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第三話 皇帝狼

祝!ブクマ数5!!!

いやーめでたいですね!

この調子で少しずつでも私の作品を読んでくださる方が増えていくことを願いながら今後も頑張っていきたいと思います!

次の目標はブクマ数10!

「ほう、こいつはユーリが思っている通りだろうねぇ」

「では、やっぱり魔獣の……」

「ハイウルフの牙にも似ているが、それにしてはちょっとデカいね」


 昼食の後、ディーンさんから受け取った物をマスターに手渡すとやはり俺と同じ意見の様だった。

 魔獣の牙であるのは分かるのだがハイウルフなら魔獣といっても小型のものだ。だが今マスターが手にしている牙は根元の太さが拳程もあり、長さに至っては30㎝弱、この辺りに生息する動物、魔獣ではまずありえない大きさであった。


「しかもこの牙……抜けたというより折れた様だね。根っこがない」

「こんな大きな牙が何故?」

「こりゃあここら辺の魔獣の生息域にどっかからデカい奴らが入ってきたと考えるのが妥当かもしれないねぇ」

「その中の個体の一体がこの牙の持ち主だと?」

「恐らくどこか遠くの方で縄張り争いか主の入れ替わりがあったんだろうね。そしてそこにいた魔獣どもが他の棲み処を探してこんなとこにまで来ちまったのか……まぁ過程はどうでもいいさね。今この村の近くにデカい魔獣が出現した。それだけ分かればどうってことはない」

「ですがこの牙の出どころは一体?」

「ディーンの奴から貰ったんだろう?なら森ん中だろうさ」

「でもディーンさんは……」


 ディーンさんは既に狩りに赴いていることはない。なのに何故森の中だとマスターは断言出来るのだろうか。

 だがマスターにとっては当たり前だとでもいう様に理由を答えてくれる。


「あいつは定期的に森で薬草なんかを採集してんだよ。流石にこんな小さな村でパン売るだけじゃ生活も苦しいだろうさ」

「そうだったんですか……取り敢えず私は村長の所へ報告に――」

「――待ちな。この事は秘匿する。下手に村人を刺激したくはないし、こういう時のために私がここにいる」


 俺が部屋から出て行こうとするのをマスターは言葉を遮って止めた。

 俺としてはいち早く村長に伝えて村人への危険を少しでも減らそうと考えたのだが、マスターの言う通り刺激しない方が良いかもしれない。平和な日常の中いきなり大型の魔獣が出たなんて知られれば村中がパニックになってしまう可能性もある。

 もし俺が村長にこの事を伝えた場合、きっとあの村長ならば魔獣の事を伏せて秘密裏にマスターへ討伐してもらう様に頼むだろう。

 マスターはそのことが分かっているから最初から魔獣なんて出ていないとでも言うようなスタンスで貫くつもりなのだ。

 しかし大型の魔獣が出たというのを知ってしまった今の俺には黙ってマスターだけ行かせる気など毛頭ない。


「……私も行きますから」

「勝手にしな、私は準備をする」

「はい」


 俺はマスターがリビングのソファーから立ち上がり奥の部屋へと消えていくのを見送った。


 この村においてマスターは防衛の要だ。もしマスターがいなければこの村はとっくの昔に魔獣に襲われてなくなっていただろう。

 今でも大型の魔獣が近くにいるのにもかかわらず、まだ村が襲われていないのはマスターの『結界魔法』によってこの村全体が護られているからだ。

 だがそのことを理解している村人は少ないのが現状だ。それはマスターが故意にそうなるよう村長と話し合っているようなのだが、理由はよく分からない。それによりマスターの村人からの評価は良くも悪くもなく、ただ腕の良い魔導師であったという昔の評価を知られているだけだ。

 魔獣の討伐を精力的に行っていればそんな評価も変わるのだろうが、基本的に『結界魔法』を維持していれば魔獣が襲ってくるようなこともないのでマスターはそう言った力の弱い魔獣は放置している。

