第七話 魔導師
いつの間にやらユニークが200を超えておりました!
そしてPVももう少しで500などと言っておきながら一気に700!
まさかこんなに多くの方に読んでいただけるとは思ってもいませんでした。
(まぁその中で継続して読んでいてくれる方が何人かは知りませんが)
何にせよありがたい事であります!これからもどうぞよろしくお願いします!
一つ疑問に思ったことがあり、私はマスターに聞いてみることにした。
「マスターを助けた時、ほぼ全魔力を一瞬の内に消費して強化を行ったのですが、私には何故それであのエンペラーウルフに追いつけたのかが今でも不思議でなりません」
「またいきなりだね」
ガリュオンとの二度目の邂逅から数日、頭の冷えた私はある意味もっと早く聞くべき疑問を今更ながらマスターに聞いた。
現在私は『七変加速』によって最高速度が理論上音速を超える。そしてそれはガリュオンと渡り合うのに必要な速度とも言える。
だがそんなガリュオンの速度を最初の邂逅の時に私は追いついている。
もしかしたらそれはガリュオンが手加減していたのかもしれないが、あの時は完全な敵対関係であった私たちに加減をする意味が分からない。ならばあの時ガリュオンは限りなく本気に近かったのではないかと私は推察した。
ならあの時私はたった魔力1000を身体強化に回しただけでガリュオンと同等の存在であったことになる。
しかしこれは明らかにおかしい。
魔力1000と言えば第一変速を解放するために必要な魔力量であり、それはお世辞にもガリュオンと同等とは口が裂けても言えない。
なら何故なのか。
その理由を知るために私はマスターに問いかけた。
マスターは私の疑問を聞くと椅子の背もたれにもたれかかり、ギシギシを音を立てながら腕組みをして考え始めた。いや、考えているというというよりは言うのを迷っているといった風であった。
だが何かを決心するようにマスターは腕組みを解いて口を開く。
「恐らく、魂を対価にしたんだろうね」
「魂を……?」
「あんたの魔核には魂が入っている。それは自分がよく分かっていると思うけどね。その魂の力を魔力に変換して使用したんだろうさ」
「そんなことが出来るんですか?」
「逆に言えば人間なら魔法を齧っていれば大抵の奴が出来るね。後は無意識の内にか。ま、使うにしたって魔力が枯渇して生命の危機が差し迫っている状況くらいだけ。しかしそれは瞬時に莫大な魔力を得られる代わりに寿命が縮むのさ」
「寿命が縮む……」
私は一瞬自分の胸元に埋め込まれた淡く蒼い魔核を見た。
それに気付いたマスターがケラケラと笑いそうになりながら私に告げた。
「生物の持つ魔力もあんたら魔導人形と同じで実は有限なのさ。それは全て魂の力によって制御されている。生物は魂から少しづつ魔力を得て、魂の力が枯渇、つまり魂から魔力を得ることが出来なくなれば私たちは寿命を迎えて死ぬのさ」
「そ、そんな事初めて聞きましたよ!?だったらマスターが私に渡している魔力のせいでマスターの寿命はその分!?」
「安心しな。寿命に関わるような使い方は魂削るような荒療治くらいさ。日々使用した魔力の回復で削れてるようじゃ魔導師なんて30にもならない内に死んでるだろうさ」
「そうですか……なら私は?私の魂が削れていったら?」
「あんたは魔導人形だ。元々魂を持たない魔導人形が魂をすり減らしたって死にはしないよ。精神的には知らないけどね。もしかしたら無自覚の内に思考している時の口調なんかが魂の変化によって変わっていたりするんじゃないのかい?」
口調……何か変わったな?それとも私は魂の擦り減り方が少なく……。
……。
俺は瀬川秋彦。俺は瀬川秋彦。俺氏は瀬川ユリ。我氏はユーリ。私はユーリ。私はユー……。
嘘だろ……いつの間に一人称が私に変わっていたんだ?というか今にして思えば心の中での口調もたまに穏やかになっていた気がしなくも……。いや、まだ大丈夫。意識していれば俺でいける。自分を保て私。
……これあかん奴やん。
「心当たりがバリバリにありそうじゃな」
「えぇ、まぁ……そうですね」
「あまり多用せぬようにな。次に使えば自分を見失うと思え」
「はい」
流石に自分がいつの間にか無くなっているなんて事態には陥りたくない。ご利用は計画的に、だ。
そもそも『七変加速』があるから魂を擦り減らす必要もないだろうしそこまで深刻ではないと思っておこう。
だがこれで疑問が晴れて良かった。そしてもう使えないという事も分かり少し残念だが強さというのは偶然に頼っていてはいけない。
地道な努力こそが真の力となる。
天才の様に見えるマスターが常日頃から言っている言葉だ。
才能に溺れることなく研鑽を積み重ねて来たからこその強さ。私のような付け焼刃の紛い物とは根本からして異なる強さの重み。
そんなマスターがあんな有り様になった。なのに私はその相手を越えようとしている。
自惚れていると呆れられるだろうか?無謀だと笑われるだろうか?
