第二十八話 炎魔
珍しく早めの投稿です。
いつの間にかなろうコンの一次選考結果が発表されていましたね。
一応この作品も応募させていただいておりましたが、予想通りの結果となりました。
一次くらいは通ってくれないかなーなどと淡い期待もしていましたが、まぁそんなに甘くありませんよねってことで、今回で第二章終了です。
私が他人と違うと感じたのは、物心のついた頃。案外早く、簡単に気付いた。
それが変異魔力だというのと、それによって魔力漏洩症を併発するという事はもう少し後になってから気付いた。
友達は皆私より先に魔法が使えるようになっていった。
私も頑張ってみたが、私は魔法が全く使えず、ただただ魔力が熱を帯びるだけであった。
皆は私のこの魔力を凄い凄いと言ってくれていたが、私は皆の方が羨ましかった。
私の兄はとても優秀な人だった。
歳は10以上離れており、子供の私とは違ってその頃には既に騎士学校を卒業し、王都で立派に務めを果たしているという。
優れた兄に憧れていた。
ただそれだけの理由だったが、その頃の私にはそれだけで頑張れた。
ある日、とあるエルフの女性が私の前に現れた。
女性曰く、兄の知り合いだとか。
父さん曰く、父さんの恩人だとか。
何やら難しそうな話をしていたのは覚えている。
兄の名前が出たり、私の名前が出たり。
父さんは私の名前が出る話の時に頭を抱えていた気がする。
そんな光景をあまり見ていたくなかった私は外に出て訓練に励んだ。
訓練と言っても子供の遊びみたいなものだ。
取り敢えず走ってみたり、棒切れを振り回したり、魔力を操作してみたり。
『レイウェンちゃん』
陽が沈み始めた夕方頃だったろうか、エルフの女性が私に声をかけてきた。
どうやら話は終わったようで、父さんの代わりに様子を見に来たらしい。
余り大人と話す機会がなかった私は少し人見知りで、おずおずとしながら女性の様子を伺っていた。
『何してるの?』
『く、くんれん……です』
『訓練?へー、どうしてそんな事してるの?』
『おにいちゃんみたいに、なりたいから……』
『ふーん、そっかそっか。でもね、レイウェンちゃんはきっと、ガゼルよりずっとずっと強くなれるよ』
『ほんとにっ!?』
私はエルフの女性の言葉に歓喜した。
兄さんの知り合いで、父さんの恩人という程の凄い人からそんなことを言われて私は飛び上がりそうだった。
友達は先に魔法を覚え、私なんか喧嘩したって全然勝てない。
あの頃はもう私と喧嘩と呼べるレベルの争いをしてくれる人さえもう周りにいなかった。
そんな中であんな事を言われれば、単純な子供だった私は信じる他なかった。
『レイウェンちゃん、魔力を思いっきり出して、胸の前でその魔力を両手で小さく小さく抑えつけるように操作してみなよ。そしたらきっと、世界が変わるよ』
『うんっ!』
言われた通りに魔力を操作した後の記憶は朧げだ。
意識を取り戻した時には自分の部屋のベッドの上で寝ていた。
既にあのエルフの女性は帰っており、その時の事を聞けなかったが、私の掛け布団の上には一着の服が置かれてあった。
それはとても可愛らしい、フリルの付いた服だった。
それを手に取った時、一枚の紙が床に落ちた。
それを拾ってみると、それはあのエルフの女性が残した置き手紙であった。
『燃え尽きない服を君にあげる。因みにとても可愛いけどメイドさんの服だ。君が仕えたいと思う人が現れたら着るといい。サイズはその時の君に合わせて変化するから安心してね。じゃあね、火の契約者』
その時の私には何のことだか全く分からなかった。
しかし一つだけあの時の事で覚えていることがある。
朧げな意識の中、あの人は……セフィーナ様はこう言った。
『おめでとう。『炎魔』、それが君の名だ』
――――
マコさんがティファー様と戦っている。