 だが今回は違う。

 魔獣の規模は正確には分からないが少なくともこの牙を持つ魔獣とその牙を折ったであろう魔獣、この二体は必ずいるだろう。更に元の縄張りから追い出され、群れでこちらに来ている場合は最悪の状況だ。

 マスターが直々に動くということは『結界魔法』では抑えきれない可能性があるという事で、それはマスターでも一筋縄ではいかない可能性を示唆している。

 1対多数ではいくらマスターといえど楽ではない。故に今回は俺が同行して前衛を務めるのが最善だろう。

 俺は魔導人形。魔導師によって作られ、魔導師の魔法発動を邪魔する敵を排除する盾が本来の役割とも言えよう。

 ならば俺はこの身を破壊されようともマスターには指一本触れさせないと誓う。


「壊れたって、魔核が無事であれば体くらいいくらでも作り直すことが出来るんだから」


 俺は淡く蒼く光る胸元に取り付けられている魔核に触れながら呟いた。


「さぁ、行くよ」


 後ろからマスターの声がした。

 その声はいつものような年相応の雰囲気を持った声色ではなく、元宮廷魔導師であることを証明するかのような、その声を聞くとその場の空気が静まり返る。そんな感覚を覚えさせる強い力を持った声だった。

 俺は聞いたこともないマスターの声を聞いて体を震わせるが、次第に治まっていくと同時に覚悟を決めた。


「はい!」


――――


 マスターとは鍛錬の時に何度か模擬戦のようなものをしたことがあるが、その中で俺がマスターに勝てたことはおろか、触れる事すら出来たことがない。

 そんなマスターであるが俺との模擬戦で一度たりとも本気を出したことがないのだと、今更ながらにそれを実感していた。

 マスターの準備は何だったのかと言えばローブと杖を取り出す事のみだった。

 漆黒のローブと木製で出来たマスターの身長と同じくらいの長さの杖。杖の先端には真っ白な魔石が嵌め込まれており、その魔石は魔導器具何かに使われている低純度の魔鉱石から作られたものではなく、おそらく高純度の魔鉱石、俺の魔核と同程度かもしくはそれ以上の品質を持つ魔鉱石から精製された魔石であろうことが一目で分かった。

 これが元宮廷魔導師であるマスターの本気装備……全く、俺としてはもう少し弱いと思っていたかったよ。

 マスターの後ろ姿は何とも力強いものであった。ホントに88歳の老人かと疑問に思ってしまう。力強過ぎて後ろに控えている俺の存在が必要なのか疑問に感じてしまうほどだ。

 だがこんなマスターでも警戒心を常に周囲へと張り巡らせている。それはマスター自身どうなるか予想のつかないという事、そして俺の必要性を少しだけでも感じる事の出来るものであった。

 森の中を進んでいくと徐々に獣臭が強まってくる。

 俺自身周囲を警戒しながら進んでいるがやはり場数の違いがありマスターよりも反応が遅い。

 突然マスターが前方に杖を向けたかと思うと先端から突風が巻き起こり、茂みの中に潜んでいた魔獣を風の刃とでも言うべきもので切り刻んでいく。

 3体の魔獣の死体が一瞬の内に出来上がるとマスターは死体に歩み寄り、そして苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら呟く。


「角持ち……こいつは厄介だね」

「角持ち?」


 俺が聞きなれない言葉に疑問を抱いているとマスターが呆れたような溜め息を吐いてから説明してくれる。

 仕方ないじゃないか!知らないんだから!


「角持ち、魔獣の中で特殊な進化を起こした個体に見られる現象だよ。こいつらは元々ローウルフだが額に小さな突起物が見られる。これは角なのさ」


 確かに先程のローウルフの死体をしっかりと観察してみると体表の黒い毛によって分かり辛いが、角の様に出っ張った毛の生えていない黒い物が額にあった。

 だがこれは何のためにあるのだろうか。たかがローウルフに角が生えた程度では特に変わりが見られたようには思えないのだが。

 そんな風に考えているとマスターがこちらの考えを読んだかのように加えて説明をしてくる。


「別にローウルフ程度は大したことじゃない。ただこいつらに角が生えたということが問題なのさ」

「それは一体……?」

「こいつらに角を与えた存在がこの森にいる。いや、正確に言えばここの森の主が変わったことによりここら辺の魔獣が特殊な進化をし始めている、と考えた方が良いかもしれないね」