もしこのことをマスターに告げれば何か良い助言を貰えるだろう。
だが私はこの右足の事についてもマスターに話してはいない。ただマスターには「強くなりたい」、それだけを伝えている。
もしかすればマスターは私の事など全てお見通しなのかも知れないが面と向かって言われたことが無いのでよく分からない。知られていたとしてもマスターが何も言わないのならばきっと大丈夫だ。
いざとなればマスターがいる。この安心感に勝るものは他にない。
だから私はマスターのためにも強くなろうと思った。ガリュオンよりも、他の誰よりも。
「さぁて、不味い飯も食ったし、腹ごなしに揉んでやるかの」
「お願いします」
このクソババァ、相変わらず人の作った飯にケチをつける事だけは忘れやがらねぇな。
マスターは椅子から立ち上がると家の外へと向かい、私もその後を追う様に外に出た。
家の玄関を開いた先には既に魔法を展開済みのマスターが待ち構えているのもいつもの事だ。
「そう同じ手は私には通用しませんよ!」
「ふん、ほざけ」
「ぐっふ……!?」
マスターの作り出した火球が数発私に向かってきたのを何の苦も無く躱し、そのままの勢いでマスターに接近していったまでは良かったのだがそんなに甘い話はなかった。
確かにマスターが展開していたのは前方の火球だけだった。
しかしマスターには展開していなかった魔法があった。ただそれだけ。
『封印魔法』、この魔法はとても応用の利く魔法であることがマスターの魔法講座によって理解出来た。
よくファンタジー系の創作物で封印と聞けばただ封じ込めておくだけのものと考えるだろう。
大罪人を人のいない秘境に封じ込めたり、邪な力を持つ道具を封じたり、基本的にはそういうものが思い浮かぶと思う。
私もそうだった。
だが本来ならばこの世界でも『封印魔法』の使用法はそれで間違いがない。マスターを除いては。
マスターは『封印魔法』の封印とはどう力が作用しているのかを疑問に感じたらしい。
研究を重ねると封印とは本来魔力で特殊な異空間を作り出し、その中にあらゆるものを閉じ込めておくことだと言うのが分かった。
そこまでいけばもう簡単であったとか。
マスターが真っ先に思い浮かんだのが魔法の封印。
魔法という魔力の塊を封印することによって異空間内に術式展開状態で保存出来ることが実証され、マスターはそれによって多種多様な魔法を常に封印状態にしていつでも展開出来るように日々備えている。
そうして話は戻るが、詰まる所マスターは『封印魔法』を解除し、土で出来た拳程の球が勢い良く飛来することで私の背中に直撃した。
しかも攻撃を受けた瞬間に『地属性魔法』以外の魔力反応も感じられた。
私はその正体に心当たりがあり、更にそんな事をわざわざ仕込んでいたそこ意地の悪いマスターを睨み付けながら言う。
「マスター、『契約魔法』も使いましたね?」
「おや、バレたかい。なかなかやるねぇ」
「これでも私はマスターの魔導人形であり、魔法の弟子ですから」
「ふむ、それはそれは。良い心がけじゃの」
『契約魔法』もとても厄介な魔法と言える。マスター限定でだが。
元々約束事において不正を働かせないための契約を結ばせるための魔法なのだったがマスターにかかればあら不思議、魔法なんて意思のないものとどうやって契約を結んでいるのかは皆目見当がつかないのだが、マスターはほぼ全ての魔法と契約を交わしてから発動する。内容は簡単だ。
『魔力を過剰に支払う代わりに敵を逃すな』
この契約によりマスターは展開後の魔法操作を殆ど行うことなく敵を倒してゆく。その間に大き目の魔法を構築して最後にドンッ。マスター流掃討手段だ。
「次はこちらから行きますよ」
マスターとの戦闘では『七変加速』は使わない。使えば一発でバレてしまうからね。
基本的にマスターとの鍛錬では『魔導師』と『封印魔法』の鍛錬を重点的に行い、『強化魔法』と『近接戦闘』は個人的な鍛錬で鍛えている。
私はいつものように『魔導師』の技能による魔法の展開をする。
『七変加速』を起動させていないため『雷属性魔法』などの専門技能は使えないが『魔導師』であっても雷を操れることは既に検証済みである。
恐らくだが使える人がいなかっただけで『魔導師』には雷の属性も補正に含まれていたのだと思う。
私は両手から電撃を発生させながらマスターを睨み付ける。
「黒焦げになっても後悔しないでくださいね!」
