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異世界の異物とされた魔神がこの異世界に戻って来たようですが、今生は眷属神たちとのんびりスローライフの予定です。  作者: 夕凪 瓊紗.com


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【9】破戒神狂



みなの視線が集中する。うう……こう言うのには地球で多々遭遇したとは言え気分のいいものじゃない。


「あ、あの……ちょっと……。さすがにそれはまずいから……っ」

ことの重大さに一同の視線を無視して慌てて彼女の側に駆け寄る。


(万が一その祈りが願いがレヴィラスに届いたら彼女は……っ)


「……っ!?」

(え……?)


「あ……」

彼女が驚いたようにこちらを見ている。や……やってしまった。これはもう取り返しがつかない。彼女は声を外に出していないのに、俺が彼女が心の中で唱えた祈りの言葉のことを言ってしまえば……そんなの……っ。


せっかくまた会えたのに。


「……っ」

(まさか、あなたも(・)他人の声が聴こえるの?)

え……あなたも(・)??


「……っ!」

彼女がすっくと立ち上がり胸元で手を組み見つめてくる。

その空色の瞳は透き通るように美しく、吸い込まれそうだ。


「……」

(あなたも……っ、破戒(・)の神レヴィラスさまへの推し神活動をしませんか……!?あぁこれが噂の……オフ会……!)

いや何かいろいろと違う……!!てか推し神活動って何だ。

だけど俺が伝えたいこと以外は彼女には届いていない。この力は便利なものなのか、それとも魔神仕様なのか。


俺が自分の意思で放たない心の声は届かないようになっているようだ。レインやヴィオルたちに俺の心の声……念話のようなものを飛ばすときと同じで。


「あの……とにかくさっきのは危険だから……むやみに……」

「……」

(あぁ……危険。ゾクゾクする素敵な匂いがします……!うおぉぉっ、我が右目が疼くぅ……っ!!)

ダメだ逆効果だこれ!てか中二……?この世界でも中二思考ってあるの……か!?


前世はマドンナ的な存在……しか知らないが。


初代との邂逅の後彼女の魂も地球に渡ったのは間違いない。そしてまた、帰って来た。


「あれ……」

その時彼女が俺の顔をじっと見上げる。

そしてハッとして口を塞ぐ。


「大丈夫、俺には話していい」

「大丈夫……なの?」

彼女はビクビクしながらも言葉を紡ぐ。


「……目の色は違うけど……空くん」

「そうだよ、花さん」

「ファナ、今の名前はファナ」

「なら俺もソラでいい」

「……うん」

ファナが目元を潤ませながら頷く。


「ソラくんも転生したの?」

「いや……俺は転移だよ」


俺はこの子と出会うために闇の中で待っていた。

眷属神たちに守られながら。

深く渦巻く魔神の災禍でこの世界を壊さないように。


彼女との再会にホッとする。しかしその場に他にいた人物たちの声が響いてきた。


「ちょっと、突然現れて何なの?」

(何この2人、いきなり何なのよ?キモ)

剣士の少女だ。


「お……お前……っ!」

さらに勇者が俺を指差してくる。


(こいつ、間違いない……!)

勇者がそう心の中で叫ぶ。何となく覚えがある……が。

何か勘ぐられた……?ほれともまさか魔神のこと?勇者のチートか何かだろうか。


「お前、寒咲(かんざき)空だ!」

は……?何で俺のフルネームを知ってるんだ……?ゾクリと悪寒が背筋を滑り落ちる。


(間違いねぇ。こいつ噂になってた……っ!)


「俺のこと分かるだろ!」

(御手洗(みたらい)探(さぐる)に決まっているだろう……!?)

御手洗、探。その名前に魂の底に封じた何かがふつふつと沸き上がる。


年齢は20歳かそこら。ファナが俺と年齢が変わらなさそうなのに対し、明らかに時系列が合わない。


創世神が許可した召喚ではない場合、時空が歪みこのようなことになり得ることもあるにはあるが。


「その……すみませんが……知りません」

彼のことは、……知らない。それが世界のためだ。世界を滅ぼさないための、俺の枷。


「なんだと!?気色悪いくせに生意気だぞ!俺のお気に入りだった水神(みずかみ)花さんまで手ぇ出しやがって!あの上物は俺のものだったのに……っ!」

花さんはお前のものじゃない。顔だけで女を手に入れようとする最低な男だ。

(それにこの世界でも俺が気に入った女は全部手に入れてきたんだ!その女は俺の……っ)

反吐が出る……っ。

さらにサグルの剣幕とこちらにずんずんと近付こうとせん言動に怒りでぶるりと身を震わせる。しかし次の瞬間見慣れた紫の鱗と翼の内側の闇色が俺の視界を塞いだ。


「ヴィオル」

名を呼べば俺を翼の内側に隠しながら、ヴィオルが勇者たちの方を向き、睨む。


「ひ……っ、化け物……っ!?」

ば、化け物って。さすがにそれは失礼では。


(何で……何であいつまでこの世界にいるんだよ……!それにこんな化け物まで連れて……!)

それはここが俺の世界だからだよ。


しかしそこに場違いな声が届く。


(やだ……っ、でも顔はイケメン!)

(勇者なんて目じゃないほどの魔獣!誘ったら家来になってくれないかしら!)

聖女と剣士……あぁ、彼女は魔法と剣士に適正のある魔法剣士だ……。何となくその情報が入ってくる。


(殺していいだろうか?)