「あの牙の魔獣、ですか?」

「恐らくだが……あの牙はエンペラーウルフの物かもしれないね」

「エンペラー……」


 皇帝狼ってことか……そんな大層な名前にあの大きな牙、相当やばそうな相手な気がしてきたな。

 しかもそいつの牙を折った奴がいつかもしれないなんて考えたくもないな。


「エンペラーウルフも元はローウルフから進化した個体なんだよ?ただ、特殊な進化を重ねた末に行き着く魔獣だから世界中探しても数頭しか存在しない個体だろうね」

「そんな希少種が一体何故……」

「さぁ?どっちかと言うと、そんな奴がいる森にもう一体同等の相手が存在している今の状況が不思議でならないね私は」

「因みにマスターならばエンペラーウルフと戦った場合の勝算は?」

「……難しいね。私もいろんな魔獣を今まで葬ってきたが、こんなレアものに出くわしたことはそんなにない。ただ、私も本腰入れないといけない事は確信したよ。……ユーリ、あんたは――」

「――帰りませんよ?」

「そうかい」

「私はマスターの魔導人形。魔導人形とは魔導師の剣であり盾です。いざとなれば私を捨てて逃げてください」

「……ふん、いっちょ前に言うんじゃないよ」


 そうして私たちは森の中を進み続けた。

 途中で何度も角持ちの魔獣と戦闘になりながらも、時には俺が潰し、時にはマスターが魔法で殲滅した。

 だが一つだけ不可解な事がある。

 角持ちになっているのは良いのだが、新種の魔獣が一切いなかったのだ。

 もし新しい個体群が縄張りを追われてこの地に来たのだとしたらそれは可笑しい。ならばエンペラーウルフは何か別の目的があり、まだ正体を掴み切れていないもう一体の魔獣もこの地に逃げてきたのではないのではないか。そんな風にマスターと話していた矢先、俺たちは出会ってしまった。


「グルルルルゥッ!」


 威嚇の唸り声を上げる漆黒の巨体。全長10mはありそうなそいつは、尻尾を抜いたとしても5mはあるだろう。その大きな口元からは2本の大きな牙が生え、4本の強靭そうな足先には牙に劣らず鋭い爪、そして赤く怪しく光る獰猛な眼。これらでも十分に恐ろしいがもう一つ、これは俺ではなくマスターが驚愕の表情で見上げているのだが、その視線を追うとそこには立派な白銀に輝く3本の角が額の中心に1本、側頭部の両側から各1本生えていた。額の角は真っ直ぐに前方を貫くように生えており、側頭部から生えている2本の角は捻じれながら中央の角に向かうように歪曲して生えていた。


「三本……じゃと……っ!?」

「ま、マスター!?」


 驚愕で声が上ずりそうになっているマスターを見てみると顔中から汗が吹き出し、杖を持つ手が、いや、体全体が小刻みに震えていた。

 俺はその姿を見て今のこの状況がとてつもなく不味いのだと確信した。

 俺より遥かに強いマスター。そのマスターが恐怖に震えている。ならばこの状況は非常に危険だ。

 村の事を考えれば今ここで討ち取らねばならないが、マスターが死んでしまえばどちらにせよ村は終わりだ。そうならないためにも今はこの場から一刻でも早く逃げなければならない。

 俺が決心してマスターを担いで逃げようと足に力を籠めようとすると、マスターが手で制止してきた。


「ま、マスター!?」

「ふふっ、馬鹿な事を考えるでないぞユーリ。私は恐怖で震えているのではない。喜びに打ち震えているのさ。こんな強敵、30の頃に戦った炎龍以来じゃよ……あの時以上かもしれんがの」