マコさんは強い。私はそう思っている。
しかし今回は相手が悪い、悪過ぎる。
ほんの少し、手合わせ程度ならと思って止めはしなかったが、ここまで本気の戦いになると分かっていれば絶対に私は止めていた。
『神拳』、それはティファー様の右腕の名前でもあり、技名でもある。
その腕は膨大な魔力を有し、その膨大な魔力を集束させて放つ一撃は地を割ると噂されている。
実際に見た者はいないが、その噂の信憑性は腕の製作者があのセフィーナ・ディッセンともなれば相当高くなる。
そして私は今、その噂が本当なのだと実感している。
マコさんの右腕が破壊された。
私の全力を受け止めてくれたあの人をこうも簡単にあしらうなど、普通に考えてあり得ない。
私の全力を受け止めれる人物などこの街では父さんくらいだと思っていた。
故にマコさんは弱くない。魔導人形にしてみれば強過ぎるくらいだ。
そんなマコさんが今や満身創痍。
最後の一撃であろう左拳もティファー様に受け止められ、魔力も完全に底をついていた。
もう……やめてよ。
これ以上は見ていられなかった。
マコさんの左腕さえも潰す勢いのティファー様に私は怒りが湧いてきた。
その怒りに私の魔力は反応し、いつにも増して熱量が上がっていく。
私はあの日から一度も行わなかった、セフィーナ様に教えてもらった事を実行する覚悟を決める。
もしかしたら何も起きないかもしれない。
でも、逆にどうにかなるかもしれないという期待もある。
『炎魔』、それが何を意味するのかは分からないが、今の私がマコさんを助けるためにはこれしかない。
熱量を上げ続ける魔力を胸の前に集束させ、両手でそれを一気に圧縮していく。
膨大な熱量を保有する魔力の塊は圧縮し、圧縮し、圧縮した後に、私の中へと入り込み、爆発した。
「レイウェン……ちゃん……?」
爆発と同時にマコさんがこちらに振り向き、そして意識を失った。
……良かった、こんな姿を見られたらお嫁にいけません。
きっとマコさんなら気にしないのでしょうが、私が気にしてしまいます。
こんな、炎そのもののような、魔人としか形容出来ない姿の私なんて。
先程まで近くにいたジーヤさんも既に姿が見えない。何処かへ行ってしまったのだろう。
でも、良かった。
これで気にせず、戦える。
「……マコさんを、離してください」
「嫌と言えば?」
「……殺します」
「あら怖い……『炎魔』とやれるだなんて光栄ですわ」
人を小馬鹿にするような態度がとても気に食わない。
しかも私の事を『炎魔』と呼ぶという事はつまり、この人はセフィーナ様から私の事を聞いていたということか。
「……知ってたんですね」
「領民の事は出来る限り把握しているつもりよ?」
「そうですか、良い領主さんなんですね。殺すのが惜しくなります。でも殺します」
「いらっしゃい小娘、遊んであげます」
マコさんを自分の後ろに投げ、マコさんを取り返したければ自分を倒してみろという意思表示にも見えたそれを私はそのまま受け取り、突進する。
武器は無いが、この体自身が全て攻撃手段と化している今の私には関係無い。
立っているだけで地面を溶かし始めるほどの熱量を帯びた拳をティファー様に向かって突き付ける。
両腕が千切れるかと思う程の連打に対してティファー様は右腕のみを高速で動かし、私の拳の全てを払い退ける。
速い……それに、私の炎が通じてない!?
「くっ……!」
「あらあら、聞いていた話と違いますわ『炎魔』。その程度では火傷もしませんわ!」
「はぁあああ!!!」
汗一つかいていないティファー様に対して私は必死に食らいついていた。
同じ魔力に異常を持っている身ながら、こんなにも違うのだろうか……私にはデメリットばかりで、相手はメリットの塊。
そんな不平等が許されるのか……?
