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第十三話 カースボア戦

第一章最終話となります。

 私は右足に意識を集中し、『七変加速』を出来るだけ相手に気取られないように起動させる。

 今『七変加速』の貯蔵魔力は7000。第三まで一気に駆け上がることが出来る。

 ならば先手必勝、一瞬で仕留める!


「くたばれ、カースボア」


 私は息を大きく吸い、そして大きく吐いたところで一気に相手との距離を詰めていく。

 カースボアも接近してくる私の存在には気付いた。

 だが――


「――遅いっ!」


 電撃を纏わせた右足の蹴りがカースボアの後頭部に直撃し、蹴った反動により私はカースボアの背後に着地すると同時に第二変速も解除した。

 更にもう一撃先程とほぼ同じ場所へと蹴りを加えると今度は背後を取られるのは不味いと判断したのか、カースボアは体を無理やり捻り私の姿を追う。

 だがその行動を取った事は愚策としか言いようがない。

 続け様に第三変速を解除。そしてカースボアがこちらに向いていた瞬間、右足の加速によって正面から突っ込んでいく。


 結局のところ、私は決定打となる技を身に付けるまでにはいかなかった。

 一朝一夕でそんなものが身に付く訳がないので、決して私の物覚えが悪く、出来の悪い教え子であったわけではない。断じて否!

 決定打を得ることが出来なかった私はガリュオンとの戦闘訓練の中、一つの答えを導き出した。

 一点集中攻撃。

 どんな生物でも急所というものは必ずしも存在し、それは魔獣でも同じこと。

 私はカースボア討伐にあたって一つの戦術を考えた。

 確かに急所へ一点集中攻撃できればそれだけで勝てる可能性はあるが、そんなことをはいどうぞと攻撃させてくれる相手などいるはずがない。

 故に私は第一撃、二撃を捨てることにした。

 第一撃、二撃は共に同じ場所で、相手が苦痛もしくは不快感を覚えるであろう場所を攻撃する。

 そして第三撃が本命の急所への攻撃。この攻撃の結果によって今後の展開が一気に変わる。

 名付けて「三度目の正直作戦」だ!


 第三撃、丁度第三変速が解除され、速さも十分な蹴りの向かう先、それは――


「――左目、もらったぁ!!!」


 右足を振り抜く。

 赤い装甲の状態である『七変加速』の強度と速度、更に狙いもドンピシャ。

 結果、右足のつま先はカースボアの左目を再生不能な程まで木っ端微塵に破壊し、カースボアも左目を潰された痛みにより断末魔のような叫び声を上げていた。


 上手くいった。

 私は心の中だけでガッツポーズを取る。

 もしこの第三撃が上手くいかなかったらと思うと冷や汗をかく。

 たった三度目の攻撃で私の速度、更に戦術をも看破されていてはもうそいつは私の敵う相手ではないだろうからな。

 因みにこの戦術は当然ガリュオンとの模擬戦でも使用し、第一撃を放つ前にガリュオンに吹き飛ばされたのは苦い思い出。

 その時の事を思い出し、一瞬気を緩めてしまった直後、激しい断末魔が急に止んだ。


「っ!?」


 私が視線を一瞬逸らしたそのわずかな間でカースボアは私に向かって突進して来ていた。

 あまりの速さに反応が遅れてしまった私は間一髪で右足に力を込めて左へと跳躍。

 その数瞬後、私が立っていた場所に突進してきたカースボアは森の木々の太い幹をへし折りながら方向転換し、そのまま私の方へと戻ってきた。

 今度は余裕を持って避ける。流石は猪、走り出した方向以外には急に変われないらしい。

 私が避けた場所から大きく旋回し、私の目の前を通り過ぎていくのを見ながら、私はついでとばかりに炎雷を右足に纏わせて腹部を蹴り上げたが……。


「ぐっ!か、硬いなぁ……」


 カースボアの強さは毒とこの強靭な肉体による防御力にある。

 以前ガリュオンから言われた通り私の攻撃では決定打にはならず、先程のような目などの体毛に守られていない急所への攻撃で倒すしか方法がない。

 だがそれは向こうも理解しているだろし、もう三度目の正直などと言った奇襲では攻撃を通す事は出来ないだろう。


 ここからが本当の戦い。

 私の速さが勝つか、相手の耐久性が勝つか……勝負だ!


