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★Second Comet★  ☆第七話☆ 【旅の同行】



 客人が来た。



「ーーなぁナータ、この後どうする? 暇だから日光浴し始めたけど、特にすることもないぞ」


 アトラ。



「ーー村に行ってみたいかな〜。色々と眺めてみたいし」


 ナータ。



 昨日二人がここへ来て、一晩泊まった。


 ここへ村の人以外の人物が来ることは初めてだ。


 何をすればいいのか分からないし、何を話せばいいのかも分からない。


 しかし『アトラ』という旅人は、初めて会った相手でも距離は近く、ちゃんと私を見ていた。


 ミューの視点から時々観察していたけれど、実際に話してみれば言葉は温かく、その一つ一つの言葉に自分が乗っていて凄く話しやすい。



「ーーえぇ......行ってもいいが、嫌な予感がするんだけど......」



 しかしあの子の剣を素手で止めるとかどうかしてる。


 その上、上位結界をいくつも施していた扉を力だけで開ける筋力。


 筋肉馬鹿なのかもしれない。



「ーーどうして?」



 まぁその後、私の名前を聞いてこないあたり、そういう人間なのだろうとそう考えた。


 だから私も無理に偽りの自分を演じなくていいと思い、私は私のまま彼に接した。


 しかし彼は私が『ナータ』という旅仲間だと勘違いをして、色々と話をしていたらしい。



「ーーあの男だよ。次会った時に、また再戦を求めてきそうなんだ……」



 この事実を知った時には少し呆れてしまった。


 今まで話していた相手が、実はただの女性でした、なんて......鈍感なのか天然なのか、それとも本当に馬鹿なのか。


 どんな言葉で表せばいいのかよく分からない。



「ーー多分大丈夫だと思う。一回だけアトラと剣を交えてみたいって言ってたから」



 そして『ナータ』。


 彼には目を見張る。人間族でありながら魔力量が私と同等レベル。


 知識量に関しては、私の方が勝っているだろう。


 いくら魔力が多く魔法が使えようと、知識が少なければそれらを応用できる範囲が狭くなる。



「ーー本当にそう言ってたのか? ......まぁその分野に対して、俺はお前を信じることしかできないから本当のことかも知れねぇけど。俺が勝った後あの男の顔覗いたら、絶望とかよりも納得できないような顔してたぞ。あとずっと固まってたし」



 しかしこれは並の魔術師や魔法師の話。


 彼にはその知識のどれもが必要ない。



「ーーあ〜、あれは全力で振った剣が急に止まったから、その衝撃で筋肉が硬直してたんだ。アトラとの力比べで、何かを悟ったんじゃない?」



 彼には、魔法における『天賦の才』がある。


 魔法は基本的に魔法書で習得した後、その魔法を使う際に詠唱が必要とされているが、結局は想像の世界。


 その魔法が想像できるのなら詠唱など必要ない。


 なんとなくで『魔力波長』を使っていたのが何よりの証拠だ。


 本人は自覚をしていないようだけど、想像で魔力波長を操れるとなれば、その想像力は常人では考えられないほど頭の中が星空で輝いている。


 恐らく、彼に知らない魔法を見せると、見様見真似でその魔法を習得してしまうだろう。



「ーーお前がそう言うならそうなのか。......にしても、俺ここから動きたくねぇんだけど。気持ち良すぎてずっと寝てられる」



 正直羨ましい。



「ーー分かる〜。この草柔らかいから、昼寝には最高......」



 ちなみに本人から様々なことを尋ねると、人間族にしてはかなりの知識量で、『魔法』『剣術』『生態』のほとんどの分野に視野を向けていた。


 それだけの知識があるからこそ、彼が持っている才がより一層際立っている。

 


 ーーーーだからこそ、私は彼らに話したいことがある。



 ☆ ☆ ☆



「――――無理」

「――――いいんじゃない?」


 俺とナータが日光浴をしていると、『シルヴィア』が『話がある』と言って部屋へ呼ばれた。


 その話の内容は『彼女も俺達の旅に同行したい』ということだった。


 決して嫌ではないが、彼女にあんなことをしてしまった新しい黒歴史を、ナータに隠し続けるのは難しい。


 だから俺は否定する。


 忘れたいんだ。愚かな行動をしたあの時の俺を......。


「答えが割れたね」


 俺とナータの答えを聞いたシルヴィアは、少し冷たい声で呟き、紅茶を飲む。


「おいナータ、俺は賛成できないぞ。ただでさえ今の旅は金銭面で困ってるのに、さらに困るのはごめんだ」


 所持金、銅貨八枚。


 少ない、少なすぎる。


 これじゃ豚の薄肉が八切れ程しか買えない。


 大体、ナータが素材だったり魔法書を躊躇なく、いくつも買っていることが原因だ。


 たまに冒険者協会で任務を受けて大量に報酬を稼いでも、数日経てば稼いだ金が半分以上吹っ飛ぶ。


 どれもこれも魔法やら研究やらと言い出すナータがその金を使っている。


 金を使うことに対して反対しているわけではないが、もっと慎重に品を選んで欲しい。


「そりゃあ僕が原因だということは自覚してるけど、旅仲間が一人増えても使うお金の量は変わらないだろ?」


「んなわけねぇだろ。シルヴィア......さんもお前と同じように、魔法を使うし研究熱心なんだよ。つまりどういうことか分かるか? ナータと同じようなやつがもう一人仲間になると、せっかく稼いだ金の出費もデカくなるんだよ。主に研究費用にな」


