第七話 対人戦
一応本日二話目、と言っても深夜と今で殆ど一日開いてる様なものですが。
戦闘回は毎回書きにくくて筆が進みにくいですね。
「さぁ、メリエルさん以外との初めての対人戦、楽しませてくださいね」
「なっ!?」
男の反応を待つ前に素早く『深紅の長靴』に魔力を込め、同時に『強化魔法』で全身を強化、そして最後に『魔導師』により全身から電撃を発生させて拘束を力尽くで解く。
油断し切っていたからかこの光景を見た男たちは驚愕して隙だらけとなった。
私はその隙を見逃さず全速力で男たちとの距離を詰め、その勢いのまままず先程からぺらぺらと喋っていた男の鳩尾にブーツの尖った先端をめり込ませる。
「ごぅっ!」
息を詰まらせ後方に飛ぶのをほぼ確認せず、私はその右に立っていた男に足を伸ばしたままの状態で腰を捻り、踵で脇腹に一撃を加えた。
恐らく肋骨が数本折れたような音が鳴ったが悪人には良い薬だろう。
「あがっ!」
脇腹を手で押さえて呻き声を上げながら蹲る男を置いて残り二人を見ると、一人は漸く今起こっている事態を把握したのかどうしようと困惑しており、もう一人はいつの間にか私の背後を取っていた。
「このクソ人形が!」
右手に持つ片手剣を上段から構えて振り下ろす男。それに向かって私は軸足である左足のみで跳躍しつつ右足を振り回すようにして回転し、背後の男の振り下ろして来た片手剣に右足の回転蹴りで応戦。
鉄の片手剣と元魔核のブーツがぶつかり合い、ガチッという音が鳴る。
「なっ!?」
恐らく私のブーツなど単なる革製で片手剣でなら切れるなどと思っていての驚愕だろうが、すまないな。これ魔核製なんだよ。
驚愕する男の上段で構えたせいでガラ空きとなっている腹部に左足が着地すると同時に電撃を纏わせた拳で殴る。
「があああああっ!」
拳から伝わる電撃に身を焼かれて叫び出す男。
声が止んでから拳を話すと男は全身を軽く焼かれ、服はボロボロになっていた。
ふむ、対人で使ったことはなかったけど中々……でも如何せん燃費は悪い。これだけで50は魔力を持っていかれた感覚があるからなぁ。
倒れる男を横目に相手を確認すると残ったのは荒くれ者の残りに魔導師、御者の三人だろう。御者にはいろいろと事情を吐いてもらわないといけないので手を出さず、荒くれ者は倒せるとして……問題は魔導師か。
残りの魔力は消費分を差し引いて600ちょいって所か、心許無いな。
何故先程よりも魔力量が多いのかと言われれば理由は魔法で拘束されていたからである。
セフィーナさん謹製のこの吸魔石製の右腕だが、これは空気中の少ない魔素を吸収することで魔力を補充出来る。
そしてこれの吸収力を上げ過ぎれば私の魔力を吸いかねないというので、今以上の魔力補充は望めないとセフィーナさんは言っていたが、ついでにこうも言っていた。空気中の魔素が少ないせいでもある、と。
私は魔法によって拘束された時、自身の魔力が急速に補充されていくのを感じて確信した。
この右腕の吸収力は空気中の少ない魔素で一日50"も"魔力を補充出来る代物なのだと。
ならば空気中に漂う魔素の量が多ければどうなるか。それは本来あるべき吸収力が惜し気なく発揮され、短時間で多量の魔力補充を実現出来るという事だ。
私は『術式魔法』、『重力魔法』、『拘束魔法』の三つを同時に展開している中に捕らわれていたため、魔法を使用した際に発生する魔素をふんだんに吸収し、あの短時間で800程にまで魔力を補充することに成功したのだ。
しかしその超回復とも言える状況も既に終わったため、ここからは本当に残り600で戦う必要があった。
魔力温存のため『深紅の長靴』への魔力供給を停止し、『強化魔法』も最低限の維持に控えた。
私が魔導師の存在を警戒しつつ馬車を睨み付けていると、再び地面に違和感を感じたためその場から軽くジャンプして後退すると、単なる街道であった地面から大きな棘のような物が勢いよく天に向かって突き出てきた。
もし避けていなければあれに串刺しにされていたのかと思うとゾッとする。
「姿を見せたらどうです?どうせ後は雑魚二人に貴方だけですよ?それとも何ですか、貴方ほどの高位の魔導師様がこんな得体も知れない野良の魔導人形を恐れて出てくることが出来ませんか?そうだとしたら私は貴方の事を腰抜けと呼ばなければなりませんが、どうしましょう?」
このまま姿を見せずに馬車の中から魔法を放たれていては何がどう来るのかが全く分からない。
