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★First Comet★  ☆第二話☆ 【少女の暮らし】



 朝に起きては、夜に眠る。

 

 己の運命を覆す道筋を、探し求める時間の牢獄。

 

 しかしその限られた牢獄の中で、輝く石はひとつもない。

 

 そしていつか、星の舞い降りる夜に、わたしは私でいられると、祈り続ける。


「……寝たりない」


 窓からの陽射しが私を照らし、眠りから目覚めさせる。


 また始まる一日。


 今日は私に何をもたらすのだろう。


 毎日同じような生活をして、達成感のある日を迎えたことは一度もない。


 そもそも達成感なんて、日々の生活から必要なもの?


 生き物は必ず、いつか大地の一部に姿を変える。


 焦っても、喜んでも、落ち込んでも、全て無かったことと同然のように時は過ぎ去る。


 それが当たり前のように私に与えられた、唯一の要らない感情。


 私が達成感を求めたって、生き行く先は……。


「お腹、空いた……」


 でも苦痛だとか、退屈だとか、そういった面倒に感じる日々を過ごしているわけでは無い。


 無論、私は私の好きなことをするし、嫌なことに目を背けるようなこともしない。


 時間が許す限り、興味のあることをしたり、知識を増やすための研究に明け暮れている。


「あ、昨日の実験……」


 だから今の日々に、達成感ではなく、充実していると私は実感しているのだ。


 やりたいことをやってるだけだからね。


 でも、それだけで充実と言えるのか。


 もちろん言える。


 人それぞれの充実の定義は、その人自身が自分の中で定義付けているもの。


 良い時間も嫌な時間も、等しく世界から与えられた生きる幸せ。


 しかし……今の私には、その充実の中で何かが欠けていると、時々思うことがある。


 なんだろう……。


 心臓の奥が物凄くモヤモヤする感覚が、最近増えた気がする。


「んーー、うっ……いたい」


 ベッドから落ちた。


 まだ私にとって足りていないものがあるのだろうか。


 普通に考えると足りないことだらけだけど、別に今の生活に不満は無いし、不安もない。


「……いてて」


 本当に世界は不公平だ。


「シャワー浴びよ……」


 シャワーで目が覚めたら、朝食を作ろう。


 昨日取れた食材で、少しボリュームのあるものにしようか。使わなきゃ勿体ないしね。


 ボリュームと言っても、山菜をパンでサンドしてるだけだけど。もちろん栄養は足りてる……はず。


 そういえば、ここ数ヶ月間、お肉を食べていない。流石に食べなきゃいけないか。


 あの子が来たら、少し譲ってもらおう。



   ★



 シャワーから戻った私は、昨日の夜に徹夜で研究していた植物を見た。


「げっ、枯れてる……」


 結果は失敗。


 ……違う成功だと思い込んでおこう。でないと私の精神がいつか崩落する。


 ちなみにこれは『シルアル』という薬草を『ベルアル』という上位薬草にする実験。


 人口的に植物を変化させることは、世の中では人智を超えた能力と言われている。


 ましてや、魔力の多いと知られているシルアルを、上位互換へ変化させるなんて無謀なこと。


「……まぁいいか、早く朝食を食べよう」


 そう呟いてキッチンに向かう。


 実験の失敗など、たかが知れてる。


 幾度も研究を続けて来て失敗は当たり前だ。


 寧ろ簡単に成功すると、やり甲斐に困る。


 ……勿論、手応えも気持ち良いけど、難しいものほど簡単に成功するなって思ってしまう節もある。


 今回は特段に困難な実験だから、それこそ簡単に成功されてしまうと、嬉しいようで嬉しくないような感情になってしまう。


 だからこの実験は、失敗続きでいいんだ。


 いや……別ルートの成功続き、かな。


「あれ……? パンが、無くなってる……?」


 おかしい。


 いつもならキッチンの上の棚に置いているはず。


 食べた記憶は無い。昨日の昼の時点では、確実にまだ棚に残っていた。


 小腹が空いて、いつの間にか食べてしまってたのかな……?


