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7.交わした誓い!?

 ――王宮?


 それは、カルにしか出来ない、だろう。

 カルは一度、王宮に忍び込んだことがある。


 それは、仲介屋ダダイが困りきってカルに依頼した要件だ。誰に依頼しても失敗するから――とカルに頼みこんで、カルはその依頼を見事にこなした。

 騎士に守られた、トルディキアの王のいる場所。ニコがいなければ、門さえ越えられないだろう。だから、カルにしか入り込めない場所。

 難攻不落の王宮を攻略する高揚。今でも思い出せば達成感に身震いする。


 カルは相棒をチラリと見た。相棒――ニコは、フゥーっと溜め息をついた。

 ニコもわかっている。こうなってしまったカルを止めるのは難しい。仕方なく頷いた。

「請け負います。盗む物は何ですか?」

「盗んで欲しいのは、額飾りだ。期限は十日」

 男は懐から一枚の絵を取り出した。

 大きく紅い宝石と繊細な金鎖のそれは、見ただけで高級な物だとわかる。アクセサリーではなく、宝の部類だった。

「これは――ルビー、ですか?」

「そうだ。ルビー、ピジョン・ブラッドと呼ばれる最高の品だ。場所は、王宮――《月の塔》」


「《月の塔》!?」

 それは――侵入不可能と言われる王宮の、なお最奥に位置する。カルの耳にした情報によると、隠れた要人を監禁する塔らしいが。

「なぜ、そんな所に?」

「――詮索は不要」

 冷たい声がカルに突き刺さる。言い返そうとしたがダダイが首を振った。

「カルさん、お願いします。詮索はしないで下さい」

 ……って言われても。

 無茶な話である。

 背景を知らなければ、どんな簡単な仕事も複雑になる。だが、仲介屋は本来、こういった話に口を挟まない。それは、カルの仕事に対する姿勢――綿密かつ慎重な調査と、依頼の理由にこだわる事――をよく知っているからで、だからこそ、詮索するな、と言われてしまえば反論も出来ない。

 ダダイは、この若さで一流の仲介屋だ。しかも稀なことに情報屋も兼任し、そのどちらでも称賛を浴びていた。彼は、あらゆる情報を駆使し、適任と思われる仕事屋に依頼する。

 カル自身、ダダイ以外の仲介屋から仕事の斡旋を受けることはない。それだけこの仲介屋を信頼していた。その彼に一度無理と言われてしまえば、聞きづらい。


 ――安請けあいなんかしなければよかったかな。

 カルの悪い癖だ。ニコを横目で見れば、大仰に溜め息をつかれた。

「……わかりました。仕方ありません。ですが――」

 カルは少しだけ溜め息をつき、男を見つめる。

「――《月の塔》、とは。報酬に危険手当てを上乗せしても?」

「かまわん、応じてくれるのなら。仕事の相場はダダイ君から聞いているが、二倍……いや三倍だそう。《月の塔》だから、な」

 ――三倍!?