(ま、待ってヴィオル)

2人がヴィオルを好き勝手言ってる。まぁヴィオルは月すら霞むようなイケメンだとは思うけど。

(家来とは?魔獣扱いとは?さすがに不敬であるぞ)

(まぁ否定はしないが)


(それよりこの自称勇者はどういたしまする)

(自称……うん、自称ね)

サグルは俺を気味が悪いと聞き付けてバケツで水をかけたり、机に罵詈雑言を書いた。

その上俺に優しくしていた花さんに言い寄って……彼女を。


「ソラがやることを我はそれを尊重する。だからこそ静観していたが。ソラに敵意を向けるのなら黙って見ているわけにもいくまい」

「ヴィオル」

ヴィオルも俺の魂が荒ぶりかけていることに気が付いているのだ。


しかしその時。

「魔獣がしゃべった!?」

(高位魔獣……魔族ってことか!)

サグルが叫ぶ。


「しゃべる魔獣はいるがそもそもヴィオルは魔獣じゃない。あと魔族は種族名で彼らは魔獣のくくりには入らない」

「はぁ?何をわけの分からないことをっ」

サグルが拳を震わせる。

なるべく丁寧に説明しただけだが。


「さてはお前も魔王の手先か!魔族か!」

まぁ魔王になる素質を持つものは魔族から出ることが多く、魔神の根幹も元を辿れば魔族である。

だからこそ彼らは昔から人間と言うくくりの種族たちと対立してきた。


でも今は……【初代】が争うことをやめてからは、平和……なはずだし。


「あのな、創世神がまず勇者に魔族と争うことを使命としていない」

今召喚される勇者パーティーたちは魔獣による災害や天災に於ける対策のために呼ばれているはずだ。本当の……勇者ならな。


「う……うるさい!」

サグルは相変わらず自分勝手な様子で叫ぶ。さらには魔法剣士まで出てくる。


「そこの竜!魔獣なら私の家来になりなさい!あなたをテイムしてあげるわ!」

(チャンス到来!ついに私の天下が来たのね……!)

いや何言ってんの……!?


(ソラよ)

ヴィオルが俺に念話を飛ばしてくる。

ヴィオルの鱗に守られていても強い意思は伝わるし、何より俺とヴィオルは主従の関係で結ばれている。その念話を繋ぐことは他者よりもずっと容易なのだ。俺も拒みはしないから。


(どうしたの?ヴィオル)

(この不敬な人間どもをいい加減駆逐してもよいであろうか)

やっぱりヴィオルの沸点も限界値を超えそう……!?顔は無表情だ。しかしヴィオルに於いて言えば無表情ほど恐いものはない。


(取り敢えず……その、吹き飛ばしてくれればいい)

ここから去ってくれるのであれば、それで充分だ。


(では、吹き飛ばして木っ端微塵に粉砕……)

(なるだけ無傷でお願い)


「……」

(何故このような不敬なものたちに情けを……っ)

あうぅ。ヴィオルの気持ちも分かるけど。


(召喚されたのなら、創世神が絡んでいるかもしれない。魔神は創世神と争うことを望まない)

そう伝えれば。


(確かにそうではあるな……。しかしソラ、その魂は)

(いいんだ、ヴィオル。俺はこの世界が大切だ)

この世界もまた、彼女が生き続ける世界だ。

(うーむ……分かったのである)

ヴィオルも渋々頷き、翼をはためかせて腕をサグルたちに向ければ。


竜が暴れんばかりの暴風がサグルたちにだけ吹き付けられる。


『ぎゃあぁぁぁあぁぁあ――――――――――っ!!』

思い思いの悲鳴を上げながらサグルたちが城壁の向こう……街の中目掛けて飛ばされて行った。


「まぁ、着地に於いては我の知るところではないゆえ」

「……うん、ヴィオル」

街の中に聖職者もいるだろうし、今は目の前からいなくなってくれればいい。


そうして高原に残ったのは…俺と、ヴィオルと……彼女である。


「ファナ」

「ソラ」

「もう大丈夫」

彼女だってサグルは恐かったろう?


「ううん」

ファナは首を横に振る。


「私、負けないもの」

そんなところも前世と変わらない。いやそれよりも前の、始まりから。


彼女のその目が俺を見る。

魔神を見る。

それだけが魔神の魂を鎮めるのだ。


「それから」

彼女はヴィオルをじっと見つめる。


「……!」

(ヴィオル……まさか……竜神ヴィオルさま……!)

ヴィオルを、知ってる……?


「あの、ヴィオルは俺の眷属神だから喋っていい」

「その、眷属神?」

ファナが首を傾げる。


「話せば長くなる。俺は……人間じゃなくて、魔神。この世界の現し神だ」

その言葉にきょとんとするファナ。そして絶叫する。


「えっ、ヴィオルさまの主の!?」

「うん」

この世界で生まれ育ったがゆえに理解が早くて助かる。


「それでその、ファナはヴィオルと……」

どんな関係なのだろうか?しかしその時、ファナがヴィオルにキッと目を向ける。

あまりのことに驚くがヴィオルは痛くも痒くもなさそうだ。


しかしファナはヴィオルを指差し叫ぶ。


「でも私の推し神は、破戒の神レヴィラスさまですから!!」

そう叫んだファナは服の中から扇子のようなものを取り出しバッと開く。その扇子には日本語が書かれている。


【破戒の神 レヴィラスさま LOVE】

「……」

そして気が付いた。は、ハカイの【戒】の字……!

いやある意味合ってはいるけど彼女の求めるハカイの字とは違っている。



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