第二十四話 白姫
更新が遅くなり申し訳ありません。
そして次も恐らく遅くなります。
ちょっと世界線を彷徨っている最中でして……。
出来るだけ早めには上げようと思っておりますのでゆっくりお待ちくださいますとありがたいです。
一週間が経った。
特に代わり映えのしない日常。特筆するとすれば技能の訓練をしていた事なのだが、今日はいつもとは違う。
鍛冶屋に直刀を受け取りに行くのだ。
そして以前行けなかった『餓鬼』の下へと赴く。
「魔力の回復も十分、武器は今から手に入る……いざという時にも何とかなるか?」
「(そんな警戒せんといかん相手に教えを請いに行くとは酔狂なことじゃの)」
「刀って物はただ振るうだけじゃダメなんだ。どんな名刀も使い手によれば鈍となる。私は『黒狼刀』を鈍なんかにしたくない」
「(……そうか)」
「心配してくれてありがとうジーヤ」
「(気にするでない)」
宿を出て鍛冶屋の下へと向かう。
相変わらず客の姿を見ない店だがちゃんと成り立っているのだろうかと店の経営状況を心配しながら私は店内へと入っていった。
すると鍛冶屋の親父は私が来ることが分かっていたようにカウンターの奥に腰掛け、一振りの直刀が台上に鎮座していた。
「よう、随分様変わりしてるが久し振りだな」
くっ……この服については何も言うな。
私を見るや声をかけてきた親父だが、その顔をよく見ると目の下には酷いクマが出来ていた。
そしてそれとは対照的に光り輝いているように錯覚させるほどの純白な直刀があった。
「それが……?」
「おうよ、自慢の一品だ」
「手に取っても?」
「金は既に貰ってる、好きにしな」
私はカウンターへと近付き、その純白の直刀を手に取る。
凝った装飾などは一切無い、ただただ白い、そんな鞘と柄を持ち、一気に引き抜いてその刀身を露わにした。
「っつ!?」
瞬間、悪寒が私の全身を駆け巡った。
思わず私は直刀をカウンターの上に落としてしまったがこの直刀がそんな程度で傷付く訳がないと理解していたため今はどうでも良く、私は親父に向かって鋭い視線を怒りを混じえながら送った。
この親父、何て物を作ってくれたんだ……。
悪寒の正体は直ぐに分かった。吸われていたのだ、魔力を。
そしてそれが意味する事、それはこの直刀もまた魔剣であるという事だ。
「どうだい?気に入ってくれたか?」
「私を殺すつもりですか……?」
魔導人形にとってこの直刀は相性が悪すぎる。限られた魔力で動く魔導人形に魔力を吸い取る魔剣など使わせれば直ぐに魔力は枯渇し、そのまま停止してしまう。
そんな事はこの親父だって百も承知であろうに何故こんな事を……。
「そんなんじゃねぇよ。ただ、お前さんの直刀はこれよりもクセが強いんじゃねぇのか?」
「……まぁ」
確かに『黒狼刀』はクセが強い。いや、それ以前にまともに使わせてもらえない程気性が荒い。
それを考えればこの真っ白な魔剣程度は扱い易いと思えるのだが、やはり魔力吸収は私にとっては致命的だ。
「ならこいつ程度使いこなせなきゃそいつを使うなんて夢物語ってわけだ」
「それにしてもこれは……」
「使い所を間違えなきゃ大丈夫さ。鞘に仕舞ってれば吸われる心配もねぇ」
「で、ですが!」
いやいや、だからその魔力吸収が問題なんだって!そこが如何にかなるんだったら今直ぐにでも引き取るっつーの!
再び私が親父の言葉に待ったをかけると、次に返って来たのは酷く冷静な面持ちでの親父さんの言葉だった。
「楽して強くなんてなれねぇんだぜ嬢ちゃん?」
「え?」
「俺は武器をどう使おうがそいつの勝手だと思ってる。魔物の討伐に使うでも、人殺しに使うでも、俺には関係ねぇ。だがそれらに共通するもの、それは強さを求めてるって事なんじゃねぇのか?」
「強さ……」
「お前さんは何のために武器を手にする?今一度考えてみると良い」
私が武器を持つ理由……?