 私とカースボアはここで初めて互いを目の前にして対峙する。

 私はカースボアを睨み付け、カースボアはそれが何だとでも言うように唸る。

 互いに間合いを保ちながら機を待つ。

 いくら速度で勝っていようともカースボアが遅いわけでは決してなく、油断をすれば捉えられる。

 しかも相手は私の攻撃、致命打となるものだけに気を付ければ良いだけで、それはとても限られており現状目、鼻、口、耳、生殖器や尻の穴といった体毛が薄く、粘膜で構成されている部分だけだ。

 恐らく敵に背後を取らせるなんて真似は先の奇襲といった手段のみでしか不可能であるだろうことから、相手は結局顔面への攻撃だけに集中しながら私の隙を伺っていればいい。

 それが分かっているからこそ奴は動かない。こちらが焦れて攻勢に出るのを強者の立場から見下ろしているのだ。


「……気に入らない」


 突進と噛み付き、主な攻撃手段がそれだけしかない相手にここまで警戒せねばならないことが気に入らない。

 馬鹿みたいに突進して来てくれればどれほど楽なものか。

 だがこうしてただ時間だけが過ぎて行くのは私にとってはデメリットしかない。

 『七変加速』を維持するのにも魔力はかなり消費する。今だって封印して保存しておいた魔力を解放しながら維持しているのだ。

 このままではガス欠を起こし戦闘どころではなくなってしまう。

 本当に気に入らない。

 敵の意図が分かっていながらそれに従うかのように動くしかない自分の無力さが、気に入らない!


「第四変速、『加速』!」


 四つ目のギアを解放する。

 ここからは私自身との戦いに近い。

 第四変速からは魔力の消費が途轍もなく上昇する。

 今まで使っていた第三変速までならば魔力が1000あれば十分は維持することができるだろうが、それ以上の変速を使えば魔力消費は加速度的に増えていき、第四変速であれば魔力1000など一分が限界だろう。

 現状私の貯蔵魔力、封印している魔力を全て合わせても十万に届かない程。

 このまま第四変速のみで戦闘すれば約一時間半の戦闘が可能だが……きっとこれ以上も必要になるだろうことを考えるともう悠長に構えてはいられない。

 私は右足に力を込める。限界近くまでクラウチングスタートに近い姿勢のまま溜める。


「レディ、セット……っ!」


 目にも止まらぬ程の速さ、瞬間的な最高速度は私の純粋な速さの16倍、時速では400kmオーバーでカースボアに向かって跳ぶ。

 この速さにまで到達してしまうと魔法で強化した左足を使っても走るという事が出来なくなるため、こうやって右足の踏切による跳躍での直線的な加速しか出来なくなるのがやはり難点だ。

 考えてみると私の方が猪突猛進と言われそうで少し嫌だな。


 一気に最高速度の増した私の速さに対応できなかったのかカースボアの視線は私を追い切れておらず、私はカースボアの左側頭部を擦れ違いざまに炎雷を纏った蹴りを食らわせた。

 丁度耳に近い所で耳の付け根の裏に当てることができ、有効打となってカースボアは再び鳴き声を上げた。


「まだまだ行きますよ!」


 後方への着地、そして跳躍、木々の幹を圧し折りながら三次元に動き回る。

 カースボアが私の動きを捉え損ねたところで接近して一撃を加え、再び離脱する。

 超高速でのヒットアンドウェイ。これによりカースボアの両目、右耳、鼻を潰すことに成功した。

 だが流石にこのまま楽に勝たせてくれるような相手ではなかった。

 カースボアは私の考えていた以上に順応が早かった。

 徐々に私の速さに対応出来るようになり、先程から容易に接近することがかなわず、下手に接近すればこちらが傷を負う始末。

 現状では致命傷となるような傷は負っていないが、このままだとやはりジリ貧となりそうだ。

 ……だが、ここで第五変速まで上げたとして残り数分でこいつを倒すことが本当に出来るのだろうか。

 第五変速は今の魔力量では維持するだけで数分が限界だ。更に言えば先程から第四変速での三次元的動きをやり続けていた弊害として股関節周りからミシッとかギシッなどの嫌な音が鳴っているのである。

