第九話 浮浪者の吹き溜まり
祝!累計PV5000突破!
いやはや、5000まで行くのにもう少しかかると思っていたのですが毎日のPV数が下がり過ぎることもなく、安定した閲覧数により早めに迎えることが出来ました。
次の目標は大きく10000と行きたいですね。
これからもどうぞよろしくお願いします。
交易都市アレイスを一言で表すならば中世ヨーロッパ風、何てことは無かった。
どう考えても近代化が進んでいる都市である。
コンクリートなんて物は流石に使われていないが家の造りが傍から見てもとてもしっかりとしている。レンガや木造が主流のようだが恐らく魔法的作用も施しているのだろう、そんじょそこらの台風じゃ一切ビクともしなさそうだ。
道の整備も隅々まで行き届いており、石のような素材でとても良く磨かれていて気を付けないと足を滑らせてしまいそうな錯覚に陥る。
魔導器具のような物があるのだからきっとあるだろうと思っていた物も見付けた。車だ。
現代の乗用車には到底叶わないだろうが、魔力で動いているため運転手の魔力だけで走れる途轍もないエコカーである。
デザインこそ古い時代の物に近いが、性能面では申し分ないだろう。
異世界と言うよりタイムスリップした感覚に陥りながらも私は取り敢えず冒険者組合の組合所についての道を通行人に聞きながら向かった。
「大きいなぁ……」
流石交易都市の組合所と言うべきか、そもそも組合所は何処もこんな感じなのかは分からないが、取り敢えずデカかった。
ここに来るまでに宿などの施設も見てきたが、それの倍以上ある。階数にして五階建てくらいだろうか。
恐らく組合員の宿も兼ねているからこその大きさなのだろうが圧巻である。
入り口の前でたむろしている訳にも行かないので私は馬車を邪魔にならないように専用の厩舎に置いてから中に入った。
中は外観通りの広さで、ロビーのようになっている。掲示板に張り出されている依頼書を見ている人もいれば、談話スペースのような場所で椅子に座りながら話し合っている人、飲食している人と様々だ。
私の事など誰も気にしておらず、取り敢えずカウンターのような場所に赴き受付だろう女性に声をかけた。
「すみません、組合員登録をしたいのですが」
「はい……って、え?」
最初は普通にしていたというのに私の外見、そして胸元の魔核に目が行くと女性は少し困惑した。
仕方ないと諦めつつ私はセフィーナさんの紹介状を女性に渡した。
すると門の兵隊さんと同じような反応を示した後、カウンターの奥へと行ってしまった。
「えー……」
何だろう、ここの人たちは紹介状を見ると奥に引っ込む習慣でもあるのだろうか?
いや、分かってる。私自身が甘く考えているだけでセフィーナさんという人物はこの世界において絶大な影響力を持っているのだと。分かっていないのは私だけだと。
しかしあのおちゃらけた人がそんな偉い人だなんて私にはどうしても思えないんだよ……。
しばらくした後、先程の受付嬢さんがカウンターに戻って来て対応が再開される。
「確認出来ましたので問題ありません。では手続きに入らせていただきます。まずこの用紙に必要事項の記入をお願いします」
「はい」
そう言って渡された紙はそこそこ上質な物で、異世界特有の羊皮紙的な物ではなく少し残念だった。そしてペンも万年筆に近しい物でとても書きやすそうだ。
えっと、必要事項は……名前と出身、年齢に戦闘経験、後は任意で得意な武器、魔法、技能を書く欄があった。
名前はユー……いや、ユーリは不味い。もし名前が出回りでもしたらクリュアの耳に入る可能性がある。あの子もいつまでもあの場所にはいないだろうし、人化して街に入るという手段もある。ここは少しでも情報をボカすために偽名で行こう。