 それに対してナータが何か言いたそうな顔をしているが、シルヴィアの声に遮られ黙り込む。


「呼び捨てで構わないよ」


「そ、そうか。なら、シルヴィア......」


「ーー何?」


「名前を言っただけだろ! 呼んでねぇよ!」


 と俺に言われ、少しだけしゅんとしてしまうシルヴィア。


 会ったばかりの女性にあんなことをしてしまった以上、呼び捨てはかなりきつい。


 いやでも、寧ろ呼びやすいのか......? 


 現状ナータにはまだバレていないが、シルヴィアが俺達の旅に同行してきたら、バレるのはほぼ確実だ。


 俺かシルヴィアがそのうちボロを出して、それを聞かれるのが落ち。


 ちなみに俺が女性に対して苦手ということをナータは知っている。


 だからこそ、バレてはいけない。


「......で? アトラはどうしてそこまで彼女が同行することを拒むの? 金銭面以外で」


 そんなこと決まってる。


「ん〜、面倒を見る仲間が一人増えると大変」



「――――同行するだけだから面倒は見なくていいよ」



 俺の発言に対して即答するシルヴィア。


 違うそうじゃない。いや実際は助かるが。


「飯の作る量が増えるから大変」



「――――自分で用意できるから気にしなくて大丈夫」



 それも違う......。


「......」


 何も言えない自分が悔しい。


 そしてナータに事情が話せない自分も悔しい。『人違いお姫様抱っこ』なんか、誰かに話せたものじゃない。


 そして俺が黙り込んでいると、ナータが俺の顔を覗きながら聞いてきた。


「アトラ、拒む理由はないし、僕はいいと思うんだけど......お金に困ったらまた稼げばいいだけだし」


 お前は事情を知らないから良いかもしれないが、俺からすると普通に気まずいんだよ。


 あと最後の言葉が気に食わないな。


「その金を主に稼ぐのは誰だ? お前は冒険者協会に冒険者登録をしてないから、チームを組んでも報酬は登録している俺一人分だけなんだよ。いい加減お前も登録してくれたらどうなんだよ。正直言って、今までの任務が勿体無い。お前が登録しとけば今頃報酬が倍で、金銭に困ってなかっただろうな」


「ーー無理。あんな集団と同じ一員になるとか、死ぬ方がよっぽどいい」


 こいつ......! 即答で全部俺に投げやがった! 


 こっちだって渋々登録してやってるんだぞ!


 それに一員ってなんだよ。


 登録しただけであんなクソ野郎どもと共に行動する決まりはねぇ。


「じゃあ何で俺は今『冒険者の証』を持ってんだ? 生きてるぞ?」


「アトラがやりたいって言うから......」


「ーーお前後で羽ばたいてみるか?」


「......ごめん」


 俺達の話しを聞いていたシルヴィアがクスッと笑い出し、その笑顔を保ったまま言う。


「仲が良いんだね。じゃあこうしよう。私もその冒険者協会に冒険者登録をする。そして自分で稼いだお金で、食、素材の購入に使用する。もちろんあなた達の旅の邪魔はしない。どんな目的で旅をしてるのかはよくわからないけど、その目的と反することもしない。最後に、他者へ情報を伝えることを極力控える。どう?」


 具体的に話してくれてありがとう。おかげでシルヴィアの考えてることが何となくわかった気がする。


「アトラ、優良物件だよ! これで僕が冒険者登録をしなくて済む!」


 誇らしげな笑みを浮かべながらナータが言った。


 あれだ、俺は今試されてるんだ。


 遠回しに『私の思考について来れるかな?』みたいに、何かを試されているんだ。


 しかし筋肉と剣にしか取り柄のない俺でも流石に理解はできる。


 つまり俺は脳筋ではないということだ。


 ちゃんと相手の言葉を理解し、その真意を見破れる思考を俺は持っている。


「シルヴィア……驚いたよ」


 俺がそう言うと、シルヴィアは首を傾げる。


「と、言うと?」


「俺を馬鹿か何かだと思っているのかもしれないが、まさか同じ件を言い換えれば、俺が許すとでも思ったのか……? それだとシルヴィアがさっき面倒を見なくていいって言ったことと同じだぞ」


