第二十三話 変異魔力
か、書き溜め……書き溜めはいずこ……。
もしかしたら年末年始は書き溜めを作るためにお休みをいただくかもしれません。
年末年始は何かと忙しいと言うのもありますがね。
出来れば第二章は年内に終わらせておきたいところですが……そこら辺は何とも言えません。
「ビックリした……まさか女の子だったとは」
「言ってなかったか?」
「言ってない!そしてこの服もなんだ一体!?」
あの後、結局体の煤はジーヤに任せて掃除してもらい組合所のロビーへと戻っていくと私の姿を見てオルトが慌てて着る物を私に差し出してきた。
あまりの衝撃的な出来事により忘れていたがその時私は全裸であった。
落ち着いて周りを見渡してみると若干前のめりになっている男が数人いることに気付き、何だか途轍もなく恥ずかしさが湧き上がってきて急いでオルトが渡してきた服に着替えた。
その時になって漸く私はレイウェンちゃんのあの赤面した理由をちゃんと理解したと思う。
そして現在、オルトに向かってレイウェンちゃんの事を確認すると同時に、急いで着たためにどんな服かを全く気にしていなかった物について指摘した。
何故か?当然普通の服じゃなかったからさ!
どうせこれもセフィーナさんの趣味なのだろう。
なんでチャイナ服の次はゴスロリなんだよ!
てか流石に気付け私も!
まぁかと言って着るものこれしかないんだけど。
「いやー本当は中級祝いとして預かっていたんだがまさかその前にあの服が燃えちまうとは思わなかったんでつい」
「にしてもこれは酷い!こんなんじゃまともに動けない!」
この服を簡単に説明するとしたらこれに限る。フリフリだ。
胸元や袖、スカートに至るまで赤いフリルがふんだんに使われた黒を基調としたゴスロリ服。レースなどの細かい装飾も多く何とも芸が細かい。
しかし途轍もなく動きづらいのが難点である。
そしてセフィーナさんに是非とも直接言ってやりたいことがある。
右腕と魔核が普通に服の下になってますけどいいんですかこれは!?
魔核はまだいいとしよう。きっとあれはただの悪ふざけ兼この街では魔導人形であることを周知させておくという目的とかがあったのだろうと思いたい。
しかし右腕は違う。袖の無いチャイナ服を着ていたのは魔素の吸収を阻害しないためとか言ってませんでしたっけ?
「ちなみにこれがセフィーナ様からの手紙だ」
「ふむ」
恐らく私の疑問を想定しての手紙なのだろうと思いながらオルトから手渡された手紙の封を切って中を確認する。すると一枚の紙がそこから出て来てこう書いてあった。
『色選びに苦労しました。大切にしてねっ』
……。
『追伸、安心して、術式は完璧だから!』
私はその手紙を無言で破り捨てた。
「おいおい……」
「良いんですよ」
その光景を見て流石にオルトもそれは無いんじゃないかと少し顔を引きつらせていたがそんなものは関係ない。
答えて欲しい疑問については何も書かれておらず、更には無駄に色までこだわっているというアピール。
そして何よりこの服以上に性能の良い服というのが恐らくそう簡単に見つからないという事が腹立たしい。
そう、私は今腹が立ってもいいはず!これくらいは許されるはずなのだ!
これ以上何かしたところで現状は何も変わらない事を悟ると私は本題の方へと話を戻す。
「で、レイウェンちゃん、あの子は何者?」
「俺の娘、以上だ」
「ふざけないで、あの歳であの強さ、異常過ぎる。それに聞いた話じゃあの子は落ちこぼれって話じゃない、詐欺よあんなの」
「……」
「黙秘、ね……」
まぁ分かっていたと言えば分かっていた。
あれほどの強さを持つ我が子の扱いなどそれは慎重になるだろう。
それを責めることなど私には、いや誰にも出来ないだろう。
しかし私は知ってしまった、あの子の強さを。そして恐らくその理由、いや原因も。
ならばちゃんと確認しておきたい、あの子が何なのかを。
オルトは腕を組んでそのまま沈黙を続ける。
良いだろう、ならば私の勝手な見解を述べさせてもらうのみだ。
「私もメリエルさんの蔵書で勉強中の身だが、『治癒魔法』を調べている時に魔力に関する病というものをいくつか知っている」
「……」
中々なポーカーフェイスと言うべきか、それとも私の見解が全くの的外れなのか。
いや、私には自信がある。それは実際に対峙したからこそ明確に判断出来たのだ。間違いはないはず。
「変異魔力というものがある。生まれ持ち特殊な力を含んでいる魔力を持つ者の魔力を指す言葉だ。私がレイウェンちゃんの最後の一撃を放つ時に感じた魔力、その時は私も戦闘中の事だったからほんの少しの違和感を持つだけだったが、今にして考えてみるとあれは明らかにおかしい。オルト、先日貴方が私に放った魔力は『火属性魔法』の構築途中において不完全な状態で魔力を放出することにより熱を帯びた魔力を放出していたはずだ。しかしレイウェンちゃんは違う。あれは魔法の構築など一切なく、ただただ魔力を凝縮したものだ。あの時レイウェンちゃんは魔力を既に体外へ出していた。それなのにそこから更に熱量は上がり続け、そして凝縮する事でより熱量が上がっていた。何とも凄い代物だね。貴方も理解していると思うが、魔法は体内で魔力を操作して構築する。体外に放出された魔法が変化をするのはその際に構築した術式によるもの、決して魔力が体外で変化しているわけじゃない」
