第二十五話 命拾い
大変遅くなってしまいました、申し訳ありません。
そして明けちゃいました、おめでとうございます。
次はもう少し早めに更新できるよう頑張ります、はい。
「あぁあああああ!?!?」
「ひっ!?」
「はぁ……はぁ……こ、ここは……私は一体……」
「だ、大丈夫ですか?」
目が覚めた。
いや、本当に目が覚めたのかとても怪しい。
私はどうした、一体何があった、取り敢えず思い出せるだけの事を思い出してみる。
私は『餓鬼』を探しに北区へ行って、そこで痩せ細った男を見付けて、それで、それで……っ!?
「ま、魔核、私の魔核は!?」
そうだ、あの時私は男に後ろから刺された。
そして魔核を貫かれて意識を……。
私は起き上がったベッドの上で両手を使い胸と背中の刺された部分を触って確かめた。
「な、直ってる……いや、でもそんなまさか……体は自己修復の延長としても魔核は……」
セフィーナさんの改造から目立った傷を負ったことが無かったため今の私の自己修復がどれ程のものかは分からないが体はこの際直っているなら何も言う事は無い。
問題は魔核だ。
私はあの時魔核を貫かれた。そう、その筈だ。
しかし今私の傷を確かめた時に見た服の傷跡、穴が開いていた場所は魔核よりほんの少しだけ左にずれた位置であり、ギリギリ魔核に触れないといった所であった。
一体あの時何が起こったのか。
私は何故今こうして生きていられるのか。
何も分からない現状では考えるだけ無駄であろうと判断した私は思考を一旦切り替え、この場についての把握を始めた。
現在地は『大熊亭』の私の部屋であった。しかし何故ここに私以外に人がいるのだろうか?
先程から声が聞こえていたのは分かっていたのだが、そんなことを気にしている余裕がなかったため放置していたが流石にそろそろ触れていこう。
「で、どちら様でしょうか?」
「え……?」
「え?」
「お、お忘れですか!?」
「えーっと……」
私の記憶の中に一切該当するような人物が見当たらなかったからこその問いかけだったのだが、どうやら今の反応を見る限り私の勘違いのようだ。
私の言葉に驚き、そして少し涙目になっている少女を私は顎に手を添えながら観察する。
可愛らしい雰囲気を纏い、パッチリとした金色の瞳がキュート、艶があり光を反射して輝く赤い長髪、幼い印象を受けるが徐々に大人への階段を上り始めたという印象も併せ持つとても素晴らしい美少女だ。
何故か服は前世でよく見たフリルの多めなメイド服であったが。
ふむ……こんな美少女メイドに知り合いがいるわけでも雇った覚えもない。
つまり……他人だな。
「あ、使用人は間に合ってますんで他の所に行った方が――」
「――ぼ、じゃなくて私です!レイウェンです!」
「……へ?」
メイドさんにお引き取り願おうとしたら突然の衝撃の告白。
なんと、この美少女がレイウェンちゃんだと!?
……あ、でもよく見たらあのシャワー室で見た時はこんな感じだったような気がする。あの後普通にいつも通りな感じに戻ってたからそっとしておいてあげようと記憶に蓋をしていたのを思い出したよ。
はー、それにしても人とはこうも変われるものかね。こんな美少女がオルトの娘だとかあいつホント人生勝ち組だな、早くくたばらないかな?
「ホントに気付いてなかったんですね」
肩を落として落ち込むレイウェンちゃんを見ているととても申し訳なくなってきた。
流石にこの空気は不味いと思い話を強引に軌道修正する。
「で、レイウェンちゃんがどうしてここに?というか私はどうしてここにいるの?」
「あ、はい、それはですね――」
そこからレイウェンちゃんの説明が始まった。
まず私について。
私は北区の表通り、一番大きい大通りの隅に転がされていた所を発見されたらしい。
発見し、報告してくれたのは北区を丁度通りがかった一人の冒険者だったそうだ。
発見されたのは私が刺された日の夕方ごろ。
その時の私は胸を貫かれた傷跡以外に外傷はなく、身ぐるみを荒らされたようでもなかったらしい。
まぁ私から盗れる物なんて封印が解けていなかったのなら『白姫』くらい。しかしそれも所持者である私以外には触れることが難しいだろうし、何より触れれば魔力を吸われるとあっては盗る人も限られるというものだ。
そして肝心の魔核であるが、発見者及びその後私を保護したオルトの話によれば魔核は無事であり、今存在している服の穴が物語っている通りギリギリのところで助かったようだ。
では私があの時感じた魔核を貫かれた感覚は一体何だったのか。その疑問の答えは恐らくあの男がもっているのだろう。
「で、一番意味が分からないのがレイウェンちゃんなんだけど?」
一通り話は聞いたのだが全然理解出来なかった。
何故レイウェンちゃんがここにいて、何故そんな服を着ているのか。
「ですから、私はあれから父さんと話し合ったんです。そもそも変異魔力については私自身気付いていたんです。だって人と違い過ぎるじゃないですか?だから自分で調べて、自分なりに考えて、それでも私は父さんや兄さんの様になりたかった。だから男装をして少しでも男らしく、そして強くなるために訓練を始めたんです。そうすれば二人に近付けるような気がして」
「うんうん」
「訓練して、強くなった自身はあったんです。ですがそれは慢心でした。私はマコさんに負けてしまいました」
「うん、負けてはいないよね?」
「負けですよ。マコさんがあの訓練場の傷を作ったと父さんから後になって聞きました。ですからあの時は手加減してくれていたんでしょう?」
「う、うん……まぁ、ね」
いや、すみません嘘です、結構全力でした。
歯切れの悪い答えの私を見て首を傾げるがそのまま話は続いていく。
「そして私は悟ったのです。あぁ、この人についていこう、と」
「待って」
「何でしょう?」
「どうしてそうなった?」
「……え?」
いやいやいや、そんなこの人は一体何を言ってるんだみたいな表情されてもこちらとしては困るんだよ!
