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第一話 魔導人形になった

本日2話目。

 今日はいい天気だ。最近は雨が続く梅雨のような季節だったからこんなにお日様が元気に顔を出してくれている時は洗濯物をまとめてやってしまおう。


「マスター、洗濯物はこれで全部ですか?」

「そうだよ、いつも悪いね」

「これくらいしか私にはできませんから」

「よく言うよ……」


 おはようございます。晴れて魔導人形として生を受けることが出来た瀬川秋彦改めユーリです。

 あれから俺の体は順調に組み立てられ、完成に至った。

 魔鉱石が材料と聞いていたので体は鉱物の様に硬いのだと思っていたが全然そんなことはなかった。

 動いてみれば関節は前世の人の体の様に細かく動くし、体の表面も肌の様に柔らかい。

 起動してから約一ヶ月ほど経っただろうか。マスターであるメリエルさんとも問題なく付き合えており、エリム村の方々との交流も良好だ。最初の時は少し驚かれたが、元々マスターが魔導人形を作っているのは知られていたのでどちらかと言えば村人の驚きは漸く出来たのかというものだったかもしれない。

 それと魔核を魔導人形に取り付けた瞬間からこの体は俺の所有物となったわけだが、少し融通の利かない事がある。

 例えば……。


「ユーリ、少し肩を揉んでくれないかい?」

「はい、マスター」

「ユーリ、お茶」

「はい、マスター」

「ユーリ、あれ」

「はい、爪切りですね。マスター」


 お分かりいただけただろうか?

 ここで一つ前述したことをもう一度振り返りたいと思う。


『主人、マスターである魔導師の命令に忠実に動く下僕、それが魔導人形』


 要するに、自分の意思とは全く関係なく俺の魔核に刻まれた術式によって強制的に命令に従わなければならないのだ。

 まぁマスターの命令のみなので特にこれといった問題はないのだが、家事の途中に特に意味のない用で呼ばれた時は少し腹が立つ。

 そしてもう一つ、これは気付いている人もいるかもしれないが一応説明はしておこう。

 魔導人形を起動する際、その主人となる者には魔核に追加術式として様々な設定を行えるようになる。その内容は様々で、性格や一人称、口癖などをマスターの好きに出来るのだ。

 故に俺は心の中では一人称が俺だが会話では私となっている。更に少し言葉遣いも丁寧だ。

 この設定は抗おうとしても無意味であり、例えるなら「俺のクソババァは馬鹿」と言おうとしても口が俺の意思を無視して「私のマスターは博識です」などと勝手に意味まで変えて口にしてしまうのだ。

 おそらくこれは魔導人形が下僕である故なのだろう。

 マスターを害することは許されない。魔導人形の絶対に破れない契約である。


 だが悪い事ばかりではない。良い事だってある。例えばこれだ。

 自己分析結果を表示。


<個体名称>【ユーリ】

<主人>【メリエル・ファウル】

<貯蔵魔力>1000/1000

<所有技能>26/100

『言語理解Ⅹ』『家事Ⅴ』『料理Ⅴ』『裁縫Ⅱ』『農業Ⅲ』『魔導師Ⅰ』


 そう、自分の能力が把握できるのだ。

 だがゲームの様にHPやMP、攻撃力や防御力といった数値が出るわけではなく、ただ自分の出来ることが分かるだけ。まぁ一応MP的なものとして魔核に貯蔵されてる魔力は分かるんだけど。

 起動してからこの方、魔核時代に得たらしい『言語理解Ⅹ』以外は日常を過ごしていたら手に入れてしまった技能だ。『魔導師Ⅰ』だけはマスター直伝である。

 因みに『家事Ⅴ』と『料理Ⅴ』って同じじゃんなどと思われそうだが少し違うと言っておこう。


 この技能であるがローマ数字が後ろについていることからお分かりいただけているかもしれないが、レベルのようなものがある。

 マスターに聞いてみるとそれは熟練度と呼ばれているものらしく、1~10まで存在しておりマスターは『魔導師Ⅹ』を持っている。ちなみにこの数値を簡単に言い表すならばⅠは初心者、Ⅲ辺りで一般、Ⅴは優秀、Ⅷまで行くと天才と呼ばれるほどで、Ⅸが達人、Ⅹは超越者なのだそうだ。

 え?マスターってどんだけ凄いの?って思ったよ。でもこのババァなら何の疑問も思わないね。

 それと先程ローマ数字と俺は言ったが厳密に言えばそれっぽい数字であるため間違えてはいけない。だが特にローマ数字に思い入れのない俺にとっては正直に言えばどちらも同じように見えるのだ。


