第二十話 鍛冶屋
今後の展開に最近悩み始め書くスピードがめっきり落ちてしまいました。
本筋は出来てるんですが肉付けが出来ていないと言えば良いんでしょうかね?取り敢えずそんな感じであーでもないこーでもないとか言ってます。
話を書くというのはやはり難しいですね。
「では組合証をお預かりします」
「はい」
冒険者組合へと戻り、シャワーを浴びて汚れや体に染み付いた臭いを洗い流した後受付嬢さんに報告へ来た。
組合証を手渡すといつも通りどんな術式で出来ているのか分からない魔導器具を使って情報を確認する。
「いつも通り銅貨45枚ですね」
「無理せずコツコツ行こうと思うので」
今日も変わらない報酬と組合証を受け取りながら話す。
受付嬢さんは何人か常に控えているのだが私は毎回初めに会ったあの受付嬢さんだ。
何故かと聞いてみると、事情を知っている者が受け付けた方が楽だから、だそうだ。
報酬を受け取ればもうこの場所には用はなく、私がカウンターから離れようとすると受付嬢さんが何かを思い出したように私に声をかけて来た。
「あっ、ちょっと待ってください。一つ言い忘れていました」
「なんでしょう?」
「支部長からの伝言を預かっています」
「オルトから?」
何だろう、ここしばらくオルトとは会っていなかったから少し油断をしていたのだが何かあったのだろうか?あいつが絡むことで私はとても嫌な予感しか感じないのだが、流石にこのまま聞かずに帰るという事は出来なさそうなので受付嬢さんに続きを促す。
すると受付嬢さんは一枚の紙を取り出した。
「これは三ヶ月に一度行われる昇格試験の張り紙です」
「はぁ……」
「マコさんは実力は申し分なく、性格面での問題があり十級となっていますが、ここ一週間の働きぶりを支部長が見た所によると残り一ヶ月半、昇格試験が行われる来月末まで何も問題が無ければ特例として受験資格を与えるとのことです」
「……え、ホントに?」
「はい」
「ホントにホント?」
「嘘偽りはございません」
という事は?このまま普通に来月末を迎えれば私は晴れて中級!?
いや、まだ試験があるんだけど……でも私ならそんなの余裕だよね!
しかしオルトの奴、たまには良い事するじゃないか!見直したぜ!
予想外の事に浮かれる私を見て受付嬢さんが苦笑しているが気にしない。
今はこの溝に塗れる生活からの脱却の道、そして借金返済への道に近付いて行っていることに全力で喜びたかったのである。
「では、十級冒険者マコ、今後も真面目に依頼をこなして行こうと思います!」
「はい、頑張ってください」
背筋を伸ばして敬礼のポーズを取りながら受付嬢さんに宣言した後、軽くステップを踏みながら私は冒険者組合から出て行った。
――――
冒険者組合から立ち去った私が次に向かったのは現在宿泊中の『大熊亭』ではなく、以前荒くれ者の片手剣を売りに行った鍛冶屋である。
何故ここに来たのかと聞かれれば、武器が欲しかったのだ。
基本的に素手と魔法で戦っている私だが、先程も話していたように白兵戦が出来るようになりたいのだ。
理由は簡単、直刀『黒狼刀』をいざ使うとなった時に刀を扱いなれていない素人が振ったところで満足に戦えるわけがないから。
直刀を使ったのはクリュアの時とオルトの時だ。共にまともな戦いとは言えないし、クリュアには直刀を攻撃として使っていない。オルトには無防備の相手に対して出鱈目に振っただけで到底扱ったとは言えない。
そんな事では今後が心配だし、何より丸腰は私自身の自衛にも関わる。
一見すれば私は特に何も持っていない野良の魔導人形。そんなものは悪い者にとってはどうぞ食べてくださいと言っているような物である。
故に刀の一振りでも腰に携えていれば少しは格好が付くはずだ。
練習と威嚇、双方に利点のある良い考えである。
なので私は鍛冶屋の扉を開いて中へと入るとまず第一声に目的を伝えた。
「店主、この店に直刀なる物は置いていますか?」
「直刀だと?」
私の言葉を聞いてカウンターに肘を置いて寛いでいた鍛冶屋の親父は訝し気な視線をこちらへ向けて来た。
そしてそれが私だと気付くと何か納得したような顔となって視線を逸らした。
「置いてねぇが、作れる」
「なら一振り作っていただきたい。全長が私の身長くらいの片手用だ」
「……断る」
私の注文を聞いてから数秒の間が空いた後、鍛冶屋の親父からの答えはノーだった。
少し考えていた素振りが見えたが一体何故作ってくれないのだろうか?
疑問を持つ私に店主は理由を告げる。
「理由は三つ程ある。まず一つ、お前さんに金が無い事は組合を通して知っている。それも相当な額って話だ。直刀を一から作るとなればしばらく期間を貰うが、そんな短期間で金が用意出来ると思えねぇ」
「うっ!」
こ、この店主、見た目かなりごつくて脳筋なのではないかと密かに予想していたのに結構ちゃんと考えている……そして組合の情報をしっかり把握しているなんて……。
あ、侮っていたぜ店主。
しかし理由はまだ一つ目、店主は指を二本立てて説明を続ける。
「二つ、お前さんには合わない」
「え?」
合わない?それはどういうことだ?