 でも昨日の夜は研究に没頭してたし、キッチンに来た覚えは……。


 あっ。


「そういえばシルアルの実験に使ったんだった……! あ〜、忘れてた〜!」


 どうしよう。


 私のお腹は刻一刻と背中に迫って来ている。


 パンが無ければ、私の一日は始まらない。


 パンは腹持ちが良いから重宝している私の主食なのだが、それが今無い……!


 となればっ。


「……よしっ」


 もういっその事、レシピを変えよう。


 山菜サンドじゃなく、山菜サラダにしてしまえば良かろう作戦!


 完璧だね。


 でも、普通に考えてパンが無くなっただけじゃん……。


 いや、味付けが変わればレシピも変わる!


 今はただ、昨日実験に使ったパンに後悔しないこと。後悔しない為には、今できることを最大限に活用し、次に活かすこと。


 大丈夫、あの子が来たら、お肉のついでにパンも頼んでおこう。


 そう考えながら、私はお皿に味付け山菜を盛った。


「とりあえずこんなもんかな」


 うん、見栄えは文句なし。村の祭りで出てきてもおかしくないくらいには。


 しかし……。


「み、みどり……」


 もう少し色が欲しい。所々に赤とか黄色とかはあるけど、そうじゃない。


 山菜以外があったら、朝から気分がいいんだけど、文句は言ってられないよね。


 私はテーブルにサラダを置き、席に着いて手を合わせる。


「いただきます」


 あと、今日あの子がここに来ることも、ついでに願っておきます。


 そして山菜を口に運ぶ。


「お、意外と美味しい」


 シャキシャキしていて食べやすい。


 やはり取り立ての山菜は、いつにも増して私の胃袋を喜ばせる。


 昨日の昼間に取ったものだから、取り立てと言っていいのかは怪しいが。


「たまには、サラダだけでもいいかもね」


 少しサラダの味付け種類を増やしてみよう。そうすれば味に飽きることはないだろうし。


 ……そういえばあの子、数ヶ月間もの間、ここに来てない。多分、部屋を散らかしすぎる私が原因なのかもしれないけど。


 別に部屋が汚いというわけじゃない。壁や床に、シミとか埃は一切ないし、傷も付いていない。


 ただ、私は書物や研究道具を使えばいつも放ったらかしで、あの子がここへ来る度に、部屋の片付けを手伝ってもらってる。


 流石に嫌気が差しちゃったのかな。


 私は山菜を口に運びながら部屋を眺める。


「やるしかない……か」


 掃除を決断。


 三日間何もしなかっただけで、とんでもないことになっている。窓の側においているソファは、魔法書の山積みで、もはや座らせる気がない。


 寝室の横にある研究部屋は、錬金素材やそれに使う道具が、辺り一帯に広がっている。


 ここに住む時、この大樹に魔法を掛けておいて良かった。


 何もしていなかったら、部屋中にキノコが生える生活をするとこだった。


「とりあえず、食べ終わったら始めようか」


 一昨日からそう言って何もしていない自分。


 ……あまりそれは考えたくない。


 そう没頭! 


 研究に没頭していたから、手を付けられなかった。ただそれだけ。


 それだけだ。


 今日はちゃんとする。片付ける。流石に散らかしすぎてるから、生活に支障が起き始めている。


 読みたい魔法書が埋まっていて、それを探そうとしたら山積みの魔法書が雪崩のように崩れて私がそれらの下敷きになったり、通ろうとしているところに書物が落ちていて、それを踏んで滑り転んだりと、痛いことばっかり。


 おかげで身体の所々に痣ができ、痛いからすぐに治療。


 ということが、ここ二日間で朝昼晩に起きている。


 今日もそうだ。起きたと思ったらベッドから落ち、頭を打った。


 ……私の問題か。


 と考えると、片付けをしないということも私の問題か。


「……誰かやってくれないかな」


 率直に言うと、面倒臭い。


 長い間ここに住んでるけど、片付ける時間が勿体ないのも理由の一つ。その時間があれば研究をほんの少しでも先に進められる。


 あ〜、私の中の悪い悪魔と良い悪魔が戦ってる……。


 片付けなんて放置してしまえば良いと言う良い悪魔。


 誰かがここに訪れた時に手伝わせてやれと言う悪い悪魔。


 悪魔しか住みてついてないのか、私の脳内には。


 天使が入る隙間さえ広げない。


「あーー! もう!」


 雑念が頭によぎり、両手で髪をクシャクシャした。


 ダメだ。こんなことばかり考えていたら、いつかホントにダメなヤツになってしまう……。


 ここが正念場だ!


