第十二話 減らず、増える
エンストにハマり過ぎてちょっと書くペースが落ち気味です、すみません。
それもこれもエルミーユが可愛すぎるのがいけない。
獣耳は卑怯、ハッキリ分かりますね。
タイトルに「第」が抜けていたため編集しました。
「え、泊まれない?」
休憩室から出ると先程の受付嬢さんがカウンターにいたので丁度良いと思いカウンターにて宿泊の手配をしてもらおうとしたら拒否された。
「はい、確かにここより上の階は宿泊用の部屋が整っていますがそれはあくまでも客人用であり、一介の組合員では宿泊することが出来ません。ですので基本的に組合員の方々は外部の宿に泊まってもらっています」
「そ、そうですか……因みにここら辺で一番安い宿ってどこですか?」
「ここからですと南門近くにある『大熊亭』ですかね。確か一泊朝夜の食事付きで大銅貨1枚だったかと思います」
ふむ……中々に安い。確かあいつらからかっぱらった金があるからしばらくは何も気にする必要なく過ごせるだろう。
私は受付嬢さんにお礼を言ってから組合所を出た。
何やら忘れている気がするのだが……まぁ大事な事ならその内思い出すだろう。
厩舎から例の馬車を出して来て、宿に行く前に手早く荷台に乗っている物を売り飛ばそうと店を探し始める。
慣れない場所故に迷うかとも思ったのだが、やはり必要とする者の近くに必要な店が集まるのか冒険者組合所の近くに目的としていた鍛冶屋と魔導具店が存在していた。
適当な場所に馬車を止めてまずは鍛冶屋の方へと剣を売りに行く。
「らっしゃい。そろそろ店仕舞いの時間だから手短に頼むぞ?」
「あ、はい。こちらの剣を買い取っていただきたく思いまして、査定を頼みたかったんです」
「ほう、見せてみな」
私は荒くれ者の剣四本を鍛冶屋の親父に手渡した。
すると親父はその剣の内一本をじっと見つめた後、他の三本はそれ程しっかり見ることなく手元の机の上に置いた。
しばらく考え込むような素振りをしてから親父は口を開く。
「全部で銀貨1枚ってとこだな」
「はぁ……」
正直な所相場が一切分からないため良いのか悪いのかが全く分からない。しかし店に飾っている一般的な片手剣の値段が銀貨数枚といった所なので、中々高めに買い取ってもらえたのではないだろうかと私は適当にあたりを付けた。
親父は懐から銀貨を1枚取り出してこちらに渡してくる。
「状態が良い。打ち直す必要も無くこのまま商品として使えるぐらいだからな」
「ありがとうございました」
「また来るといい」
銀貨を受け取り親父に礼を言ってから私は店から出て、次は魔導具店の方へとあの魔導師の装備を売りに行く。
魔導師の装備で目ぼしい物は杖とローブだろう。パッと見だが中々良いもののような気がする。これは剣より期待出来そうだ。
魔導具店の中には様々な魔導具が置いてあり、そのどれにも私は目移りしてしまいそうになるがメリエルさんの魔導具を見慣れている私にとっては興味が失せていくのはとても早かった。
「いらっしゃーい」
「魔導具を買い取ってもらいに来ました」
「どれー?」
「この杖とローブです」
「ふむー」
何だか気の抜ける様な声を放ちながら対応して来た声からして女性の店員、全身を覆うようにローブに身を包み、目元を隠す程にトンガリ帽子を深く被るその店員さんに杖とローブを渡すと店員さんはそれらをじっと見つめたまま動かなくなる。
そしてその後大きく息を吐いたと思うと今までののほほんとした雰囲気はどこへやらという程に凛々しい顔付きとなって私の目を直視してきた。
「『私の質問に正直に答えよ』」
「っ!?」
『契約魔法』!?いや、これはもっと別の……そうだ『隷属魔法』かっ!?
発動までの魔力の流れを一切感じることが出来なかった。この人、相当出来る……。
抵抗しようにも魔力が足りない……ここは素直に従うしかないか。
『隷属魔法』と言ってもこの手の言葉のみでの命令には時間制限がある。いざとなれば時間切れを見計らって逃げるなりするのが良いだろう。
「この杖とローブ、どうしたの?」
「街道で襲われた時に襲撃者の中にいた魔導師から奪ったものです」
「魔導師の名前は?」
「知りません」
「ふぅ……んじゃいっか。二つで銀貨2枚でどう?」
「はい、ありがとうございます」
店員さんから言い渡された買取価格をそのまま了承すると、店員さんは何やら呆気に取られたような表情となり首を傾げながらこちらを見る。
「……いいの?」
「え?」
「もう少し交渉とか、しないの?」
「あぁ……私にはよく分からないのであなたに任せます」
変に気取る必要はない。素人は素人らしく最初は勉強させて貰ったと思えばいい。
どうせ道すがら拾った物だ。多少の金になるならそれで今は良い。
そんな風に思いながら私が店員さんから代金を受け取ると、店員さんは何が面白いのか微笑しつつ言う。
「ふーん……まぁあなたがそれでいいならいいわ。マコちゃん」
「……え?」
な、なんで私の名前を……しかも先程登録してきたばかりの名前を……?