私の戸惑いを気にせずに店主は話を進めていく。
「武器ってのは人が好みで選ぶもんじゃねぇ。そいつにはそいつに合った武器ってもんが生まれながらにして決まっている。才能、種族、体格、その他諸々によってな。世の中にいる戦う事を仕事としている奴らの大半は剣を使っているが、その中で剣に合っている者はそんなにいないだろう。そしてお前さんには刀は合っていないと俺は断言出来る」
「……何故ですか?」
「お前さんはそんな風に作られてない。もっと言えば、戦闘に向いていない」
「なっ!?そ、そんなことはない!」
店主の突然の指摘に私は思わず声を荒げて否定してしまった。
だがしかしこれは仕方ないだろう。何と言われようと私は今まで少なくない戦闘経験を経ている。
一番強い相手で言えばガリュオン、倒した中でならカースボアと挙げられる。
そんな経験を持っていてもこの目の前の鍛冶屋は私に戦闘は向いていないと言う。
目が節穴と言われてもおかしくない言い草だ!
内心で非常に憤りを感じながらも私は店主の言葉を待った。
「本当に、そう思うかい?」
「え……?」
「お前さんは自分が強いと思ったことはあるかい?」
「強い……?」
一体何を聞いてくるんだこの店主は。
私は多少困惑しながらも思い返してみる。自分の今までを。
私は強いのだろうか?
その問いは自分自身では決められない。主観が混じり、正確な判断は難しい。
だが一つだけ言えることはあった。
「私より強い人は大勢います。今までも見てきましたし、きっとこれからも見る事でしょう」
「それがいけねぇ」
「何がですか?」
「俺は人形にはあまり詳しくねぇが、お前さんは根っから戦闘用に作られてねぇってことだ」
「一体どういう……」
「俺も生産組合の端くれ、人形は沢山見て来た。その中で戦闘用何て言えば殆どお前さんのような自由意思は持たず、ただただ力を求めるだけの奴らだった。要するに、お前さんは優しすぎるんだ。愛情のある環境で平穏に主人と過ごすために作られた。そんな魔導人形なんだよお前さんは」
「……」
私は戦闘に向かないと言われた直後、今さっきまで否定したい気持ちで一杯だったというのに、今ではそんなものは見る影もなくなくなってしまっていた。何故ならそれは店主の言う通りだからだ。
私はメリエルさんの孫娘、ユリエルの代わりとして作られた魔導人形、そんな私に戦闘などさせようと誰が思うだろうか。ましてやメリエルさんが孫娘にそんなことを望むはずがなかった。
カースボアの件は特例中の特例、メリエルさんはきっと陰で苦渋の決断をしていたのだろう。孫娘を化け物と戦わせなければいけない事を。
その後の流れでセフィーナさんにより私の体は外見上の変化は殆どなかったが、内部的には戦闘向きなものとなった。
しかし私の意思は完全に戦闘へ向くことがない。そう作られていないから。
「武器に限らず、戦いってもんには心技体全て揃ってこそだ。体は良いとしよう、技も磨けば良い、しかし心が付いて来なきゃお前さんは二流で止まる」
そう言われてみればセフィーナさんは私を冒険者となる事を提案した時、何故か曖昧な言い方をしていた。
自分の技術に自信を持つセフィーナさんがその結晶とも言える私に、冒険者となれば上に立てるとは言い切っていなかった。
それはつまりセフィーナさんもあの時気付いていたという事なのだろうか?私が本質的に戦闘に向かないという事を。
「……それで、最後は?」
あまり聞きたくないがここまで来たなら最後まで聞いておきたかった。私はどんな事を言われても耐えられるように気を引き締めて待つ。
私の問いかけを聞いた店主はゆっくりと目を閉じて言う。
「お前さんは、武器を見ようとしてねぇ」
「武器を……見る?」
「向き合うの方が良いか、まぁどっちでもいい。お前さんは武器を軽んじている」
「そ、そんな事はない!」
私は声を荒げて店主の言葉を否定した。
武器を軽んじてなんかいない。私は直刀『黒狼刀』を軽んじる事なんて出来ない。
あれは言ってしまえばガリュオンそのもの。私が扱うには分不相応過ぎる強力な魔剣だ。それを軽んじれる訳がない。
しかし店主の言いたい事はそうではなかったらしい。
「いや、違わねぇ。もっとちゃんと言うならば、お前さんが持っているだろう直刀以外をお前さんは下に見ている。恐らく、今から買おうと思っている直刀はそれの練習用ってところだろう?」
「っ!?」
な、なんでこの人私が直刀を持っている事を!?
