☆第22話☆ 【闇の空気】
この街の貴族の屋敷には妙に護衛が多い。
今日、街を歩いて観察した感じ、特に警戒すべきものは何もなかった。
屋台の品に質素なものはなく、新鮮なものがほとんどだ。
貿易街だけあって商人達の気合いもすごい。
そしてこの街に異変があるかもしれないとシルヴィアに頼まれ、屋敷に忍び込んだ。
平和な街の裏側では、何やら怪しい動きが見える。
「そうですか。あの魔女が」
この街の貴族『カミエル・アトゥラス伯爵』。
今忍び込んでいるのはこの貴族の屋敷だ。
街の中心に構えていて、実にわかりやすい。
「はい。確かに北門でその姿を確認しました。少女の姿で長い金髪、間違いございません」
その部下らしき人間が答える。
「私の計画に奴は邪魔です。しかしそれを想定して計画を練ってある。まずは北門以外の警備を薄めなさい」
「畏まりました」
「奴は存在しているだけで計画に支障が出る。悟られぬよう慎重に行動してください」
シルヴィアの言う通り、この街には異変があるみたいだ。
黒のタキシードを着ているこの伯爵の男。
ひと目でわかる。闇が深い。
明らかにやばい存在だというのを肌で感じる。
「はっ。連れの冒険者二名はいかがいたしますか?」
「腐っても魔女の連れ。警戒は怠らないよう。最悪の場合、殺しを選択しても構いません」
魔女って何だろう。
初めて聞いた言葉だ。魔法師とはまた別の存在なのだろうか。
「承知しました。そのように」
「うむ。下がってよし」
「ーー失礼ながら、最後に一つご報告があります」
「何ですか?」
「教会の司教が、魔法図書館への追加魔法書を『魔法大国ゼニア』へ要請したようです」
それを聞いた伯爵の男は舌打ちを打つと、平然を保ったまま言った。
「忌々しい老いぼれが......適当な口実でも作ってその要請を巧く取り消しなさい」
なるほど。
魔法図書館の規模が小さいと思ったらそう言うことだったのか。
「畏まりました。では失礼します」
そうしてその部下らしき男は部屋から出ていった。
そして部下らしき男が退室したことを確認した伯爵の男は、窓から外の街を眺めながら呟いた。
「もうすぐです。ディアベル様......」
何かを企んでるかは分からないけど、すぐに戻って二人に知らせよう。
シルヴィアから魔法伝授して貰う約束もあるし。
☆ ☆ ☆
「なぁ、『魔女』って何なんだ?」
カフェでゆっくりした後は、宿へ戻って俺の部屋でシルヴィアと寛いでいる。
「さぁ。何だろうね」
この宿へ来た時に受付嬢であるティナから聞いた言葉。
「なんかこの街の外にある北側の森に、その魔女が住んでる、でかい樹があるらしい。んで百年くらいそこから出てきてないってティナさんから聞いたんだよ」
「物好きな人もいるんだね」
「だよな。シルヴィアも知らないとなると、魔女ってのは一体何なんだ? 女魔法師を総称してそう呼んでるのか......もっと別の存在なのか」
次はナータに聞いてみよう。
あいつなら旅の中でその言葉を何度か聞いている可能性がある。
「知りたいなら、会いに行ってみたら?」
「行くほど気になってるわけじゃない」
「じゃあ何で聞いたの?」
「お前かナータなら知ってると思っただけだよ」
「そう」
「ていうか何で俺の部屋に居るんだよ。しかも俺の横で寝転びやがって。俺のベッド! 狭い!」
俺が寝転んでる横でシルヴィアも寝転んでいる状態。
何故か当たり前のように俺の部屋へ入ってきては、俺が使うベッドで本を読んでいる。
危機感というものを持っちゃいない。
「私も少し働いて疲れてるんだよ」
「自分の部屋で休めよ。人数分あるんだし」
「もちろんここに居る理由はある。はいこれ」
と何か紙切れを渡してきた。
「何これ?」
受け取ってその紙を眺めた。
裏にはナータの名前が書かれてある。
「馬車のチケット。三日後の昼に乗る予定」
「なるほど了解。それまではこの街に滞在ってことだな」
「そういうこと。何もなければいいんだけどね」
「そうだな」
よっぽどの事をしなければ、特に問題ないだろう。
今までも普通に過ごせていたし。
この街も平和に見える。
なんか妙に目的を聞かれがちだか......。
興味本位で聞いてきてるのだと思っておこう。
俺は考えるのをやめた。
「......もしかしてこれを渡すためだけにここに居るのか?」
「もうそろそろだと思うんだけど」
「――――ただいま」
部屋の扉が開き、ナータがゆっくり入ってきた。
「おかえり」
シルヴィアが本を読みながら返事をする。
「何でお前も俺の部屋に来るんだよ。自分の部屋に行け。この隣」
休ませて欲しい。いや一人の時間が欲しい。
カフェで美味いものを堪能したこの高揚感を一人で浸りたい。
するとナータの楽観的な表情が一気に深刻そうな顔になる。
え? 俺変なこと言った?
「その感じだと、嫌な予感が的中してそうだね」
とシルヴィアがナータを見て言った。