「ふふ、これなーんだ?」
「そ、それはっ!?な、なんで!?」
疑問の絶えない頭の中で私は自身の最も大切な物が店員さんの手の中にあることに驚愕する。
店員さんの手に持つものは一振りの刀。漆黒の刀身に反りは無く、真っ直ぐな直刀。
見間違うことなどない。何処からどう見ても直刀『黒狼刀』であった。
私は何が起こっているのか理解出来ず、封印している物に意識を向けて中身を確認する。
するとどういう事か、直刀だけは見当たらなかったのだ。
もしかしてあの試験の後オルトが!?
私は一つの解に辿り着き、少しだけ落ち着いてから店員さんを睨み付ける。
「……返してください。それは私の刀だ」
「だーめ、これは私がオルトから買ったのー」
「そんな事が通るものか!他人の所持品を奪うなん……っち!」
「あら、気付いたのかしら?案外頭の回りが早いわー。そう、さっきあなたがした事と一緒の事をしたまで。あなたに私をとやかく言う資格は無いのよー」
「ですが、私の場合は襲われて!」
「通らない、そんな理屈は通らないわー。経緯がどうあれ奪った事には変わりない。お分かりかしらーお嬢さん?」
「……」
何も言い返せない。奪うという行為に正当性などある訳がなく、それは等しく他人の財産を横取りする行為。これはどうあっても罪であり、きっと私への罰なのだろう。
しかし手放す訳にはいかない。あの刀は大切な物。ガリュオンの形見の様な品。いつかはクリュアに返すべき物だ。
そんな物を他人の所有物にしていいわけがない。
私は考える。刀を取り返す方法を。
この場で強引に取り戻すなんて愚策、相手の力量が分からない上に先程の『隷属魔法』一つ取っても魔力の操作が洗練されている事が分かり、私程度では勝ち目がないだろう。
ならば後で盗むか?いや、私は気配を殺すのが下手だ。そんな事をすればこの店員さんならばすぐに気付かれるだろう。
となると一番現実的なのは……金か。
あまり考えたくない策だが、背に腹は変えられん。借金が増える事を覚悟で行くしかないだろう。
「その直刀、いくらですか?」
「あらー買い取るって言うのー?そんな事して大丈夫ー?セフィーナ様から相当な額借金してるんでしょう?」
「それも知ってるんですね」
一体この人は何なんだと思いつつ、店員さんが口を開くのを待った。
ほんの少しの溜めを作ってから店員さんは告げた。
「大金貨5枚。これ以上は負けられないわ」
「ふぐっ!?」
くっそ、足元見やがってこのクソアマァ!!!
今私がセフィーナさんにしている借金が大金貨10枚、それの半分の額が上乗せされるってもうこれ私ホントに返し切れるのか!?
そんな事は重々承知なのだろう店員さんはクスクスと笑いながらこちらの様子を伺う。
「ほらーどうするのー?こんなに良い魔剣、買い手ならいくらでもいるのよー?」
「ぐぬぬっ……」
「借金しちゃう?やっちゃうの?」
心底面白そうな表情を口元で表す店員さんを見て私は吹っ切れた。
どうせ返せるかどうかも分からない借金の上にはした金が上乗せされた程度で何が変わると言うんだ!
……いや、決してはした金ではないんだけど。
今の私にはもうそんなことはどうでもよかった。これ以上他人の手元に直刀があるという事実が私には耐えきれなかったのだ。
私は店員さんが頬杖をついているカウンターに両手を叩き付けて宣言する。
「あーもう!分かりましたよ!やればいいんでしょうやれば!背負ってやろうじゃないですか、大金貨5枚の借金!」
「ふふふ、よく言ったわー。じゃあお金はセフィーナ様で付けておくからちゃーんとセフィーナ様に大金貨15枚返すのよー」
「くぅ……!」
悔しく思いながらも私は店員さんから直刀を受け取り、その場で封印をして誰の手にも届かない場所へと送る。
それを見た店員さんが不思議そうに帽子を少し持ち上げてこちらを見つめていた。
「『封印庫』……一応はメリエルの魔導人形ってとこね」
「え?」
「何でもないわーこっちの話」
一瞬メリエルさんの名前が店員さんの口から聞こえた気がしたのだが、この人もメリエルさんの関係者なのだろうか。いや、単純に魔導師としてのメリエルさんを知っているだけの人かもしれないし、あまり深く考える必要はないだろう。
それにしても明日になったらオルトをもう一度ぶん殴る。
他人の持ち物を勝手に売り捌くとかそれでも支部長かあいつはぁ!!!
怒りを心の内に秘めながらその後は何事もなく店を出た私は貸し馬車屋へと赴き馬車を買い取ってもらい、組合の受付嬢さんに教えられた『大熊亭』へと向かった。




