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転生先は魔導人形~地獄の借金100年ローン~  作者: 鈴兎
第二章 借金の始まり
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第三話 贈り物

説明をこの話でまとめたら長くなってしまいました。

そろそろ書き溜めが少なくなってきましたので一回の投稿量が少なくなるか、頻度が落ちるかもしれませんが何卒ご容赦を。

 さてと、これで私の体についての説明は最後だと言っていたし、これで長ったらしい説明地獄から解放されるわけかー。

 私が背筋の伸ばすために両手を天井に向けて伸ばしていると、不意にセフィーナさんが何かを思い出したかのように何処からか一振りの刀を取り出してきた。

 元の世界で刀に興味はあれど知識としてはからっきしだった私にも、その取り出された漆黒の刀が所謂直刀と呼ばれる刀身に反りのない古くに使われていた真っ直ぐな刀である事は一目で分かった。

 長さは全長で私と同じくらいで、柄は短く15cm程であろうか。両手で持つには短すぎ、この長さの刀を片手用として使う事が想定されているらしい。

 刃も柄も漆黒に包まれたその直刀であるが、何故か私はその直刀に何処か懐かしさのような感情を抱いていた。


「これ、は……?」

「名前はまだ決めてない。恐らく君ならこの直刀に相応しい名を"知っている"筈だからね」

「それはどういう意味でしょうか?」

「信じたくない気持ちが認識しようとする思考を邪魔しているのか?まぁ良いだろう、教えてあげる。この直刀は私が『錬金術』によりある魔石を加工し、『鍛治師』で打って完成させた物だ。そしてそのある魔石とは……はもう言う必要ないか」


 もう既にそれ以上言われなくとも分かっていた。そう、私が見間違うはずがなかったのだ。

 この刀身の鋭さはまるであの爪の如く、この漆黒はあの体毛の如し。

 柄に使われている皮も何処か見覚えのある質感があった。

 私はセフィーナさんからその刀を受け取り、細部に至るまで見て、触って、確かめた。

 そしてこの刀に、私は当然のようにその名を付けた。かつての私の憧れ、そしてそれは今でも変わる事がない、あの黒狼の名を。


「直刀『黒狼刀(ガリュオン)』……」

「ガリュオン……か、やはりあのエンペラーウルフが……それにしても死体を見て驚いたよ!あれ程の魔獣、私の人生でも五本の指に入る実力だ」

「そうですか……」


 私はもしかしたら直刀を抱えながら嬉し涙を流しているかもしれない。流れぬのは分かっているのだが、それ程に嬉しかったのだ。またこいつと出会う事が出来たのが。


「その刀は君にあげるよ。元々そのつもりで作ったし、何よりそれを扱えるのは君のその右腕だけだろう」

「どういう事ですか?」

「少し魔力を注ぎ込んでみると良い」


 私が言われるがままに直刀へ魔力を注ぐと、直刀が魔力に反応してその漆黒の刀身から黒い魔力が溢れ出してくる。

 その魔力に左手で触れようとすると静電気に触れた時のような、しかしそれの何倍もの強さの刺激が左手を襲った。

 思わず手を引いてしまったが直刀を持っている右手には特に何も感じない。

 もしかしたら吸魔石の働きによるものだろうか?


「それは自分で作っておいてなんだが魔剣となっているようでね。魔剣は使用者を自ら選び、使用者を常に試す。魔剣に見限られた使用者は魔剣に飲まれて死んでしまうと言うがそれもその例に洩れないらしい。だが私はちょっとした裏技に気が付いた。吸魔石でその拒絶反応を抑え込めるのではとね。結果はご覧の通りさ」

「だから片手用の柄の長さに……」

「そ、現状扱えるのは君だけだし、それはサービスって事で」

「……ありがとうございます。ですが、これは封印しておきます」


 私は『封印魔法』によって直刀を封印する。

 危険があれば使う事もあるかもしれないが、私はこいつに選ばれた訳じゃないのだから我が物顔で使うのはガリュオンに失礼だ。

 もし私がこいつを普通に使う時が来るとすれば、それは私がこいつに選ばれた時だろう。

 だからそれまでは、ゆっくり休んでいてくれ、ガリュオン。


 一時の別れを心の内で告げた後、セフィーナさんを見てみると何やら鞄を漁って何かを探していた。

 暫くすると目的の物が見つかったのか鞄の中から取り出してきたのは赤い布のような物だった。


「説明も終わったし最後に私から服のプレゼントー!」

「服ですか?」

「そそー、右腕を吸魔石で作って魔力補充が出来るようになったのは良いんだけどその分常に外気に触れさせていないと効率が落ちちゃうんだよ。なので、その問題を解決出来る画期的な服を思い出したので作ってみました!その名も――」

