美智留と冬弥
幼馴染欲しかったなぁ・・・・
ー2006年 3月ー
「いやー・・逢坂くん寒いね...」
「だなー。」
「あ、臨也、めぐちゃん。ホットティー飲む?!」
9月最初の、ノート紛失事件があってから、
この北原めぐむという女子と幼馴染の蒲田でよく遊ぶようになった。
「俺がジャスミンな」
「え!? レモン派じゃないの逢坂くん!!」
「先祖代々ジャスミン派なんだよ。」
「うぅ・・・私もジャスミン・・・」
「・・・めぐちゃんをいじめたら僕許さないよ」
ちっバレたか。
まあ、ジャスミンティーが好きなのはほんとさ。
でも、北原も同じく好きだから、どんな反応するかなって思ってやっただけ。
結局どっちだっていい。
「あ、そうだ。美智留ちゃん連れてきていい?」
「いいよー、あ、じゃあ冬弥も連れてこようかな。」
「またうるさいのが増えるのか。。」
うるさいのはあまり好きじゃない。
まあたまにはいいか。
「「じゃあまた後でね~」」
俺は一人、考えていた。
北原が言っていたあの言葉。
自分に自信が持てる人は素敵な人になる・・・か。
「「あ、ナルシだ。」」
「あ?」
顔を向けると、俺をいじめてた野郎が来た。
「ナルシで何が悪い」
『うわ、認めてやんの、うえー』
ナルシというのは
自己愛主義者で
周りを顧みないやつだと思うんだ。
まあ俺自身が
あの言葉を言われ、より一層自分が好きになったことには変わらないが、
こいつらに言われたら無性に腹が立つ。
なんでだろうな。
「あ、またアンタたちね。あっち行きなさいよ」
奴らを睨んでいると、北原が美智留を連れて戻ってきた。
「ほんと君たち懲りないね、自分の各下げてなにが楽しいのやら~☆」
冬弥を連れて蒲田も戻ってきた。
『ちっ、いこーぜ』
『んべーっだ』
ナイスなタイミング。
「それはそうと、逢坂くん。」
「何?」
手渡された手紙の中に、一通の猫の写真が。
これって・・・
「うん、ポストの中に入ってたのよね。」
「じゃあそろそろ始めちゃう?」
「・・・しゃーねぇーな」
俺たちは少年探偵団的なものをやっていて、
北原が中心となり活動している。
まあ非公式なんだけど、結構地域に貢献してたりする。
といっても内容は、
人探しとかポケティ配りとか、掃除ボランティア。
ほんとしょぼいのばっか。
でも、依頼を受けて活動し、
報酬にお菓子を貰えるのが醍醐味だったりするために、やりがいはある。
「美智留ちゃんー、足取り追うの手伝ってー」
「あーい! めぐおねーちゃん!」
美智留とは。
北原の近所の小学1年生。
その容姿そのロリ声から、
幼女を襲う不審者撃退のために北原から利用されている。
それを知らずにピュアな美智留は北原を尊敬し、慕っている。
「よし冬弥は僕と一緒にこの猫の地取りするよ」
「・・・」
冬弥とは。
蒲田の飼っている、警察犬"の"子供である。
というのも・・・。
プルルルルル
「あ、もしもしお父さん?うん、何?
あー、大丈夫だよ。6時までには帰っておくから。
じゃあ捜査頑張ってね!」
蒲田優一は、
警視庁捜査一課12係に所属している
蒲田哲雄係長の息子である。
刑事の息子であり、妙に勘が鋭く、情報網も広い。
冬弥は体が弱く、警察犬に向いていないと判断されて
父親を通して飼育犬となってしまったらしい。
「今回調べる山は、子猫の捜索!
行方不明なのか、はたまた失踪か、どちらの線も頭に入れて調べるよー!」
「「おー!」」
「・・・」
なんかこう、いつも大げさに言うから
周りにいる人たちがすごい白目で見てくる。
今回も何事もなければいいんだけど・・・。
猫の捜索が
あの悲劇を生むことになるなんて誰も知らなかった。
ー1時間後ー
「何か手がかりは見つかったー?」
放課後の活動は実に時間が短い。
授業が5限しかない時にしか活動はしないが、それでも短い。
「特になし。」
「僕もー・・・」
それぞれが調べたものの中にコレといって重要なヒントはなかった。
「あの猫子猫みたいだったし、ひょっとして犬に襲われちゃったとか・・?」
「そんなぁ・・・」
あれ?
「おい二人共、美智留と冬弥はどうしたんだよ。」
「「え?」」
きょろきょろと自分の周りを探し出す二人。
「え、え、どこいったの美智留ちゃん!」
「冬弥さっきまでいたのに・・・」
・・・なんか危なっかしいなぁもう。
「あ、私美智留ちゃんのお母さんに連絡とってみる!」
「僕来た道戻って探してくる!」
「お前らほんと何してたんだよ・・・」
各々動き出し、俺は俺で飼い猫の捜索を続けてみることにした。
「マンチカンの生後3ヶ月の子猫・・・色は灰色。
首にはピンクのいちごチェーン...」
子猫の足だし、そこまで遠くには行ってないはず。
もしこれが誘拐とかであれば、別の話になる・・・。
「んー・・・」
小さな路地を抜け大通りへと行き、その場に座り込む。
すると、
遠くからここへ向かって甲高いサイレンが鳴り響く。
「その車、止まりなさ~い!」
パトカー・・・?
