第十七話 アリエル・ファウル
連休中に書き溜めるつもりがエンストのイベント武器製作に費やしてしまいました鈴兎です。
アクセスを見れば累計ユニークが2000を超えていて驚きです。
評価点も徐々にですが上がってきており嬉しい限りです。
今後ともご愛読よろしくお願いいたします。
「……緊張するな」
体を綺麗にした後、私はアレイスに来たもう一つの目的を遂行しようとしていた。
メリエルさんの娘、アリエルさんに会いに来たのだ。
道行く人に話を聞いて漸く住宅街である北区にあるアリエルさんの自宅に辿り着いたまでは良かったのだが、玄関の前で立ち往生していた。
口では初対面故に緊張しているだけと思われるだろうが、私はその事ではなくメリエルさんを死なせてしまった事への親族の怒りに晒されるかもしれないという事を恐れているのだ。
……いや、私は魔導人形として主人を守れなかった役立たず。罪を償えと言われるのならば甘んじて受ける!
「……すみません、アリエルさんはご在宅でしょうか?」
ドアをノックしてから中へと声をかける。
すると家の中から足音が聞こえ、しばらくしてからドアノブが動いてドアが開けられた。
「はい、どちら様で……え?」
「初めましてアリエル・ファウルさん。元メリエル・ファウルの魔導人形、ユーリです」
ドアの向こうから現れたのは初老のお婆さん。顔の作りがとてもメリエルさんに似ており、髪の色は白髪のように一瞬思えたが銀髪のようだ。こちらはとても私と似ている。
そして蒼い瞳はメリエルさんと私のものと同じ。
ここまで似ているのだ、この人がアリエルさんで間違いはない。
私の姿を見て戸惑っているアリエルさんに向かって丁寧にお辞儀をしながら自己紹介を済ませた。
頭を上げてアリエルさんの様子を伺うとその瞳には涙が溢れているのが見えた。
何故?と思いながらどうしていいか分からずにその場で棒立ちするしかなかった私にアリエルさんが抱きついて来た。
「本当に、ユリエルそっくりなんだね……」
「アリエルさん……」
考えれば当たり前のことか。20年も前に幼くして亡くした娘の姿と瓜二つの魔導人形が目の前にいきなり現れれば驚き、そして懐かしさのあまり涙を流すのは。
私とアリエルさんはしばらくの間抱き締め合い、初対面でありながら再会に近いものを済ました。
アリエルさんにとって私はユリエルで、私にとってはアリエルさんはメリエルさんとして、互いに故人を思い出しながら。
その後は家の中へ促されてリビングにて椅子に座り、お茶を楽しみながらお互いに話し合う。
「本当に申し訳ありませんでした。この事は私の魔導人形の生涯にて最大の失態です」
「そんなに謝らないで。母さんからの遺書が届いた時は何かの間違いかと思いましたが、エリム村の村長さんやセフィーナ様から正式に亡くなった事を知らされてからしばらく考えて既に答えは出ているの」
「答え……ですか?」
「そう、答え。私がもし貴方に会った時どうするかの答え」
そう言われて私は体が固まってしまった。
最初に玄関先で会った時には全く感じなかった気配、それは良く知っているメリエルさんの気迫に近いものを感じる程に強いもので、私を硬直させるには十分過ぎるものだった。
それを感じて私はこれから起こり得る事全てを受け入れる覚悟を決め、真っ直ぐアリエルさんを見詰めた。
そしてアリエルさんの口から言葉が紡がれる。
「私の魔導人形になるつもりはないかしら?」
瞬間、時が止まったかのように私は何を言われたのか理解できず思考も全て止まってしまった。
……え、今何て……?
