきめ細やかな仕草は、誠実な紳士という感じがした。


 「……よし!」

 私は着替えが終わると、今まで来ていた服をミスターGへ渡す。


 「それでは、先生。今日はこのふもとの町のギルドに行っていただきます。」

 「結構、大きな町ですね。」

 湖だろうか。巨大な湖に沿って白く塗られた洋風の家が、何件もひしめきあって巨大な町を形成していた。

 元の世界でいえば、ギリシャのような観光地に引けを取らない素敵な光景だった。


 「あ、ギルドってあの大きな建物ですか?」

 街の中心だろうか、ひときわ大きな教会のような建物があった。

 私はそれを指差をして訪ねた。

 

 「はい、そうです。先生のことはすでにギルド長には伝えておりますので、よろしくお願い致します。」

 「終わりましたら、またこちらに戻ってきて下さい。ああ、多少観光して頂いてもよろしいですよ。」


 「ええ!観光いいんですか!ではちょっとだけ……。」

 遠くの町並みを観察し、観光の目星をつける私。


 「それでは畑楽法子、ギルドのトラブルを裁きに行ってまいります!」

 私はそういうと、ふもとに続いている小道を歩き始めた。


 そう、今の私はコミュ障のダメダメいそべん弁護士ではないのだ。

 この異世界のトラブルを、元世界の法律で裁く【選ばれし異世界弁護士】なのだ。

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