☆第27話☆ 【冷徹な彗星】
「口が減らない魔族だ――――」
先制攻撃を仕掛けるため、魔族の背後に高速で移動し、光魔法を放った。
瞬時に斜めに走る光の柱が、暗い街全体を照らす。
魔族相手には光魔法が有効だ。
魔族は闇属性の適性を生まれた時から身に刻まれている。
そうすれば必然的に弱点属性は光属性となる。
しかしその反対で、光属性もまた闇属性が弱点となっている。
「......やはりあなたは綺麗な魔法を使いますね」
光魔法をもろに喰らっても尚、何事もなかったかのようにロフェルその場で立っていた。
「本当に手強くなってるみたいだ。昔と同じ感覚で撃ったんだけど、鈍ったかな」
「いいえ。昔のあなたはもっと派手に放っていましたよ?」
昔と言っても、どれだけ昔なんだろう。
魔族とは精神が無になるくらいに戦ってきたから、全然覚えてない。
「そう。私はあなたが誰だか知らないから、どれだけ昔かもわからないよ」
「そうでしょうね。でも私はあなたをひと時も忘れたことはありません」
「長くなる? 私話が長いの好きじゃないんだよね」
「少しね」
「じゃあさっさとこの戦いを終わらせようか」
「その提案は賛成です――――」
刹那、私の足元の地面が砕け、無数の闇属性の針が押し寄せてきた。
咄嗟に回避するも、針は屈折し、私が回避した先に向かってくる。
結界を張ってもいいけど、恐らく貫通性を持っているだろう。
その上魔力量も凄まじい。結界を張ってもすぐに破壊されるだろうね。
であればこちらも魔法を放って対処するしか無いかな。
そう瞬時に考え、光の槍を無数に作りだし勢いよく放った。
ーー闇属性と光属性のぶつかり合い。
お互いの力が相当しているせいか、どちらが壊されることなく、その場をとどめて魔法同士が押し合いを始めている。
「おかしいですね。あなたの力はこんなものじゃ無いはずです」
ロフェルは怪訝な顔を私に向けて言い放つ。
「魔族相手に本気は必要ないってことだよ」
「いいですね。そうでないとこちらも楽しくありません」
するとロフェルが放った闇の針の魔力が増大していき威力が上がる。
次第に光の槍はヒビが入り、今にも砕けようとしている。
「やるねロフェル。凄まじい魔力だ。そこらの魔法師じゃ到底追いつけないだろう」
ロフェルはその言葉が嬉しかったのか、笑みを浮かべながら答える。
「当然です。魔族が人族を勝ることなど、自然の摂理ですからね。しかし、あなたを除いて」
「......そう。それだけ私は脅威として見られてるんだね」
「そうでなければ、今このような状況ではありません」
「確かにお前の言う通りだ」
こちらも光の槍に魔力を増大させ、ロフェルの攻撃に対抗する。
ヒビの入った光の槍は、瞬く間に元の姿に戻る。
しかしそれでも闇の針を破壊するまでは至らない。
「こんなにも派手に戦ってたら、街の住民に見られそうだ」
「安心してください。この周囲には認識阻害魔法を施していますので、ご心配は要りません」
「そう」
なるほど。舞台は準備されていた訳か。
であれば、ちょうど都合が良い。
その準備された舞台を存分に利用しよう。
光の槍に魔力を大量に流し込み、威力を爆発的に増大させ、ロフェルの放った闇の針を軽々と破壊していく。
街の住民に何も気づかれないのなら、多少強引に戦っても問題ないだろう。
破壊された闇の針は、魔力が徐々に分散して魔素となり空気中に漂っていく。
闇の針を破壊した光の槍は、瞬時にロフェルの周囲を囲む
しかしロフェルは表情一つ変えず、その光景を眺めていた。
「......貫かないのですか?」
沈黙から生まれたロフェルの一言。
ここで敗れることを恐れていない。
「降参するならこのまま貫く」
「私が降参するように見えますか?」
「見えないかな」
「......その通りです――――」
すぐさまロフェルは魔力で闇の剣を作り出し、光の槍に対抗すべく体勢を取った。
しかし光の槍は微動だにせず、ロフェルを見つめている。
「......何故放って来ないのです?」
なかなか攻撃が来ないことに疑問を浮かべたようだ。
「魔族の存在は『魂』にある。お前は思い違いをしているんだよロフェル」
「......どういうことですか?」
「確かにお前は、魔族としてなら強い部類に入る。だから今ここで完全に死ぬことになる」
「理解出来ませんね。強者が生き残ることもまた自然の摂理」
「そこだよロフェル。強者が生き残る思想が通用するのは、魔族の間だけだ」
「つまり......人族相手には通用しないと?」