突然の事に事態を飲み込めず困惑する私に対してアリエルさんは更に言う。
「なんで母さんが、どうして母さんが、そんな風にも少しは思ったわ。でもね、母さんは死を納得していたの。最期にとても強い魔獣と戦ったのでしょう?そしてコテンパンにやられたとか。母さんは遺書にこう書いていたわ、『今世では足りず。来世にて精進す』と。可笑しいわよね、別れの定型文を書いた後にこれを書いていたのよ?あの人、私が死ぬ前に来世を謳歌する気満々なのよ」
「……」
クスクスと笑いながらそう話すアリエルさんを見て私も少しおかしくなる。
とてもあの人が言いそうな事だ。
そしてあの人ならば来世ではきっともっと凄い人物として名を残すのだろう。
会えるといいな、天上ではなく、現世で。もう一度あの人と。
「それでね、どうかしら?母さんの忘れ形見である貴方を私は正式に迎え入れたいのだけど」
私は少し考えたが、答えは既に決まっている事だった。それは肉親であるアリエルさんに対しても変わらない。
私が決めた、私の我が儘。
私が私でいられるために必要な事。
「お断りします」
「そう、主人がいればその右腕なんて必要ないと思ったんだけど、仕方ないわね」
私の答えが前もって分かっていたかのようにあまり残念そうでないアリエルさんだが、何故右腕の事を知っているのだろうか?
可能性としてはセフィーナさん辺りなのだが流石にこの技術はまだ人に話すにしては無警戒過ぎないか?というよりそれを着けている私の身にもなってくれ、狙われたらどうする!
……まぁ時既に遅しなんだが。
「何でって顔をしているわね。想像は付いているだろうけどセフィーナ様から聞いたのよ。あの方はここ数ヶ月本当にお忙しくしていらっしゃるわ」
「忙しく?意外に暇そうな方な気がしていたのですが……」
アリエルさんの言葉に疑問を持つ。
私の知るセフィーナさん何て長生きし過ぎて頭のネジがぶっ飛んでそうな技術屋という認識だ。
とても気分屋な気質を持ち奔放としている姿しか思い浮かばず、忙しそうにしている姿など想像出来なかった。
そんな私の訝しげな表情を見てアリエルさんが溜め息混じりに説明をしてくれる。
「貴方は本当に、孫娘として母さんに育てられたのね」
「どういうことですか?」
「貴方はメリエル・ファウルという人物を何も知らないということよ。精々知っていて元宮廷魔導師で凄腕の魔導師ってところかしら?」
「……はい」
メリエルさんは特にそれ以上の説明は私にはしなかった。
私自身あまり詮索しなかったというのもあるのだが、自身で感じたメリエルさんの実力から相当な魔導師だという事が分かっているだけで良いと考えていたのだ。
しかし、あの人は私の考えていた以上に飛び抜けた人だったのか?
「メリエル・ファウル、王国の歴代最強の宮廷魔導師、『魔王』の称号を授かった魔導を極めし人物。過去にはS級指定魔獣を単独で討伐した記録もあり、その魔導の知識を欲する者は後を絶たなかった。生涯にて弟子は誰一人として取らず、死後の遺産は彼女の所有していた魔導人形に譲渡する事が王国宛てに届いた直筆の遺書に書かれていた」
「……は、え……はぁっ!?」
明かされる知らなかったメリエルさんの経歴を聞いて私は驚愕するしかなかった。
いや、凄い凄いとは思っていたけど……何だよ『魔王』って。人類最大の敵じゃないのかよその称号。
しかしそんな人の遺産が私の物って事で公表されちゃってるわけ?それって超ヤバくない?