……ユリエル、いやダメだ。私がこの名前をもらう訳にはいかない。これはメリエルさんにとってとても大事な名前だ。そうなると……孫娘、孫……マコ?うん、もうこれでいいや。
名前はマコ、出身は……これくらいはいいだろう、エリム村っと。
年齢?私って今何歳だ?精神年齢だけなら前世と合わせて既に40を超えているがこの肉体の年齢は1歳未満だ。しかし流石に1歳と書く訳にも行かないし……ここは魔核生としての20歳でいいだろう。見た目とのギャップが凄いが魔導人形なのだから仕方ない。
戦闘経験はローウルフとハイウルフをそこそこ狩った事があるとしておこう。流石にカースボアなど書けないし、ラピッドウルフに関しては一応速さに特化した特殊進化個体であるため、あまり公にしない方がいいだろう。そんなものがエリム村にいるとなればガリュオンの存在が知られてしまい、クリュアにも迷惑をかける。
任意だけど一応他も書いておこうかな。武器は一応直刀があるけど特に無い事にして魔法はそこそこ、技能は『魔導師』と『封印魔法』くらいを書く。流石に熟練度までは書かないようにした。
最後まで書き終えて受付嬢さんに渡すとそれを軽く確認し、何も問題がなかったようで受付嬢さんが軽く頷いてから用紙に手をかざして少し魔力を出したのを見ていると用紙が淡く光り出し、用紙が見る見る縮んで行ったかと思うと一枚のカードのような物に変わった。それは左半分が赤、右半分が黒で、緑の文字で名前が印字されていた。
「『術式魔法』に『錬金術』……他にも何か……」
「驚きましたか?用紙の裏にとても高度な術式が刻まれているのです。これもセフィーナ様の技術です」
さ、様付けいただきました……。
てかホントなんだよあの人、ただのチートキャラかよ、お前絶対どっかの主人公だろ!
にしてもこのカードが所謂組合証という物か。名前だけが印字されているがこれで大丈夫なのだろうか?
「では冒険者組合について、既にセフィーナ様より聞き及んでいると思いますがもう一度説明させていただきます」
え、冒険者組合についてとか一切聞いてないからめっちゃ必要なんですが!?
てかその説明って絶対登録前にする物ですよね!?どんだけあの紹介状でテンパってたんですか!?
「まず冒険者組合、通称『浮浪者の吹き溜まり』とも呼ばれ――」
「――えっ!?」
「どうか致しましたか?」
「あ、あの、浮浪者の……何です?」
「セフィーナ様から聞いていませんでしたか?冒険者組合とは今や職に就くことが出来ず、かと言って浮浪者となるのも嫌な方々が最低限の生活を営むための仕事斡旋所のような場所です」
……異世界には夢も希望もなかったよ。
というかどういう事だ、ガリュオンの話によればリーシャさんと冒険者として活躍し、成り上がったという。ならば夢も希望もあるはずなのだが……あ、あれ千年前の話だったわ。
「大昔の冒険者はそれはもう魔物や魔獣の討伐を生き甲斐とし、依頼も多く、その中で功績を上げて成り上がる人も多くいたと記録に残っております。代表的な例ではリーシャ・フォン・グラインド様のような方はその筆頭とも言えますね。ですがリーシャ様の結界により王都や主要都市、勿論ここアレイスもですが、それらにおける防衛はほぼ完璧な物となり魔獣の被害が激減、自ずと依頼の数は減っていき冒険者稼業は衰退致しました。今では都市の防衛は警備隊に一任され、冒険者の出る幕はありません。故に昨今冒険者組合は名前を変える方針が取られる可能性もあると聞いております」
「……」
唖然とした。もう何も言えなかった。
夢が無いどころの話じゃない。私の借金大金貨10枚を返す事すらままならない。何故セフィーナさんはこんな所を紹介したというんだ!
