第二話 村での仕事
秋華賞でクイーンクイーンフィニッシュにテンションが上がり勢いに任せて本日3話目の投稿です。
「おはようございます」
「おうユーリちゃん。おはよう」
「今日も元気で可愛いねぇ」
この一ヶ月で俺が取得した技能に何故『農業Ⅲ』などというものがあるのか。それは俺のこの村での仕事に関係している。
まぁ技能で察せるとは思うが、俺はこの一ヶ月で村の人々と交流を深め、様々な家のお手伝いのようなものをしている。
その多くが年老いて畑仕事や酪農での動物の世話が大変になってきた人たちのお手伝いだ。後は本当にちょっとしたお手伝いが多く、『裁縫Ⅱ』も仕事の時に取得した技能だ。
そんな仕事であるが報酬は良く、基本的には手伝った所の商品を少し分けてもらえるというので、家はマスターしか食事を必要としないためそれだけで十分やっていける程である。
因みに今日お世話になる方はこのエリム村の村長さんの家だ。
村長夫妻は高齢で、子供や孫といった人たちは村から出て独り立ちしているため最近は本当につらいとのこと。
「それにしてもユーリちゃんは働きもんだなぁ」
「そうねぇ、家にもこんな娘が欲しかったわぁ」
「あはは、ありがとうございます」
今の季節は収穫前の大事な時期、夏野菜がちゃんと実る様に害虫などに気を付けねばならない。
老眼で目が見えにくい二人の代わりに俺がしっかりと確認作業をしなければ。
――――
「今日も助かったよユーリちゃん、またよろしく」
「はい、またお手伝いさせていただきます」
「ありがとねぇ」
昼前、二人の手伝いを終えて俺は帰宅する。
帰宅後はマスターの昼食を作り、しばらくゆっくりした後にマスターとの鍛錬の時間だ。
何故鍛錬をする必要があるのかと疑問に思うかもしれないが、それはマスターが楽したいからなんだろうねきっと。
マスターはこの村において特にこれといった仕事をしていない。まぁ年齢を考えれば働いていなくとも不思議ではないのだが、そんなマスターでもたまに村のためになることをする。それは魔獣退治だ。
このエリム村はアルフェリナ王国の南東、森林や山岳の多い田舎だ。そしてそんなに自然豊かだとどうしても付いてくる問題が害獣、この世界では魔獣と呼ばれる存在だ。
魔獣と異なる魔物なる存在もいるらしいがその辺りは良く知らない。
魔獣とは野生動物が魔力を吸収し過ぎ、突然変異を起こしたものが始まりだと言われている。その種類は様々であり、エリム村近郊に現れるものであればローウルフ、ハイウルフ、ビッグベアといった個体がいる。
ローウルフは群れで生息しており、その中には必ず1体のハイウルフが統率を取っており、ビッグベアは単体で行動するが瀕死状態からの固有技能『狂乱』が発動するととても厄介な相手となる。
そんな奴らが定期的に食糧を求めて村を襲ってくるので、村人では絶対に敵わない相手であることからマスターは気が向いた時に森へと赴き魔獣の間引きをしているのだが、村はマスターの魔法で結界が張られているため基本的には村を直接襲うような魔獣はいない。
そしてそれが俺の鍛錬の理由にどう繋がるかと言えば、マスターは俺を鍛えて魔獣の間引きを丸投げするつもりなのだ。
そのための鍛練であり、『魔導師』の技能だ。
「ただいま」
「おや、おかえり」
「昼食はどうしますか?」
「作っておくれ」
「分かりました」
昼食はどうしようか。確か肉が結構な量残ってたと思うし野菜と一緒に炒め物にでもしようかな。
俺はキッチンについて手早く用意をする。
さて、ここで朝食の時は言っていなかったことを話しておこう。
俺が今いるのは地球ではなく、科学技術の発展していなさそうな異世界の田舎村である。そんな状況でどういった調理器具があるのか疑問を持つ人もいるだろうが心配なさるな。
なんとこの世界、魔導人形なんてものが作れる程の技術があることからも察せられると思うが、科学の代わりに魔法が発展しているため、純度の低い魔鉱石から作り出されたり、魔物や魔獣の体内で自然生成されたりする、俺の持っている魔核の下位版とでも言える魔石という物を動力として使った魔導器具が存在する。
この魔導器具であるがとても便利で、魔力を補充すれば半永久的に使えるので動力に関しては電気より優れているかもしれない。種類も様々あり、いろんな道具が世界中で使われているそうだが、その多くを占めているのはやはり調理用魔導器具ではないだろうか。そしてその中でも特に魔導コンロは一家に一台は必ず欲しい一品であろう。
形も元の地球のとそんなに変わらず、材質は恐らく耐熱性に優れた鉱石などで作られており、魔導器具の魔力量を抑えることで火力の調整も出来る優れもの。
こういう物を見ていると何だか俺以外にもこの世界に転生してきた人とかが昔いたのかもしれないなと思っていたりする。
まぁ俺にとってはそんなことはどうでもいいので今は調理だ。
魔導コンロの火をつけて野菜と肉を塩胡椒の簡単な味付けで炒める。
おかずはこれで良いけど主食となるパンってまだあったっけ?
ふとした疑問に不安感が込み上げてきて棚の中を確認してみたが無かった。パン屑の一欠けらも残っていない。
ミスったな、朝食の時にちゃんと確認しておけばこんなことには……。
「マスター、パンが無いのでおかずだけで――」
「――買ってきな」
「はい」
お伺いを立てようとして見たが俺の言葉に被せて返答しやがった。おまけにそれと同時にパン2個分の代金として大銅貨を1枚指で弾いてこちらに放ってきた。
俺はそれを受け取り、魔導コンロの火を消してから家を出た。
――――
「こんにちは」
「おや、ユーリちゃんじゃないか、いらっしゃい」
「ユーリお姉ちゃんいらっしゃーい」
「リナちゃんもこんにちは」
さて、やってきたのはこの村でパン屋をやっているキリアナちゃんの家。因みにリナちゃんは俺の暇な時によく遊んでいるこの村の子供たちの一人だ。
ここの店を経営しているのはリナちゃんのお父さんであるディーンさんだ。お母さんはリナちゃんの話によると小さい頃に死んでしまったのだとか。
ディーンさんは元々狩りの得意な人であったらしく、以前は村の青年たちと共に狩りに出ていたそうなのだが、最愛の妻を亡くしてからは下手をすれば死んでしまうという危険な狩りの仕事ではなく、趣味として作っていたパンを売り始めたのだそうだ。
ディーンさんの作るパンはとても柔らかくてふんわりしている。そして小麦の味がしっかりと感じられて美味しい。最近ではその美味しさから各家庭の食卓に並ぶパンは全てこの店のパンだと言っても過言ではないだろう。
あのマスターでさえこの店のパンは文句を言わないのだ。俺の料理には毎回のようにケチをつけるくせに。
「いつも通りでお願いしますね」
「はいよ」
この店に買いに来るのももう何度目になるのか。しかもマスターはいつも買うパンが決まっているのでディーンさんにもすっかり覚えられてしまった。
そんな風に思っているとリナちゃんが俺の目の前までパンの入った袋を持ってきてくれた。
「はい、どーぞ!」
「ありがとう。これ代金です」
「ありがとうございました!」
「……そうだユーリちゃん、これメリエルさんに渡しといてくれないか?」
「これは……まさか!?」
「そのまさか、でない事を祈ってる」
「……承知しました」
俺は店から出ると足早に自宅へと帰っていく。
ディーンさんから手渡された物、それはとても大きな牙のような形をしたものだった。




