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第五話 その名はガリュオン

天運招来何て私は引かなかった。それでいいじゃないか。


五話が短めだったので今回は長くするつもりでしたが、もう一回ここで短めに区切り、次話これの倍以上の文字数で投稿することにしました。

もう少し安定した文字数で区切り良く書きたいのですがどうにもその時の気分で変わってしまいますね。

「さて、行くとしましょうか」


 深夜、マスターが寝静まった事を確認してから私は二本の足でしっかりと床を踏みしめながら家から出た。

 あれから一ヶ月、右足の修理も終わり、マスターも傷が治って元気にしている。だがしかし老体にあの大怪我は負担が大きかったのか怪我が治っても以前までの元気はなく、見た目も老け込んだように思える。

 だがそんな状態にあってもマスターは私の鍛錬だけは休まずに続けてくれた。理由を聞けば単なる意地だという。何ともマスターらしい適当な理由だが、私にとってはこれほどありがたい事はなかった。

 そのおかげで今では大分魔法に関して強くなれたと思う。流石にマスターには全然敵わないが。

 さて、私が何故こんな深夜に家を抜け出すような形で出たかと言うと、あの約束を果たすためである。

 あの日、エンペラーウルフに告げられた言葉。私はそれをそのままの意味で受け取り、そして受けることに決めた。

 結局、私には力が足りない。その力不足を補うためには経験が必要だ。そして経験とは実戦でのみ鍛えることが出来る。

 現状私と実戦で戦えるものはマスターを除き村にはいないし、そのマスターも病み上がりであるために無理をさせられない。もし出来たとしても私がもう一体の謎に包まれた魔獣と戦うだなんて言えば必ず止められるだろう。故に私は実戦訓練の相手を欲していた。

 この一ヶ月村で右足の修理と魔法の鍛錬に時間を割けたのはきっとエンペラーウルフのお陰であろう。あいつが魔獣を倒すのではなく、食い止めてくれているからこそ未だに村に被害が及んでいないのだと俺は考えている。

 私は奴を信用する。そして利用してやるつもりでいる。

 あいつを踏み台として使い、私は謎の魔獣を殺す。

 それがこの一ヶ月で私が決めた結論だ。


「何処ですか、エンペラーウルフ!」


 森の中で叫ぶと、腰ほどまでに短くなった自慢の銀髪が風に揺らされた。

 それだけで分かる。分かってしまう。

 忘れもしないあの日感じた奴の気迫、存在感。それが今の一瞬で目の前に現れたことが。

 眼前には以前と変わらぬ強者の面持ち。大きな漆黒の体躯は変わりなく途轍もない力をヒシヒシと感じられる。

 エンペラーウルフは私を見ると口元を愉快そうに歪めた。


「(来たか、偽りの生命よ)」

「始めに、一つ言っておきたいことがあります」


 そう、何かする前に私はこいつに一言言っておきたいのだ。

 私は漆黒の巨躯を目の前にして怯みそうになりつつも気合で足腰に力を込めて震えを耐えながら、十分に声を出せる様にゆっくりと大きめに息を吸ってから告げる。


「私は至高の魔導師、メリエル・ファウルを主人に持つ魔導人形、ユーリだ!今後私を偽りの生命などと呼ぶことは私の主人、メリエル・ファウルへの侮辱として受け取り、私はそのものに対し全身全霊を持って報復する!」


 あの日もこの魔獣は私を偽りの生命と呼んでいたが、私はそのことがどうしても許せなかった。

 もし私がただの魔導人形であればこうはならなかっただろうが、私はマスターの目的においては失敗作でありながら唯一の魂注入の成功作でもある。そんな私を偽りの生命などと魔導人形を侮辱するような呼ばれ方をされたままでは私の気が許さなかった。

 エンペラーウルフは私の宣言を聞き、呆気にとられたのかしばらくの間何も言わずにじっと私の方を見つめてきた。

 そして何かに納得したのか一つ頷くように頭を上下させて口を開いた。


「(我は貴様に敬意を表し、貴様をユーリと呼ぼう。そして貴様も刻むが良い。貴様の至高の主を傷付けし魔獣の名を!)」

「くっ!?」


 突然辺りに突風が吹き荒れ、更にエンペラーウルフから途轍もない気迫を感じ、足が竦みそうになる。

 だがここは何としてでも耐えなければいけない。私は何者にも屈しない、もうあの時ように動けなかった自分とは違う!あの日の同胞たちとの盟約を果たすまで、こんな所で挫けてて良い訳がない!

 より一層勢いの増す中、エンペラーウルフは咆哮するかのように告げた。


「(我は三本の角を有する最強のエンペラーウルフ。ガリュオン!!!この名を刻んで生き永らえる事を誇りに思うが良い!!!)」


 エンペラーウルフ、ガリュオンの咆哮に私は身を震わせた。全身の毛穴が広がる気分であった。

 圧倒的強者の名、これを胸に刻むことの出来る事を自然と私は光栄に思っていた。

 それ程ガリュオンの強さというものは強大で、それを直に自分の肌で感じ取り、私の心は打ち奮えていたのだ。

 本当に、化け物としか言いようのない力だな……。

 圧倒的力を見せられて実力の差を理解し、あの時やられてしまったのは仕方ないと片隅の思考で思いながら、私は喜びを隠せずに口元が緩んでしまっているのが自分でも分かった。直そうとしても直らない。

 私は嬉しくてたまらないらしい。あの日から自分がどれ程成長出来たのかを正確に測れる存在、全力で挑んでも到底敵わず遠慮の必要が一切いらない存在が目の前にいることに。

 ここからは遊びじゃない。生半可な覚悟で挑めば殺されてしまうだろう。

 だが進む。私が、私たちが退くことを許さない。

 全ては我が主の……いや、正直に打ち明けるならそれは既に口実でしかないのかもしれない。マスターは今自宅のベッドの上で安眠している。ならばこの絶対強者から生き永らえたことは逆に誇りとも取れる所業だ。

 故にここから先は私自身の問題。私の勝手なわがまま。

 マスターにはこれ以上戦わせてはいけないと心のどこかから囁かれる。

 マスターはもうこの世界の平均寿命を既に超えており、いつ寿命が来てもおかしくない年齢なのだ。更にあの日の怪我で体力を落としてしまい、もう全盛期の様に動けることはないだろう。

 だから、マスターには安心して暮らしていってもらえるようにしたい。

 そのためならば私は、まだ見ぬ魔獣を倒すためならば、この身が壊れようとも構わない。

 全ては俺に体を与えてくれた恩に報いるために、私はその最初の一歩を踏み出した。

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