第十話 戦闘力判定
主人公以外は基本強い。これが真理。
戦闘力判定は組合所の裏手にある訓練場で行われる。
私とオルトさん、そして受付嬢さんがその場に向かうと、野次馬たちがぞろぞろと付いてきた。
訓練場の中央で対峙する私とオルトさんを見ながら話し合っている野次馬たちの声が聞こえてくる。
「おいおい、オルト支部長直々とか誰だよあいつ」
「魔核持ってるってことは人形だろ?どっかのお偉いさんのじゃね?」
「お前馬鹿かよ、魔核ってのは主人の魔力で色変わるんだよ。あれは無色だから野良だ」
「じゃあなんで支部長が?」
「見た目可愛いし、ちょっと虐めてみたいんじゃね?はははっ!」
「おーい、怪我しねぇうちにお家に帰んなーって、野良は帰る家ねぇな!」
「俺んとこ泊めてやるぜ!代金は体で払ってくれりゃあよ!」
「お前人形趣味とかきめぇ!」
うん、聞いてはいたが大半がもう品も糞もないな……。
しかしどうしたものか。
私は今とてもやばい状況にある。目の前にいるオルトとか言う支部長、流石にこいつに勝てる訳がないのである程度善戦して六級と認めてもらいたいものだが……魔力が無い。
そう、意気揚々とこの場まで来たは良いものの私の貯蔵魔力は現在100程度、お腹が空き始める直前だ。
一体何故だと考えてみると昨日の戦闘で私は『強化魔法』を使っていた。そして魔導師との対決前に弱めてはいたがずっと維持したままで戦っており、その後の御者さんとの会話中も無意識化で維持を続けてしまっていたのだと思う。
生物ならばそんな程度で枯渇はしないが私はこの程度のミスで枯渇する。
何処かで気が散り『強化魔法』が解けたのだろうが、昨日は極め付けに『封印魔法』で魔導器具などを何度も出し入れしたため余計に魔力を使っていた。
そのツケが何故今来てしまうのか、私は自分の考えのなさを呪った。
「セフィーナ様からの紹介だ。ちょっとは楽しませてくれるんだろう?」
おまけに相手はやる気満々。嫌になるね。
「ふっ、あまり舐めていると寝首をかかれますよ?」
「ほう、じゃあ見せてもらおうじゃないかっ!」
何となく言ってみただけだったのだが止めておけばよかったです。
オルトさんは気合十分な声と共に体から魔力を溢れ出す。
威圧目的なのだろうが私にとっては魔力の浪費としか思えない。思えないのだが、効果は抜群である。
溢れ出る魔力、その量も驚異的ではあるがまるで炎のような熱気を離れている私でも感じ取れる程というのはどういうことだ。
恐らく火属性の性質を強く持つ魔力なのだろうがその内包する力の質が異常過ぎる。
私はその熱気に負けて思わず一歩後ずさる。
「おいおい、この程度でへばってもらっちゃ困るぜ?」
「くっ!」
相手の挑発に乗るようで気に食わないが私はその場で足腰に力を込めて何とか踏みとどまる。
メリエルさんの魔力を日々感じていた私だがそのメリエルさんにも劣らない、いや、火属性だけにおいてはこのオルトさんの方が優っていると言っていい。
メリエルさんを万能型と言うならこのオルトさんは特化型。火属性においてはそこいらの魔導師では太刀打ち出来ないだろう。
「そんな身なりをしているので戦士かと思いましたが、魔導騎士か何かですか貴方は?」
「魔導騎士だぁ?んなお高いもんじゃねぇよ。ただ人よりちーっとばかし火の扱いに慣れてるだけさ」
ニヤリと口元を歪めながら言い放つオルトさん。
はは、何が火の扱いに慣れてるだ。馬鹿にすんなよ……そんな力がありながら。
なんでこんな人物が重要な交易都市とはいえ一つの都市に過ぎないこんな場所で支部長なんてやっているんだ。人事の職務怠慢か?それともこの人の希望なのか。
どちらにせよ私にとって今重要なのはただ一つ。何も出来ないという事だ。
一見魔力を垂れ流しているだけの様に見える男。だがその実一切の隙が無く、私がこの場から動けば一気に首が胴体とお別れする錯覚を見てしまう程だ。
さーてどうする私。現状使える魔法で戦術を考えるにしたって無理があるぞこんな相手。
カースボアが赤子の様に思えてきてしまうってんだ。どうすんだこれ。
どうするもなにも、やるしかないんだろうなぁ……はぁ、せめて魔力と『七変加速』があればなぁ……。
心の中で溜め息を吐きながら私は決意を固める。
「一撃です」
「あん?」
「貴方のような方とこれ以上対峙したくありませんので、一撃で全てを決めてください」
「……ほう、なら俺は何もしねぇ。てめぇの全力で来やがれ」
オルトさんはそう宣言すると今まで放出していた魔力を全て収めて無防備な体勢を取る。
どこからどう見ても隙だらけな佇まい。狙うならば今しかない。今しかないのに思う様に足が動かない。
先程嫌という程感じさせられた実力差、それを考えるとこの隙でさえもわざとらしさがあり、言葉通りと受け取って攻撃しようものなら反撃を受けると本能的に感じてしまう。
くそっ、くそっ!どこまで臆病になれば気が済むんだよ!分かってんだろ、これは試験だ。殺されることなんてない、セフィーナさんの後ろ盾が私にはある!大丈夫だ、考えるな!
