表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生先は魔導人形~地獄の借金100年ローン~  作者: 鈴兎
第二章 借金の始まり
19/42

第五話 敵対

次から漸く村から出て行きます。

「遅くなりましたね、ガリュオン」


 メリエルさんの遺書を見つけた翌日、次に私が済ませたかった用事はガリュオンの遺体の確認、そして頼み事を遂行するためだった。

 セフィーナさんから聞いていた通りガリュオンの遺体は森の中にあり、その姿はただ眠っているだけのような雰囲気を纏っていた。

 私がその姿を目に焼き付けていると、その背後から僅かに気配を感じた。

 それは知っている気配。私ではなく本当の意味でこの遺体の権利を持っている者。

 私は気配のする方へと声をかける。


「クリュア、出てきたらどうです?」

「ガルゥ……」

「警戒心というよりは怒り……本能的にガリュオンの顛末を理解しているといった所ですか」


 ガリュオンの背後に隠れていたクリュアが全身の体毛を逆立てながらゆっくりと姿を現した。

 子犬程度だったクリュアもあの半年で成長し、そこから三ヶ月も会っていない間に更に大きくなったようで、今ではもう立派なローウルフと言えるだろう。

 魔獣の子供というのは全て親の進化前の個体として生まれてくる。これに例外はなく、いくらあのガリュオンといえどそれは変わらない。所謂人間での技術などといった後天的に獲得したものは子孫に受け継がれないというのと同じ事だ。

 しかし遺伝的に受け継ぐものもある。それはこのクリュアで言えばガリュオンの血の他にもう一つ、人間の血である。

 半分人間であるクリュアにはローウルフが持っているはずのない『人化』の技能を持っている。

 そして今クリュアはそれを使い、私と対話しようとする。


「ゆー、り……」


 喋り慣れていないせいか舌ったらずで覚束ない口振りで私の名前を言う。

 人になっている状態のクリュアは半魔獣という事もあり完全な人間とはいかず、この世界に存在する亜人種の獣人と言ったところだろうか。

 頭部には元の狼の耳があり、尻からは尻尾が生えている。そしてこれはまだ扱い慣れていないせいかもしれないが、腕や足は体毛が残っており鋭い爪も健在である。口元の牙も多少は小さくなっているが目立つ程度にはまだ大きい。

 そのような狼の部分を残しているまだ幼い子供の容姿を持つクリュアは未だ怒りを露わにした状態で私に向かって牙を剥く。

 私はその姿を見て安堵した。


「クリュア、私は誰ですか?」


 とても分かりきった答えをクリュアに向けて問い掛ける。

 私の想像通りならば、きっとクリュアは私の望む答えを言い当ててくれる筈だから。

 私の質問に対してクリュアは何を言っているんだと言いたげな顔をした後、怒りをより一層に強めて必死に伝えたい言葉を紡ぐ。


「きさ、ま……ゆーり……ぱぱ、ころした……わたし、の……てきっ!」


 クリュアはガリュオンが大好きだった。私が目にしていたクリュアの姿はいつもガリュオンの側から離れない甘えん坊の子供。

 故に私はクリュアについて心配していた。

 もしかしたらクリュアはガリュオンの後を追ってしまうのではないかと。

 だがその時一つの妙案を思い付いた――


――そうだ、クリュアの敵となろう、と。


 私が親の仇として存在し、クリュアが私を憎悪する事で生きる目的を得る事が出来る。

 そう考えると私は一つのシナリオを描いた。

 クリュアはカースボアについて詳しくは知らない。だが奴を殺したせいでガリュオンが死んだ事は本能で理解するだろう。

 ならば親の仇は誰だ。カースボアを殺したのは誰だ。そう考えた末に辿り着くのは私という存在。

 しかしクリュアと私は面識があるし、遊んだ事も数回ではない程だ。

 いきなりそんな人物を恨む事は出来ないだろうが、私は既に三ヶ月もの間ガリュオンを放置していた。

 その理由が修理の為と弁解する事も出来るが放置したのには変わりなく、クリュアにとっては知り得ぬ事で、私への印象や好感度というものはその間に降下している筈。

 それが証明されたのが先程の出会った直後、クリュアは私の思った通りに怒りを私に向けて来た。ここでもし怒りの感情がなければもう一つ用意していた和解案を使っても良かったのだが、こうなっているならば敵対案を使うべきだろう。