「で、ですが!」

「控えておれ。いくら魔導人形の身体能力が高かろうと、奴の前では蚊ほどの存在でしかないじゃろうからな」

「っ!?」

「さぁエンペラーウルフよ!私といざ尋常に、殺し合いをしようじゃないかっ!」


 マスターの叫び声と共に戦いの火蓋は切って落とされた。

 最初はマスターの先制、杖の先端の魔石が眩く光り輝くと荒れ狂う業火が大蛇の様にうねりながらエンペラーウルフに向かって放たれた。


 そう、放たれたはずだった。


「ま、マスタぁああああああああああ!!!」


 一瞬だった。

 俺は目を疑った。

 現実を受け入れたくなかった。


「ゆー……り……逃げ、な……」


 何も聞こえない、聞きたくない。

 何も見えない、見たくない。

 でも聞こえてしまった、見えてしまった。

 音に響いた鼓膜の振動が、視界に映った光景が瞼に焼き付いて離れない。

 大蛇のような業火が放たれた瞬間、エンペラーウルフの姿が消えた。

 すると次の一瞬で勝負が決まっていた。

 魔法は発動者が制御を手放すと消えてなくなってしまう。大蛇もその原理に従い霧散していった。

 それが意味する事。それはマスターの敗北であり、俺が見たものはエンペラーウルフの爪によって胴を引き裂かれたマスターの姿だった。


「あ、あぁ……あああああああ!!!」


 何が何だか分からなかった。

 自分の思考が分からない。

 何がしたいのか分からない。

 状況に頭が追い付いていない。

 しかしそれでも今しなければならない事だけは頭の中の唯一残された片隅にて思考し、理解した。

 もしかしたらこれも混乱によって生み出された答えなのかもしれない。

 だがそうだったとしても動かなければならなかった。

 このまま黙って立ち尽くしていられるほど俺は冷静でいられなかったから。


「マスターから離れろおおおおおお!!!」


 魔導人形の身体能力は優れている。それは全身が魔鉱石で出来ていることが起因している。

 魔力によって動いている魔導人形は常に動き続けるために通常は最低限の魔力を全身に流し、そしてそれは人間の血流の様に元いた魔核へと返ってくる。その魔力を再び再利用することによって魔力は常に循環し、通常時での魔力消費は0となっている。

 だが、もしこの循環している魔力以上の量を流せばどうなるか。それはその分だけ魔鉱石であった全身が魔力に反応して強く、強靭になる。

 通常時でも並の人間以上の身体能力を誇る魔導人形がそんなことをすれば人間の力など意も返さないほど強くなる。

 しかしこの身体強化法は常に魔力を放出し続ける必要があり、全力で魔力を解放した場合は1分も保つことが出来ない。

 故にこの行為は最後の手段。

 自身のマスターを救出するためだけの捨て身の機能。

 俺は今その機能を使用した。

 魔核によって貯蔵魔力の変わる魔導人形。俺はその中でも高品質の魔核であると自負している。

 俺の貯蔵魔力は1000。この数値も所有技能数並に壊れ性能だというのはあの人たちから既に教えられている。

 ならば届いてくれ。

 いや、届かせなければいけない。

 あのクソ狼の速度をも超えるほどまでに、速く、速く、速く!!!


 エンペラーウルフが止めの一撃を放つ直後、俺は届いた。

 己の右足と髪の半分を犠牲にして。


 勢いに任せて跳んだためにマスターを両腕で抱えながらしばらく転がった。

 右足とか結構気に入っていた髪を半分も持っていかれた事が非常にむかつくが痛みを遮断できる魔導人形には関係ないし、今はそんなことはどうでもいい。

 確かに届いた。俺の腕の中にはまだ息をしているマスターがいた。

 よし、よしっ、よしっ!!!

 どうだ、やってやったぜこのクソ野郎!

