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11.揺らぐ思い出!?

「……………………は?」


 男もザンを見つめていた。深い、底知れない瞳で。

「この人は……否、この方はトルディキア現国王。ヨルーク・シーム・トルディキア、私の異母兄だ」


「トルディキア……国王……」

 カルは呆然と呟く。そんな人がなぜここに? 思考回路は一時的に停止した。

「私のため、なんだろう?」

 ザーンが依頼人、いやトルディキア国王に訊ねる。だが、王は目を閉じたまま答えようとしない。

「ザーンのため?」

 ようやく回路が復活したカルがむしろザーンに聞き返す。その耳慣れぬ音に王は目を開けて正面のカルを見た。

「ザーン? ユーガウドのことか?」

「うん……じゃないや、はい。申し訳ないのですが勝手に改名させていただきました。今後ユーガウドの名を使うわけにはいかな――」

「かつて――」


 カルの言葉を遮り、王は意味ありげに衝立を見ると一度口を閉じた。

 ……何?

 カルは怪訝そうに王の視線を追う。

「かつてドゥルスグイで使われていた言語だな? ――成る程、《夜明け》か」

「…………王はドゥルスグイをご存知か?」

 知らず知らずに険のある表情に変わった自分を怪訝そうに見つめるダダイに気づかないまま、カルは低く問うた。

「それこそ依頼には関係ないことだ。……余が知っていることは遥か昔にドゥルスグイと呼ばれる国が在ったことだけだ。正反対に位置しているトルディキアにも文献は残っているのだよ」

「王は――」

「陛下もカルさんも何の話をしているんです……?」

 ダダイが首を捻っている。優男風の彼だが仲介屋だけではなく情報屋も兼ねている稀な相手ので、カルは話題を引っ込めた。ダダイの手に入る情報と今夜の会話を繋ぎ合わせられでもしたら大変だ。