 しばらく遊んで暮らせるだろう。だが――法外すぎる。そもそも危険手当てというならば、倍がいいとこである。

「……それは……ありがとうございます。しかし――」

「いや、いい――報酬は六百ディル。よろしいか?」

「……はあ。いいです、けど……」

 男は初めて冷たい瞳を和ませる。

「では契約を――ダダイ君」

「は、はい。カルさん、こちらに署名を」

 ダダイが報酬額を記入し、薄い紙に書かれた契約書を差し出した。ざっと目を通し、カルはサインする。

「では、契約成立です」

 カルから契約書を受取り、ダダイは安堵したように笑った。

「よろしくお願いしますね、カルさん」


「カル! おい、カル? おいおい、聞いてんのかあ!?」

 呆れたようなニコの声でカルは我にかえった。

「条件、だよ。聞くのか聞かないのかはっきりしようや〜」

「ごめん――で、条件って何?」

 呆れたようなニコの声でカルは我にかえった。

「条件、だよ。聞くのか聞かないのかはっきりしようや〜」

「ごめん――で、条件って何?」

 ニコに向かって合掌し、素直に謝ったカルは、応接テーブルに投げ出していた足をおろした。

「……条件、は言えねえ。おりゃ、卑怯だかんな」

 クァックァッと高い鳴き声をあげ、ニコは笑う。だが、言葉とは裏腹に、その瞳は真剣なものが漂う。真っ黒の、闇を凝縮したような瞳。


 ――そうだ、この目よ。


 カルを導いてくれる者の瞳。

 確か、男とダダイが帰った後もこの目でカルを見た。ニコが、あの男は信用出来るか? と聞いてきた時もだ。

 依頼品の場所も王宮にも詳しそうなのにカルに依頼するなんておかしい――何かが矛盾している――と。


「やっぱり、気になるの?」

 何が、とは言わない。

 ニコが答えることなど滅多にない。多分、カルがまだニコに応えられないからかもしれない。

「んにゃ、別に――おりゃ、カルがよければいいよ。で、のむか? のまないのか?」


「のむよ」

 躊躇することはない。ニコは、識っている。だから――ためらうことはない。ニコならば必ず事態を好転させる。

「――よっしゃ! そうこなきゃだ」

 ニコは満足そうに、濡れたように光る黒い羽をはばたかせた。

「依頼品を運ぶ条件は?」

「依頼品は運ぶ――同居も仕方ねえな、認めるよ。だが、カルが、もし――」

 ニコが、カルから目をそらして、窓の外を眺めた――王宮の方角を。

「――もしも、誓いを破ったら……」

 カルは、ハッと息をのむ。

「俺は、大烏だ。だから、誓いを破られちゃかなわん。それが……条件だ。守れるか? 約束出来るか?」


「……守るよ。約束する」


 口が裂けたって言わないよ、と軽口を叩いてニコに近寄った。

 その、黒い胸の、フワフワの羽毛に顔を埋め、ニコを抱く。

「大丈夫、だよ。あたし達は、大丈夫」

 ニコが翼でそっと、カルを包んだ。

「何も心配すること、ないよ」

「……わかってらあ」

 ぷはっと息を吐いて顔を上げ、ニコを見上げる。

「じゃ、依頼品をお願いします」

 おどけたような表情で、カルは頼んだ。

「まあ、仕方ねえよな。やってやるよ。で、カルはどうするんだ? 俺が一度に飛ぶのか?」

「まあ、そうなる、かな? ニ、コ、ちゃん! よろしくね!!」

「俺の羽、傷むよ?」

「大丈夫、大丈夫」

 楽観的にニコの胸をポフポフ叩き、相棒から離れた。そんなカルの背をニコの声が追い掛ける。

「なあ……それ、俺だけじゃダメなのかあ?」

「え?」

 振りかえれば、ニコが器用に首を傾げていた。

「運ぶだけなんだろ? 俺ひとりで十分じゃねえか?」

 ――確かに。

 カルは一瞬納得しかけるも、すぐに否定する。

「ダメよ。私達は二人で《アカツキ》なんだから!」

「そうだけんどもさ〜。二人も乗っけんのおりゃ久しぶりだしよぅ。重くて嫌なんだよ、あれ」

 ニコはカルを真っ直ぐに見つめた。

「ダメダメ! ニコにはあたしがついてないと。それに、あの様子じゃあね」

「あの様子〜?」

「そう、ニコとザーン。真っ直ぐ帰ってこなそう、言い争いで」

 うっ――とニコが怯む。身に覚えがある上に、本当にそうなりそうだからだ。

「……わかったよう」


「じゃ、計画を立てましょ!」

 カルは応接テーブルに、大きく紙を広げた。以前手にいれた情報を元にカルが作り上げた王宮の地図。

 その一点を指差し、ニコを見る。

「ここが《月の塔》」

 ニコが大きな体を揺らして近寄り、地図を覗きこむ。

「《月の塔》が見える見張りはここ、ここ、ここ」

