表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/12

第1話 聖痕の儀式

はじめまして、あるいはカクヨムからお越しの方はありがとうございます。

自らの自我を削り、世界の真理を求めた天才少女の物語。

その「人生」の断片を、どうぞ最後まで見届けてください。

【聖始天教会・地下研究所 第一儀式実験室】


「――――以上が、聖痕によるリスクとなります」


 分厚い資料を閉じる音が、静かな部屋に落ちた。

 植物状態になった者、発狂した者、霊核が砕けて死んだ者。渡された研究記録の内容は、とても人道的なものとは言い難いですね。傍に彼が居たのなら、きっと顔を顰めたでしょう。


(何を馬鹿なことを……自分から手放しておいて)


 今さら何を言っているのやら。

 本当に、救いようがないですね。


「それでも、受けるかね」


 非人道的な研究を行っているとは思えない程、慈愛に満ちた優しい声。

 目の前で私を見つめる初老の男性は、何を想い、こんな実験を始めたのでしょうか。

 興味はありますが、それを聞くつもりはありません。

 きっと、この男にとっての「譲れないもの」なのでしょう。


「……はい。刻んでください」


 我ながら、馬鹿ですね。

 リスクを考えれば、わざわざ自分に刻む必要なんてありません。

 けれど、彼の顔が過ったからか、進んで人道を外れるような真似はしたくない、そう思ってしまいました。


「分かりました。では、その台の上で横になり、目を瞑って楽にしてください。すぐに、終わりますので」


 言われた通り、私は手術台のような床板の上に横になり、静かに目を閉じる。

 ここから先、もう後戻りはできません。


 ……ごめんなさい。

 私は、一人で進むことに決めました。

 願わくば、この先の未来で、私たちの道が再び交わりますように。


 叶うことはないと、頭では理解しています。

 にもかかわらず、最後に考えることが彼のことなのだから、おかしなものです。

 随分と、あなたに毒されていたんですね。


 周囲の魔力が高まっていくのを感じます。

 どうやら儀式が始まるらしい。

 身体中が熱を帯びていき、徐々に意識が遠のいていく。


 聖痕の刻印儀式。

 中身は、祭壇魔術を少し捻った程度の構造ですね。

 ……ということは、この部屋全体が、そのまま儀式用の祭壇というわけですか。


 なるほど、面白い。

 この部屋を設計したのが先程の男性なのだとすれば、さぞ魔術に関する知識をお持ちのようで。

 それでこそ、ここに来た甲斐があるというものです。


 ここ半年の記録には、刻印儀式における大きなトラブルは見当たりませんでした。

 ただ、一年前の記録によると、儀式終了後、植物人間と化した事例もあったようですね。


 っ……なるほど。


 胸の奥底に、焼けるような熱を感じます。

 霊核に干渉するにあたって、これは、いわゆる霊核の拒絶反応なのでしょう。

 これは、中々堪えますね。


 報告には外傷なしとありましたが、肉体の内部にはあったのでしょうか。

 例えば、脳への損傷があったかどうかによって、自我崩壊の原因も大きく変わってきます。


 まだまだ気になる点はありましたが、あの研究資料には記載されていませんでした。

 意図的にあの微妙な資料を渡されたのか、それとも医学的知識が足りていないのか、何はともあれ、自分で調べるべきですね。

 やはり、何ごとにおいても、自分の手でやるに限ります。

 

「それでは、白夢さん。良い夢を――――」


 そう言うわりには、ずいぶんと心苦しそうな表情をしていますね。

 実験対象、ひいては利用対象である私に、なぜその様な顔を向けるのでしょうか。


 記録にあったように、数々の非人道的とも思える実験を行っているにもかかわらず、未だに心が痛むとでも。


 だとすれば、本当に優しい人なのでしょう。

 自分の都合で、彼を、そして約束を捨てた私に比べれば……幾分か、いや、ずっと。


 そんなつまらない自己評価を最後に、私は意識を失った。

お読みいただきありがとうございます。

0時30分頃まで、10分置きに序章を更新いたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