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★First Comet★  ☆第六話☆ 【シルヴィア】



「ーーーー研究は好きにしていいが、俺はお前の睡眠が心配なんだよ」


「それはあなたが気にすることじゃないでしょ。私は私のやりたいことをして満足してる。他人にとやかく言われる筋合いはないよ」


「お前なぁ......少しは自分の身体を労ってやれよ」


「長くこの生活をしてるから、もう慣れてる」


「そういう問題じゃねぇよ......」



 隠蔽魔法で『巨大な木』の中に侵入したら、金髪の少女とアトラが紅茶を飲みながら会話をしていた。


 誰......?


 どこか慣れたように話してるけど、二人は昔からの知り合い?


「じゃあどういう問題だって言うの? 私がちゃんと睡眠を取ったら、あなたに得でもあるの?」


「いやそれは、ねぇけど......」


「なら私が睡眠を削って研究しても、何も問題ないね」


「......だから人脈が少ないんだよ......」


「ーー何か言った?」


「い〜や」


 何この空気......。


 ものすっごくギクシャクしてる。


 どうしよう。


 どうやってアトラに話しかけようかな。


「少なくとも、あなたよりかは多いけど」


「聞こえてたのかよ」


 でも入れる空気感じゃないんだよな......。


「他人の嫌味は嫌でも耳に入るんだよ」


「地獄耳だな」


「......ところであなたはここで何をしているの?」


 少女が紅茶を飲みながら言う。


「何言ってるんだよ? オグタ村の長に、この巨大な木に行けって言われたから来たんだろ?」


 それを聞いた少女は、白い目をしながらアトラを見て、呆れた声で言う。


「違う、あなたじゃない」


「は......?」



「そこのあなた――――」



 と少女が僕へ指を差した。


 それと同時に、僕とミューに掛けていた隠蔽魔法が強制的に解ける。


「ナータ!?」


 僕の姿を見たアトラが驚いた表情で椅子から勢いよく立ち上がる。


「あ、あははは......どうも......」


 逃げ場がない僕は苦笑するしか道がなかった。


 部屋の片隅で隠れいていたのに、どうして気づかれたんだ?


 しかもアトラが気づかないほどの隠蔽魔法を、こうもあっさりと......。


「来るのが随分と遅かったね」


 と少女が言葉を投げてきた。


 初対面のはずなのに、なぜ僕がここに来ることを知っているような口ぶりなのだろう?



『ーーシル〜〜!!』



 抱いていたミューが、急いで金髪の少女の胸へと飛び込んだ。


『おかえり。怪我はなかった?』


 少女は飛び込んできたミューを受け止め、透明で柔らかい身体を撫でながらそう言った。


『ないよ!』


『そう。ならよかった』


 なるほど理解した。


 この少女が、ミューの親、使役者だ。


 ミューはこの少女のことを友達と言っていたが、それはまだ多くの言葉を知らないからそう言っていたのだろう。


 そしてこの少女、魔力に揺れがない。


 そこらの魔法師と比較にならないほどの実力を秘めいている。


 さっきの魔法もそうだ。



 マジックキャンセラー。


 自身の周囲に飛び交う魔法を強制的に解く魔法。


 この魔法の発動条件は相手の魔法構成を読み取ることだ。


 魔法師が生涯をかけて習得できるかできないかの滅茶苦茶な魔法。


 戦闘面では魔術師殺し、魔法師殺しと言われている。


 そんな魔法をこの見た目で使えるなんて、とんでもない天才だ。


 まさか、本当にマジックキャンセラーを習得している人がいたとは......。


 今まで使っている魔術師や魔法師を見たことがなかったから、いないものだと思ってた。



「......おいナータ。お前今まで何してたんだ......?」



 どこか恐る恐る聞いてくるアトラ。


 てっきり怒られるんじゃないかって思ってたけど、なんでそんな無理な笑顔してるんだろう......。


「兎を狩ってたんだ。ほら」


 魔法袋からさっき狩ったブラックラビッツを出した。


「なんだそんなことしてたのかよ〜。そうならそうと言ってくれれば手伝ってやったのに」


 意外な反応だ。


 日が沈むまで兎狩りをしていたのに、何も言わないなんてアトラらしくない。


「ーーブラックラビッツでしょ」


 少女がミューを撫でながら言ってきた。


 一部の書物にしか記載されていないのに知ってるなんて、この少女......魔法だけじゃなくてかなりの知識もあるようだ。


「へ、へ〜......知ってるのか......?」


 アトラが少女の言葉に反応する。


 さっきまで自然に会話してたのに、どうしてそんな顔を赤くして少女から目を逸らしてるのだろうか。


「その兎は黒い幻と呼ばれてるくらい凄く珍しいんだよ」


「そ、そうなのか......」


 明らかにアトラの様子がおかしい。


 ちょっと気になる。


「アトラ、なんでそんなにもそわそわしてるんだ?」


「へ!? そんな感じに見えるか!?」


 反応が物語ってるんだよな。


「もう見るからに」


「そ、そうか......」


「何かあったのか?」


「実はブラックラビッツが食べれるかもって、ちょっと期待しててな......」


 なんだそういうことだったのか。


 この少女と何かやましいことでもあったのかと思ってしまった。


「その期待通りだよ。だから今日の夕食は、僕が作るって言い出したんだから」


「よかった......日頃の恨みをぶつけるわけじゃないんだな......」


「ぶつけてもいいんだけどね」


「ーーすまん冗談」


 でもなんか違和感がある。


 最近アトラから感じたものとほぼ似ている。


 何かが足りない。


 何だ......?