 俺はマスターを庇う様にしながらエンペラーウルフを睨み付けた。

 貯蔵魔力の殆どを今の一瞬に使って漸く届いた速度。今のをもう一度やれと言われてももう魔力が足りない。もう一撃爪を振るわれたら万事休す。マスター共々死ぬことになるだろう。

 だが、それも悪くないかもしれない。

 俺は十分やり切った。

 そもそも俺ではこいつに敵う訳がない。

 ならばこれで一矢報いたことぐらいにはなるだろう。それだけで十分だ。

 だが最後にこれだけは言わせてもらおう。


「ざまぁみやがれ……」


 お前に一矢報えたことを冥途の土産に持っていく。そしてもう一つ叶うのならば、俺はお前を呪い殺してから召されてみせようじゃないか。

 魔力が枯渇し始めたのか体の力が抜けてその場に崩れ落ちる。

 だがいくら待っても俺らは最期を迎えることはなかった。

 エンペラーウルフをもう一度見てみると奴は俺らを見下ろしていた。


「ガルルッ(見事なり)」

「……え?」

「(我の速度に追いつけるものなど存在しないと思っていた。誇るが良い、人が作りし偽りの生命よ)」

「待て……一体、どういう……」


 魔獣が人間の言葉を話している?いや、違う。こいつは唸り声を上げているだけの様に聞こえるのだが、俺はその意味が理解出来ているようだ。

 何故こいつが言おうとしていることの意味が……まさか、『言語理解』のせいか!?

 俺は今まで村の人間の言葉しか聞いたことがなかったから気にすることもなかったのだが、もしかしてこの技能は魔獣の言葉でさえも理解出来るっていうのか!?

 も、もしそうなら俺は確認しなければならない事が!


「エンペラー、ウルフ……お前は何故、この森に……」

「(この森は元より我の縄張り。人が後である)」

「じ、じゃああの牙は……」

「(牙?あぁ、奴か。この森に来た余所者の物だ)」


 あの牙はエンペラーウルフの物ではない!?しかもこいつの言葉を信じるならばここは元からこいつの縄張りで、それを荒らして生態系を崩したのは余所者であり、あの牙の持ち主もそいつだと?


「なら、なんでマスターを……」

「(生まれた子を護る為だ。我がこの森に姿を現したのは子を護る為の一時的なものである)」


 正当防衛だとでも言いたいのかこの狼は……いや、実際はそうなのだろう。

 俺たちの早とちりによってこいつが森を荒らした犯人だと決めつけて攻撃をしかけ、俺たちは反撃を受けてこうなってしまった。

 そう考えたら、俺は既にこいつを恨むことが困難になっていた。

 しかし、このまま素直に変えるつもりもない。


「エンペラーウルフ、その余所者は、どこにいる」

「(……ほう、まさか貴様が奴を倒すつもりか?)」

「お前が今まで通り村に危害を加えないのであれば、お前は俺らの敵じゃない。そしてその余所者がこのまま森を荒らすというのなら、そいつは俺らの敵だ。ならば標的をそちらだけと認識し、お前によって傷付けられたマスターの仇を代わりにそいつで取ってやる……」

「(貴様には無理だ)」

「無理かどうかは関係ない!やるんだよ……もしお前がそいつを俺より先に仕留めるというのなら、お前は俺の敵として先に殺してやる!」

「(ほう、偽りの生命の分際で言いよる……ふむ、体を直してから出直して来い)」

「……えっ?」

「(我が貴様を少しはマシになるようにしてやる)」


 そう言い残してエンペラーウルフは消える様にいなくなった。

 まるで元からそこにいなかったかのように。

 だが今はマスターの安否が重要だ。

 俺は一応周囲の警戒を怠らないようにしてマスターの容体を確認する。

 マスターのローブには全属性の耐久性に加えてローブ自体に治癒の効果が付与されているらしい。

 道すがら聞いたこの話が本当であれば、少しは時間が経過して傷口くらいは塞がっていてほしいものだが……。

 這うようにしてマスターの腹部の傷を確認するとローブの効果は確かなようで血は止まっているようだった。血が乾き始め赤黒くなっている傷口の様子はよく分からないが、とにかく家にまで戻れば治癒の魔法薬があったはず、それさえ手に入ればマスターを助けられる。

 俺はマスターを両腕で抱え、木にもたれ掛かりながらも一本の足で何とか立ち上がる。

 そしてなけなしの魔力を身体に注ぎ込み、飛び跳ねる様にして俺は村まで戻った。

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