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第零話 俺は魔核

これから頑張っていこうかと思いますのでよろしくお願いします!

 拝啓、おぼろげな記憶の中にお住いのお父さん、お母さん。

 俺は多分元気です。


「えっと……ここをこうして、こうで、こうかね?」


 あ、そこじゃない。もうちょっと右の方でこうして、そうだよ!


「まぁこれでいいだろう」


 やめて!そんな中途半端な組み方しないで!?


「んー疲れたよ……一旦お茶にしようか」


 俺の目の前にいた年老いた女性が離れていき、しばらくするとティーセットと共に戻り椅子に腰かけた。

 そんなお婆さんの名前はメリエル・ファウル。

 御年米寿を迎えるとは思えない程しっかりとした足腰をお持ちな元気な人だ。年老いたせいで顔には皺がいくつも出来ていたが歳を考えれば大分少なく、60代、もしかしたら50代程に見えるくらいだ。

 くすんだ金色の短めの髪はさぞ昔の若かりし頃は光輝いていて美しかっただろう事を連想させ、蒼い瞳はまだ力が漲っているかのように鮮やかな色だ。


 さて、そんなメリエルさんが先程何をしていたかと疑問に思うだろう。答えは簡単だ。

 人形を作っているのだ。

 ただし普通の人形ではない。魔導人形だ。

 魔力を秘めた魔鉱石と呼ばれる物質を基本材料として使い、魔核という魔鉱石の中でも魔力の密度が高い物でしか作れない水晶のような物質によって魔力を魔鉱石製の人形の体に行き渡らせ、主人、マスターである魔導師の命令に忠実に動く下僕、それが魔導人形。

 その性能は主人である魔導師の力量、素材とした魔鉱石の質、魔核の魔力貯蔵量などによって様々で、世界広しと言えど人と同じで全く同一の性能を持つ魔導人形もまた存在しないと言われている。


「後、もう少しだねぇ……ユーリ」


 そうだね、メリエルさん。俺も楽しみだ。

 メリエルさんが眺めていたのは先程作業を中断した魔導人形。

 身長は120センチほど、蒼く光を反射する銀色の髪はくるぶしまで届くほどの長さで、瞳の色はメリエルさんに似た蒼い瞳。顔立ちは中性的だが髪の長さから女の子のように見える。

 だが魔導人形には性別などはなく、生殖機能も持ち合わせていないため胸や生殖器といった身体的特徴を持っていない。

 主人の作り込みによって胸部に膨らみを持たせたり、筋肉の膨らみを再現してガッチリとした体形を持つなどがあるが、その分魔鉱石が必要となるので一般的には中性の体で作る。

 早くメリエルさん作り上げてくれないかなー暇すぎて仕方ないよ。

 ちなみに俺の紹介もしておこうと思う。

 俺の名前はユーリ、またの名を瀬川秋彦。


 メリエルさんの作っている魔導人形の魔核である!


――――


 俺こと瀬川秋彦の前世は地球の日本、関西圏で生まれ育った。

 関西と言っても大阪、京都などの中心地からは離れていたため基本的には標準語に近い喋り方で、たまにイントネーションや語尾などが関西弁っぽくなる程度。正直に言えばガッツリの関西弁は俺には無理だと、高校時代の知り合いのガッツリ関西弁を聞いて悟った。

 故に自分では何となく関西弁っぽい喋り方してるなーと思う反面、学校では友人から標準語っぽいなどと言われることもしばしば。

 そんな感じでエセ?関西人生活を約20年ほどしていたある日、俺は命を落とした。


 特筆して書くようなことはない。ただの事故だ。


 あの日は少し浮かれていた。

 大学に通い始めてから友人に誘われて始めたギャンブル。パチンコやスロットから始め、しばらくしてから競馬などにもハマった。

 自分自身に博才はあまりないと思うが、やっている内に情報を集めていき中々良い成績が続いていたと思う。負ける時はやはり負けるが、俺はよくここ一番という時にはドカンと今までの負け分を上回る勝ち方をしていた。

 少し話すと、土曜の朝に講義があった日の帰りにフラッと競馬場に立ち寄り、気になっていた馬を選んで万札を使う。今にして思うと何て馬鹿な事をしたんだろうと笑い話感覚で話せるのは万札が数倍になって帰ってきたからだろう。


 そしてそんな生活をしていたある日、バイトの給料日にその全額をパチンコで使うという暴挙に走った。

 結果は大勝。友人に連絡を入れて焼き肉を食いに行った。

 今日は俺の奢りだなんて調子の良い事を言いながら楽しく酒を飲みながらワイワイした帰り、自宅近くで一人だった俺は横断歩道の信号が赤になりそうだったので小走りに渡りきろうとしたが、足がもつれて転んでしまった。