そう聞かれて私は直ぐに答えが思いつかなかった。
あれば便利だと思っていたのは確かだ。何者に対しても戦闘となれば魔法だけで対処出来るなんて過信はしていないつもりである。
そんな時に素手の『近接戦闘』だけでの接近戦、しかも相手が武器を持っている、魔獣であれば爪や牙を持っているような存在であれば私はとても不利な状況となる。
今や『深紅の長靴』の無くなってしまっている私にはそれらに対応するための手段が無い。更に言えば本来であればあれは機動力を確保するための装備であった。
先日のレイウェンちゃんの攻撃により『深紅の長靴』にて対処して壊れてしまったあの時、もしレイウェンちゃんが戦闘続行可能であれば私はそこで詰んでいた。
逃げることも出来ずに終了である。
故に私は武器が必要なのであろう。
攻めるためではなく、守るために。
私自信を脅威から守るための強さを求めていたのだと。
私は転生したとはいえただの魔導人形、勇者でもなければ魔王なんて存在しないこの世界で、私が求める強さは強者を打ち倒すなんて大それたことでなくて良いのだ。
私には借金を返し切るまで生き続けるための自衛の力さえあれば良い。
そこまで考えが及んでから私は親父の質問に答える。
「身を守るために」
「そうか、ならやっぱそれはお前さんが欲する刀だろうさ」
「え?」
「直刀『白姫』、代償は使用者の魔力、効果は拒絶。その白き刀身を穢される事を忌み嫌う箱入り娘だ」
拒絶……成る程、身を守るに打って付けな能力じゃないか。
私はもう一度『白姫』を手に取り、再びその刀身を曝け出す。
急激に魔力を吸い取られていく感覚。しかしそれと同時に『白姫』から大きな力を感じる。
……何と無くだが『黒狼刀』では感じられなかった自分の手にしっくりと来る慣れ親しんだ感覚を覚えた。
これが魔剣に選ばれたという事なのだろうか?
私は手に持つ『白姫』の事を直ぐに理解出来た。
こいつはどう使って欲しいのか、何が出来て何が出来ないか、力をどう使えば良いのか。
……試し切りがしたいな。
「ほらよ」
「これは?」
親父がいきなり木の板を私の方へと差し出して来た。
何の事だか理解出来なかった私は親父に聞き返してしまったが、その後すぐにその意味を理解した。
何とも気が利く親父だ。
「試し切り、したいんだろ?」
「……ありがとうございます」
「新しい武器を手にした奴は基本そんなもんだ、気にすんな」
私は親父から木の板を受け取り、軽く上に放り投げる。
構えなど良く知らないが取り敢えず『白姫』を一旦鞘に戻し、居合切りのような体勢となり私は木の板が落ちてくるのを待った。
その間に『白姫』に魔力を吸わせて力の開放を準備する。
目線の位置に木の板が落ちて来た瞬間に解き放つ。
「拒め『白姫』」
刀身を勢い良く鞘から抜き、木の板を横一線に切る。
しかし木の板は刀身に触れる事なくパンッという破裂音にも似た音を立てて爆ぜた。
これが『白姫』の拒みの刃。対象が触れる事さえ許さず、刀身から生み出される力によって触れる直前に衝撃を加えて相手を弾く。
今の木の板のように脆いものであればその衝撃に耐え切れず爆ぜてしまうようだ。
しかしそれよりも恐ろしいのはもう一つの力だろう。
絶、絶ち切る刃。気に入らぬ事象全てを絶ち切るその力は拒み、拒み続け、拒み切った後、拒む事が出来なかったものを消し去る力。
対象と出来る事象がどれ程までかは分からないが、この刀から感じられる力から察するに魔力さえあれば本当に森羅万象の全てを対象としてしまえるのではないかとさえ思えてくる。
この親父、こんな代物を一週間で作ってしまうだなんて一体どんな人物なんだ……。
「過剰防衛で相手を殺してしまいそうだな」
「はっはっは、そうかもしれねぇな!」
何て軽い返しだ……こいつ本当にこの刀を作った本人なのか?