 このまま動き続けるのでさえ辛いこの現状で何が最善の選択なのか。


「考えるまでもない……かな?」


 私は一旦カースボアと距離を取って着地する。

 その際にパキッとどこかの部品が壊れたような音がしたがこの際気にしていられない。

 第四は対応されてこれ以上の続行は無意味、第五はまだ試していないが第四で与えられたダメージを考えるとあまり期待出来ないかもしれない。

 ならば……もっと速く、もっと強く、最高の一撃によって相手を倒せばいいだけの話だよね。

 本当は使いたくはない。

 理論上は音速を超え、その速度をもってすれば目の前の猪風情一撃で落とせる自身がある。しかしそれを行った場合、これも理論上だが私の体は全壊、運が良ければ半壊といった所だろう。

 そして発生源である『七変加速』はどう足掻いても壊れる。

 こんな所でこいつらを失ってしまうのは辛いが、ここで死んでしまったら何の意味もない。

 元よりこの猪を倒すために作った私の最強の右足だ。

 奴の冥途の土産としてくれやるのもまた一興か。


「良いよね、私の同胞達……」


 答えが返ってこないのは分かっていた。

 だが、最初に問いかけたあの時と同じように『七変加速』はその赤い装甲を輝かせる事で反応してくれた。

 ありがとう。私は心の中でそう呟いてから自身の封印している魔力を全て解放し、『七変加速』へと送り込んでいく。


「第五変速、『加速』」


 赤い装甲の輝きが更に増していき、右足の力が漲ってきているのを感じながら私はもっと魔力を送り込む。


「第六変速、『加速』」


 第六変速、恐らくこの段階で既に私の最高速度は音速と追いかけっこすれば勝利を収めるほどの速さまで上昇しているだろう。実際に動いてみなくとも直感的に理解出来る。この状態でならばやれると。

 赤く、眩い程に光り輝く『七変加速』を眺めながら私は再びクラウチングスタートの姿勢となり、今回は右足の裏をしっかりと固定できるように地属性の魔法を発動し、地面を隆起させて固める。

 きっとこの程度のスタート台では脆過ぎるだろうが無いよりかはマシだろう。

 私が更に魔力を注いでいる間にカースボアもこの膨大な魔力量を感じて危険を覚ったのか私に向かって突進してきた。

 先程よりも力強く、速さのある突進は私の魔力の注入が終わるよりも早く接触に至った。

 この野郎、必殺技前に攻撃しかけるのはマナー違反だろうが!

 魔獣にそんなことを察しろと言う方が無茶な話であることは理解しつつも私は心の中で悪態をつきながら咄嗟に体を左に捻り、右腕で身体を守る様に構えてそれを正面で受け止めた。

 くっそ、思った以上に……きつい!

 カースボアの突進は『強化魔法』によって強化されただけの右腕では受け止め切ることが出来ず無残に破壊され、勢いの止まらない突進はそのまま私の胴体をも破壊す尽くすほどであった。

 しかし、それよりも先に私の魔力注入が早い!

 突進により軽く宙に浮いた状態であるが、右足さえ無事であればどうとでもなる。

 私は最後の望みをかけて最初で最後の必殺技を繰り出す。


「第七変速、『加速』……『超音速蹴撃破(ソニックウェイブ)』!!!」


 第七変速へと切り替わった瞬間に宙に浮いた状態にも関わらず私は右足を思いっきり後ろに反らす。

 全力を持って溜めに溜めた魔力を注ぎ込み、一気にカーズボアの下顎に向かって蹴り上げた。

 理論上音速を優に超えるその蹴りはまるで戦闘機の起こすソニックブームのような衝撃波を起こしながらカーズボアへと迫り、右足が下顎と接触した直後、私は既に右足を振り上げて勢いを殺し切れずに宙を回って地面に落ちた。

 そしてそれに遅れてとても重い何かが地に落ちたかのような重厚な音が鳴った。

 私が潰れた体で無理やりもがく様にして体勢を変えてカースボアのいた所を見ると、そこには頭部を失ったカースボアが地に横倒しになって息絶えている姿だった。


「は、はは……やって、やった……メリエルさん、ガリュオン……私、やりました。で……も……」


 カースボアの討伐を確認して気持ちが落ち着いてしまったためか私は急激に意識が朦朧としていくのを感じた。

 確認してみれば魔力の残量がもう残り僅かとなっており、それも当然かと思いながら私は仰向けになって空を見上げる。

 右腕と右足はもうダメだなぁ……『七変加速』の最後の一撃で腰回りもグシャグシャだ。比較的無事なのは頭部だがいつの間にか視界が左半分だけになっていた。恐らくあの突進を食らった時に潰れてしまったのだろう。そう考えると頭部も右半分はヤバいかもしれないな……。体の左側は一応形としては残っているけど魔力が循環している気がしない……魔核からの魔力が一方通行でどこからも戻ってきていないという事はきっとそういう事なんだろう。

