☆第26話☆ 【緊迫な駆け引き】
「『魔族』だ。奴らの存在は魂だけで実態を持たない。でも弱点は必ずあるから、さっさと終わらせようか」
私の言葉に反応したアトラは咄嗟に剣を構えた。
「信じられねぇ......本能的に剣を構えちまう......強いのか?」
「そうだね。今のあなたじゃ手に負えないくらいには」
「――は?」
「だから今回は私一人で倒すよ」
「じゃあなんで連れて来たんだよ!? 俺ただの足手纏いじゃん!」
「『魔族』っていう存在を実際に見て欲しかったからかな」
するとアトラはまじまじと目の前にいる魔族に目を向ける。
「......生きた心地しねぇよ......俺は今までおとぎ話の中の存在だと思ってたから」
魔族がいなくなって約千年の間、人族は平和すぎたからね。
色々と戦争はあったものの、それは国同士による地位や物資の奪い合い。
魔族によって何かを失うことなんてなかったから無理もない。
「今の時代、誰しもがそう思っているのですよ。そこにいる、少女のおかげでね」
目の前の魔族が淡々と口にする。
「アトラは下がってて」
「お、おう......あとで色々と説明してくれよ」
彼を後ろに下がらせ、私は無言で魔族と向かい合う。
「私は『シルヴィア』お前の名前は?」
魔族に名前を名乗るのは癪だが、そうしなければいけない魔族も中にはいる。
プライド。
魔族の弱点の一つだ。
「おや、昔はただ無惨に私たちを葬ってきた者が名乗りを上げ、相手の名を求めるとは。どういった風の吹き回しでしょう」
私の名乗りに疑問を感じた魔族は、手を顎に当て考えている。
「答えろ。お前の名前を。それとも自信がないのか? 名乗れるほどの実力が無いから」
大抵の魔族は己の腕を過信している。だから煽りは奴ら相手には有効だ。
そして魔族はしばらく黙り込んで答えを出した。
「......いいでしょう。その挑発に乗ってあげます。私は高魔族ディアベル様の配下、『ロフェル』と申します。お見知りおきを。しかしそれも今夜までの話」
「名乗りを上げたな」
そうして私は、何もない空間から杖を発現させ構える。
この魔族は昔に比べて力が増しているだろう。
一筋縄にはいかなそうだ。
どうやって力を蓄えたのかわからないけど、巧妙な手を使ってくることは間違いない。
「だからなんだと言うのか。その杖、覚えていますよ。銀色で手元に髪と同じ色をしたリボン。そして杖先にはその杖の象徴とも見える、青虹色に輝く星の形をした石。あの時もあなたはその杖で魔法を操り、私たちを翻弄しました。しかし、今はどうでしょう。一度見た技が私に通用するかどうか」
ロフェルは余裕そうに笑みを浮かべ、反対に私を煽ってきた。
だがそれが魔族だ。
なんの問題もない。
「正直驚いたよ。昔は何もできなかった魔族がここまで力をつけていたなんて」
「魔族の本質は魔力。数百年もあれば力をつけることなど容易です。我が主人も今では私でも届かぬ高みへいることでしょう。その姿をこの目に映る時が楽しみで仕方ありません」
どこまでもお喋りな魔族だ。
「随分とお喋りだね。私を殺したいんじゃないの?」
「お喋り......?」
ロフェルはその言葉に笑いを起こした。
でも私にはその笑いの点が微塵も理解できない。
「お喋りですか。そうですね。そうかもしれません。あなたともう一度会えたことに喜びを感じているのでしょう」
「そう。私はこれっぽちも嬉しくないけど」
「ちなみに、そちらにいるお連れの男性も殺してよろしいので?」
ロフェルの視線が私からアトラに行くと、彼は防衛本能的に剣をロフェルに向ける。
「いいよ」
「シルヴィア!?」
「――――先に私を殺せた時はね」
その言葉にロフェルはまともや笑いを起こす。
よっぽど己の腕に自信があるのだろう。
やがてロフェルの笑いはおさまり、細い目をしながら言う。
「無慈悲で残虐とも言われている者が、保護者図らですか。これはまた面白い冗談です」
「彼はただの旅仲間だ。居ない者として考えてもらっていい」
「過保護ですね。数年も経ってしまえば、本当に居なくなってしまうのに」
「何が言いたい?」
「人族と言っても、寿命は最も短いと謳われている人間族。あなたがここで彼を守れても意味が無いと言っているのですよ」
「口が減らない魔族だ――――」
先制攻撃を仕掛けるため、魔族の背後に高速で移動し、光魔法を放った。