その後も冒険者についての説明は続いた。
結構ありきたりな物で、冒険者の階級には一から十あり、上から三階級ずつ上級、中級、下級、そして十級はクズなどと呼ばれる。
犯罪を犯せば組合証を強制剥奪され二度と組合員にはなれない。
依頼報酬の一割は組合に手数料として引かれ、私の場合は報酬の八割がセフィーナさんの口座に自動振り込みされるため手元には一割しか残らない。
組合証は特殊な術式が組まれており、様々な情報が内在されているため紛失した場合再発行は出来るが情報は初期化され、口座内の金、倉庫に預けていた物品は組合に押収されるとか。
因みに組合証の色にも意味があり、冒険者組合は赤、商業組合が青、生産組合が黄と色の三原色で構成されており、文字は所属組合以外の二色を合わせた色。何故こんな色使いをしているかと言えば三大組合は互いに助け合っていますよ、という組合同士の関係を強固な物とするためであり、互いに牽制し合うためであるとか。
何処かが不穏な動きをすれば他の二つが容赦しない。大体こんな所だろう。
そして問題なのが黒。私の組合証の右半分の色である。これの意味は過去に犯罪歴がある、もしくは公的な借金を抱えているというもので、犯罪歴の場合は刑期終了時から五年は組合員になれず、黒が消えるのはそこから十年何事も無ければであり、借金の場合は返済終了で消える。
この公的な借金というのは組合などの公的機関、もしくは正当な手続きによる貴族、商人などから借金をしたことを指すらしく、私の場合ではセフィーナさんから契約を詐欺紛いに交わされているので公的となる。
まぁこんな黒い組合証、通称ブラックカードを持つのは冒険者か商売に失敗した商人くらいだという。
そんな風に適当に聞き流しながら惚けていると最後に重要事項という事で意識を戻された。
「こんな冒険者組合ですがただの浮浪者を組合員として認めるわけにはいきません。今回のマコさんの場合は特例ですが、本来ならば昔からの伝統である受付時での性格判定をした後、上級冒険者による戦闘力判定を最後に行い組合員として認められます」
「はぁ……」
なんだか無駄な所が冒険者っぽいなぁ。
取り敢えず性格に関しては紹介状のお陰でクリアしたのだろうか。だとしたら後は戦闘力……これには少し自信がありますよ私は。
「これは初期階級を決める指標にもなりますので、良い成績を修められますと最大で六級までの飛び級が可能となります。掃除や老人介護といった下級の仕事が嫌であれば頑張ってください」
「本当ですか!?」
「え、えぇ」
カウンターに乗り出し食い気味に聞いてしまったために受付嬢さんが狼狽えてしまった。
いけないいけない、いくら魔導人形になったとはいえ私は紳士だ。決して変態を付けられてはいけない。ここは冷静になろう。
下級の仕事は先程も聞いたが酷いものだ。下水の掃除やらゴミ拾い、ペットの捜索、老人介護などなど、何処の慈善団体だとツッコミを入れたくなるものばかりだった。
魔獣や魔物の討伐は中級から。それも警備隊からの依頼であり、要するにお零れを貰っている程度。警備隊は定期的に訓練も兼ねた近隣の森などの魔獣を間引いているらしい。しかし都市内の警備が主な仕事故にそう頻度は高くなく、定期訓練の間の期間は冒険者に仕事を斡旋して間引きをしているのだとか。
私としてはそんな仕事は少々物足りなさを感じるがそうだとしても溝浚いと比べれば天と地ほど差がある。ここはどうやってでも六級を取得しなければ!
「そ、それで!?その判定試験はいつあるんですか!?」
「お相手の準備が出来次第なのですが――」
「――待たせたな」
「っ!?」
受付嬢さんの言葉を遮り、カウンターの奥から現れたのは筋骨隆々な背丈が私の倍近くある巨体の男だった。短く刈られた赤髪はまるで燃える炎のように逆立ち、ギラギラとした金色の瞳はまるで獲物を値踏みしている獣の如く。
男と不意に視線が合った私は全身が震え、この男の強さを実感した。
この男はヤバい。例えるなら、こいつはガリュオンとも渡り合えるのではないかと思える程に強く感じた。
速さではガリュオンが圧倒的に有利だろう。だがしかしこの男の強さは速さではなく、その強靭な肉体から放たれる剛力。
もしガリュオンに速さが無ければこの男の勝利は確実かもしれない。そんな男だった。
「貴方……は……?」
「そう身構えるんじゃねぇ、今回お前の相手をしてやるオルトってもんだ。一応元一級、今じゃこのアレイス支部の支部長何てものをしている」
ま、まさかのここのトップですか……それは何とも光栄なことで。