「母さんの死後、セフィーナ様は『転移魔法』で世界中を周り事後処理を必死に行っていたのよ。貴方が必要以上に狙われないように。そして姿に関しても様々な嘘の情報を混じえて流しているからそう簡単には特定されないでしょう」
「そ、そんな事が……」
「でも、それにしては今日までいろいろ起こらなかった?道中襲われたり、暴走させられたり、所持品を奪われたり」
「ま、まさか……あれも全部セフィーナさんの……」
「正解」
「……」
もう何も言えなかった。自分の現状が全てセフィーナさんの掌の上で動いていただなんて想像も付かなかった。
いや、思い返せばいろいろと思い当たる部分はあった。まず最初の襲撃、あいつらは雇い主について何と言っていた?名の知れた商人だ。しかしそれにしてはその後何も無さすぎる。一応あの御者に忠告はしたが何かしら私に接触してきてもおかしくはないだろうに。
そしてその商人と言うのをセフィーナさんで置き換えたらどうだろうか。あの後何もしてこない事に辻褄が合う。それはそうだろう、そうなる事が前提で奴らは襲ってきたのだから。
後の二つ何てもっと簡単だ。両方にオルトが関わっている。オルトがセフィーナさんから事前に何かを聞かされていたのなら何の不思議もない。
しかし何故そんなことをセフィーナさんはしたのか、これについては予想でしかないが恐らく的を射ているだろう。
全ては私に経験を積ませるため。
今後いくらセフィーナさんが事後処理をしてくれたと言っても良からぬことを考える者は現れる。そういう者と出くわせた時にどう対処すればいいのか。これまでの事はそのチュートリアルと思えばいいのだろう。
あの時のようには簡単に行かないだろうが、こういうことをしてくる奴がいるぞと教えてもらい、それに対しての警戒心を持つことが大事なのだと私は思う。
それにしてもなんてこった、私はセフィーナさんにいろいろと心配をかけているのにも関わらずこんなにのほほんとしていたなんて……自分が恥ずかしくなる。
そう考えると追加で増えた借金何て安い物なのかもしれない。というより迷惑料と授業料として自分から率先して背負いたくなるくらいだ。
……絶対に返そう。この生涯は借金という名の大恩を返す為にある。
考えがまとまると私はいてもたってもいられなくなってきた。
こうしている内にも時間は過ぎていく。少しでも早く返せるように行動しないと。
「ふふ、焦っても何も良い事はありませんよ?」
「うっ……」
見た目に急いた心が現れていたのかアリエルさんに注意を受けてしまった。
アリエルさんは微笑みながら続けてこう言った。
「焦る必要はありません。ゆっくりで良いんです。それが母さんとセフィーナ様の望みでしょう」
「……はい」
そうだ、セフィーナさんは私が自由に生きて行けるような環境を整えようとしてくれた。ならばそれには甘えるべきだ。自分でも言っていたではないか、折角の異世界、楽しまなければ損というものだ。
今度はしっかりと落ち着いてゆっくりアリエルさんの言葉に頷き、私は笑顔を作る。
「元メリエル・ファウルの魔導人形、ユーリ。冒険者マコとしてこれから頑張ります!」
私の宣言を聞くとアリエルさんは両手を胸元で組み、目を閉じて軽く頭を下げて俯いた。
するとアリエルさんの全身が淡く光り始め、言葉を紡ぐ。
「汝の生に神の祝福があらん事を」
「……これは?」
まるで教会の修道者のような言葉を述べた後、アリエルさんの放っていた光が私の方へと移り体内へと吸収されていった。
「『神聖魔法』の『祝福の祈り』と呼ばれるものです。あの人の娘でありながら治癒やこういった非戦闘向きの魔法ばかりが得意でお恥ずかしいですが、多少は貴方の役に立つでしょう」
「いえいえ、そんな事は……ちなみに熟練度は?」
「これもお恥ずかしく、『神聖魔法』はあまり得意ではなくⅧで止まってしまっていて……」
「は、はぁ……」
とても申し訳なく仰っているが、その意識は絶対に間違っていると思うのは私だけなのだろうか?いや、そんな訳はない。
この人は幼少からメリエルさんという規格外の人に育てられたせいでそんな風に思っているだけだ!
でないと技能の中で最高の熟練度がⅥの私が惨めじゃないかっ!
その才能に嫉妬さえ覚えることが出来ず、呆れた感情しか出てこない私にアリエルさんは首を傾げていた。
「祝福と言ってもあまり過信しないでください。これは本当にただの祈り、神の気持ち次第で祝福が受けられるかが決まります。上手く行けば九死に一生を得る事が出来ますが、下手をすれば何事もなく死するでしょう」
「分かりました。ありがとうございます」
九死に一生を得る事が出来るだけでも十分だと思うのだが、ここは突っ込むべきではないだろう。
何よりそんな状況にならないのが大切だ。
新たな教訓を胸に、しばしの談笑の後私は宿へと帰ることにした。




