第十三話 魔女
短いので前話と繋げて投稿すればよかったと後悔。
「で、どうよ?俺は根っからの魔導師でも魔導技師でもねぇからな。あいつの実力をしっかりと捉えきれねぇ」
ユーリが去った後、魔導具店のカウンターの奥にある扉から一人の男が現れる。オルトだ。
「それは誰に聞いているのかしらー?交易都市アレイスにある単なる魔導具店の店員さんに聞いているのー?それとも――」
オルトの質問を受けて魔導具店の店員は邪魔臭そうに深く被っていた帽子とローブを脱ぎ捨てながら応える。
帽子によって隠されていた顔はまるで作られたかのように均等に整った顔立ちで、その双眸は禍々しくも艶やかな雰囲気を持つ紫をしており、ウェーブのかかった長髪は黒く、所々に金色の房が見え隠れしている。
そしてその額には瞳と同色、もしくはそれよりも淀んでいる紫をした魔核が埋め込まれていた。
女性的な体を持つその店員は椅子から立ち上がりオルトと真っ直ぐに向かい合う。
「――『十二柱』が一人、『魔女』エルノアに聞いているのかしらー?」
エルノアの視線を受けてオルトはほんの少しだけ後退る。
オルト程の実力者であっても視線を受けただけで警戒心を引き上げられる。
その事からエルノア及び『十二柱』と呼ばれる魔導人形の実力は計り知れないと言える。
それに含まれているユーリという野良の魔導人形。いくらセフィーナが手掛けたと言えそんな人形は他にもいくらでもいる。故にオルトは気になったのであった。
ユーリとは一体何者なのか。
先の試験でその実力の片鱗を垣間見たオルトであるがあれは単なる暴走である。
ユーリという魔導人形に内在されている本当の実力というものは分からなかったのだ。
よって意見を聞くことにしたのだ。同じ存在に。
「どっちでも良いさ、より正確に判断できる方に頼む」
「あらあらおバカさん、どちらも私なのだから答えは一緒に決まってますわー」
「……あぁそうですかい」
クスクスと笑うエルノアに呆れを感じつつ溜め息を吐くオルトは今一度問う。
「で、どうなんだ?」
「んー……期待外れ」
「そうなのか?」
答えを聞いたオルトは意外だと驚くことしか出来なかった。
何故ならあの暴走だけであっても都市を脅かすほどの脅威になりえる。そんな実力を持つユーリが期待外れなどとどうして考えられるだろう。
オルトの反応を見てエルノアは理由を話す。
「今まで埋まる事のなかった『十二柱』の最後の一席である『英雄』、それがあんな子だなんてセフィーナ様もそろそろ御年なのかしらー?」
「俺にしてみれば十分過ぎる実力だとは思うんだが?」
「分かってないわねーあんなへっぽこな『英雄』、今までの試作品の中にも大勢いたわー。それこそ私たちより純粋な戦闘力で言えば高い子もねー」
「『英雄』としては実力不足だと……」
『十二柱』にはそれぞれに称号が与えられている。
その内訳は世間には殆ど知られていないが王都にある王宮を守り続けている『騎士』、そしてセフィーナの傍に付き添っている『執事』などは有名であるが、それ以外はエルノアのような『魔女』の様にあまり明るみに出てくる者は少なく分かっていない。
しかし『英雄』と言う称号がある事は噂レベルで世間でも知れ渡っている。
『十二柱』の中で最強、世界の危機を救う存在、そんな風に言われている。
オルトはその事を思い出しながらあのユーリという魔導人形を思い返してみると確かにそこまでの実力は持ち合わせていない様に思えて素直に頷いた。
「あれじゃホントに『孫むす……いえ、もしかするとセフィーナ様は……」
「ん?どうかしたか?」
いきなり何かに気付いたのかエルノアは一人で考え込む。
その様子をオルトがじっと見つめていると一人で納得がいったのかエルノアはスッキリした表情で語る。
「これはセフィーナ様と『十二柱』が知っていれば良い事よー。あまり考えない方が良いわー」
「……そうか」
エルノアの言葉が気になりつつもこういった訳あり事には首を突っ込みたくないオルトは軽く流した。
そして店の出口の方を見つめながら呟く。
「しかし、マコはこれから一体どうなる事やら」
「B級魔獣くらいなら単独で狩れる人材が明日から最下級冒険者、しかも溝浚いだなんてかわいそー」
「言ってやるな、これも規則だ」
「溝浚いって報酬はおいくらほどー?」
「一日大銅貨1枚ってところだ」
「それの一割って銅貨5枚?あの子大丈夫ー?」
「借金増やさせておいてそれを言うかね?」
「これも勉強よー。私だって命令でなければあんなに惨い事……しくしく」
わざとらしくウソ泣きをするエルノアに冷たい視線を送りながらオルトは少し前の出来事を思い出していた。
ユーリの直刀を奪ったのはオルトであり、そしてあのような存在であるユーリにいろいろと身内で揉んでやるためとセフィーナから頼まれ、指示通りこのエルノアの店に持って行った。
しかしこのエルノアは命令と知りながらも本気で直刀『黒狼刀』を欲しがったのだ。
オルトに向かって「全財産渡すからセフィーナ様には黙っておいて」などと口走り始めた時はどうしたものかとオルトは頭を抱えていた。
そんなことがありオルトは今目の前でウソ泣きしているエルノアに対し真顔で対応するしかなかった。
「そうですか、それはそれは、ははは」
「何か言いたそうね?」
「いえ、別に?」
「まぁ、あの子には一応期待しておきましょう。あの借金でどう生きて行くのかは知らないけどー」
「死にはしないんじゃないか……な?はははっ」
「ふふふっ」
夜の魔導具店には渇いた笑い声と、人を小馬鹿にするような笑い声の二つが響き渡った。