「……何故俺の魔力は普通だと?」
ここで漸くオルトが口を開いた。だがしかしまだだ。ここで間違えれば話を上手くはぐらかされてしまう可能性が高い。
確実に、明確に、事実を証明するための材料を提示しなければ。
私は一度深呼吸を挟んでから告げる。
「変異魔力が病とされる理由。ただ魔力が変わっているだけならただの個性であり、才能とも言える。だがこれは病気、それもとても危険な病気だからだ」
「つまり?」
「変異魔力は必ずもう一つの病、魔力漏洩症を併発する。原因としては変異している魔力は通常の魔力とは性質が異なるため、体に溜め込む事が上手く出来ない故に起こるとされており、これにより患者が成人、15歳になるまでの生存率は75%、20歳までで50%、そしてオルト、30歳まではいくらだと思う?」
「知らねぇな」
嘘だ、それは貴方が一番よく知っており、絶望した事実の筈だ。
私はオルトを真っ直ぐに見つめて告げる。
「この病気の30歳以上の生存率は0%、30後半辺りの貴方がもしそうなら生きている筈がないんですよ」
「……はっ、そうかいそうかい。で、レイウェンが何故変異魔力と決めつけた?あの戦闘中にお前がちゃんとレイウェンの魔力を視認出来ていたとは思えねぇなぁ。お前の思い違いでレイウェンは普通に『火属性魔法』を応用して使っていたかもしれねぇ!」
やはりこうなってくるか。
オルトはどうあってもレイウェンちゃんがそうでないと言い張りたいらしい。
気持ちは分からないでもない。
生まれながらにして親より先に旅立つことが確定している我が子を親ならばどうするか、決まっている、それはもう大切に育てるだろう。
平穏に、病気など気にすることなく、健やかに。
恐らくだがオルトはその事をごく一部の人間にしか話していない。当の本人であるレイウェンちゃんにさえ。
きっとそれはオルトなりの優しさなんだろう。実際変異魔力は死が確定していることを除けばとても素晴らしいものだ。魔法の構築を必要とせず、魔力の持つ力を発動させるだけで魔法と同等、もしくは凌駕する程の力を発揮出来るのだから。
だがなオルト、それは間違いなんだよ。
隠すことは一概に悪いとは言わない。だがそのせいで苦しむ子だっているんだ。
レイウェンちゃんが落ちこぼれだと言う噂、これはオルト経由で流されたものなのだろう。
そうすることでレイウェンちゃんにオルトのような戦いではない道を、女の子としての幸せって奴を目指して欲しかったのかもしれない。
しかしそれは真逆の反応を起こし、レイウェンちゃんは訓練に励んでしまった。
そうしてオルトは病気の事を告げることが更に辛くなり、現状まで何の変化も起きずズルズルと。
そんなところかな、なぁオルト?
私は全て分かってるんだぞと言うような物知り顔でオルトに向かって微笑む。
それを見たオルトが苦虫を噛み潰した様な表情となったのを見てから私は言う。
「変異魔力を見極めるのは簡単、魔法が使えない事だ」
「ちっ……」
私の言葉を聞いてオルトが舌打ちを鳴らす。
そう、変異魔力を持つ者は併発している魔力漏洩症によって体内での魔法の構築を上手く行うことが出来ず、それにより魔法を一切使えない。
故に魔力を出し、外部で操作するしか使用方法は無く、しかし力を持つ魔力のためそれだけで十分武器となる。レイウェンちゃんの『獄炎斬』のように。
オルトがレイウェンちゃんを落ちこぼれと周囲に認めさせるために出した証拠はきっとその魔法を使えないという面だろう。
しかし私の言葉だけではまだ不十分。ここからはちゃんとした実証を持って説得にかかろう。
私は少し前から物陰からこちらの様子を伺っていた人物、渦中の人、レイウェンちゃんを呼び寄せた。
「さ、レイウェンちゃん、こっちに」
「は、はい……」
大体の話は聞いていたのだろう。とても気落ちした表情で俯き気味にこちらへととぼとぼ歩み寄る。
それを見ながらオルトの様子を伺うととても悲しげな表情をしていた。
……違う、私はお前たちにそんな顔をさせたくてこんな真似をしているんじゃない。
ここで私がレイウェンちゃんに魔法を使ってみて貰えれば証明は完了する。
だが、そんな事しなくてももう良いだろうオルト……。
私は苛立ちを含みつつオルトに近付き胸倉を掴み上げて言い放つ。
「オルト、これ以上する必要があるか!?」
「……っ」
「最後に一つだけ言わせてもらう。そしたら私はもう帰る。その後は勝手にしてよ」
「……」
沈黙するオルト。しかしその沈黙は先程のものとは違い、私の言葉を聞き逃さぬようにするための沈黙であることはその真剣な眼差しから感じ取れた。
その視線を感じて安心した私は大きく深呼吸をしてから組合所に響き渡る程の声量で叫んだ。
「親なら子供を信じて見守ってやれよっ!!!」
「っ!?」
「……帰る」
私の言葉を聞いて酷く驚きを隠せない状態のオルトの胸倉を放し、私はそのまま冒険者組合を去っていった。
その後の事は詳しくは知らない。
知ろうともしなかったし、本人らも言ってこなかった。
しかし勝手に分かってしまう事と言うのもある。
翌日から早朝ランニングをする少女を見る者はいなくなったという。