「――っで、ザーンのためなんですか!?」

「それは否、だ」

 不自然な話題転換にも王は自然に反応してくれる。

「ザーンのためかと聞かれたら、余は違うと答えるぞ」

「では何故なんです!?」

 王は顔をしかめ、傍らのダダイに頷いて見せた。

「ダダイ君、外してくれ。申し訳ないが君に聞かせるのは少々辛い。身内の恥だからな」

「……では扉の外におりますので、終わったらお呼び下さい」

「すまないな」

 立ち上がったダダイは扉のそばで軽く笑む。

「お気になさらずに。報酬以上の情報をすでに頂いておりますので」


 バタン、と音を立て扉が閉まると、王は苦笑した。

「彼は若いのに一流だという話だったな。余は……私は渦分に情報を口にしてしまったようだ」

 カルは会話を反芻し溜め息を吐いた。どうやら彼の言葉から考えると、話題を切り上げるのは遅かったらしい。

 王もまた、ふっ――と息を吐くと、顎を撫で話し出した。

「君はまだ生まれていないだろう。二十三年前、私が十四のことだ。私の母ミネルバが死に、父王は新たに后をめとった。一年後、私には弟が出来た」

 カルは反射的にザーンを見やるが、王は淡々と過去を告げる。ザーンは、自らのことだというのに興味を引かれた様子はない。

「王妃の父親、つまりユーガウドの祖父は、当時王太子であった私を廃し、ユーガウドを次の王にと目論んだ。しかし、再三の暗殺は失敗した」

 現在、一般庶民であるカルには縁のない話である。上が誰であろうと庶民の生活は変わらない。

「王妃ともども有罪、処刑。今から十年前の話だ。だが、ユーガウドは王家の血族。私に万一のことがあればと処刑は免れたものの、生涯幽閉となった」

「それが《月の塔》……」


 ザーンは黙ったまま聞いている。先ほどまでの表情が抜け落ちた彼ではなく、少しだけ泣きそうにも見えて、カルはどうしていいかわからなくなる。

「トルディキアには今王太子がいる。私の子だ。……つまり、保険はいらなくなった。今後の後継者争いを避けるために、ユーガウドは内密に処刑されることが決定した」

「処刑!?」

「そもそも執行猶予という形だったのだよ。予定は明日だ」

 王はザーンを見た。ザーンも王を見る。二人の視線が交錯する。

「十日前、突然兄上は会いに来られた。私があの塔に入れられて暫くは顔を見せてくれていたのだが、ここ数年なんの音沙汰もなかったのに。――正直、戸惑った」

 フッと王が微笑した。

「お前は呆然としていたな」

「それは……もう誰も私のことを覚えていないと思っていた、から」

「……忘れたことはなかった」

 一瞬だけ、優しさが声に混じる。だが、それきり王はまた淡々と話しだした。

「処刑の期日が決まって、私は隠し階段から《月の塔》に入り込んだ。ユーガウドに必要な情報を与えるために」

「……《アカツキ》のことですね?」


 あの最初の日、ザーンがカルの名を知っていた理由。

 依頼人なら当然カルの名を知っているだろう。

 それにカルの高所に入り込む術はやはり王に気付かれていた。王はニコを見ているのだから。


「塔に登った私は、ユーガウドに一枚の紙切れを渡した」

「……? 口で伝えれば良かったのでは?」

 重大な証拠を残す行為である。万が一、それを見つけられれば計画の遂行は困難だ。

「声はかけなかったからな」

「どうして!?」

 カルは身を乗り出して思わず大声を出した。

「必要性を感じなかった」

 叫びに近い声に驚くことなく、王はそっけなく応じる。

「つ、冷たいんじゃないの!? ひどいじゃない!」

 数年ぶりに再会した弟に一言も話さず、なんてカルには考えられない。目前の男が王ということも忘れて、怒鳴りつけた。

「カル! よせっ!」

 ザーンが止めた。それ以上は、と首を振る。

「書き付けには私の処刑される日時と隠し階段を開ける方法、それに兄上の指示が記されていた。指示に従い、私は塔の最上階で待っていた――赤い宝石のついた金の額飾りを持ち込んで」

「……つまり依頼品は最初からあそこにあったわけじゃないのね?」

「衛士のいない時間は額飾りを大切に持って最上階に行った。それがたった一つの、兄上からの指示だったからだ」

 ザーンは王に手の届く場所まで近寄る。握りしめた掌が小刻みに震えていた。


「私は毎日、額飾りを持って最上階に行った。兄上は何のために私のところへ来たのか、それだけを考えていた――カル、その額飾りを渡してくれないか?」

 渋々カルは引っ込めた額飾りをザーンに渡した。

 ザーンは掌にそれをのせるとうつ向く。闇色の髪に顔が覆われ、その表情はわからない。

「兄上の意図は読めなかった。それだけを考えて、ただ待っていた」

 身動ぎ一つせずに、ザーンはふと顔を上げた。

「――カルが迎えに来る」

「えっ?」

 真摯な眼差しは深く、カルを真っ直ぐに見つめた。

「兄上の指示の最後に書かれていた一言だ。それが誰なのか、一体何者なのか、私には全くわからなかったが……あの日、あの瞬間に、君を見て兄上の考えを理解した」

 ザーンは王にさらに一歩近寄ると、ゆっくりとその手を伸ばした。

「――私は知らぬ。そのようなつもりで依頼したわけではない。依頼品を渡してもらいたい」

 王は弟を見ることなく、カルを威圧した。

「さあ、早く。私は戻らねばならん」

「えっと、少し二人で話でも……」

「必要ない」

「でもっ!」


「……いいんだ。兄上、ミネルバ様の額飾りをお返しします」

 ザーンは王に美しい宝を差し出した。

「確かに受け取った。報酬はすでに仲介屋に渡してあるから後で受け取るが良かろう」

 未練を一切感じさせず、振り返りもせずに王は扉へ向かう。開けた扉の先でダダイが微笑んでいた。

「陛下の依頼は成就されたようですね。――カルさん、後でまた来ます。聞きたいこともあるので、では」

 王が扉から消える寸前、ザーンが呟いた。

「……ありがとう、兄上」


「何あれ! いいの!?」

 カルはザーンの胸ぐらを掴み、勢いよく揺さぶる。少し首が閉まったらしい。げほげほと咳をしながらザーンは微笑した。

「いいんだ」

 まだどこか納得のいかないカルは、すわった目で彼を見つめる。

「あれはミネルベ様の額飾り、兄上のお母上様のつけていらしたものだ。兄上が昔から、ひどく大切にしていて肌身離さず持っていたことを私は知っている。それを預けてくれた」

 ザーンは王の座っていた応接ソファを見つめ、晴れやかに笑った。


「そういう人だ!」


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