 そして山菜を一気に食べた。


「よしっ! とりあえず魔法書から!」


 山菜を食べ終わった私は、バッと立ち上がり、ソファへ向かう。


 そこには山積みになった魔法書がある。


 種類がバラバラになっていて、揃えなきゃいけないと考えると、尚更片付けをする気が失せる。


「もう後でいっか」


 種類別にせず、近くにある本棚へしまおうか。


 一冊一冊しまうのは日が暮れてしまうので、本を全部浮かし、次々と棚へ並べた。


 種類別にしないだけでここまで快適になるだなんて。


 今までは本の表紙を確認しては、棚に置いていくという作業をしていた。


 これは革命だ。次からもこうすれば片付けも楽になる。


 よしっ! この調子でどんどん片付けていこう!

 


   ★



 研究部屋も片付け一段落した私は、昨日山菜と同時に収穫した茶葉で紅茶を作っている。


 もちろん紅茶を一から加工なんて、そんな時間のかかることはしない。


 その工程さえも、私が自分で作った魔法ですぐに出来てしまう。


 これの良いところは、自分好みに味を変えられること。


 茶葉を普通に加工すると、全部似たような味になって、要らないところまでの味を感じさせる。


 それに比べ魔法で加工する際は、魔力の繊細な動きと、その人自身の考えていることによって品質が変わってくる。


 だから私はこの魔法を作ったのだ。


 名付けるなら、『紅茶を自分好みにする魔法』といったところかな。


 我ながらネーミングセンスが終わってるね。


「うん……いい匂い」


 ティーカップに紅茶を注ぎ、香りを楽しむ。


 やはり紅茶は良い。


 心も体も安らぐし、ハーブを入れればもっと香りが際立って、スッキリした味わいになる。


「でも、やっぱパンが欲しい」


 紅茶だけでもいいけど、少し口寂しい。


 何かを口にしながら紅茶を飲む方が、気持ちいいし、何よりリラックスも出来る。


 ……そのパンが今無いんだけど。


「贅沢は言ってられないか……」


 そして紅茶を一口飲む。


 美味しい。


 いつもより体に染みて、心もすごく暖まる。


 これを朝から出来ているのなら、まだ私は落ちぶれていない。


 大丈夫。


 今日も部屋の片付けはしたし、洗い物も終わらせた。今ちょうど終わったところだけど。


 もちろん洗い物も、魔法で食器を浮かせたりなどして洗った。


「また研究のやり直しか……麦がダメなら卵でやってみようか」


 お肉でやりたいところだけど、まずは食用を確保しなければいけない。


 そのためにはあの子がここに来なきゃ、話が進まない。


 もういっそのこと、私が直接村に行った方が早い気がしてきた。


 でも行けないのが現実。


 私はあの村には知られていない存在だから、無闇に足を運ぶと、村の住人からよそ者扱いを受ける。


 言ってしまえば冒険者扱いをされ歓迎されてしまう。


 しかし私は目立つことをあまりしたくない。


 幸いにも、あの村の長は私がこの森を管理していることを知っている。


 そして私は何故か、村の長の間だけで存在が受け継がれているらしい。


「屋敷にこっそり入れば良くない……?」


 隠蔽魔法なんて容易く使えるのに、何故か今の長はそれを固く拒んでくる。


 ……私に空腹の限界は無いと思ってるのかな、あの子は。


 たまには顔を出して食用を少し分けて欲しい。


 ただ単に同情心が無いのだろうか。


「毎回毎回、あの子に部屋を片付けさせてるからかな……」


 次会った時は謝っておこう。


 そして私は紅茶を飲み終え、窓の外を眺めた。


 もちろんそこは森。


 いつもと変わりない全く同じ風景が広がっている。


 しかし今日は珍しく、庭に一匹のスライムがプルプルと体を転がして遊んでいる。


 そこら辺の地面は硬すぎて作物も育てられないから、魔法で柔らかくしてある。


 その上に少しだけ草を生やして、モフモフとした感触に仕上げた。


 おそらくそれが、スライムも気持ち良いと感じてるんだろうね。

 


『気持ちいい〜〜』



 あれ、紅茶に何か入れてたかな……?