動かない足に拳をぶつけて言う事を聞かせようとする。
そんな私を見てオルトさんが拍子抜けしたかのように言う。
「はぁ……そんなもんかよ。セフィーナ様の推薦と思って期待してみたが、とんだ茶番だな。お前みたいな腰抜けはいらん。帰ってお前みたいな奴を働かせようとする馬鹿な主人に泣きつくといいさ……って、主人いねぇからここにいんのか、はっはっは!」
オルトが私に背を向けて笑いながら去っていく。
私はその背中を見つめながら地に膝を付けて俯く。そして、笑う。
は、はは……馬鹿だなぁ私。なんでこう難しく考えちゃうんだろうなぁ……。
無いなら作ればいいだけなのに。
「待てよ……」
「あ?まだいたのかよお前。そこにずっといられても困……るん、だが……ははっ、やれば出来んじゃねぇかよっ!なぁおい!」
「訂正しろよ……」
「ん?」
「誰の主人が、馬鹿だって……?」
私の事は何を言われたとしても良い。私はどうせ野良の魔導人形。何も持たないただの人形だ。
だが、メリエルさんを汚す行為だけは許さない。許してはいけない。
例えこの身の契約上の主人でなくなろうとも私の主人は唯一無二であり、メリエルさんは私の尊敬する至高の魔導師だ。
私はその存在を貶す者に容赦など出来そうにない。
「あぁ、お前の主人の事だよ。今は野良だからいないだろうから前の主人か?なんだお前、それでやる気出したのか!ならもっと言ってやる!お前の主人は馬鹿だ!大馬鹿だ!そして無能でもある!お前みたいなクソにも役に立たねぇ人形作るぐらいだからな!」
頭部に刻まれている術式で出来た回路の何処かが千切れたのか、もしくは組み変わったのか、何かが弾ける様な音を鳴らした瞬間、私の思考は全て殺意のみによって支配された。
「貴様……死ぬ覚悟は出来たかぁあああああ!?」
『深紅の長靴』への全力の魔力供給。『強化魔法』も惜しみなく使い、全身には『魔導師』による火属性と雷属性の合成魔法による炎雷を纏い、封印していた直刀『黒狼刀』まで取り出し魔力を大量に吸わせた。
この男にだけは手加減なんてものは必要ない。これだけやっても死ぬ可能性の方が低いだろう。
だがここで退くわけにはいかない。この男に一撃、本気の私を見せつけて証明してやる。
お前が貶した人物の凄さがどれ程であったかを!私の力によって!
「いいぞ、いいぞいいぞ!さぁ来い!!!」
「がぁあああああ!」
野次馬たちが見たのは戦闘狂で名の知れた『暴徒』、オルトという元一級冒険者の本来の姿。
その戦闘に対する狂暴な思想、思考は一線を越えており、度重なる問題行動により果てには資格剥奪。路頭に迷う寸前だったのを救ったのは生産組合名誉会長、セフィーナであった。
セフィーナによりオルトの狂暴性は見る影を無くし、今の地位に至ることが出来たが、依然としてその思考が失われていなかったのだとオルトの過去を知る者は震えあがった。
そしてもう一方、長い銀髪を揺らし、右手には漆黒の魔力を放つ直刀を持ち、両足に履いている靴からは真っ赤な魔力を放っており、全身を覆う様にして纏われている炎雷は触れれば怪我では済まない威力を感じさせた。
その姿は見る者によって意見が分かれたが、戦闘の終わるころには全ての意見が一つに纏まったという。
野次馬たちは冒険者マコを『銀狼』と呼んだ。




