☆第15話☆ 【旅人の夜】
出発してからかなりの時間が経つ。
太陽はもう沈んでいる。
そのせいで足元が暗くて歩きにくい。
「な〜、まだ街に着かないのかー? もう日が暮れたぞ。腹も減ったし」
疲れているわけではないだろう。アトラが変に根を上げた。
「この調子だと、あと一週間はかかりそうだね」
「ーーは!? まじかそんなに遠いのかよ......なら今日はもうこの辺りで野営するしかないか」
飲み込みが早い。
「歩きなら仕方ない。アトラが走ってくれれば今日中に街へ着いたのに」
アトラに対して嫌味をぶつけるナータ。
実際私にも多少のダメージはある。
彼の今の身体の原因は私だから。
「じゃあお前が飛んで俺たちを運べ」
「疲れるから却下」
この二人の今までの旅ってこんな感じだったのだろうか。
「あまり口論しても仕方ない。ひとまず寝やすい場所を探そうか」
寝やすいと言えば、天候が変わっても影響を受けにくい場所。
定番だけど、洞窟。
少し深めの洞穴でも良い。
どこかの崖の壁に魔法で穴を作ってもいいけど、安全性はない。
天然に出来ているものは、時を経て洞窟や洞穴といった形状を保つようになっているが、魔法で無理矢理穴を作ると、周りの岩の支えが耐えきれず、高確率で穴が崩壊する。
だから確実に生きるためには、天然なものじゃないといけない。
そう思い、上から辺りを見渡すため魔法で空を飛ぼうとした途端ーーーーアトラが私の肩を掴み言った。
「俺たちが探す必要はないぞシルヴィア。じゃ、ナータあとは頼んだ」
どういうことか把握できず彼らの中で何か疎通をしている。
「人使いが荒いなアトラは」
ナータはそれを言い残して目を瞑る。
「どういうこと?」
私は隣にいるアトラに説明を求めた。ナータが魔法を使っていることは理解できる。
でもその使っている魔法がわからないのだ。
「お前も知ってるだろ? ナータが自分で魔法を作れる天才ってことを」
「それは理解している。聞きたいのはそこじゃない。彼は今、何の魔法を使っているかってこと」
「あいつが言うに、地形把握魔法だとさ。原理は俺も知らん」
地形把握魔法......考えたこともなかった。
私は地面に手を当てると、魔力の流れを感知した。
ただ単純に大地に魔力を流しているだけじゃなさそう。魔力自体に魔法構成が乗っている感じ......。
後で詳しくナータから聞いてみよう。
「ーーどうだナータ。近くにあるか?」
アトラの声にナータは目を瞑りながら答える。
「う〜ん、近いところに洞窟はあるけど、そこに魔獣が住み着いてる」
「何がいるんだ?」
「体格的にマンティコラだと思う」
「早速ハズレを引いたか」
マンティコラと聞いてアトラの顔が渋くなる。
確かにマンティコラは魔獣の中では厄介な部類。
一般冒険者は戦いたくないと弱音を上げて、依頼を受けようとしない。
戦闘中どこからともなく、尻尾の毒針が押し寄せてくるからだ。一度刺されればその毒によって即死が約束される。
その知識から彼らもマンティコラとは戦いたくないだろう。
「無理に戦う必要はないよ。急いでるわけじゃないんだし。他に穴はない?」
「あ、いや戦いたくないわけじゃないんだ」
私の意見にアトラが咄嗟に反応する。
「え? でもハズレだって......」
「ーーーー不味いんだよ、あいつ」
「ごめん……どいうこと?」
「だから食っても不味いんだって。いやもう食いもんじゃないあれは」
そのハズレだったんだ。
さっきの反応的に戦いたくないからだと思ってたけど、予想外の言葉が飛んできた。
食べる? この二人は食べたことがあるの?
でも不味いって言ってるってことは、過去に食べたことがあるのかもしれない。
やっぱ旅をしていると、そういうこともするんだね......。
覚悟しておこう。
「そもそも食べようと思ったあなた達が狂気じみてると思う」
「食い物が底をついた時にしか、そういうことはしねぇよ。興味本位で魔獣を食うとか、いよいよ人間終わってる」
「確かに」
なぜか共感してしまう。食べたことないのに。
「――――他に穴はないし、そこへ向かうしかないね」
ナータが魔法を解き、冷静を保ったまま洞窟の方向へ向かう。
「了解。じゃまずはマンティコラさんに挨拶して、そこで一晩過ごすか」
アトラも平然とナータの後ろを追った。
二人して緊張感も何も持ってない。
ただ何を食べるか、どう過ごすかしか考えていない。
命の危機感を忘れてしまってるのだろうか。
とりあえず私は、シャワーを浴びたい。