「内容はほとんど同じだけど、あなたは許すよ」


「......根拠は?」


「さぁ。言葉の意味をよく考えてみたらいいよ」


 ......。


 ...........。


 ..................なるほど。


 こりゃ詰みだ。


 シルヴィアが俺達の旅に同行することが確定してしまった。


 脅すのは違うだろ。


 せめてもっと何かそれらしい理由を言ってくれよ。


「ナータ。シルヴィアが俺達の旅に同行するための条件を自分で言ったこと、一字一句覚えてるか?」


「もちろん全部頭の中だよ。それがどうかした?」


 だよな。


 大事なことを一瞬で忘れるわけないよな。


「いや、覚えてくれてるならいいんだ。俺も安心できるし」


「それはつまり、彼女の同行を許すってこと?」


 察しが早くて助かる。


 しかし許したわけではない。不本意に許すしか道はなかったんだ。


「まぁ......そういうことになるな」


「やっぱお金は大事だからな〜。稼ぐ人が一人でも多いと効率も良い。同行を許して正解だよ。これで僕が冒険者登録をしなくても稼ぐお金が倍になるわけだし。何より彼女が仲間になってくれるだけでも心強い」


 急にニヤニヤと語り出すナータ。


 とりあえず、こいつの話は今は流しておこう。


「そうだな。稼ぐ仲間が一人増えるだけで、今後の不安はないだろう」


 決して今後の金銭面に惹かれたわけじゃないが、そのまま勘違いをしてくれると助かる。


「ほら、許すって言ったでしょ」


 机に右肘を置き、右手に顎を乗せたシルヴィアがニヤついた表情で言ってきた。


 これが企み慣れたやつの顔か。


 深く脳に刻んでおこう。


「んまぁ......いいんじゃないか? その条件なら何も言うこともないし」


 それを聞いたシルヴィアが目を細め追い討ちをかける。


「何も言えないの間違いじゃないんだ?」


「ーーうるせっ!」


 クソっ、揶揄う立場が逆転してしまった。


「何も言えないの間違いだなアトラ。冒険者登録をするって彼女が言ったわけだし」


 横からナータが俺に言葉を投げる。


「それこそお前だろ。お前の代わりに冒険者登録してくれるようなもんだぞ? 俺はいくらでも文句を言えるが、お前はシルヴィアに文句の『も』の字も言えないからな?」


 俺がそう言うと、ナータはシルヴィアに顔を向けた。



「ーーーーも!」



 あ、ダメだこいつ。


 頭脳に関しては圧倒的なクセして、やっぱ日常的に見ると頭の中がお花畑になっているな。


「よし、とりあえずナータは『今は居ない』という設定でいこう」


「何で!?」


「今のお前がここに居ると、色々とややこしくなるんだ! これから今後の動きをシルヴィアと話し合うってのに、お前が水を刺してくる未来が激流のように見えて仕方ないんだよ!」


「アトラって僕のことをそんな風に見てたのか? 少なくとも、アトラより言語について多く知ってるし、意味だって理解してるつもりだけど?」


 マウントを取りたいのか、俺を貶してるのか、もうよくわからん。


 ナータのこういうところが原因で、子供っぽく見えてしまう時がある。


 もう、どうでもよくなった俺はため息を吐き、呆れたように言った。


「......はいはい、そうかよ。じゃあそんな俺より脳の働くナータさんにお願いだ。俺はこれからシルヴィアと旅の細かい話し合いをするから、少しだけ外で待ってくれるか? 話し終わったらお前を呼びに行って、内容を伝えるよ」



「――――了解〜。終わったらすぐ呼んでね〜」



 とナータは言い残し、外へ出て行った。


 こういう時のあいつは何考えてるのか、全くわからん。


「急に従順になったね」


 扉から出て行くナータを見たシルヴィアが言った。


「あういうやつなんだ。気にしないでくれ」


「そう。じゃあ場所を変えようか」


「ここじゃいけないのか?」


「研究室で話がしたいんだよ」


「まぁそれは構わないが、また何か作業しながら話すのか?」


「そうだね......旅の準備をしながら話そうと思って」


「あぁ、そういうことか」


 シルヴィアが立ち上がり、研究室に向かうのかと思ったら、俺に近寄ってきて顔を凝視するーー。


「......で、今度は何がしたいんだ? お前は」


 ......。


 言葉が帰ってこない。


 ............。


 何だこの間。黙ってないで何か言えよ。


 俺の顔に変なものでも付いてんのか? 


 そんなすげぇ真顔で見られても嬉しくないんだが。


「何だよ?」


 するとシルヴィアの口角が少し上がった。


「また『勘違い』しないかなって」



 ーーーーふざけるのも大概にしろ。

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