「――それチャイナ服じゃないですか」

「さ、流石異世界人、知っていたか……」


 セフィーナさんが声高々と紹介しようとしたあの赤い布の正体、それは何処からどう見てもチャイナ服であった。

 確かに腕を出しておくためには袖は邪魔になるだろうしノースリーブ系になるのは分かる。片腕だけ出すのも変だし、私にはアシンメトリーの趣向は持ち合わせていないため両腕出すのも分かる。だが何故胸元が大きく開いており魔核が晒されるようなデザインなのか。更に言えば何故太腿の中程までしか裾の長さがないのか。しかもどうしてそんなにスリットが足の付け根程にまで深いのか!

 心の中での猛抗議はセフィーナさんには聞こえず、着る着ないで一悶着あった後、最終的には着る羽目になった。


「かーわーいーいー」

「そうですか……というか魔核がむき出しで落ち着かないんですが」


 主人の魔力気質によって色の変化する魔導人形の魔核、メリエルさんを亡くした今の私の魔核は無色透明、光の反射によれば白くも見える何とも寂しい色へと変わっていた。

 そんな色の魔核をわざわざ目に見える様にしておくのも嫌だし、何より魔核とは魔導人形の心臓だ。急所を堂々と晒していて落ち着けという方が無理があるだろう。


「あえてだよ、あえて。マスターを持たない魔導人形がその事実を大っぴらにしている。君ならそんな訳ありそうな魔導人形に近づきたいと思うかい?」

「それは……まぁ、厄介ごとに巻き込まれるのは嫌ですし」

「これから借金返済のためにも君はこの村を出て働き口を探さなければならないだろう。そういった時、絡まれにくくなると思っての私の優しさだよ」


 多分半分以上は建前なんだろうな、とセフィーナさんの表情がニヤついている辺りから察する事は出来るが、セフィーナさんの言う事にも一理ある。

 街で過ごすにせよ、旅をするにせよ、一々相手に主人を失った魔導人形だと説明するのも面倒だし、その事ならいっそ一目見ただけで相手に勝手に想像させておいてやれば手間が省けて良いだろう。

 自分の中で意思決定が済んでしまえば後はもう気にしない事だろう。

 部屋にある姿見によって自分の格好を確認してみればあら不思議、可愛らしいチャイナ服の美少女がいるではありませんか。

 ……自分で言うのもなんだけどこれはありかもしれない。


「さぁ、大分改造の説明に時間をくってしまったが、他に質問はあるかい?」

「質問……では」


 私はセフィーナさんに私の意識が失われていた間の事を聞いた。


 まず日数、流石にあのような大改造を経ているのだから相当な年月が過ぎているのではないかと思いもしたが、ここでまた私は驚く羽目になった。

 私が眠っていたのは約三ヶ月、人間で言えば死んでいておかしくないような損壊から改造をした日数とはとても思えない早さであった。更にそれは材料となる魔鉱石を工面するためにかかった日数が殆どらしく、実際に改造を始めたのは一ヶ月前だと言う。