 故に私はクリュアにとっての鬼となる事を決意した。


「正解です。では正解したご褒美にいいものを見せてあげましょう」


 自分でも気持ち悪いくらいの満面の笑みを作り、クリュアに向けてとても優しげな口調で語りかけた。

 そんな私の豹変振りにクリュアはより一層に警戒心を強めて身構える。

 そう、それでいい。

 私は心の中で呟きながら敵対する為に必要不可欠で、決定的となる殺した動機を告げる。

 『封印魔法』を解き、漆黒の直刀を手にしながら。


「クリュアには分かりますね?どうですかこの刀……いつ見ても惚れ惚れする程の歪みのない美しい漆黒の刀身、その漆黒はまるで全てを飲み込む虚無を顕現したかのよう。素晴らしいです、とてもとても素晴らしいです!ガリュオンもこの様な素晴らしい刀となれて本望でしょう!あぁ、安心してください。この刀はちゃーんと、私が正しく使ってあげましょう!そしてこの刀の最初の錆となれる栄誉を貴方に差し上げましょう、ねぇクリュア?」


 自分の身長程の長さの直刀を抱きしめ、足を絡め、荒い息遣いのまま刀身を指でなぞりながら。

 さも私が気の狂った狂人であるかのように見えるように。

 その効果は絶大であったようで、クリュアは全身を怒りで小刻みに震わせ始める。


「き、きさ……きさ、ま……そんな……りゆうで……ぱ、ぱぱを、ころし……たのかっ!!!」

「普通に殺すなんて私には出来ません。ですが運の良いことにカースボアの呪毒にかかっていたではありませんか。その毒ならばいくらあのガリュオンと言えど死ぬ。ならばカースボアを殺すだけで良い。また私は何と運が良いのか、カースボアにとって私は毒の効かない天敵、殺すのは簡単です。しかしガリュオンが妨害してくる可能性があった。クリュア、貴方を守る為にね。私の様な危険人物がいるとなれば警戒されるでしょう。ならいっそ仲良くなろうと考えた私は貴方達に近付いた。お分かりかしら?全ては私の掌の上だったという事です、ふふふっ」


 あらかじめ用意しておいた台詞を噛まずに言えた事に安堵しつつ最後に悪趣味な微笑も加えて完璧に演じ切った。

 我ながら素晴らしい演技力だ。魔導人形故に感情を隠して表情を作るなんて容易い。これならばハリウッド出演間違い無しであろう。

 自分の演技を自画自賛しながらクリュアの様子を伺うと、完全に私を敵として認識したようだ。全身からドス黒い魔力が滲み出ていた。

 その魔力には感服するが所詮は感情に任せただけの漏出であり、魔力の無駄遣いだ。

 魔力とはただ垂れ流すものではなく濃密に練り込み、精密な制御の元で使用する事により本来の力を発揮する。

 もっと言えばクリュアの実力はただのローウルフとそう変わらない。その上感情任せの暴走など愚策にも程がある。

 これはガリュオンの頼み事ついでに教育しておく方が良いだろう。

 私は刀を一度素振りしてから、適当な構えを取る。


「さぁ、『遊んで』あげましょう。もし私に勝てればこの直刀『黒狼刀』、パパを貴方に返してあげますよ」


 その言葉によって戦いの火蓋を落とされた。

 クリュアはその鋭い爪を立てて私に向かって突進してくる。

 その速度は速く、通常のローウルフの倍近い速さで私との距離を詰めた。

 流石はガリュオンの子、先天的に速さへの素養は持っていたという事ですか!

