第十一話 十級
カット!(戦闘シーンを)
「……私は――くっ!?」
目を覚ました私はどこかの部屋のソファーに横になっていた。
起き上がろうとして体に力を込めてみるが上手くいかず、再びソファーに背中を預けることになる。
周囲を見渡すとそこは長机が一つに、私の寝ているソファーと対面にもう一つのソファーがあり、壁際には書類の入った棚がいくつも存在した。
さながら事務所とでも言うべきそこに見覚えのある顔が一つあった。
私の頭上にあたるソファーの縁に腰かけてこちらを覗き込んでくる男、オルトであった。
「マコ、いやユーリと言った方が良いのか?体は大丈夫かよ?」
「貴様……何故私の名前を……」
「知ってるさ。セフィーナ様直々に書かれた紹介状にキッチリ書かれていたからな。お前はユーリ、数少ないセフィーナ様がお作りになった魔導人形の中でも最高傑作とされる『十二柱』の最後の一体。元の主人は史上最も多くの魔法系技能を極めた天才魔導師、メリエル・ファウル。とんだ稀少中の稀少、値段を付けるとしたら国が滅ぶほどの価格が付くだろうさ」
「『十二柱』……?」
オルトの言葉の中に聞きなれない言葉が混ざっていた。
『十二柱』とは一体何だ?私は単にセフィーナさんに作られただけの一介の魔導人形では?
「なんだ、知らされてねぇのか。なら知らせたのはまずかったか……まぁいい。それで?体は大丈夫そうかい?」
「……」
この男はあの時既に知っていたのか、私が何者かを。
ならばあれはこいつの作戦……私はまんまと挑発に乗って暴走したわけか。
しかしあの時の記憶が全くと言っていいほどない。あの後私は一体どうなったというのか……。
自分の体をしっかりと確認してみると魔力は最低限回復しているようだ。魔力の循環も大した問題はない。体の部位もどうやら無理な挙動に対応しきれずにズレが生じているだけなようで勝手に自己修復機能が効いて元に戻るだろう。
「問題なさそう」
「そうかい。ここは組合所の奥にある休憩室みたいなとこだ。動けるようになったら勝手に出て行ってもらって構わねぇ……つつっ」
オルトが部屋から立ち去ろうとした時、不意に胴を手で押さえながら小さく呻いた。
よく見るとオルトの表情は苦痛に少し歪んでおり、脂汗のようなものも顔から流していた。
「どうかした?」
「へへっ、どっかの誰かさんが盛大に切ってくれたんで傷が痛むのさ」
「っ……それは、すみませんでした」
「謝る必要はねぇ。男に二言ははい。俺がお前の主人を汚した事実は例え嘘であろうとも消えはしねぇ。俺はその罪を甘んじて受けた、それだけさ」
罪を甘んじて受けた?それって一体……っ!この男、もしかして!?
私はオルトの言葉に隠された意味を恐らく正確に読み取った。それが正解であればこの男は何故この場に平然と立っているのだという驚きを隠せない。
何故ならそれは――
「まさか……私の一撃を無防備で受けたっていうんですか!?あの言葉通りに!?私の全力、しかも魔剣まで使った正真正銘今出来る最大の攻撃を!?」
「ちーっと、生死を彷徨った程度さ。問題ねぇ」
――『なら俺は何もしねぇ。てめぇの全力で来やがれ』というこの言葉を本当に守ったという事なのだから。
攻撃を加えた時の事は覚えていない。だが私はあの時確かに魂を代償にして魔力を無理やり生成し、直刀『黒狼刀』まで取り出して全力の攻撃態勢を取っていた。
そこから繰り出される私の全身全霊の一撃、それを生身で食らうなど常人では即死が当たり前、もしかすればカースボアでさえもその一撃の前には即死させることが出来るだろうものを受けて生きている。
その事を思うとこの私と今会話しているオルトという人物は一体何者だというのか。
私はオルトの異常性を実際に感じ取り、恐怖を通り越していっそ清々しい気分へと戻った。
「はぁ……自信を無くす」
「自信は持っていいと思うぜ!俺くらいの人物じゃねぇとあの一撃は耐えられねぇ!しかしその後は流石に受ける義理もねぇからお前を組み伏せたがな!はっは――うぐっ……」
笑うと傷が痛むらしく再び呻き声を上げる。恐らく治療はしているのだろうがあの一撃、直刀『黒狼刀』の魔力を帯びた一撃による傷だ。いくらこの世界の治癒魔法、魔法薬が優れていたとしても完治には時間がかかるはずである。
もしかすると今こうして話していることもこの男故に出来る事なのかもしれない。
しかしオルト程の人物にしか耐えられないとはよく言ってくれるものだ。
こいつ程の人物がどれくらいいるのかは知らないが、この言いようだとそれは無防備でと言う話のように思える。こんな所で支部長なんてやっている人物がこれほどならば、上にはもっと凄い奴がいるのだろう。それに下といっても防御の体勢を整えればまだまだ私の一撃を止められる奴は多くいると考えるのが妥当。
呆れてものも言えない。あの荒くれ者どもに勝った程度で少し浮かれていたのだろう。
もっと精進しなければ……いくら魂を燃やしても技能の熟練度が上がるわけでもない。もっと技能を、もっと戦術を洗練させていかなければ私はいつか何処とも分からぬ場所でくたばることになる。
その事を肝に銘じて私は反省をここで終える。
「それで、私の階級はどうなるんですか?」
「ん?あぁそういや渡し忘れてた。ほらよ」
赤と黒の私の組合証を投げられ、それを何とか受け取った私は名前の他に新たに十級と印字されているのを確認して気落ちした。
何となく理由は察することが出来るがこればかりは少し落ち込んでしまう。
十と言えば最低階級。依頼は二束三文にもならない糞に塗れる様な仕事ばかり。
今後の事を考えると絶望しか待っていない宣告であった。
「十級……ですか」
「そりゃそうだろう。自分の力を主人への暴言一つで暴走させちまうような危険人形、逆に組合証を剥奪されないだけでもありがたいと思ってほしいね!」
「はい……」
「まぁ昇級すりゃいいのさ!組合証の昇級は組合によって異なるが、冒険者は簡単さ!依頼を数こなしてりゃいい。流石に中級である六級への昇級には試験があるがお前さんなら何とかなるだろうよ。精々体臭が糞みたいにならないよう頑張れよ、『マコ』ちゃん」
「くっ!」
軽く手を振りながら部屋を出ていくオルトを憎々し気に睨み付ける。
どうやら本当に糞に塗れるしかないようだ。
しかしオルトは冒険者として私を扱う場合は組合証に書かれている通り『マコ』として対応するようだ。
知っていながら支部のトップにいる人物がこの事を黙認するのはどうかと思うのだが、恐らくこれもセフィーナさんのお陰なのだろう。
借金の他にもいろいろと世話になっていることを考えれば私はもうあの人に頭は上がらず、寝る方向も吟味する必要がありそうだ。
今後の不安も抱えながら私は体が動くようになるまでオルトの言葉に甘えて仮眠を続け、日の落ちる頃に部屋を出た。