違う、許されるか許されないかじゃない。
私が、そんなの許さない!
私は一度ティファー様と距離を取り、体勢を立て直す事にする。
「あら、もう終わりですの?」
「そんなわけ……ないでしょう?」
私はもう一度魔力を集束する。
圧縮に圧縮を重ね、先程よりも強い熱量を放出する魔力の塊を作り出す。
「まぁまぁまぁ!離れているのに肌が焼け爛れてしまいそうですわ!良いですわ、とても良いですわ!」
もっと、もっと私に力を!
集束し、圧縮し、更に集束し、圧縮するを繰り返し、限界に達した魔力を胸の中で再び爆発させる。
「がっ……ぐ、ぁ、ぁあああああ!!!!!」
体が内側から焼かれていく感覚。
痛い、熱い、痛い、熱い!!!
焼かれ、焦げ、焦げ切った後に新たな組織が生まれる。
そんな感覚を幾度と繰り返していく内に、私の意識は次第に薄れていく。
薄れゆく意識の中、笑い声の絶えないティファー様と長く戦っていた。
ティファー様の生身の部分は魔人の炎の熱量により、触れてもいないのに焼け爛れていき、無事な右腕を振り回して魔人と渡り合っていた。
対する魔人は体が殆ど炎と化しており、打撃を受けてもすり抜けていた。
打撃が有効でないと即座に判断したティファー様は右腕全体に魔法による氷を纏い、魔人へ攻撃を与えていた。
両者は共に一歩も引かず、勝負は永遠にも及ぶかとも思われた。
しかし、全てにおいて終わりがあるように、この戦いにもその時が訪れた。
「楽しかったですわ……あぁ、また会える時を心待ちにしておりますわ」
「ぐ、がぁっ!?」
攻防の中、刹那の隙を捉え、魔人の胸にその右腕を突き刺したティファー様は恍惚とした表情で呟いた。
魔人は呻き声を上げる。
何故だ。
魔人の頭の中はそんな気持ちでいっぱいだった。
今まで打撃は全てすり抜けていたというのに、何故今の一撃だけは自分に通じているんだ。
その疑問の答えは、疑問を生じさせた当時者であるティファー様が答えた。
「驚き、でしょうか?自分が不死身か何かにでもなったおつもり?」
「ぐっ……!」
「まぁそうですわね、あなたは殆ど不死身のようなもの。本来ならば打撃は絶対に通じないでしょう」
本来ならば……?
なら何故今の私ではダメなのか?一体何がわたしをそうしたというんだ!?
ティファー様は楽しそうに笑みを浮かべながら続ける。
「そのメイド服、あなたの熱量に耐えられる程のメイド服、そんなものが、ただの贈り物だと思っておりますの?」
一体……何を言ってるんだ……この人は?
これはセフィーナ様が昔私にくれた物で、燃え尽きない凄い服で……それだけの、はずじゃ?
「あなたはそのメイド服を着ている限り不死身ではいられない。そのメイド服の胸部の下、あなたが使用している魔力の塊のある心臓部、それ以外の部位を攻撃されていてもすり抜けたから油断したでしょう?」
何、何なの……何が起こってるの!?
貫かれた心臓部から徐々に熱量が失われていく。
熱を失い始めた体は本来の人としての姿に戻っていった。
「服の胸部にのみ刻まれているセフィーナ様独自の術式。それを外部から貫くとあら不思議、あなたの心臓が、魔力の塊が、私の手元に……ふふふ、眠りなさい。我が兄の様に、永遠に」
魔力の熱量だけではない。
それと共にわたし自身の熱も体から抜けて行き、既に体がいうことをきかない。
冷たくなっていく自分の体を感じながら、遠のいていく意識の中、私はマコさんを見つめた。
とても可愛くて、綺麗な魔導人形。
とても強くて、優しい魔導人形。
願うなら、あなたと共に生きて、あなたに看取って欲しかった――
――さようなら、ユーリさん。