 おっと、『家事』と『料理』の違いだったな。熟練度の説明を先にしてしまって忘れていた。

 技能には総合技能と専門技能の二つに分けられる。この場合では前者が『家事』、後者が『料理』となる。

 そしてこの二つの違いだが、簡単に言えば何でもそつなくこなせるのと、一つだけ優れて出来るものといった感じだ。

 『家事』の技能には主に掃除、洗濯、炊事、買い物といった一般家庭に必要な技術の全てに技能補正がかかり熟練度が上がるにつれて上手くなっていく。逆に『料理』は本当に料理にしか技能補正がかからないが、その補正が『家事』で得られる炊事能力の比ではないのだ。同じ熟練度であった場合、料理だけにおいては『家事』と『料理』には倍以上の補正の差があると言えよう。


 因みに何故わざわざ『料理』の技能を得たのかと聞かれれば、マスターの舌が異様に肥えているのが原因である。

 昔宮廷魔導師をしていた関係か、中途半端な料理を食うくらいなら適当な干し肉でも齧ってた方がマシなどと言いやがる。

 流石にこれには俺も腹を立て、必死に料理を勉強したさ。あぁそれはそれは必死にね。そのおかげで一ヶ月でⅤまで上げてやったという訳だ。

 だがあのクソババァ……なんて言ったと思う?「まぁまぁだね」だとよ!あぁ畜生!

 こんなんでも村の人からは村一番の料理上手、一家に一人ユーリちゃんなんて言われてもてはやされてんだぞコラァ!

 まぁいい、奴にはいつかとんでもない料理を食わせて舌を唸らせてやる。


 さて、いろいろ脱線してしまった。

 他に気になるのは『言語理解Ⅹ』だろうか?こればかりは俺自身よくは分かっていない。技能補正的にはどんな言葉でも読み書きが出来たり、会話が流暢になるというものだが何故こんな熟練度なのかはわからない。魔核時代に20年もの間言葉を覚えていたのが良かったのかもしれないが、それならどんな言葉でもってのは都合が良すぎる。せめてあるとすればこのエリム村のあるアルフェリナ王国の言葉を理解できる的なものだと思うのだが。

 でもあって困る者じゃないし今は考えないようにしてる。

 後、『魔導師Ⅰ』も説明しておくとこれも総合技能だ。魔法の技能には様々なものがあり、専門技能となると正確な数はマスターでも分からないらしい。例を挙げれば『火属性魔法』『治癒魔法』『結界魔法』などがあり、数え切れないのだそうだ。

 この『魔導師』の技能補正は属性魔法に影響があり、さっき述べた『火属性魔法』の他に水、風、地、光、闇の6種類らしい。

 魔導師の人々は基本的にこの『魔導師』の技能を取得してから自分の適性を見極め、最も自分に相応しい属性魔法の技能と、予備としてもう一つの属性魔法を取得するのだとか。

 因みに総合と専門で同時に補正のかかっている技能は相乗効果を生み単体の技能より補正が良くなるので良いこと尽くめなのだ。

 え?マスター?んなもん全属性の技能全て持っててⅩらしいよ?何このチートキャラ?俺が主人公であってるよね?もしかして俺ってただ運よく転生しただけの人?

 大体技能については説明出来たと思う……っと、一つ忘れていたよ。<所有技能>の隣にある数字だけど――


【メッセージを受信しました】


 ――お、いいところに。

 魔導人形の良いところは幾つかあるが、その最大はやはりこれだと言いたい。

 魔導人形間情報共有機能。

 一体何のことか分からないだろうし見れば分かるだろう。

 意識を頭の中にある機能に集中すると頭の中に様々な声が聞こえてくる。


?『今メッセ送りましたしもうすぐ来ると思いますよ』

?『何て送ったん?』

?『え、普通に盛り上がってるんで来ることをお勧めしますと……』

?『えー普通過ぎー』


 どれだけ遠くにいてもこの世界のどこかに存在するのならば使用出来る便利な機能。様々な魔導人形達の魔核と直接ボイスチャットのような感じで会話が出来る画期的なものだ。

 これがあればいろいろな事を瞬時に誰かから教えてもらえることが出来る。さながら魔導人形専用インターネットというべきか。

 何やら先程届いたメッセージで呼ばれたようだったので機能に集中しながら会話に入る。


孫娘『お待たせ』

執事『あ、おはようございます』

騎士『来よったな』

魔女『おはー』


 この機能上では皆基本的にハンドルネームを使用している。魔導人形によっては何らかの機密情報を持っている者も少ないながら存在するので身元が直接分かるような名前は名乗らない。

 そして俺のハンドルネームは『孫娘』。『メイド』とか『家政婦』辺りでもいいかとは思ったのだがやはりこの体のベースとなったユリエルの事を思うと孫娘が一番合っていると思いこれに決めた。