 カースボア一体倒すのにこの満身創痍、というか生身であれば普通に死んでいるような状況、これを勝利というには微妙な決着だな。

 だが今意識のあるのは私だ。今生きているのは私だ!これは誰にも覆させない。

 この戦いの勝者は間違いなく自分であるのだ。


「ふふっ、何とまぁ満足げな表情な事で」

「っ……だ、れ?」


 唐突に声が聞こえてきた。

 あ、右耳も潰れてそうだな。上手く音が拾えない。

 声の正体は分からないが女の声であろうことは分かる。だがしかし何故このようなところに?

 ここは森であり、村からも大分離れている。ちょっとしたハイキングにしては相当無理のある場所なのだが彼女は一体何者なのだろうか。

 だが私の疑問には一切気付かず、もしくは気付いていたとしても無視して話し始めた。


「君、助かりたい?」

「え……?」

「出来れば『はい』か『イエス』、もしくは跪きながら私への感謝の言葉と共に了承してくれるとありがたいのだけど?」


 ……何か凄くヤバそうな人に出くわしてしまったらしいが、この人は私を助けることが出来るような口振りだ。するともしかしなくともこの人は魔導技師の可能性が高い。

 今この状況で私が助かる方法はメリエルさんかガリュオンによってこの場から脱出し、メリエルさんの研究室にて修理されることだろう。だがそれまでに私のこの魔核からの魔力漏洩とも言えるような循環機能不全がどうにかならなければこのまま私は完全に魔核内の魔力を失い、そのまま放置されればただの水晶のような物質へと変わってしまう。

 魔核が魔核としての機能を失えばそれは既に魔石に戻ることなくただの綺麗な水晶のような物となり、その後絶対に魔核となることは出来ない。それすなわち、魔導人形の死である。

 このまま死ぬ?……ふざけるな。こちとらこんな猪倒したくらいじゃ異世界満喫したとは言えねぇんだよ。

 未練だってある。

 メリエルさんには感謝しきれないくらい世話になった。あの人がいなければ私に二度目の生はなかったかもしれないし、その後も色々と世話を焼いてくれた。ここまで強くなれたのもメリエルさんの研究資料や鍛錬があったからだ。

 それにガリュオンにだってとても世話になったし、何よりクリュアを頼まれたんだ。いつあいつがいなくなるのかは分からないが一度くらい顔を見せてからじゃないとあいつも安心して行けないだろう。

 ならば私の答えは決まっている。


「助け……くだ、さい……」

「よろしい、これで契約は成立した。証明として君の残りの魔力を契約に使わせてもらう」

「あぁ……」

「安心して眠りたまえ。後の事は私に任せてくれればいい」

「は、い……」


 ゆっくりと魔力が吸い取られていく感覚を抱きながら私はこの魔導人形の生涯において初めてとなる眠気のようなものを感じつつ、意識が心の内側の深い場所へと落ちていった。


「ふふっ……毎度ありっ!」


 最も聞いておくべき言葉を聞く前に。

漸く終えることが出来ました第一章、いかがだったでしょうか?

もう少しいろいろと深く話を練りたかったですが私的にはタイトル詐欺と言われない内に借金生活をユーリにさせたかったので出来るだけテンポよく話を進めたかった所存です。

もしかすると今後この第一章中に触れることが無かった部分を小話感覚で掻くかもしれませんがしばらく後になるでしょうね。

さて、今回初めて?ちゃんとした戦闘を書きましたが難しすぎますね、はい。

その場の臨場感と言いましょうか、そう言ったものが出せた気が全くしません。

そして私はユーリを最強に出来るだけ"したくありません"ので『七変加速』には壊れてもらいました。

もしかすると最強系主人公が好きな方にはあまり面白くないかもしれませんが今後ともユーリには辛勝もしくは敗北を味わってもらうつもりです。覚悟しろユーリ!

そんな感じで皆様には今後ともお付き合いくださると喜ばしい限りです。


ではまた第二章でお会いしましょう!

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