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第九話 調律王

祝!累計PV1000突破!!!

いやーいけるものですね!

最初の投稿から既に一週間を過ぎていますが、ここまで早く行くとは思っていませんでした。

これも読者様方のおかげ!今後ともよろしくお願いします。

 少し腕に自信のある者なら群れでない限りそこまでの脅威ではないローウルフ。

 我はその内のただの一匹にしか過ぎなかった。

 生まれてから数年、同じ年に生まれた同胞達は殆どが死に、後に生まれた者も我より先に死んでいくなんてことは日常だった。

 今にして思えば我は悪運が強かったのだろう。

 我がいない狩りの時によく人間からの襲撃を受けていた。

 運よく生き延びているだけの小者。逃げ足だけは一人前の弱虫。そんなことを言われる日々。

 ローウルフは長生きしても30までには死ぬ。

 丁度我が20の時だったか。

 我が棲んでいた森に火が放たれた。

 後になって知ったが、それはその周辺の領地を持つ領主の手によるもので、領地開拓のために手っ取り早く森の木々の処理と魔獣掃討をするための行為だったらしい。

 結果は成功。

 木々は燃え尽き、魔獣の多くは火に巻き込まれて死に、逃げ伸びたとしてもどこかの森まで逃げ延びたものが何匹いたかは分からなかった。

 その中で我は足を火に炙られ、重度を火傷を負ってしまい森から逃げることが出来なかった。

 立ち込める煙を吸い過ぎて意識が朦朧とする中、死を覚悟した。だが、諦めきれない心が我の中の奥深くに存在することを知った。

 こんな所で死にたくない。死んでたまるものかと我は足掻いた。

 意識は判然とせず、足は満足に動かない。だが燃え尽きない感情だけが我を突き動かしていた。

 結局どこまで進むことが出来たのかは分からない。我は途中でいきなり視界が真っ暗となり、そのまま体を動かせなくなった。

 きっとそれが死というものなのだろうと我は足掻いた末に死を受け入れようとしていた。

 だが我は再び光を目にすることとなった。

 状況を確認するために周りを見渡すとそこはこじんまりとした小屋のような場所であった。

 一体何故こんな所にいるのか。何故我は生きているのか。不思議でならなかった。

 状況を掴み切れぬ中、周囲をきょろきょろと見渡す我の前に一人の少女が現れた。

 そして少女は言った。


『貴方の名前はガリュオン。今決めたわ。今日から貴方は私の契約魔獣よ』


 それは我の運命を変える一言であった。


――――


「あのーガリュオンさん?」


 流石にこのまま聞いていると夜を明かしそうな勢いで話されそうだったために私はガリュオンに向かって声をかけた。

 すると話の腰を折られたことに不満を覚えたのかガリュオンが軽く私を睨んでくる。


「(なんだ、今いいところじゃないか)」

「いや、まぁそうなんですけど……それって本当に私のためになります?ここから相当なのろけ話を聞かされそうで」


 そう、私の懸念は時間的な問題も確かにあるのだがそれよりも重要な事があった。

 それは美女と野獣展開。

 某国の王女様と醜い野獣のラブストーリー的な展開になりそうだったのがとても嫌だったのだ。

 あまり言いたくはないが前世の私は彼女いない歴=年齢と言う可哀想な童貞君である。

 だが一つ訂正を入れるとすれば私は告白をしたこともあるしされたこともあるのだ。決して大人になれば勝手に彼女なんかは出来ると高を括っていたらおっさんになっていたという無様な人間ではない。