せめて馬車の外に出して魔法を発動するタイミングだけでも分かればと思い、私は相手を挑発してさも正々堂々勝負しろよと言わんばかりの口振りで相手の出方を待とうとしたのだが、思っていた以上にその効果は抜群であったらしい。
私が言葉を言い終わるかどうかと言ったタイミングで、馬車から額に青筋を浮かべて怒り心頭な中年の痩せぎすな男が青いローブを身に纏いながら怒鳴り始める。
「こ、この……ただの木偶人形如きが吾輩に向かって何という口の利き方だ!!!腰抜け、腰抜けと言ったな貴様!!!その言葉、言ったことを後悔させてやる!!!」
……ま、まぁ魔導師の才能と頭の良し悪しは関係が薄いという事で。
取り敢えず当初の目的は果たすことが出来た。これで相手の戦術が分かりやすくなった。
魔導師はローブを翻し、ローブによって見えなかった杖を私に向かって突き出し、魔法を行使し始める。
「火よ、我に従い彼の者を焼き尽くせ!フレイムバーナー!」
「詠唱とはまた……」
言ってしまえば火炎放射のような魔法が私に向かって放たれた。
しかし何と言うか……正直『術式魔法』で感心していた過去の自分を殴ってやりたい気分だ。
私はそれを軽いステップで躱す。そこまで速度がある訳でもないのでこれくらいは造作もない。
詠唱とかメリエルさんがクズ呼ばわりしてた魔法発動法なんだけどなぁ……。
私のような異世界のファンタジー知識にはありがちな魔法=詠唱と考えられるほど両者は切り離せないものと思われているが、実際はそんな事なかった。
メリエルさんは『詠唱魔法』の技能は持っていなかったらしい。
鍛錬の時に何故かと聞いてみると答えは簡単で、詠唱文で魔法がバレバレ過ぎて実戦では使ってる奴の方が珍しいとか。
考えてみればごく自然な理由であった。
しかし実戦ではあまり使われない『詠唱魔法』も一応は使いようがあるらしく、近くで同じ詠唱を同時に行って魔法を行使すれば互いの魔法が合わさり、大規模な魔法を比較的楽に扱うことが出来るのだとか。
そこまで考えると自ずと見えてくる敵の姿。
一番有力なのが『術式魔法』を専門に研究している何処ぞの貴族お抱えの魔導師、そして実戦経験はあっても後方支援程度といった所だろうか。
先程から舌を噛みそうな勢いで様々な詠唱を唱えているが、こんな戦況で簡易詠唱による下級魔法を何度使用した所で私には通用しない。
メリエルさんの搦め手満載、超絶意地の悪い魔法の連携を知っている私としてはとても物足りないのだ。
故に下級魔法を単発で打ち続けた所で単なる魔力の無駄遣い。そして私にとっては少しでも魔力を補充しやすくなるのでありがたい。
魔法を回避しながら残りの二人に目を向けると魔導師が出て来たおかげで安心したのか表情が緩くなっている。
一応戦闘中だと言うのに何だあれは……少しお仕置きが必要だな。
「くっ!ちょこまかちょこまかとぉ!フレイムアロー!」
おぉ!詠唱無しの名称発動!何だやれば出来るじゃないか!
だが結局下級魔法だから意味はない。
私は迫り来る火の矢の軌道を見極めてタイミングを見計らい、それを右足で蹴り飛ばす。勿論残ってる荒くれ者の方へ。
私が魔法を蹴り飛ばしたのを見て驚愕した男だが、避ける間も無く火の矢が男を襲い全身を火で炙られ始めた。
「ぐぁあああああ!!!」
「戦場で惚けているからそうなるんですよ」
「貴様、吾輩の魔法を!」
「貴方も先程から何ですか。『術式魔法』は素晴らしい物だったというのに実戦ではこの体たらく!少し勉強させてあげましょう」
私は少ない魔力で発動出来る下級魔法を使用する。取り敢えず先程相手が打ってきたフレイムアロー辺りでいいだろう。
右手を魔導師に向かって伸ばし、掌を魔導師に見えるように開く。
掌からまるでフレイムアローが出てくるような光景を見て魔導師が目を見開いた。
「無詠唱……だと!?たかが人形如きが!」
「さぁ、避けてみてください」
言葉と同時に私の出したフレイムアローが消える。
その現象に理解が追い付いていないのか魔導師は辺りを慌てて見回す。
次の瞬間、魔導師の悲鳴にも似た叫び声が草原に響き渡る。
「うっ……ぎゃあああああ!!!」
先程まで手元にあったフレイムアロー。それがいきなり消えると次に現れたのは魔導師の背後。フレイムアローは無防備な背後から魔導師の右太腿に突き刺さった。
「な、なぜ……っ!」
何と言うことはない。ただメリエルさんの真似事をしてみただけだ。
私はフレイムアローを二本出していた。しかしその内の一本は出現と同時に『封印魔法』で封印、そして次に『幻影魔法』によりもう一本を消した後、封印を魔導師の背後で解いて発射。
メリエルさん直伝、姑息な魔法戦法だ!