 その次にマスターの死後、これはセフィーナさんが責任を持って葬儀を執り行ってくれたらしく、遺体は焼却されて墓はこの村の墓地に立派な物が作られているのだとか。

 私としては一番心配していた事だったため、これを聞いて安心した。

 後で私の無事を伝えると同時に、感謝を告げに行こう。


 そしてガリュオンの事だが、これについては特に何もしていないそうだ。

 一応あれほどの魔獣の魔石をあのまま放置するわけにはいかないという事で刀にして私にくれた訳だが、後は殆ど手を付けず森の中で今の眠っているという。

 元よりガリュオンの遺体は私に任せることにしていたらしい。知らずにカースボアを討伐したとはいえ私がガリュオンを殺したようなものだ。

 セフィーナさんはこの辺りも考慮して遺体の権利は私にあると言う。

 因みにカースボアの死体はセフィーナさんにより焼却処分されたらしい。

 カースボアの毒は死してもその体内に残り、その血肉を食らったものは毒を受け継ぐと言われているらしく、あの時私を家に運ぶ前に手早く焼いたのだとか。


 ガリュオンについての説明が終わるとセフィーナさんは一つ私に借金の救済措置を提案してくる。


「あのエンペラーウルフの死体を私に譲ってくれるなら相当な額の借金、いや、あれ程の素材だしサービスで全額返済した事に出来るけど――」

「――譲りません」


 私はセフィーナさんが提案を言い終わる前に、被せるようにしてその提案を一蹴した。

 あり得ない。私が借金のためにガリュオンを売るなど、そんな事をするくらいならば私は自分自身の手で胸の魔核を破壊した方がマシだ。

 恐らくセフィーナさん自身もこの提案は無意味だと分かっていたのかやっぱりね、と言いたげな溜め息を吐いていた。


「そう言ってくれて一応安心した。もし受けるようなら勿体無いが君を壊す必要があった。じゃあこっちが本命の提案だ。ここに君のために私が書いた冒険者組合への紹介状がある。今後君にはマスターという最大の身元保証人のいないまま生活する事になるだろう。なのでこれは私から君に提示する一つの道だ。ここから北に向かえば交易都市アレイスという所があり、そこの冒険者組合にこの紹介状を渡せば君がマスターのいない魔導人形だとしても組合員としての身分を取得する事が出来るだろう。私としてはこの提案を受けるのが今後を考えれば妥当な案だと思うのだが、どうかな?」


 今さらっと私を壊すみたいな事言ってたけどまぁ終わった話だし聞かなかった事にしよう。

 それにしても冒険者か。

 冒険者、ファンタジーによくある魔物や魔獣を討伐してその見返りに報酬を得て生活する実力主義の存在。

 私は現在そこそこな実力は持っていると自負している。

 魔法をそこそこ扱え、接近戦も出来る。ファンタジー風に言えばこういうのを魔法戦士と表現するのだったか。

 今は『七変加速』が無いからどうなるか分からないが、私は単体危険度がB級だというカースボアを倒せたのだ。ならばC級迄なら何とかなるくらいの実力はあるだろう。

 十分とは言えないが、自己分析した所私ならば冒険者として何とかやっていける気がしたのでセフィーナさんの提案を受ける事にした。


「分かりました、その提案を受け入れます」

「よし、ではこれを君に渡しておこう。それとその中に書いているのだが、依頼報酬の八割を自動的に私の組合口座に入れる事が出来る手続きを冒険者組合で行えるようにしてある。どうするかは自由だが私としては自動振り込みをしてくれた方が安心出来るかな」


 詳しい事は分からないがセフィーナさんの言い方だと恐らく組合には銀行のようなシステムがあるのだろう。何て便利な異世界だ……いやこのシステムも異世界人が作り出したと考えれば当然と言えば当然か……。

 セフィーナさんが自動振り込みを推奨するのはやはり借金を踏み倒される事を防止する為と、私の生存確認がやりやすくなるからだろう。

 いくら私が魔力だけあれば生きていける魔導人形だとしても金はいくらか必要となる時もあるだろうし、そうなると冒険者組合で依頼を受ける必要がある。そしてその度に借金が少しでも減り、私が生存している事を把握出来る。

 うん、中々に考えられてるな。

 そういう事ならばと私は快くその提案も快諾し、それを聞いたセフィーナさんは手元にあった鞄を背負って部屋を出て行こうとする。


「じゃあ私は行くよ。三ヶ月もここに滞在してしまったから仕事が溜まっているんだ。また会う事があるとすれば君が王都に来た時だろう」

「はい、ではまた」

「またねー……って、重要な事をもう一つ忘れていたよ」


 ドアを開けて出て行く寸前にセフィーナさんは立ち止まり私の方に振り向く。

 正直もういろいろな事を聞いて驚いたせいでお腹いっぱいなんですけど……ってあれ?そう言えば今まで話に集中してたせいで気付かなかったが何やらお腹の辺りに違和感を感じる。

 しかしこの感覚は覚えがある。とても懐かしく、今まで当たり前のように感じていたが、この体となってからスッカリ忘れていた人間にとって大事な感覚……そう、これは――


「――空腹感っ!?」

「ありゃ、言う前に気付いちゃったか」

「ど、どういう事ですか!?」

「いやーどうと言われてもー」


 セフィーナさんに詰め寄り両手で肩を掴みながら私は問い詰めた。

 魔導人形にはそもそも生理現象は起きない。何故ならそれは私たち魔導人形は魔鉱石から作られ、魔力を動力源としているからで、食物から得られるカロリーを必須とする人間とは根本からして違うのだ。

 それなのに私は今、何故空腹感を感じている!?何故こんなに食べ物を求めている!?