「なんだよ? さっきから俺の身体をじろじろと見て」


 服装はいつもと同じ。


 髪も靴もいつもと変わらない。


 あ、腰に剣がない。


「アトラ、剣は?」


「ん? 剣? あれ......どこだっけ?」


 僕に言われ腰回りを手探り、部屋を見渡す。


 まさかの本人までもが剣の存在を忘れているなんて......。


「私のベッドに置いてるでしょ」


「あー! そうだった。すっかり忘れてた」


 少女に剣を置いている場所を言われたアトラは急いで取りに行ったーーーー。



 ベッドに剣を置くって......雑に扱わない性格、アトラらしいか。


 ......。


 ............。


 ......どんな距離感してるんだ? 


 出会ったばかりの女性の部屋に入るとか、一体何があったんだよ。


 この少女も少女だ。


 会ったばかりの男を易々と部屋に入らせる距離感。



「ーー今、変な女だって思ったでしょ」



「い、いえ! 思ってません!」


 くそぉ! 僕の心を読んできたな!?


「そう」


 何に対しての『そう』だよ!


 そこはもう少し追求してくれた方が、こっちも潔く言えるのに......!



「ーーーー何を話してるんだ?」



 アトラが戻ってきた。


「何も話してないよ」


 それに対して少女が答える。


「そうか」


 そしてアトラは椅子に座り、剣の手入れを始めた。


 確かに何も話してはいない。


 一瞬の出来事すぎて。


『お腹空いた〜』


 少女に抱かれているミューが呟いた。


 そういえばミューは今日出会った時から何も食べていない。ちなみに僕もミューと出会って以降、何も口にしていない。


 今日食べたのはアトラを揶揄っていた時に食べた干し肉だけだ。


 色々な出来事で食べることをすっかり忘れていたな。


『さっき狩ったブラックラビッツでシチュー作るから、ちょっと待っててね』


 そうミューに伝えた。


『わかった!』



『ーーあなた、自力でこの波長を作り出してるの?』



 急に少女が魔力を通して聞いてきた。


『波長?』


『もしかして魔力波長を知らないの......?』


 なんだそれ。


 初めて聞いた言葉なんだけど。


 魔力に波長なんてものがあるのか。


『なんのことだか、さっぱり......』


『......そう』


 と言ってミューを撫で始めた。


 だから何の『そう』なんだよ!? 


 それさっきもあったよね? 少し間を置いてその一言だけって、何か意味があるのか?


 ......ダメだ。


 この少女が何を考えているのかが全く分からない。



「ーーなぁ、何でこんな沈黙してるんだ?」



 剣の手入れをしているアトラが言い出した。


 流石に数分間も沈黙が続くと違和感があるよな。


「あなたの剣の手入れの邪魔にならないよう、静かにしてたんだよ」


「別に気にしなくていいぞ? 手入れしながらでも話しはできるし」


「なら、ブラックラビッツの調理を手伝ってあげたら?」


「俺の話し聞いてたよな? 剣の手入れはするから手は空かないぞ?」


「ーー私もあなたも、まだ何も食べてないでしょ」


「あ、はい......手伝います」


 そう言って剣をしまい、立ち上がる。


 アトラが従順になってる......。


 この少女、一体アトラに何をしたっていうんだよ!


 ここまでアトラの変わりようを見ると、もう怖くなってきた!


「そこにあるキッチンを使ってくれて構わないよ」


 と少女が僕に言った。


「じゃあ、遠慮なく......」


「ナータ、血抜きはしてあるのか?」


 ブラックラビッツの体を見ながらアトラが言う。


「もちろん。狩ってからすぐに抜いたから大丈夫」


「そうか。じゃあ俺も腹減ってるし、さっさと作っちまおうぜ」


「そうだね」


 良かった。


 今日の夜は、想像より平和に過ごせそうだ。


 その前に一つ、彼女に聞きたいことがあるな。


『そういえば、自己紹介をしてなかったね。僕はナータ。アトラの旅仲間だよ』


 ここに来てから一番に聞くべきだったのに、なぜか頭から抜けていた。


『知っているよ。ずっと見ていたから』


 オグタ村に入ったあたりで、ミューから別の視線を感じていた。


 その視線の正体が彼女。


『やっぱそうだったんだ。なんとなく予想はしてたよ。それで、君の名前は?』


 その話は、後でじっくり詳しく聞くとしよう。




「ーーシルヴィア」

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