「もっと細かく言うなら、本当にごく一部の人族だけかな」
ーー私が指を鳴らすと、ロフェルが握っていた闇の剣が、魔素になって散る。
無表情だったロフェルの顔がようやく、焦りを始めた。
「何故、私の剣がっ......」
ロフェルはもう一度、闇の剣を作り出し構える。
私は無言のまま、また指を鳴らし、闇の剣を消す。
焦りを覚えたロフェルは何度も闇の剣を作る。
作っては消え、作っては消え、作っては消える繰り返し。
ロフェルは他の魔法を放つが、それもまた指を鳴らし消える。
「何故......何故ですか! 何故魔法が使えない!」
やはり魔法が消えてしまうことに完全に焦りを覚えたロフェル。
マジックキャンセラー。
自身の周囲に飛び交う魔法を強制的に解く魔法。
しかし自身が放っている魔法を除いて。
発動条件は相手の魔法構成を完璧に読み取ること。
常人が扱える魔法ではない。
その魔法を私は無言無表情のまま、何度も放つ。
「何故だ! どうして奴が指を鳴らしただけで魔法が消えるのだ!」
ロフェルは幾度となく魔法を使うが、その度に魔法は消えてしまう。
「どういう原理なのだ......? 私の魔法に不備はない......!」
私はロフェルが下を向き頭を抱えてる姿を眺めながら、少しずつ歩いて近づいていく。
その姿は今宵の空で輝いてる星々の一つのような存在感を放出する。
歩いて近づいている最中でもロフェルは口を走らせながら、魔法を駆使して抗い続ける。
しかしその抗いさえも強引に捻じ曲げられる。
魔法が魔素へと散っていく。
月の光に照らされ、より際立つ。
やがてロフェルの間合いまで入り込み、私はそろそろ決着をつけると言わんばかりに杖をロフェルの額に向けた。
「......あなたは、こうなると分かっていたのですか?」
震えた声でロフェルが言う。
「そうだね。お前が人族でずる賢く、強さを求める存在ならこうはなっていないだろう」
冷たく放ったその言葉は、ロフェルの耳に触れる。
だが先程の焦った調子の声はどこかへ消え去り、ロフェルの言葉からは恐れが無くなった。
「では、これならどうでしょう――――」
......。
警戒するが何も起こらない。
魔力の流れも感じない。
ロフェルは自信に満ちた声で言ったが、大地に跪き、片手で支えた体勢のままだ。
アトラの身に何か起きるのかとも考えたが、彼は緊張した表情でこちらを伺っている。何も変化はない。
この魔族は一体何をしたんだ。
無論私の身にも何の影響もない。
しばらく続く無音の空気が思考を加速させる。
「――――私の負けですね......」
突如としてロフェルは投降する言葉を口にした。
ゆっくりと顔を上げ、諦めのある瞳で夜空を眺める。
しかし私はそれを見て同情心など抱くはずもなく、冷徹な眼差しでロフェルを見下す。
「......どういう事か分からないけど、お前はここで殺す」
無限に広がる夜空に向かってロフェルは微笑みを向け、哀れみと悔しさの混ざった顔で静かに言う。
「そうですね。私はもうこれ以上生きていても無意味になった」
私とアトラはそれを無言で無表情でただ見ていた。
ロフェルの戦意は完全に消え去っている。
抗う術も断たれ、ましてや最悪の場合に備えた策も、絶たれたのだから。
「この街の支配人である貴族と私の存在を贄に、この場で我が主を蘇らせようとしましたが、それはもう叶いません」
「白状するとは珍しい魔族だね」
「我が主の存在がもう......ありませんからね」
絶望ではなく、切なさと幸福さがロフェルを包んでいる。
「私もそちら側へ行けるのなら、死など恐れる理由がありません。その上、この街の貴族に施していた呪いも解かれたときています。もう私に抗う術はありません。ディアベル様......お互い姿は無くとも、私はあなたの下僕であり続けます」
覚悟を決まったのか、それを望んでいるのか。
ロフェルの瞼が下がりきっている。
閉じた目の涙腺から何か輝くものが見えたように思えた。
だが魔族は感情によって涙を流すことなどない。
現に今まで涙を流す魔族を見たこともない。
こいつらはそれすらも人族を惑わせる一つの方法として考えているんだろう。
散々魔族を葬った私には分かる。
ーー時間の無駄だ。
「もう殺していい? 吐いて欲しい事は勝手に言ってくれたし、もう用済みかな」
その問いにロフェルは頷きの動きも見せずに答える。
「ええ。ただ一つ最後に言わせてください。この世界から、魔族の存在を」
ーーーー途端、魔力の圧縮された光魔法が至近距離で放たれる。