「そんなことはやってから言ってみな」
両手をマスターに向けてかざし、電撃が私の意思に従う様に勢い良く雷鳴を響かせながら放たれる。
電撃の速度に人間であるマスターが追い付けるわけがない。
私は放った瞬間に心の中でほくそ笑んだ。
だが電撃は私の予想を反してマスターをすり抜けていった。
「え?」
「何処に撃っておる」
「げふっ!」
再び背後からの攻撃。今度はマスター自身が後ろに立ち、手刀で私の首筋に一撃を与えた。
呻き声を上げながら私は確かに今まで前方にいたはずのマスターの姿を見て驚く。
目の前にいたマスターの姿は徐々に周りの空気に溶け込んでいくかのように色が薄まり消えていった。
それを見て私の頭の中に一つの魔法が思い浮かんだ。
「『幻影魔法』……」
「正解だよ間抜け」
「酷い言いようですね」
「最初から幻影に何話しかけてるんだと呆れながら見ていたよ私は」
「うぐ……」
「あんたそんなんで良いのかい?」
「えっ?」
「何でもないよ」
マスターの呟き程度の言葉を正確に聞き取れなかった。だがマスターは特に気にした風もなく私から距離を取って向き直る。
「さぁ、まだまだこれからだよ」
「はい!」
こんな風に私はマスターとの鍛錬を続けた。
マスターとの鍛錬が終わる頃には既に夕方ごろとなっていた。
私はこの後夕飯の買い出しに行ったり、近所の子供たちに交じって遊んだりしている。
見た目が子供の私は初対面の人には侮られがちだが、この村で私を子供として扱う者は既にいない。子供以外だが。
子供は見た目重視なのだ。私が魔導人形で、知能が高いなどと言う事は関係なく夕方に一人で散歩などしているといつも絡まれる……いや、遊びに誘われる。
最近は買い出し以外では自宅に籠っていることが多い。決して子供が怖いなんてことはない、ないんだからな!あんな無尽蔵な体力相手に鬼ごっこなんてやってられるか!
では自宅に籠って何をしているのかと聞かれれば、私はマスターの研究室で知識を蓄えている。
マスターは本当に凄い。何度言っても足りないくらいに凄い。
マスターの研究室にはありとあらゆる魔法に関する書物、研究資料、マスター自身の行ってきた研究の成果が詰まっている。
恐らくこの部屋にあるもの全てに値段を付けるとすれば一生遊んで暮らせる以上の富となるのではと思うほどだ。
マスターによれば魔法知識とは魔導師の生きた証のようなものだと言う。
魔導師とは魔力に優れた者のみ目指すことが出来るもので、その数は五十人に一人と言われており、更にその中でもちゃんとした教育を受け、魔導師と名乗れるほどの実力を持つ者となればこの半分以下となると言われている。
だが魔導師と名乗れる者とは基本的に貴族階級の者ばかりで、冒険者や傭兵といった魔法を行使するだけの者であればもっといるらしい。
そしてこの魔導師という言葉だが、技能の『魔導師』とは異なる。
技能の『魔導師』ならばそれこそ魔力に優れておらずとも、魔法が使えるようになれば取得は可能だ。
しかしマスターのような本当の意味での魔導師とは既に世界中に知られている魔法を扱えるだけでなく、独自の理解、解釈により既存の魔法とは異なるオリジナル、もしくは既存の魔法を応用した優れた使用法などを研究し、研鑽し、実用段階にまで至ることの出来る者の事を指す。
故に魔導師の魔法知識とは生涯を捧げて成し遂げてきた偉業であり、生きた証であり、無闇に他人へと譲渡することがない。
その中でもトップクラスの魔導師であるマスターの研究成果、これを見ることの出来る私はとても恵まれているとしか言いようがなかった。
おそらく他の魔導師が聞けば喉から手が出るほどに欲しい権利のはずである。
「しかし、何故そんなものを私に……」
魔導師の知識は墓まで持っていかれることも多いとマスターは言う。
そんな大事なものを私に見せてくれる意味とは一体何なのだろうか。以前ならばマスターも前述したような他の例に漏れず、私はこの部屋に入ることを制限されていたというのに。
加えて、マスターはあの時以来この部屋に何故か入ろうとしない。
いや、まぁ入られたら入られたで魔核が全部なくなってるから言い訳するのに途轍もなく苦労すること必至、というか確実にバレるので入ってきてほしくはないのだが。
しかしそんなことを今考えていても仕方ない。
今の私はただこの知識の巣窟とでも言えばいい部屋の全てを理解したいだけなのだから。




