第二十一話 親子
先日敷布団からベッドとなり、朝起きると掛け布団が床に落ちて毎回寒い思いをしている鈴兎です。
いつの間にか第二章の話数が二十を超えていますが恐らくもうしばらく二章です。
生温い程度に見守っていただければと思います。
「お?珍しいな、呑んでないのか」
「金欠なんです……」
「はぁー、貧乏人は辛いねぇ」
『大熊亭』のいつものカウンター席でうつ伏せになっていると背後からカインが声をかけてきた。
いつもならば景気良く酒を飲んでいる時だが今日はそういうわけにもいかない。何せ手持ちの銀貨が全部なくなってしまうという事態になってしまったのだから。
カインに先程の事を簡単に説明して金がない理由を理解させると陽気な表情が固まった。
「ぎ、銀貨50枚……?」
「はい」
「お前どんな名刀打ってもらうつもりだ……」
「さぁ、それは週末のお楽しみですね」
「そんだけありゃ酒呑みまくれるってのになぁ……」
おそらくその金が私にあれば奢らせる気満々であろうカインが残念そうに言った。
しかしこれは必要経費だ。
私には普段使える用の武器が今後必要となる筈だ。そう考えれば銀貨50枚くらい……銀貨50枚くらい!!!
割り切りきれない気持ちを胸に秘めながら私はカインに一つ質問を飛ばす。
「少し聞きたいんですけど『刀術』を持っている方、欲を言うなら教えられるような方を知りませんか?」
「は?持ってないのか?」
「あはは、お恥ずかしながら」
「そんなんで銀貨50枚の刀……勿体ねぇ……」
ただの素人が良い刀を持って無駄にしてしまうとは何という宝の持ち腐れだろう。
カインはそんな風に思っているのだろう、私だってそう思う。
残念ではなくもう呆れかえって何も言えないという感じのカインに私はもう一度言いたい。必要経費だと!
良いもん!ちゃんと使えるようになるもん!!!
カインを現実へ戻すために少し荒っぽく続きを促す。
「それで!?知ってるんですか!?」
「ん……あぁ、知ってるっちゃ知ってる」
何処か歯切れの悪い口調で言うカインを怪訝に思い、無言でその後を待つが中々口を開こうとしない。
流石に知っているのなら是が非でも教えてもらいたい情報なのでカインにジリジリと詰め寄ると溜め息を吐いてから漸く口を開いた。
「アレイスの北区の外れ、スラム化しかかっている所に昔『餓鬼』と呼ばれた剣士がいる」
「……あまり良い意味ではない筈ですが?」
「そいつの扱う流派は『餓道一刀流』。敵を殺す為の剣、殺し切るまで戦う事を止めない剣、何よりも敵を求める剣。そんな風に言われている」
カインの語っている時の表情は何処か怒りと悲しみを含んでいた。
その事からあまり良い思い出がこの流派に関して無いのだろうと分かる。
しかし『餓道一刀流』か……日本には餓鬼道という六道に含まれる世界があると言われているがそれと関係しているのか。それともただその人が餓鬼のようであるのか。
考えても仕方ない、取り敢えずは会ってみよう。
「その人は北区の何処ら辺に行けば会えますか?」
「言っといてなんだが、止めとけ」
「理由が分からなければ頷けません」
「……奴に教えを請うた友人がいた。そいつは一年も経たない内に狂って死んだ」
「私もそうなるかもしれないと?」
「……あぁ」
カインの悲痛に歪む表情を見ただけで危ない事はよく分かる。きっとその友人の死は酷いものだったのだろう。
私はどうするか迷った。
魔導人形である私ならば狂わないかもしれない。だがもしかしたらその狂うという事がその流派特有のものなのかもしれない。もしそうであれば私が教わる事は無駄となるかもしれない。
力は欲しい。だが間違った力は必要ない。
……私は、どうしたい?