 幻聴らしきものが聞こえた。研究で体が疲れ果ててるのだろうか。


「でも、スライムがこんな所に居るなんて、本当珍しいね」


 ここはこの森の中でも、魔素の濃度が一番濃い場所だ。


 普通なら弱い魔物は足を踏み入れることはない。


 ましてや魔獣でさえこの森を嫌う。


 そんな場所に最も弱いと言われているスライムが、私の目の先に居る。


 面白そうだから隠蔽魔法で近づいてみよう。


 そう考え、私は気配を消しながら外へ出る。



   ★



『気持ちいい〜〜』


 さっきも同じこと言ってたよね。


 気持ち良いのは分かるけど、もっと別の言葉も聞かせて欲しい。


 あと幻聴じゃなくて、スライムの魔力波長から聞こえる声だ。


 特殊個体かな。


 そしてスライムの真後ろまで近づく。


 直接触れるのは危ないか。


 スライムは全身が酸で出来てる魔物。


 何も考えず触ってしまうと、皮膚を溶かされてしまう。


 だとしたら安全策は酸を中和することかな。


 もちろん魔法で。


「えいっ」


 魔法を掛けられたスライムは、分かりやすく驚いた。


 ピョンピョンと高く跳ね、私から距離を取った。


 どうしよう。


 思ったより可愛い……。


「そんなに驚かなくて大丈夫だよ。何もしないから」


 その場でしゃがんで、スライムに話しかけてみた。


 しかし返事は帰ってこない。


 スライムは警戒するかのように、私の周りをスルスルと移動し始めた。


 そういえば私、このスライムの酸を中和する為に魔法を掛けたけど、そもそも地面の草が溶かされていなかった。


 つまりこのスライムの体は、酸じゃない……?


 だとしたら今までどうやって生きていたんだろう?


