勇者のその後?ーああ、全ては女王様のお遊びです。
「断罪イベントに婚約破棄?いえ、全ては女王様のお遊びです。」の裏側です。
この話だけでは分からないかと思います。
「よろしかったんですか?」
「何がだ?」
「あれでは、女王の好感度に影響が出ます。勇者を持ち上げる者が増えれば...」
「そうか?勇者なんてすぐに忘れ去られるものよ。悪魔やドラゴンを倒しに出ない勇者など、誰も興味をもたん。」
「そうですか。」
「ーーあんなやつのことより、我に何か言うことはないか?」
王宮の一等広い個室。
リムシアはギースの上で寛いでいる最中だった。
「何か?ああ、女王のいない間は平和でしたよ。私があなたの代理をすることに反対のものもいましたが、概ね大丈夫でした。」
「そういう話では、ない!」
リムシアはギースの硬いお腹にぐりぐりと顔をうずめた。
「分かっていてその態度を取るのだな?」
リムシアはギースに怒って見せた。
「ふふ、なんのことでしょう。」
ギースは思わず笑った。
「もう今日は離さぬ。明日もずっとじゃ。」
リムシアはむぎゅっと、ギースに抱きついた。
「もう何年も経っていたなんて、不思議な気分ですね。」
「何年!?四年と三ヶ月と六日だ!」
リムシアはギースのお腹を叩いた。
「ふふ、数えていたんですか?」
「べ、別にたまたまじゃ。」
リムシアはそっぽを向いた。
「ふふ、それがあんなところで会うことになるとはーーすみません。あなたに夢中であの勇者の気配に気づけないとは、」
「べ、別によい。それにあいつが後をつけていたことなど分かっておった。まさかギースをあんな風に誤解するとは思わなんだが。」
「そりゃ、私のシア、が見知らぬ男とあんな濃厚な口づけを交わしていたら、そういう考えにもなるでしょう。」
「リムシアじゃ!なんだあいつは。我の名前を勝手に略しおって!けしからん!」
「可愛くていいじゃないですか。ね、私のシア?」
「う、ぐぐ....お主なら許してやらんこともない。」
リムシアは恥ずかしさを隠すようにギースの頬を引っ張った。
◇◆◇
「な、なんだと!?俺が下級兵士!?」
「ええ、そうですね、その実力では。」
「俺の本気はあんなものではない!だいたいなんだ、人から隠れたり、あんな小さな技を試させて...」
小さな技は人を倒すには十分なものだった。
そして威力ではなく、コントロール力と命中率を見るためのものだった。
「あれが兵士としては必要な能力なのです。」
「俺はもっとでかい技が得意なんだ!」
勇者は剣を構えた。
「ま、待て!こんなところで使われたら、辺り一面野原になりますよ!あなたは下級兵士として雑務に回ってもらいます。」
「そんな、馬鹿な!俺は勇者として、功績も....!」
「いえ、入団には実力のみが反映されるので、この功績は加味されません。」
「じ、実力だって、この国で一番だぞ!何を馬鹿な....」
「ええ、ですがあんな大きい技は使い所がないのです。あなたは兵士としての基礎も出来ていないようですし、ああ、その剣も返して頂きますね。」
騎士はヒョイっと剣を取り上げた。
「それは、俺の!」
「いえ、勇者に貸していただけですので。国宝ですよ?まさかあなたの持ち物にはならないことくらい、分かってますよね?」
勇者が立ち去るところを見届け、男は木陰に声をかけた。
「これで良かったんですか?兄さん。」
「ああ。」
「でも彼、兵士にならないんじゃないですか?」
「いや、すぐに戻ってくるよ。彼は他に行く場所などないんだ。」
「...兄さん、悪い顔してますよ?」
「ーそんなはずないでしょう。私は清廉潔白な優しい宰相として通っているんです。」
「清廉潔白?女王を襲った野獣だって、ふふ、」
「笑ってるじゃないですか。」
「だって、その見た目で野獣って、、誰も信じてないですよ。王宮のものは。」
「それはそうでしょう。」
「あの宰相様でも女王相手には我慢できなかったんだな、って。」
「笑うのをやめなさい。そんなんじゃありません。」
ギースはそっぽを向いた。
「でもあの勇者、国で雇うんですか?」
「ええ。」
「使い道もないのに?あんな馬鹿みたいに破壊力しかない技しか使えないじゃないですか。気配も垂れ流しで、女王はなんであんなやつに、」
「使うつもりはないよ。他国に持って行かれると困るだろう?ーー女王はそのためだけに着いて行ったんだ。」
◇◆◇
「な、なに!?結婚するだと!?」
「そ、そうなの....」
公爵令嬢に会いに来た勇者。
「な、なんで突然....!」
「今まで自由にしてたんだもの。そろそろ私も公爵令嬢としての義務を果たすわ。」
この間のことをなかったことにして公爵令嬢と結婚しようと来た勇者は、驚きの声をあげた。
「俺、シアとの結婚は辞めたんだ。あいつには騙されてた。」
「そうね...」
仲間は皆、リムシアの本性を知らなかったことにも衝撃を受けてはいた。
「だから、俺と結婚しないか?」
「え?」
「ほら、約束したじゃないか。帰ったら結婚しようって。」
「私、公爵家と釣り合う人としか結婚できないの。」
「俺は勇者だよ?公爵もーー」
「ジェームズさん、あなたこれから、どうやってお金を稼ぐの?」
旅のお金はリムシア、すなわち国家から出ていた。
しかし、勇者となったからといって、賞金が貰えたりするわけでもない。
敵を倒してしまえば、勇者はもう必要とされないのだ。
◇◆◇
「二人とも結婚を決意したそうですよ。」
「そうか。幸せになるとよいな...」
「大丈夫でしょう。良い相手を当てがっておきましたから。」
「そうじゃな...」
むにゃむにゃと、女王は半分夢の中だった。
「勇者から剣は回収しておきました。」
「うむ....本当は我が使いたかった....」
「ダメです。あなたが怪我なんかしたら、私は、どうなってしまうか分かりませんよ?」
ギースはリムシアを抱きしめた。
「う〜くるしい...」
リムシアはベッドの上をごろごろ転がった。
「ふふ、」
ギースは落ちそうな勢いのリムシアを追いかける。
「ーー全てあなたの思い通りになりましたね。」
今度はふんわりと布団の上から抱きしめた。
反響があれば別視点か続編も...