しばしの沈黙が訪れる。
カインを見ると私を見詰めたまま黙っている。
最終判断は私に任せるという事か。
私は自分の考えを反芻し、今の状況も加味し、そうして出た解を口にする。
「狂ったら、その時はよろしく頼みます」
「っ!?お、お前っ!?」
私の答えが意外だったのかカインは驚愕し、私の両肩を強く掴んで詰め寄る。
すまないなカイン、でもきっとこれが私にとって一番良い答えな気がしたんだ。
最終的に答えに至った理由は『狂化』の存在であった。
確証は全く無いが『餓道一刀流』とはもしかすると『狂化』を御する流派なのではないかと私は思ったのだ。
私が何故そんな考えに至ったのかというのも私自身が『狂化』を持っているからなのだが、これに当てはめるとカインの友人は『狂化』を手に入れたは良いものの、その力を制御出来ずに常に狂った状態へとなってしまったのではないだろうか?
そして『餓鬼』と呼ばれるその師範とも言える人物は『鎮化』、もしくはそれに近い技能を持っているのではないかと予測出来る。
ならば私はこの流派を知るべきではないのか?
もし私の思い違いであれば教わる必要などない。だがその通りであれば私はそこで一回り強くなれる気がするのだ。
流石にこの事をカインに話す事はないが私はカインの手に私の手を重ねてハッキリと言う。
「信じてください、私は大丈夫です」
「知らねぇからな……後、俺じゃお前を止めるなんざ出来ねぇよ。他を当たれ」
「それもそうですね」
「そこは否定するとこだろうがっ!」
良い友人を持った。
私はその時本心からそう思った。
本人には恥ずかしくて絶対言えないけど。
――――
翌日、物事というものは百聞は一見にしかずと言うので取り敢えずその『餓鬼』と呼ばれる人のいる北区へと向かう事にした。
北区は南区とは違い住宅区なのであまり物珍しい事はない。逆に海外旅行でも前世でしていれば恐らく見覚えのありそうな雰囲気を感じるくらいだろう。
一応北区に向かう前に組合所に行っておこうと足を運んだら何やら珍しい光景が目に入った。
「何で僕はダメなの!」
「ダメなものはダメだ。お前にはまだ早い」
「父さんも兄さんも僕の歳には魔獣を狩ってたんでしょ!」
「お前は半人前だからだ」
組合所の前で男と少年が対峙して口論している。
共に私には見覚えのある人物で男はオルト、そして少年は何時ぞやに見かけたアレイスの外周を走っていたレイウェンと言う子だった。
会話からも察せられたが今こうして並んでいるところを見ると一目瞭然、両者はとてもよく似ている親子だった。
顔の作りはどうやったらあのオルトからあんな美少年が生まれるのだと、遺伝の理論を疑いたくなるがそれはきっと母親が美人なのだろう。そうでなくては困る。
しかし遺伝を感じさせる部分、それは髪と瞳であった。
ほぼ色が酷似している。逆に今まで何故気付かなかったのか不思議なくらいだ。
まぁあれからレイウェン君には会っていなかったから忘れていたというのもあるが。
それにしてもアルトは結婚していたのか。勝手に独身貴族だと思っていたのだがな。
しかしそれだと奴の息子の一人、あのレイウェン君の兄はとても優秀な青年と聞いたがおかしな事になる。
あのオルトからそんな優秀な子供が生まれるわけがない……やはり母親の遺伝か。そうに違いない。奴の遺伝子はただ色を付けるだけだったのだろう。
本人に聞かれればキレられる事必至な考えを巡らせながら私はオルト達の傍に近寄っていった。
それに気付いたオルトが私を見て何やら少し眉根を寄せた後口元を歪めて笑った。
あ……これ面倒に巻き込まれるパターン?
全力でその場から立ち去ろうとしたが時既に遅く、私の肩を一瞬で間合いを詰めてきたオルトが力強く掴んで耳元で囁く。
「よう、良いとこに来たじゃねぇか『銀狼』のマコさんよぉ」
「ちょ、ちょっと今日は体調が優れないから帰――」
「――泥酔状態でも仕事しにくる『勤狼』なマコちゃんに良い仕事をやろうってんだ、良い話だろう?」
私の逃亡は絶対に許さないと言葉を遮り、更に手の力を強めるオルト。
くっそ!無駄に強過ぎるだろホント!何で私の全力で片手が振り解けないんだ!
というかなんだその『勤狼』って!勤労とかけてるのかこん畜生!全然上手くもなんともねぇんだよ!
全身でもがくがオルトの手はビクともせず、結局私は組合所に連行される事となった。
ぜ、絶対に慰謝料請求してやる……!