「美智留ちゃーーーーん!!」
「き、北原どうしたんだよその顔」
あの子は不審者撃退のために利用されていたわけではあるが、
もしやこれは。
「ホントに、ホントに誘拐、され、ちゃって、はぁはぁ・・」
「じゃあ・・・あの中に」
美智留があの車に強引に乗せられているのを見た人がいるらしい。
車のナンバーを覚え、タクシーを捕まえへ乗り込む。
「叔父さん、あのパトカーの前の車、見失わないように追って!!」
「え、え、君親は」
「「いいから早く!!!」」
タクシーの中、北原が差し出したもの。
「これって、髪ゴム・・・。とピンクのチェーン。」
それは美智留の使っていた髪ゴムと、
子猫のものと思われるいちごのチェーンだった。
「これどこにあったんだよ。」
北原と美智留が探していた場所は、商店街と公園をつなぐ住宅街。
その間いろんなところへ行ったらしいのだが、
どうやら美智留をどこかで置き去りしにてしまったらしく。
美智留を探している時に来た道を辿っていたら、二つ同時に同じ場所で見つかった。
「そこで美智留ちゃんが子猫を見つけて、
何らかの拍子でふたり(一人と一匹)のアクセが取れた。」
「そして今追っている車には、美智留。
・・ということは一緒にその子猫もいるってことだよな。」
お互いに意見が固まり、蒲田に連絡を取る。
「もしもし、蒲田?俺だけど」
『あ、臨也臨也!冬弥見つかったよ!!』
今犯人が向かっている場所、そこは。
『今ね、石塚団地のマンションの下にいるんだけど、、』
「冬弥を抱えて端によけろ!!」
『え、え、?聞こえない!』
「だからどっか端っこへ逃げろって言ってんだ!!!」
刹那。
犯人が乗った車と、
後ろを続くパトカー、
俺たちを乗せた車がマンションに突っ込んだ。
ーーーー!!!!
雷のような地に轟く音が聞こえ、
俺の意識はどんどん薄れていった。
ーーーーーーーーーーーーーーー・・・
それから何時間経っただろうか。
気づいたら俺は病院のベッドに居た。
虚ろな目で追う。
どこからか機械じみた棒読みの声。
「・・・急ブレーキが効かず、そのまま衝突してしまい...」
「・・・本当に申し訳ございませんでした」
目の前には涙でぐちゃぐちゃの母さん。
「臨也・・・臨也・・・!」
横には北原の父親らしき人物と美智留の母親・・?
「めぐぅぅっ!!」
「美智留・・・!!」
そして・・・
「冬弥ぁぁぁぁっっっうあああああああん!!」
ベッドの上で泣いている優一の姿があった。
蒲田の精神が安定してから話を聞いたのだが、
あの冬弥という犬は、警察犬さながらの勇ましい行動を見せた。
優一によけろと言った瞬間、
冬弥がその平均よりひと回り小さな体で精一杯、優一を遠くに跳ね除けた。
そのため、犯人の車に一番先に衝突したんだ。
犯人が乗っていた車からは、俺たちが踏んだ通り
美智留と一緒に子猫も見つかった。
犯人は重体で病院に搬送されたが間もなく死亡。
飲酒運転をした上に小学一年生の少女を誘拐、
車の中で暴行を加え、意識不明の重体にさせた。
ちなみに美智留は奇跡的に一命を取り留めた。
しかし体や精神的な障害が大きく残り、
小学校生活に支障をきたすため長期間に渡る療養。
この犯人はちょうど蒲田の父親が追っていた事件の首謀者の一人で、
早く捕まえていればこのようなことにはならなかった。
しかし警察の上官たちがその事実を隠蔽したらしく、
さぞかし父親も肩身が狭い思いをしたんだろう。
蒲田の父親は自殺、
それを受けて母親は精神疾患を患う。
これはマスコミメディアに広く掲載され、
被告人死亡のまま書類送検された。
そしてこれらの記憶は、
蒲田にとっても、北原にとっても
生涯消えることのない大きな傷となった。
たった1匹の猫探しが、
こんな大きな事件を巻き込むなんて。
まだ幼かった俺たちだからこそ
世間は優しくしてくれた。
でも俺たちは
とんでもない罪を背負った気がして、
毎日が苦しく、喧嘩をした。
俺が失ったものは蒲田に比べたらノミのように小さなものだった。
自分自身に自信が持てなくなった。ただそれだけ。
そして、俺たちの探偵ごっこは幕を開けた。
”あれ?逢坂くんがそこまで北原ちゃんを嫌いになる理由がないじゃん。
むしろ誰かが悪いってわけでもないし・・・”
そう思った方、正解です。
逢坂くんはある意味ずれているゆえ、
また別のことが発端となり北原を苦手意識として持ちます。
ええ、本当に些細なことです。
それに関してはまた別の機会に・・。
まだ傷の癒えていない3人ですが、
次回出てくるであろう顧問先生の報酬を見返りに、
ストーカー事件について調べていく羽目になります。