 酒を飲んだ量としてはふらつくような量ではなかった。元々酒には強かったのだ。

 だが今日は友人らと共に騒いでいたせいで雰囲気にも酔っていたのかもしれない。

 遠くの方からスポーツカーのような高速で走るエンジン音が聞こえてきた。

 焦りを感じつつも転んだ拍子に足をくじいてしまったようで酔いもあり即座に動くことが出来なかった。

 徐々にと言うには生易しい程の速さで距離が近づいているのが分かった。

 焦る心とは裏腹にまともに動いてくれない足。

 そうして俺は、ブレーキ音がけたたましく鳴り響くのを遠い意識の中で聞いていた。


――――


 そうして冒頭にいたる。


 え?端折りすぎ?死んでからが重要だろって?神様エンカウント?管理側からのコンタクト?

 ……何を言っているのか分からんな。

 いや、うん。分かっとー、うん。皆まで言わんで、ワシも何が何だか分からんかってんでホンマに?


 最初、本当に何が起こったのか理解出来なかった。

 死んだことは分かった。何もない世界で漂っていた感覚はある。だがその感覚が無くなっていったと思ったら気付けばメリエルさんの家の中、自分を確認できたのは近くに鏡があったからだ。

 視界は魔核である為か全方位見ることが出来る。

 俺は状況を把握するためにメリエルさんの独り言やメリエルさんの住んでいる村の人々との会話から言葉を覚える努力をした。

 不思議な事にそれはとてもスムーズに行われ、そして俺はこの世界の知識を徐々に知っていった。


 因みに言っておきたいことがある。俺はこの人生、いや魔核生とでも言えばいいのか?

 それは既に20年程になる。

 メリエルさんは魔導師だ。まぁ魔導人形を作っている時点で分かる事なのだが、それもとても凄い魔導師だという話。

 若いころは何処ぞの国の宮廷魔導師として仕えていたとか。だが後進に後を任せると言って60歳の頃に引退し、今いるエリム村に移り住み老後の生活を満喫していた、はずだった。

 ある日、メリエルさんの一人娘であるアリエルが家にやってきてメリエルさんに告げた。

 ユリエルが病で亡くなった、と。

 ユリエルとはメリエルさんの孫娘であり、お婆ちゃん子であったらしい。

 メリエルさんは孫娘の死に悲しみ、それからしばらくして決意した。魔導人形を作ると。


 魔導師は誰しも魔導人形を作れるという訳ではない。

 この世界には魔導技師という魔導師とは別の職があり、魔導人形の体を専門として作っている人たちがいる。

 その技術を生かして魔導義肢なる物も作っているらしいが基本は人形がメインなのだとか。

 だがあくまでも体だけであり、それだけならばそこまで魔導師を選ばずある程度の魔法の知識を持っている者ならば出来の良し悪しは別として出来る。

 問題となるのは魔核を創り出すための魔導師の力量。

 メリエルさんは知り合いの魔導技師に体をユリエルそっくりに作ってもらうように依頼し、自身は魔核を創り出すための研鑽を積んだ。

 そうして創り出された魔核が俺であった。

 メリエルさんの目標は孫娘を魔導人形として生き返らせること。だから俺は失敗作でしかない。

 メリエルさんは魔核にユリエルの魂を入れて封じ込め、それを魔導人形に取り付けることで本来魔導人形ではあり得ない自律魔導人形を創り出そうとしていた。

 自律魔導人形は魔核の魂に依存し、魂の持ち主であるユリエルが擬似的にだが生き返ったようになるとメリエルさんは言う。

 しかし第一試作品である俺以降、魂が宿った様子はない。


 人の心は月日と共に癒されると言うが、メリエルさんもまた約20年の試行錯誤の内に孫娘の死を受け入れていた。

 故にメリエルさんは唯一魂の宿った俺を使って魔導人形を一つ作り上げようとしていた。

 だが体は20年前に既に作り終えており、メリエルさんの手元で埃を被り続けていたので現在メリエルさんが埃などを取り除いて綺麗にすると共に最終メンテナンスをしてくれているところなのである。

 名前のユーリというのは確実にユリエルさんから持ってきている感バリバリであるが悪くない。

 この20年メリエルさんの悲愴な表情を見続けてきた俺としては最近のメリエルさんは吹っ切れて笑顔を多く見る。本当に良かった。

 そしてもう一つ最近になって判明した事実がある。

 落ち着いたメリエルさんは20年前に考えた自律魔導人形の制作方法には様々な勘違いと矛盾が混ざり込んでおり、自律魔導人形はどうやっても創り出すことが出来なかったという事だ。

 これに気付いたメリエルさんは俺が見た中で一番の大笑いをしていた。

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