 距離が詰まりクリュアによる爪の攻撃が私を襲おうとするが刀によりそれを難なく防いだ。

 これは……少し過小評価し過ぎだったか。

 防ぐ事に成功はしたが爪は勢いを殺されても腕力により押し込まれる。

 いつもならばここで『強化魔法』でも使って応戦するのだが今はそんな事に使える程魔力に余裕がない。

 現状の貯蔵魔力は150程、これでは碌に魔法も使えない。更に言えば常に魔力を必要とする『深紅の長靴』も今は使用していない。

 刀に魔力を渡せばクリュアを必要以上に傷付ける事になるし、何より我が子をガリュオン自ら切らせたくはないのだ。

 故に私は刀を防御のみに使用し、魔法を使わずに己が身体能力のみでこの場を凌がなくてはならなかった。


「ガルルルルッ!」


 人の姿で獣のように吠えるクリュアは一度距離を取り、その俊敏な動きで私に捉えられないよう様々な方向へ動きながら再び爪で何度も攻撃を仕掛けてくる。

 だがそれも私は全て刀で防ぎ切る。

 私にとってウルフ系の魔獣とはとてもやり易い相手である。

 ガリュオンにより訓練の為にと倒して来たウルフ系の魔獣の数は結局千頭を優に超え、奴らに関してならば私はもう遅れを取る事はないと自負している。

 いくらクリュアの速度を持ってしても、それが人の姿であろうとも、攻撃のパターンはある程度決まっている。ならば私はあの時のように戦えば良い。

 しかし問題もある。

 攻撃を防ぐ事は出来るが魔力の無い今の私ではあの時のように魔法で応戦出来ないことだ。

 それにより当然の如く訪れるのは両者の均衡状態。クリュアが攻め、私が守る。

 その事を悟ると私は不意に笑いが溢れそうになる。

 これだと本当に「遊び」ではないか、と。


「さぁ、どうしましたか?それで終わりですか?」

「まだ、だぁ!」


 クリュアの纏っていた魔力が内側へと収縮していく。恐らく即興の『強化魔法』のようなものだろう。

 次の瞬間、クリュアの速度は更に上がる事となり目で追うのが厳しくなってきた。

 本当にガリュオンそっくりだな……いつかこの子が進化し、ガリュオンと同じ高みまで上り詰めたその時こそ私はこの子と本気で戦うとしよう。

 私はほんの少しだけ『深紅の長靴』に魔力を注ぐ。

 じゃあなクリュア、次会う時はもっと強くなっとけよ。

 邪魔になる刀は『封印魔法』で再び封印し、私はクリュアの攻撃を見極める為に意識を集中させた。

 左右に動き、その体がブレて見える程の俊敏性には舌を巻くがまだまだ無駄の多い動きに見える。

 恐らくガリュオンであればこの速度だとしてもその洗練された動きにより私が捉える事は至難の技となるだろう。

 クリュアがフェイントを混ぜつつ私との間合いを一気に詰めた。

 右……いや、左っ!


「ガァッ!」

「ふっ!」

「ギャッ!」


 クリュアの攻撃を正確に見極めて右足を振りかぶり鳩尾への一撃をお見舞いすると、クリュアは私の蹴りの衝撃により後方へ飛ばされながら呻き声を上げた。

 クリュアは後方の木にぶつかってそのまま地面へと倒れ、気絶したようでその場から動く気配はない。

 私は一つ大きめな息を吐き捨てながらほっとした。


「既にクリュア相手に手加減は厳しいですね……」


 蹴りの一撃で仕留め、余裕の勝利のように傍から見れば思われるだろうが実際の所とても危なかったと言える。

 そもそも魔力を一切使うつもりはなかったのにも関わらずクリュアのあの最後の足掻きを見た途端に考えが変わった。

 目で追うのもギリギリで、あれを見切れたのは半分程勘も混じっていた。

 あの見切りが失敗していれば負けていたのは私かも知れないし、魔力を使わなければこれ程までに綺麗な一撃を加える事も出来なかっただろう。

 私は倒れているクリュアを木にもたれかかるように座らせ、他の魔獣に襲われないよう簡単な結界を張っておいた。


「次に会うまでに、私も強くならないとな」


 それだけを言い残し私はその場から立ち去った。

クリュアは仲間になりたくなさそうにこちらを見ている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