第四話 立ち上がるために
今回は区切り良くするために短くなってます。
「……こ、ここは」
あれから自宅に命辛々辿り着きマスターをベッドに休ませ、治癒の魔法薬を飲ませて半日が過ぎ、漸くマスターが目を覚ました。
俺はあまりの事に喜びを抑えきれずにマスターに抱き着いてしまった。
「マスター!目が覚めましたか!?」
「ユーリ……一体何が……っ!?あ、あんたその足!?」
「あ、あはは……少し頑張りすぎてしまいました」
マスターは治癒の魔法薬で傷も大分治り、峠は完全に越えただろう。だが俺自身はあれから一切変わっていない。切り裂かれた髪はボサボサ、右足は太腿の中間あたりで砕けてなくなっており、魔力も確認してみたらもう5しか残っていない状況。いつ魔力切れで倒れてもおかしくない状態だった。
俺はどうなっても魔核が無事であれば何とかなるのだが、生身のマスターが回復しなかったら、あのまま意識が戻らなかったらと思うと胸が締め付けられるかのように痛む。
存外俺はこのマスターの事を気にいっていたらしい。
「くっ……まだ傷が痛むね……だがあんたの魔力補充くらいなら何とかするさ」
「まだ無理は――」
「――やらせておくれ。あんな大口叩いといてこの様さ。結局あんたがいなきゃ死んでいたんだ。これくらいどうってことはない」
そう言ってマスターは俺の胸元の魔核にそっと触れて魔力を注ぎ込んでいく。
だがその魔力に俺は違和感を感じた。何故ならいつもより魔力が弱々しいような気がするのだ。
原因としては病み上がりというのが一番だろう。
そしてそれに加えてあの時の戦闘、ほんの一瞬で決着が付いてしまったが、マスターが行使していた魔法は恐らく相当な魔力を消耗する大技だっただと思う。治癒の魔法薬で傷は治っているだろうが魔力はまだ殆ど回復出来ていないに違いない。
しかしマスターがやられてくれと言うので俺は渋々魔力補充を受け入れ、魔力を注ぎ終わるとやはり無理をしていたのかマスターはそのまままた眠りについた。
「……おやすみなさい、マスター」
ベッドに横たわるマスターにしっかりと布団をかけてやる。
そして俺はマスターの安否が確認出来たのでマスターの寝室から出ていき、不自由な片足のまま家の中にあった杖を上手く使いながらマスターに出入りを制限されているリビングの奥の部屋、マスターの魔導研究室へと足を踏み入れた。
そこは俺が最初に目覚めた場所であり、魔核時代に20年の月日を過ごした懐かしいとも感じる部屋。
俺という存在がこの世界で始まった大切な場所。
少し埃っぽい空気を吸い過ぎないように気を付けながら俺は目的の場所に腰を落ち着けた。
ここはマスターの魔導に関する研究成果が全て存在する場所である。故にあの20年の研究成果もここにある。
俺は机の上に散らばっている研究資料を漁って魔導人形に関するものをピックアップしていった。
「これと、これ……後これもかな」
何故こんなことをしているのかと聞かれれば体を直すためだ。だがそれは今までのものをそのまま作り直すのではいけない。
あのエンペラーウルフと対峙してよく分かった。俺は弱い、とてつもなく弱いと。あいつが強すぎるというのは分かっているがそれにしたってあの時、マスターが攻撃を受けた瞬間、俺は手も足も出せずに見ていることしか出来なかった。
それが今更になってとてつもなく悔しいのだ。
だから俺は強くなりたかった。
あいつから最後に言われた言葉、あれを信じるのであれば奴は俺を鍛えてくれる、もしくはそれに類することをしてくれるという。
もしそうだとしても俺はあいつから与えられるだけの甘ちゃんにはなりたくなかった。
だからこうしてマスターの研究資料を漁り、何か現状よりも強くなれる方法がないかと探しているのだ。
まずはこの右足の修理をしなければならない。太腿の中途半端な所で潰されているからもういっその事この部分はバッサリと切り捨て、骨盤部分の関節部位から作り直した方が良いだろう。
そうなれば目下一番改造しやすい部分は右足という事になる。どうせ一から作り直さなければいけないのだから、ちょっとした改造の一つや二つ試してみるのもいいだろう。
丁度良いところに材料ならばある。
俺は研究室の壁際に備え付けられている棚に視線を向ける。
そこには過去20年もの間マスターが何度も試行錯誤して生み出した俺同様の失敗作、唯一違うのは魂の注入が出来なかったという事だけの哀れな魔核達がいた。
しかしマスターが実験に使っていたというだけあってどれも高品質の良い魔核だった。
きっと持ち主が違えばお前らは魔導人形として生まれることが出来たのにな……。
俺は立ち上がり、その中の一つを手に取った。
「……高い品質を持ちながらも魔導人形として生まれることが出来なかった同胞たちよ、もし許されるのならば私に力を、マスターに降りかかる厄災を打ち滅ぼせる程の力を分け与え給え」
その瞬間、ほんの僅かに手に持つ魔核が光ったような気がした。それに触発されたかのように他の魔核達も僅かに光りだし、そして消えていった。
それは俺の幻想が見せた幻覚だったかもしれないが、俺はその光が了承の意味であったのだろうと信じることにした。
「共に行こう。私たちを敵に回したこと、後悔させてやりましょう」
それから一ヶ月、俺は右足の修理に勤しんだ。