 そんな私だがやはり美女が野獣とくっ付く様な恋愛物はとても虫唾が走る。

 あんな奴より絶対私の方が良いのに!と心の中で思ってしまうのだ。

 多分そのような理由で嫌っている人は私以外にも存在しているはず。

 そんなラブコメの気配をガリュオンの話から感じられたので私はガリュオンに不満を持たれようと一旦話を止めてもらったのである。

 するとガリュオンはそんな私を鼻で笑うかのように一蹴する。


「(ふん、あの女との関係がそのような可愛らしいものであるはずがない。我は結局のところ護れなかったのだから)」

「ガリュオン……?」

「(ここからがお前に聞かせたい話だ)」


――――


 あの日から我はその少女、のちにリーシャ・ラウル・グラインドと名乗ることになる者との主従関係が始まった。

 リーシャは赤い髪と瞳を持ち、整った顔立ちをしていたが難民であった。

 親の顔も知らず、兄弟もいない。頼れる身内もおらず一人で生活していた。いや、生きていたと言った方が合っている。

 リーシャは魔法の才能を持っていた。

 故にその力を使い、傷付いた我を見つけた彼女は治療してくれたのだという。

 だが個人で習得出来る程度の魔法はあまり強くなく、そして数も少なかった。

 当然契約を結ぶための魔法なんてものは知らず、我は別に彼女に縛られていたわけではなかった。

 しかしこの状況、命の恩人たるリーシャに何も返さずに去るなどいくら昔の我であっても耐えられるものではなかった。

 我は契約も無しにリーシャに従う事にした。せめて彼女が大人になり、一人でまともな生活が出来るようになるまではと考えて。

 それからの日々は我の生涯においてとても有意義だったと言えよう。

 リーシャはその魔法の才能を駆使し、弱い魔獣を倒す度にその素材と魔核を売り、日々の生活費としていた。

 そんな生活の中で、偶然森で近くの街を拠点として活動しているという冒険者数人と出会った。

 街自体には素材を売るために出向く事はあったが、身分証もないリーシャはその中で生活する事は出来ずに郊外の小屋にて暮らしていた。

 その様な事情を冒険者達に説明しているとその中の一人が何かを思いついたかの様に手を叩いてこう言った。


『ねぇ君、冒険者にならないか?』


 その提案は今思えば当然とも言えよう。

 多少なりとも魔法の使える少女と、それに従う魔獣。そのコンビにて今まで数多くの魔獣を相手にこの森で狩りをしていた実力があるのだ。冒険者として申し分ない。

 それから我らは彼らの紹介もあり街を拠点とする冒険者とその猟獣となった。

 だがリーシャはおかしな事をしていた。

 街で生活している中で魔法の知識も増えていき、その中に『契約魔法』の事も含まれていた。

 それにもかかわらず、彼女は我と契約を交わさずにいたのだ。

 何故かと当然我は聞いた。

 そうしたらリーシャは笑ってこう言ったのだ。


『家族に首輪なんて着けたくないよ』


 目を丸くした。

 何を言っているのか一瞬分からなかった。

 当然であろう。何故なら我と少女は魔獣と人間。本来であれば敵同士。こうして今言葉を交わす事もあり得ないのだ。

 それなのに家族と言われた。

 出会いは偶然である。

 我の棲み家に火が放たれ、いつの間にか倒れていた。調べて分かったが我の森はこの街から南の方にあり、リーシャの普段狩りをしている森は北なのだ。

 リーシャはあの時偶然街に素材を売りに来ていた。

 そして火が放たれたのを見て、それが開拓のための事とは知らない彼女は様子を見に森の近くにまで出向き、我を見つけた。

 それだけだ。それだけの出会い。

 それから日々を共に暮らしたとはいえ彼女にとって我はただの魔獣。

 いずれ捨てられると思っていた。悪ければ殺されて生活の足しにされる覚悟もあった。

 なのに彼女は我を家族と言うのだ。

 これ程嬉しく思った事はない。

 我は誓った。

 生涯をリーシャ、そしてその子孫に至るまで、この命が尽きるその時まで守り続けようと。


――――


「あの、結局良い話なだけで何も私に得るものがないのだけど?」

「(五月蝿い、これからだ)」

「というかリーシャさんってガリュオンと会話出来たんですね」

「(『魔導師』だけでなく『調教師』としての才能もあった様だな。貴様程ではないが意思の疎通は問題なかった)」

「そうですか、では続きをどうぞ」


――――


 我とリーシャのコンビはすぐに街で有名となった。

 当たり前と言えば当たり前だ。今まで狩人の様な生活をしていた我らが低級冒険者の依頼に躓く事など一切なかった。

 十級冒険者から始まり、一年程でリーシャは四級冒険者にまで登り詰めた。

 その大きな要因は二つ。

 一つはリーシャの魔法の技能が日に日に洗練されていったこと。

 リーシャは数多くの魔法をその一年で習得し、適性が良かったのか『結界魔法』の成熟には目覚しいものがあり、その頃になるとⅧにまで熟練度が上がっていた。

 もう一つの要因は我だ。

 我もリーシャと共に依頼をこなしていく中で成長し、ラピッドウルフという速さに特化した魔獣へと進化していた。

 おそらくこの進化は我がリーシャの魔法行使の時間稼ぎを主に引き受け、相手を撹乱していた故の進化であろう。

 更にこの頃だったか、我に最初の角が生えたのは。

 最初はコブか何かだと思われていたが、日を追うごとにそれは長細く伸びて行き、今の様な角の形となった。

 角とは魔獣にとっての憧れ。その本数によって魔獣としての格が段違いだ。

 あの時はその角が誇らしくいつもリーシャに自慢していたものだ。

 それからも我らの活動は順調であった。

 いや、順調過ぎた。

 冒険者稼業ももう十年程になる頃、リーシャは冒険者としての多大なる功績を評価され領地を貰えることになった。