まぁこんな簡単なタネも分からないような馬鹿にわざわざ教えてやるつもりはないが、一応忠告はしておこう。
「左足、大丈夫ですか?」
「は……?ひだ、り……っ!?!?」
魔導師は一瞬何を言っているんだという表情をしながら自分の左足を見て声を失い、再び悲鳴を上げた。
そこにはもう一本のフレイムアローが刺さっていたのだ。
あらら、気付かなきゃもう少し楽でいられたのにーって、教えたの私だったね。
「研究も良いけど、実践を伴わない研究程空っぽなものはないよ」
「く、ぐぅっ!……貴様、何者だ……っ」
「何者か……んー、しがない借金人形です」
「ふざけ……おって……っ!」
ふざけたつもりはないんだけどなぁ。
その言葉を最後に魔導師は気を失った。
これで後はここまでの光景を見て怯えきっている御者のみか。一体どんな話が聞けるやら。
――――
「つまりは貴方達の雇い主はアレイスで名の知れた商人で、魔導師以外は今回の件で雇われた荒くれ者だと……何とも微妙な」
御者から事情をすんなり聞き出せた私はその内容を自分で分かりやすくまとめた。
それにしても商人か、貴族の場合だと今後アレイスで活動するのにいろいろと面倒が起こりそうだったしこれはまだ良かった方だと思うべきだろう。
更にこの魔導師の弱さにも説明が付く。流石に貴族がわざわざ抱える程の実力はこの魔導師にはない。故に今のような商人の用心棒的な立ち位置が限界というものだ。
肝心の目的は私を捕らえて何処かに売り飛ばすというものだったので、結局あのまま無抵抗に捕まっていれば貴族の元に行くことになっていたと考えれば撃退は良い判断だったろう。
しかし名の知れた商人とは……何だかこの因縁から厄介事が舞い込んで来そうでとても不安だが、口封じのために殺してしまうほど私の肝は座っていない。
ならば!
「馬車は売ればお金になるし、剣も鍛冶屋とかに持っていけば多分……手持ちの財布も貰っておいて、魔導師の装備は全部回収っと」
気を失ったままの荒くれ者達と魔導師から身包みを引ったくり、それを馬車の荷台に乗せていく。
うひゃー!この魔導師ちょー金持ってる!銀貨ぎっしりー!金貨は……流石にないか。
荒くれ者達との合わせると銀貨約50枚、銅貨約100枚、大銅貨約20枚。一気にお金持ちになっちゃったよ!
……っと、忘れるとこだった。
「ねぇ御者さん」
「は、はいっ!?」
私は満面の笑みで御者さんにスキップ混じりで近寄ると、御者さんはとても恐ろしいものを見たような恐怖の色が含まれる声で私に応える。
もう、失礼な奴だな。一応見た目だけ言えば美少女?な感じだというのに。まぁいいや。
「はい!」
「……は?」
両手を御者さんに突き出し、掌は上に向ける。だが御者さんは何のことか分からなかったらしく、私はもう一度笑顔で応対する。
「だから、はい!」
「あの……え?」
……この馬鹿は何も分かっていないらしい。今さっき私がしていた追い剥ぎの内容や自分が今どういう状況なのか。
流石に笑顔が保てなくなり、多少早口になりながら真顔で告げる。
「早く財布出せっつってんですよ」
「は、はひぃっ!」
御者さんは漸く理解してくれたらしく、泣くほど喜んで私に財布を差し出してくれた。
だよねぇ、人を売り飛ばそうとしてたんだから有り金で許してもらえるなんて感激だよねぇ。
しかし財布を受け取り笑顔に戻った私の表情がすぐに固まる。
受け取った財布の重さがとても軽かったのだ。まるで殆ど何も入っていないかのように。
チラッと財布の中を覗いてみるとそこには大銅貨が1枚だけ入っていた。
……プチ。
「ねぇねぇ御者さん?ちょっと、ジャンプしてよ」
「へ?」
「早く」
「はいぃ!」
物分かりの悪い奴だ。しかし、何とちゃっかりしていることか。
御者さんが慌ててその場でジャンプすると、身体中から金属のぶつかり合う音が聞こえてきた。
良い度胸してるじゃないか。
御者さんは音が鳴ってしまった事に今更気付き顔を真っ青にして震え出す。
うん、流石にやり過ぎちゃったかな。金に目が眩んじゃったけどあまりこんなやり方で稼いで借金を返すというのはよろしくない気がする。
それにここまで間抜けだと逆に面白い。
「まぁそれはもういいです。取ったりしませんよ」
「え、で、では……」
「馬車ごと貰っていくけど、ちゃんと周りの人達が起きたら忠告しておいてください。『次はありませんよ』って」
「は、はいっ!」
最後までビビりっぱなしだった御者さんを尻目に、私は満足気に馬車の御者台に乗り込み交易都市アレイスまでの道のりを再び歩み始めた。
漸くまともな勝利、というか楽勝でしたね。
ユーリには勝っても辛勝辺りを基本として頑張ってもらいたいものです。