 私の必死な形相に驚きつつもセフィーナさんは頭を掻きながらポツポツと話し始める。


「全ての生物は魂から魔力を作り出しているのは知ってるね?」

「はい」

「魔力は異世界人に言い換えれば生命力と同じだと言っていたよ。肉体の寿命、細胞分裂だったか?それを営むためにこの世界住人は魔力を使用してるそうだ。故に魂が擦り減り消えてしまえば生物は死ぬ」

「そ、そんな……」


 魔法があるファンタジーな世界。でもそれ以外、例えばヒトなどにこちらもあちらも特に違いはないと私は勝手に思い込んでいたのだろう。

 セフィーナさんの発言を聞いて驚きを隠せない自分がいた。


「ここで一つ疑問に思わないかい?確か三寸の虫にも五分の魂とか言うのだったか、魂は生物に等しく存在する。いい言葉だ、そして核心を突いている。私の調べた限り、この世界の生物の魂に誰として違いはない」

「どういう……事ですか?」

「生物の持つ本来の魔力量はみな同じという事さ。ただ、どれだけ効率良く使えているかの違いがあるだけだ」

「……何で、今そんな話を」


 私にはセフィーナさんの考えが全く分からない。何故今その様な世界の極一部の人しか知り得ないであろう情報を私に話しているのか、それに何の意味があるというのか。

 セフィーナさんは物哀しそうな表情となりながら、私に問いかけてくる。


「ねぇ、エルフは……いや、私はどうして長生きだと思う?」

「それは今セフィーナさんが言ったように……」

「エルフの寿命は確かに長いが、私程でない事ぐらい察しはついているだろう?」

「……これは、私の単なる想像ですが」


 理屈だとか、理論だとか、そう言ったものは全くもって私には分からない。

 だが一つ、前世に置いてのファンタジー知識を拾い集めて先程の話から推測するのならば思い当たるものがあった。

 しかしそれはあってはならないと思った。目の前にいるセフィーナさんが元の世界では禁忌、恐らく最も忌避される事を行っているなんて考えたくはなかった。

 それなのに、思い付いてしまったらもうこの事を忘れる事なんて出来ない。この人を見るたびに思い出してしまう。

 私は重苦しい口をどうにか動かし、セフィーナさんへ恐らく正解であろう予想を語る。


「……同族、喰らい」

「半分正解」


 答え合わせは何とも淡白な言葉によって行われた。

 その表情は妙な清々しさを感じるもので、恐らくセフィーナさん自身既にその長きに渡る寿命の中で自問自答を繰り返し、己が心の中で消化し切っているのだと考えると私にはそれをした理由を問い質したり、非難を言う気にはなれなかった。

 その後しばらく黙ってしまう私に対して、セフィーナさんは特に何も言わずに言うべき事だけを伝え始める。


「空腹感を感じるのは貯蔵魔力の残りが最大量の1割を切ると起こるようになっている。そして今の君は飯、と言うより生物を食えばその肉体に残る僅かな魂の残痕を吸収し、魔力が回復出来る術式を魔核に刻んでおいた。私が不運にも知ってしまった魂合成の下位互換と言えば分かりやすいかな。右腕の技術は誇れるものだが、それに関しては嫌悪感を抱かれるものだから説明をするか迷っている内に忘れていたよ」

「……」

「それと君の答えを一応正しておこう。言っただろう、魂は皆等しいと」

「もう、良いです……分かりました、から」

「同族だけなんて生易しい。覚えている限り私は――」

「――もういいです!そんな、そんな悲しい顔でそれ以上自分を責めるのは止めてください!」

「っ!?」


 セフィーナさんは泣いていた。泣きながら自分の犯した罪を言葉にしていた。

 とても苦しそうで、悲しそうで、今にも罪悪感により押し潰されてしまいそうな程、今のセフィーナさん小さく、弱々しく見えた。

 私はそんな姿を見ていられなくなり、止めた。

 するとセフィーナさんは涙を流しながらもはっと顔を上げて私を直視した。まるで信じられないものを見るかのように。


「君もそう言ってくれるのか、こんな大罪人の私に……やはり君はメリエルの魔導人形……いや、孫娘のようだ」

「メリエルさんも……?」

「そうだ。そしてこの事を知っている者は私と君を合わせて四人。しかしもう私と君しか生きていないがね」


 今度は罪の意識からの苦しさではなく、故人を思い出しての寂しさとも違う悲しげな表情で口にすると、セフィーナさんは一度俯いて気持ちを整理してから笑顔で顔を上げた。


「じゃ、私帰るから!それと普通のエルフは単なる長寿だから気にしないでね!」

「え、あ、ちょっと!?」


 私が制止する前にセフィーナさんは颯爽と部屋を飛びして行き、窓から外を見ても既にその姿は豆粒のように小さくなって次第に消えていった。


「何と言うか、いろいろと凄い人だっなぁ」


 セフィーナさんが去っていった方向を眺めながら私はそう呟くしかなかった。


――――


「リーシャ、ガリュオンの最期、しかと見届けたぞ」


 森の中、静かに眠る漆黒の狼を見詰めながらセフィーナは誰に向かって言うでもなく、ただ胸に手を当てながら呟いた。

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