 普通なら草木を酸で消化して食事をする生き物なんだけどな。


「君、名前は?」


 答える気配はない。寧ろさっきより増して警戒心が強くなってる気がする。


「どこから来たの?」


 ……。


 流石に通じないか。


 魔力の多い個体だから、もしかしたら言葉が通じるかと思ったけど、ダメみたい。


 さっきは部屋の窓から見てたから分からなかったけど、このスライムはそこらの魔物より魔力量が多い。


 魔法が使えるのかな。


 もしそうだとしたら、ここに居るのも納得が出来る。


 この森は基本的に力強い獣が多いから、普通に狩るより、魔法でどうにかする方が圧倒的に楽だし効率が良い。


 ただその情報を得るには、このスライムと会話しなければならない。


「……魔力波長を合わせるしかないか」


 魔力波長。


 魔力を感じる時や放出する時に生じるもの。


 音が大気を振動し、相手の耳に届くという仕組みと似ている。


 これで実際に声を出さずとも、お互いの魔力で会話を可能にする。


 もちろん欠点もある。


 ダダ漏れになることだ。


 誰かと魔力波長で会話をしていると、第三者にその内容を聞き取られる。


 だから無闇矢鱈に使うのは基本的に推奨されてない。


 そして魔力波長で会話するには、相手と自分の波長を合わせる必要がある


「う〜ん、さっき感じた波長と私の波長を合わせて……こうか」


 精神を安定させるため目を瞑る。


 魔力波長をコントロールするにはかなりの集中力と体の安定が必要だ。


 疲れる。


 その上繊細な魔力制御が必須になるからもっと疲れる。


「……波長はこれで大丈夫。あとは出すだけ」


 魔力波長を放出するだけでも困難なこと。


 魔力と魔力波長は共存関係にあるが、それを強制的に分離させ、波長のみを放出させる。


 これを可能にするのは、魔法に人生を注いだ人物くらいだろう。


 そんな趣味を持っている人物が存在するのかは知らないけど。


 ……私か。


『もう一度聞くよ。君はどこから来たの?』


 ゆっくり目を開け、スライムの魔力波長と同じ波長を出し、もう一度語りかけてみる。


 目を瞑っていた間、襲われなかったということは、このスライムも戦闘の意思はないということかな。


『ーーーー!?』


 スライムに私の波長が届いたのだろう。


 問いかけた途端、急に周りをキョロキョロしだした。


『私の声、聞こえてる?』


 今度は手を振りながら語りかけた。


 私の手に反応したスライムは焦るのを止め、ゆっくりと私を見る。


 あ〜……抱きしめてみたい。


『気持ちいい〜〜』


『……名前は?』


『気持ちいい〜〜』


『そっか〜、気持ちいいって名前か〜。良い名前......ではないか』


 おそらく『気持ちいい』という言葉以外を知らないのだろう。


 仮にそうだとしても、誰が気持ちいいって言葉をこのスライムに教えたんだ。


 もっと他に教えるべき言葉があるでしょ……。


 反応やリアクションで読み取ってみるしかないか。


『どこから来たの?』


『気持ちいい〜』


『仲間はどこかにいるの?』


『気持ちいい〜〜』


『どうやってご飯食べてたの?』


『気持ちいい〜〜〜』


 うん、ダメだ。


 会話が成立しない。


 私の言葉を理解しているのかもしれないけど、私がスライムの言葉に理解できない。


 スライムは何かを訴えるように身体も動かしているが、何一つ読み取れない。


 ムズい、ムズすぎるよ。


「どうしよう……会話はできるのに言葉が通じない」


 頭を抱えるほどの難問だ。魔法であれこれ考えている時と少し似ている。


『どうしよう……?』


 もしかして今私の言葉を理解した……?


『今なんて言った?』


 確信を得たい私は、必死にスライムに近寄ってそう言った。


『どうしよう?』


 確かに、聞こえた。『どうしよう』って私の脳に届いた。


 なるほど、このスライムは実際の言葉を聞いて覚えるのかもしれない。


「ふぅ〜、一旦落ち着け、私。近寄りすぎると逃げられてしまうかもしれない……」


 呼吸を整え、スライムから少し距離を取る。


 まずい……このスライムと出会ったことで、私のやりたいことが増えてしまった。


 ただでさえ今は薬草の研究で忙しいっていうのに、そこにこんな巨大な興味が現れたら、抗えるはずがない。


 とりあえず、このスライムについての情報を整えておこう。


 シルアルの研究を野放しにはできないからね。



 一つ目は、魔力量。



 そこら辺で生息している魔物や獣よりも、圧倒的に魔力を所持している。


 魔法を使えるのかは今は不明だ。ここに居るということは、おそらく魔法で獣を狩って食料を確保していたのだろう。



 二つ目、魔力波長。



 スライム自身は自覚をしていないが、魔力波長で相手との会話を可能としている。


 反応を見るに、初めて会話をしたのは私だけなのかもしれない。



 そして三つ目、言葉。



 初めは『気持ちいい』という言葉しか覚えていなかったが、私がボソッと呟いた一言を瞬時に覚え、その言葉を発していた。


 言葉の意味は理解していないかもしれないけど。


 しかしこれはこれで、大きな一歩だ。


 もしかしたら、いつか誰かと会話ができるほどに成長するかもしれない。


 とりあえずこのスライムの大きな情報はこれくらいかな。


 今後増えていくことが多いと思うけど、一旦やめよう。


 今している研究をさっさと終わらせたいし。


「シルアルが先か……」


 少し悔しそうに私は呟いた。


 そしてこのスライムをどうするか。


 正直一緒に生活して言葉を覚えさせたい。


 覚えさせて、いろいろな事を聞きたい。


 でも、このスライムが答えてくれるかどうか……。


 そう思いながら、スライムへ視線を向ける。



『気持ちいい〜〜』



 ......。


 ...........。


 私はこの子と生活すると決めた。

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