 リーシャの『結界魔法』は既にⅩとなっており、その力を使い様々な都市に強固な結界を張る事でS級と指定されている魔獣以外からの攻撃を全て防ぐ事が可能となったのだ。

 これはとても素晴らしい事で、リーシャに与えられたのは中立の立場にあるグラインド共和国という国の王都に程近い、広大な領地だった。

 近年そこを統治していた領主が急死し、丁度席が空いていたという事だった。

 それからというもの、リーシャはいきなり伯爵位を授かり領主としての仕事に追われるようになった。

 だがそれは逆に狩りなどの命の危険を感じる事なく安心して暮らせる居場所を手に入れたのだと我は思い、リーシャの下から去る事にした。

 リーシャ自身は我にいて欲しいようだったが、周りの空気はそうは思っていなかった。

 それはそうだろう。

 結界による功績の多い領主が退けるべき魔獣、しかも契約もしていないものを側に置いているなど誰が快く思うものか。

 我も既にあの頃とは違った。

 ラピッドウルフから更に進化し、ソニックウルフとなっていた我に速さにおいて追従するものなど存在しなかった。

 その速ささえあれば我は単身で負ける気もしなかった。

 故に我はその場から去り、しかしやはり気になるためにリーシャの領地の近くに棲み家を作りそこで生活をする事にした。

 そしてまた時が流れた。

 人間と生活していないと今がいつなのか正確に知る事が出来なくて正確には分からんがおそらく十年は経っていただろう。

 その間にリーシャとは一度も顔を合わせていなかった。

 リーシャは数年前に王が死に、国民の支持により王へと出世していた。

 その時からリーシャはただのリーシャではなく、リーシャ・フォン・グラインド。グラインド共和国国王となった。

 一方我は十年で特に変わりはなかった。強いて言えば成長により体が大きくなったくらいであろう。

 今の状態と比べれば半分よりもう少し大きかったくらいだ。

 進化は起こっていない。おそらくこの辺りが我の成長限界なのだと考えていた。

 しかし、それは間違いだったようだがな。

 中立を保って来たグラインド共和国だが、それは左右を他国に挟まれる形で存在しており仕方なくという面が見られていた。

 だがそんな時に一つの噂が流れ始めた。


『グラインド共和国はアルフェリナ王国を援助している』


 それは根も葉もない噂であった。誰が流したのかさえ分からない。

 だがそれが引き起こす事態は予測出来た。

 右の王国に援助しているとなれば、左のドグマ帝国が黙っていない。

 案の定、ドグマ帝国はグラインド共和国に対し宣戦布告を出した。

 中立の立場を守り続けてきたグラインド共和国にとって戦争などというものは国が創られてから今まで数える程度の小競り合いくらいしか経験がなかった。

 当然そんな国にまともに戦える戦力など無いに等しく、ドグマ帝国軍による侵略はグラインド共和国の国土を半分にするほどにまで迫ってきていた。

 我も流石にそこまでになると事情を察した。

 急いでリーシャの下へ駆けつけた。

 駆けつけた王都の王城の中では豪勢な服を着た者達があたふたと動き回っているのが見られたが、そんなことは我には関係なくリーシャの下へ向かうとリーシャは我に気付き前足へと抱き着いてきた。

 体がいくら大きくなろうと我の事が分かるのかと感心したものだが今はそれよりもやるべきことがある。

 我はリーシャに告げた。我が出ると。我が戦場に赴きドグマ帝国軍を抑えると。

 だがリーシャはそれを受け入れてはくれなかった。

 そしてあろうことか次にこんなことを言った。


『戦場には私が行きます』


 何を馬鹿な事を、と我はリーシャを止めようとしたが取り付く島もなくリーシャの決意は固かった。

 グラインド共和国は中立の国。現在その中立が崩れ、このままではグラインド共和国はいずれ滅んでしまう。ならば今残っている領土をアルフェリナ王国に吸収してもらい、結果的に領土を両国に半々に分け与え、中立国としての体裁を保ちつつグラインド共和国を終わらせたいのだと語った。

 言いたいことは何となくだが理解した。だがそれだとしても何故リーシャが戦場に赴く必要があるのか。

 我の疑問を分かっているかのようにリーシャは続けた。


『王とは、国と共にあるものです』


 何故だ。何故リーシャがそこまで背負わなければならない。

 見た目はまだ若い、20代にも見えるその女性は笑いながら語っていた。

 我はどうすればいいのだ。リーシャがいなくなれば我に生きる理由はない。

 本来であればあの場で尽きていたこの命、リーシャのために使えぬと言うならば何のために使えと言うのだ。

 我が悲しみに暮れていると、我の前足にリーシャとは異なるぬくもりを感じた。

 視線を落として見たそれは我を驚きのあまり固まらせるには十分過ぎる衝撃を与えた。

 そんな我の態度を見てリーシャがクスリと笑ってからそのぬくもりの正体を告げた。


『私の娘、アイシャです』


 10にも届かぬ年齢の少女。その髪と瞳の色はリーシャと同じく赤く、顔立ちに至っては我が初めてリーシャと会った時の顔と瓜二つであった。

 リーシャは固まっている我に向かって真剣な眼差しで言った。


『ガリュオン、私の家族、私の親友、私の守護者。その力を信頼して貴方にこの娘を預けます』


 その時、我は一体どんな顔をしていたのだろうか。悲しかったのか、嬉しかったのか、はたまた怒っていたのか。今となっては分からない。

 だが一つだけ確かな事は、我はその場にて無言で頷いたという事だった。


 死後、リーシャは調律王などと言う称号を冠された。

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