 指を滑らせ、三点をつつく。

「見張りの交代時間は変わってない、から……午後十一時前後だね」

「せいぜい十分だぞ?」

 カルはわかっている、と頷いた。

「それも、皆が一斉に目を離すことは――ない。とにかく、大事なのはここ」

 《月の塔》から一番近い場所を差す。

「――たぶん十一時前に目を離す時間がある」

「そこまでは、上空高く飛べばいいかあ?」

「うん。リスクはあるけど、多分それがいいでしょ? さっきもそれで大丈夫だったし」

「了解! で、問題はその後だろ? 十分で飛んで消えるのは、やっぱ無理だぜえ? 二人乗ってりゃスピードは落ちるからな。高くも飛べねぇし」

「だよね」

「――大体、いなくなったらマズイんじゃねえのか?」

 えっ? と顔を上げたカルにニコは呆れたように嘴をふる。

「王弟……ザーンか。ザーンは幽閉されてんだろ? だったら、いなくなったらバレるだろ、すぐに」

「……マズイかな、やっぱり?」

「……どう考えてもマズイだろ」

 カルは、体を起こす。うーん、と伸びをして足を投げ出した。

「似たような体型の死体を探す、か。んで、変装させる。燃やしちゃえば一緒」

「そりゃダダイにたのみゃいいだろ?」

「んじゃ、頼みに行くとしましょう。とゆうことは――」

「行きも時間かかりそうだよなあ」

 ニコが首を降った。

「五倍ぐらい報酬貰うべきだったんじゃねえか?」

「そうかも……」

 力なく笑い、カルは溜め息をついた。

「よし、どうするかな。死体を運んでザーンとすりかえる――これは決定ね。いい?」

「いいぞ。そうしなきゃ後がマズイからな」

「問題は運ぶ方法――ニコがいつものスピードで運べるのはひとり分。見張りが目を離すのは十分。距離はこんだけ」

 王宮の塀の外から《月の塔》へ、つつーっと指を滑らせた。《月の塔》が侵入不可能と言われる所以――遠すぎるのだ。

 しばらく指を往復させていたカルは立ち上がり、ついたての陰にある貯蔵棚をあけた。ニコがそれに合わせて視線を地図からあげる。

「さて、と」

「……それ、俺のデザート」

「また買ってあげるから」

 麻袋に入ったニコのデザート――木の実をふってカルは笑った。

「では、協力を乞いに行きましょうか!」


「……カルさん」

「なあに?」

 複雑そうな顔でダダイはカルを見下ろしている。後ろでひとつにくくられた栗色の髪が心もとなそうに揺れる。

「……なんで、こんなもの、必要なんです?」


 一昨日、あれからカルはすぐにダダイの元に行き『こんなもの』の調達を頼んだ。

 そう――死体の調達を。

 王弟ユーガウド、つまりザーンの体型に似たような死体を探して貰ったのだ。行き倒れや、仕事で命を落とした身寄りのない人など。たくさんの遺体を――胸を押さえながら――見て、すりかえる相手を見つけた。


「なんでって……」

 ダダイにはザーンの件――額飾りを手に入れるための交換条件――は伝えていない。

 少しだけ思案し、ダダイを見上げた。

「額飾りを手に入れるのに――必要、だから?」

「なんで疑問系なんです……」

 不可解そうに蜂蜜色の瞳を細める。

 ――まあ、私でも、きっとダダイの立場だったらそう思うわ。

 内心、深く溜め息をつきながらカルは立ち上がった。

「ねえ、この情報料とか……必要経費にして、依頼人に請求して――くれない、かな?」

「本当に、必要なんですか〜?」

 探るようなダダイにカルは頷いた。

 ザーンを盗み出さなきゃ額飾りは手に入らない。ザーンを手に入れるには、身代わりが必要なのだ。

 ――間違ってないよね。

 そう思ったカルは、ダダイと視線を合わせる。

「どうしても――いるのよ。だから、必要経費で請求お願いします」

「まあ、請求は可能ですけど……」

「よろしく!」

 ダダイは懐から、箱と小瓶を取り出した。

「これはもうひとつの頼まれていたものですけど……これも請求しときます?」

 両の手に乗る大きさの箱。その上の小瓶は、コルク栓で蓋のされたガラス瓶で、薄蒼い液体が満たされていた。持つと箱は意外と重く、ちゃぽんっと瓶が水音をたてる。

「ありがとう。それもお願い――あっ、待って! 箱だけでいいや。小瓶はこの依頼以外で使うかもしれないから」

「わかりましたよ。でも――本当に必要なんですか? 何に使うんです?」

「秘密――じゃ、ありがとう。成功したら連絡するわ」

 ふくみ笑いを残してカルはダダイを追い出した。


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