なんで!?私の理解が悪いの!?違うよね!?
一体どうしたら戦って負けました、そして悟りました、ついていきます、ってなるの?
君は一体何を悟ったと言うんだいレイウェンちゃん。
「父さんも言ってくれました。『はぁ……なんでそんなことに……もう好きにしろ』だそうです!」
オルトの野郎!全部私に投げやがった!?
てかレイウェンちゃんも気付いてよ、普通にその時のオルトの様子を真似てるみたいだけどめっちゃ深い溜め息吐いてるよそれ!?もうあきれ返っちゃってますよ!?
きっとオルトとしては娘には平和に、平穏に女としての幸せってものを味わって欲しいとでも考えていたんだろうが、なんか……ご愁傷様です。
「ということで、これからどうぞよろしくお願いします」
「いやいやいやいや」
一体何をどうよろしくすればいいんだよ。
恐らくメイド服という事だから衣食住に関してお任せください的なニュアンスで良いのだろうか?
しかしよく考えてみてくれ、このレイウェンちゃん、ついこの間まで訓練ばかりしていた日々ではないか。
……家事とか出来るのかな?
私の思考を読んだのかレイウェンちゃんは得意げに胸を張って言い放つ。
「安心してください、これでも『家事Ⅷ』を持ってます!ふふんっ」
「なっ、ななな、なんだってえええええ!?!?」
今日一番の驚きと共に、結局レイウェンちゃんを傍に置くことになってしまったのであった。
――――
「「はぁ……」」
二人の人物の溜め息が同時に吐かれる。
ここは冒険者組合所の一階ロビー、そしてその人物とはユーリとオルトである。
「お二人とも業務の邪魔です」
「「あ、すみません……はぁ……」」
私とオルトが何故ここまでシンクロして気分が落ち込んでいるのか、それは全て一人の人物によって引き起こされているのであった。
私はその人物の有能さに自分を重ねて落ち込み、オルトはその人物が何故今のような現状になってしまったのかと落ち込んでいる。
「マコさん!今日もお仕事行きますよね!?」
「あ、う、うん……」
「じゃあ受注してきますね!」
「うん……」
全ての元凶、レイウェンちゃんは今日も元気ハツラツ。意気揚々と受付嬢さんにいつも通りの依頼を受ける手続きに向かっていった。
「なぁオルト」
「なんだ?」
「……『家事』はお前の教えか?」
「そこら辺は母親に仕込まれてるから俺は知らん」
「そうか」
「なぁマコ」
「何?」
「どうやったらレイウェンは帰ってきてくれるんだ?」
「……知らん」
「だよな」
「「……はぁ」」
ここ最近の私とオルトはいつもこんな感じである。
しかしいつまでもダラダラと無為な時間を過ごしているわけにもいかない。何故なら私には借金があるのだから。
頬を両手で挟むようにして軽く叩いて気合いを入れる。
オルトから離れてそろそろ受付が終わるだろうレイウェンちゃんの下に行こうとした時、ふと聞いておくべきことを聞いていないことに気付いてオルトを見る。
「で、今あいつは何処にいるの?」
「何処も何も、一切変わってねぇよ」
「あんな危険人物、何でのうのうと街の中に住まわせてるんだ?」
「相手がいない。お前も分かってるだろう、奴は間違いなく強い。それがどんな力であれな」
「……」
あの後、私は落ち着いてからオルトに奴の人相を私の覚えている限り伝えて見覚えが無いかを聞くとピタリと一致した。
私を刺し殺そうとした人物、あの痩せぎすの男こそ私が探していた『餓鬼』であった。
そしてそいつの現状を調べてもらう約束をしており、その結果が今の会話である。
あの場所にまだいる……そうか、そうか……なら、行くしかないな。
「行くなよ?」
「うっ!?」
いきなり思考していた自分の行動に釘を刺されて息を詰まらせてしまった。
その姿を見てオルトはやっぱりなとでも言いたげな苦笑を浮かべる。
「お前の考えてることくらい透けて見える」
「……でも、私は」
「そしてお前が結局行くことも俺はお見通しなわけなんだが詰まる所、死ぬな」
「……」
「体はセフィーナ様に任せれば良い、装備も全部任しちまえ、だがな、魔核だけは代えがきかねぇ。ユーリという人形は残るが、お前という存在はなくなる。それを肝に銘じとけ」
「はい」
オルトの言葉を胸に秘めて私は思う。
今度会い見えれば確実に殺しに来るだろう。
前回は運が良かっただけ、もしくは『餓鬼』の気紛れか……いや、違うな。
オルトや他にも聞き込みをしてみたが奴の力には謎が多いという。
しかし私には分かるのだ。直接奴に胸を貫かれた私には、同じものを持つ私には分かってしまったのだ。
あの瞬間に見た奴の笑み。
忘れられるわけがない。私を殺そうとした者の顔。
思い出そうと思えばいつでも思い出せるが、忘れていたい死の記憶。
そしてそれを通じて自覚させられてしまう、私も持つ同じ顔。
記憶している訳でなく、顔に刻まれて消える事のないこの――
「ひひっ……」
――『狂化』の笑顔。