こんな馬鹿げた性能の武器をホイホイ世の中に出しているとしたらこの世界の武器の威力がインフレを起こして意味の分からないレベルになってるぞ……まぁそうなっていないという事は流石に考えなしではないのだろうが、この反応を見る限り不安を隠せない。
しかし作ってもらってしまっては仕方ない。取り敢えず料金はそのままでいいようだし有り難くいただこう。
私は『白姫』を鞘に仕舞って腰に提げようと思ったのだがそう言えばこのゴスロリ服に刀を引っかけておける様なベルトなんて存在しない事に気付きどうしようか迷う。
そんな私の様子を見かねたのか親父が一本の帯を寄越してくれた。
「お前さんの背丈じゃ腰に提げたら刀の先が地面にぶつかる。これで背中に背負え」
「ん、ありがとう」
親父に言われた通りに鞘の両端に帯を括りつけて背負う事にした。
そうしてゴスロリ美少女が真っ白な直刀を背負っているという何とも違和感のある存在が出来上がった。
「じゃあ、武運を祈ってるぜユーリ」
「はい」
やっぱあんたも関係者かよ。
私は自分の本名を呼ばれたことに驚きはしなかった。
流石にいろいろとおかしい部分があり過ぎた。そしてそれは親父も分かっていたのだろう。
だから最後に種明かしをした。
親父の表情を伺ってみてもよく分かる。
苦笑いのような表情、そしてそこから察せられる思考は私と同じく「やっぱりな」というところであろう。
それ以降言葉を話すことはなかったが互いに視線を合わせることで大体の意思の疎通は出来ていたと思う。
あんたも苦労してるようだね。まぁそれはお互い様か。
私は踵を返して今度こそ鍛冶屋から出て行った。
――――
北区に訪れた。
北区と言ってもその端、スラム化しているというカインの話から大体の予想は出来ていたが、これは何とも言えない光景であった。
ここまで来るまでの住宅街はとても綺麗な建物が立ち並び、流石は交易都市だなぁなんて思っていた。
しかしここはそれが一変し、原型は恐らく他の住宅街のようなものであったのであろうがその殆どが損壊しており、まともに家と呼べるような物は数えるほどしかなかった。
壁に大きな穴の開いた家、屋根が無い家、床以外何もない家だったもの。
こんな所に誰が住んでいるんだと思いながら歩いているが、人の気配は確かにあった。
その全てが私に対して意識を向けているようで、気を抜けば何処からともなく襲われる可能性があった。
しばらく辺りを散策してみたのだが『餓鬼』と呼ばれるような人物は見当たらない。
というか気配がしているだけで私は未だに誰とも接触していない。
どうしようかと途方に暮れかけていた時、私は瓦礫の山に腰かけた枯れ木の様にやせ細った男を見つけた。
丁度良い、あの人に聞いてみることにしよう。
「あのーすみません。ここら辺に『餓鬼』と呼ばれる『餓道一刀流』を扱う人を探しているのですがご存じありませんか?」
「……」
え、無視?いやいや、流石に何か反応くらい示して欲しいんだけど……というかこの人ちゃんと生きてるのか?
近寄ってしっかりと観察してみるとその痩せ細った男の腕は殆ど肉感を感じることが出来ず、骨と皮しか存在しない程。首も良くその細さで頭の重量を支えることが出来るなと感心するほどであった。
ボサボサに伸び切った髪はキューティクルの欠片もなくくすんだ灰色をしており、瞳さえも濁った灰色をしており光を感じているのかさえ怪しい。
そんな彼は私がジロジロと体中を観察しているのにもかかわらず一切、ピクリとも動かず、瓦礫に腰かけたままであった。
流石にこれ以上粘っても意味がないと判断した私は踵を返して他の場所を探そうと男に背を向けた。
その瞬間、全てが終わった。
「背中、見せる、死」
「っが!?」
残った力で首を回して背後を見る。
そこにいたのは先程まで生きているのかさえ怪しかった男だった。
しかしその瞳には尋常ではない力が内包されているようであり、灰色ではなく真っ赤に染まっているのが見えた。
男の口元は歪んでおり、一体どんな感情なのか察しにくかったがあれは恐らく満足している様子、そしてそこから来る笑みであろう。
あの痩せ細った枯れ木のような腕からは考えられない力で長身の刀がその手には握られており、どうやって私が感知出来ない速度で行ったのかは不明であるが、私が絶望するには十分過ぎる現実がその先にあった。
男の手に持つ刀が背中から的確に、私の魔核を貫いていたという現実が。
魔導人形の心臓とも言える魔核、私の魂の入れ物、私という存在そのもの。
その魔核が壊れた。
それの意味する事とは――
――私の死である。
主人公交代とかはありません、ちゃんと続きますので安心してください。