 それに似たようなハンネ使ってる人もいたしね。

 今聞こえてきた会話から察するに話しているのは現在3人のようだ。


孫娘『何の話をしてたんですか?』

執事『孫娘さんの事ですね』

孫娘『え?』

騎士『孫娘って壊れ性能だよなぁって話』

孫娘『またそれですか』

魔女『やっぱおかしいわよー。だってー普通魔導人形は魔力を自ら生み出せる生物と違って魔核の貯蔵魔力に依存してるじゃないー?それは孫娘ちゃんも一緒なのに何で所有可能技能数が100もあるのー?』


 先程の話を再開しよう。

 今魔女さんが言った所有可能技能数。それが先程言った<所有技能>の隣に表示されている数値の正体だ。所有数/所有可能数で表示されており、この所有数というのは単純な技能の数ではなく技能の数と熟練度の高さで決まる。

 俺の技能は現在『言語理解Ⅹ』『家事Ⅴ』『料理Ⅴ』『裁縫Ⅱ』『農業Ⅲ』『魔導師Ⅰ』の6つ。

 そしてこの中の熟練度の数値を合計したもの、それが所有数として計算され、俺の場合は26となる。

 だが他の魔導人形さんたちの話を聞く限り多くても20程度までしか所有出来ないらしい。

 なので俺はこの中では壊れ性能などと言われているのだ。

 因みにこの不思議機能であるが誰も詳細を知らない。誰が作り出したかは勿論、何の目的があったのかも不明。ただ分かることはここに参加している人たちは皆俺のように魂を持っているわけではない。基本的に魔核に宿る魔力が人格のようなものを擬似的に作り出しているのだそう。例外としては俺のような存在や、魔核自身に強い意思が宿っている場合などだ。

 しかし侮ることなかれ。この魔力の擬似人格であるが、これは魔核に魔力を供給する者、つまりはマスターの気質に似るという事が分かっている。

 故に話し方や性格、ついでにハンドルネームからその人のマスターの人となりが分かるようで少し面白い。

 ある意味この所有可能数も俺が魔核に魂を有しているせいなのかもしれないな。

 生物の様に際限なく技能を所有できるわけではないが、そう言った部分から自分が本当に生きているのだと感じられるのが嬉しかったりもする。

 一応言っておくがマスターは自分の技能を全て把握していない。多すぎてだ。


孫娘『流石にそればっかりは分かりませんよ』

魔女『良いなー私なんて『呪怨魔法Ⅹ』に『死霊魔法Ⅹ』しかないっていうのにー』

執事『恐ろしい技能ばかりですね……』

騎士『お前の主人は一体お前をどうしたいんだ……』

魔女『さぁー?』

孫娘『所有数が多くたって魔女さんみたいに熟練度Ⅹなんていけませんよ……魔女さんの方がよっぽど性能可笑しいですって』

魔女『それほどでもー』


「ユーリ、そろそろ朝食が欲しいよ」

「あ、はいただいま!」


孫娘『マスターに朝食をせがまれたのでこれにて失礼』

執事『『家事』と『料理』持ちでしたか孫娘さんは。それはとても美味しい朝食が出来そうだ』

騎士『俺もそろそろ訓練の時間だな、お疲れ』

魔女『ばいばいー』


 やはり皆も朝は忙しいのだろうか。取り敢えず今はマスターの朝食だ。

 会話と並行して行っていた洗濯物を庭の物干し竿に吊るしてから朝食の準備に取り掛かる。

 魔導人形の動力は魔核に貯蔵されている魔力である。

 よって魔導人形は食事を取る必要はなく、マスターから定期的に魔核に魔力を補充してもらえば十分なのだが、必要がないだけで取ることは出来る。

 食べた物はどうなるの?と疑問に思われるだろうが、それは人間にとっての胃のような器官に送られてから魔核に吸収される。だが吸収したからと言ってそれが動力となることはなく、しばらくすると魔核内の魔力と交わり消えてゆく。


 朝食は基本的に簡単なものだ。朝食だけはマスターは五月蝿く言わない。理由は寝ぼけているからだ。

 マスターは朝に弱く、この間なんかはめんどくさくなってレタスをそのまま一玉出してみると何も文句を言わずに齧りだし、しばらくしてから違和感に気付いて最終的には魔法を乱発して家を倒壊しかねない暴れっぷりをしたほどだ。

 流石に今日は普通に作るがそれでもパンにサラダ程度のものである。


「どうぞマスター」

「あんがと」


 マスターに朝食を振る舞うと私は家事の時にいつも付けているエプロンを外して近くの椅子にかけた。

 そして身嗜みのチェック。今日は深緑の長袖の服に膝下までの長さの茶色のチェック柄スカートだ。

 棚からヘアゴムを取り出して自慢の長い銀髪を数回折りたたむようにしてアップさせ、ヘアゴムでコンパクトにまとめた。

 うん、我ながら可愛いじゃないか。どっからどう見ても美少女だ。


「じゃあマスター、いってきます」

「あいよ、昼には帰ってきな」

「はい」


 さて、お仕事に行きますか。

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