私が今後しようとしている事を寸分違わず言い当てられた事により私の表情は驚きにより強張ってしまった。
それを見た店主がやっぱりかと言わんばかりに溜め息を吐いた。
「図星か……まぁあれだけ正確にサイズ指定されれば分かっちまうさ。それに別に悪いとは思わねぇよ、愛刀ってのは大事なもんだ。しかしだな、それ以外を甘く見られるのを俺は好かねぇ。たかが砂漠の中の砂粒一つ程度かもしれねぇ。だけどそれ一つ一つには必ず作り手がいるんだ。皆魂込めて鉄を打ってんだ。それに上下なんて付けさせねぇし、そんな奴に俺は武器を売らねぇ」
私は何度自分を恥じれば気が済むのか。
店主の言葉はもっともである。
私は直刀『黒狼刀』だけを扱う事にばかり気が向いていて、他の武器など見向きもしていなかった。
ただの練習用、『黒狼刀』が使えるようになるまでの繋ぎ、そんな気持ちで買いに来てはいけなかった。それは鍛治師に対する侮辱である。
私は直刀を買う事を諦めようとした。
流石にこのままこの店にいられるほど私は精神的に強くない。
「失礼いたしました。今回の事はどうか忘れてください」
「……待ちな」
店主に謝罪を告げて店から出て行こうとした私の肩をカウンター越しに店主が掴んで止めた。
突然の事に驚いた私は振り向きざまに少々よろけてしまった。
店主が肩を掴んでくれていたお陰で転ぶ事はなかったが、店主の様子を伺うと少し申し訳なさそうにしていた。
「すまねぇな、だが一つ言っておきたくてな」
「なんでしょうか?」
「週末にもう一度来い」
「え?」
「お前さんの刀を用意しといてやる」
「……い、良いんですか?」
あまりの事に再び驚愕する私を見て店主は強面の顔を破顔する。
「今のお前さんなら、俺の武器をくれてやっても良い。もしさっき潔く帰らなきゃ絶対に売るつもりはなかったがな」
「で、ですが私は……」
確かに私は自分の行動を恥じてこの場を去ろうとした。
しかしそれだけであり私の中にはまだ『黒狼刀』以外の武器を軽んじている気持ちが少なからず存在している。
多少は考えを改めることが出来ていても現状は来店時とそこまで大差はないと思える。
そんな私に武器を打って良いものなのか、それが疑問であった。
しかし店主の考えはそうでないらしい。
「誰でも多少は優劣を付ける、それは当たり前のことだ。だが俺は端から他を見下し、愛用の武器が一番だと思っている奴が気に食わないだけだ。で、今のお前さんはどうだ?」
「……分かりません。ですが、見てから、使ってから判断すべきだと考えるようにしたいと今は思います」
「なら、十分だ」
店主は満足気に腕を組み、椅子の背もたれに身を預けた。
私は作ってくれるという事に喜んだが、一つ問題がある事に気付いた、金だ。
刀の相場が一切分からない私にとってそこが今一番重要であった。
あまりにも高ければまた借金が……いや、こ、これは必要経費だ。まだ焦るような状況じゃない。
「因みに一振りでいくらぐらいになりますか?」
店主にそう尋ねると組んでいた腕を解いて右手を顎に添えて考える。
少しすると計算が終わったようで手元にあった紙に何かをサラサラっと書き始め、その紙を私に渡してきた。
「おまけで銀貨100枚にしといてやる。あまりしないんだが分割で良い」
「うぐっ……」
手持ちの金じゃ全然足りない……というか直刀一振りでこんなにするもんなのか。
手渡された紙に視線を落とすとそこには請求書とあり、金額と返済期限が書かれていて五年間らしい。
キツイ……だが出来なくもないかもしれない。
私は店主に見えないように『封印魔法』を使い封じていた財布を取り出し、そこから銀貨を手当たり次第にカウンターの上に出した。
全部で銀貨50枚。アレイスに来る前に荒くれ者たちから奪った金の殆どである。
「頭金として銀貨50枚をお支払いしておきます。残りの50枚は五年間以内に必ずお返しします」
「……」
私の出した金額を見て店主は俯いて黙ってしまった。
それはそうだろう。金を持っていないと思っていた相手から全額の半分をいきなり出されたのだ。予想外過ぎて黙るしかないだろう。
私が少し得意気にしていると店主の体が小刻みに震えていた。
そしておもむろに頭を上げるといきなり笑い出す。
「はっはっはっ!こりゃ参った、適当に吹っかけてみたがまさか半分頭金として払われるたぁ思わなかったぜ!」
「……え?」
ま、まさか、私また騙された……?
急な店主の変化に戸惑いを隠せず私が動揺していると私の肩を叩きながら店主が言う。
「普通は出来た物を見てから払うもんだぜお前さんよ!俺が金持って逃げたらどうする!それに単なる刀一振りではこんなに高くねぇよ、銀貨10枚が妥当だろうさ!」
「んなっ!?」
「しかしこんなに気前良く払われちゃあこっちとしてもそれなりの仕事はさせてもらうぜ!金はこれだけで十分だ。後は週末を楽しみにしてな!」
「は、はぁ……よ、よろしくお願いします」
いろいろとあった私の武器購入であるが、こうしてよく分からない内に銀貨50枚相当の良い刀を作ってくれるとなり、この後暫くして私は鍛冶屋から立ち去った。




