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シルヴィアの紡ぐ彗星  作者: えぬタン
★Third Comet★
16/31

☆第14話☆ 【彗星のはじまり】



 昼食が終わって、いよいよ旅に出る準備が整った。


 私も何年後、ここに帰ってくるか分からない。封印だけでもしておこう。


 誰も近寄れないようにね。


 そう思い家全体に魔法を放ち、瞬く間にその蒼い光は、巨大樹を包み込みこんだ。


「じゃあ、とりあえず馬車に乗ろうか。歩くだけは足が痛くなるし」


 私は生粋の面倒臭がり屋だ。


 ずっと歩くなんて考えられない。すぐにでも馬車を捕まえて、それになんとか乗り込みたい。


「何今の」


 とアトラ。


「封印だよ。誰かに漁られても困るし」


「そ、そうか......」


 私の行動に疑問を抱いた表情をしている。


 そう思われても仕方ない。


 自分の帰る家を封印するという奇行だし。


 私からすると、不思議でもなんでもないけど。


 寧ろ当たり前だと思っている。その方が安心して遠出できるから。


「こんな高度な封印が施せるなんて、やっぱり君は天才だ。見ただけでわかる。この封印、条件次第では対象者の身に何かが起きるね」


 あまりバレないように改良したけど、ナータには気づかれてしまった。


「よくわかったね。でもその条件は簡単に満たせるものじゃないよ」


「何すればいいの?」


「私以外の人物が、この封印と同じ密度と質量の封印を施して飽和させる」


「なるほど。それでどうなるの?」


「天国に旅立つ」



「――――怖い!」



 死ぬというのを理解したアトラが驚く。


 そうそうないことだし、大丈夫だと思う。


「まぁこれは気にしなくていいから、歩こうか」


 いつまでもここにいては仕方がない。とりあえず進まなければ何も始まらない。


「は? 馬車に乗るんじゃねぇの?」


「この辺りは通っていないんだ。だから馬車が通ってるとこまでは歩かなきゃいけない」


「じゃあアトラ、いつも通りそこまで走ってくれ」


 とナータ。


「今の身体じゃ無理があるな。多分戦闘もまともに出来ない。走り終わった頃には、俺は木偶の坊になって使い物になってなさそうだ」


 逆に今までは走って移動してたんだ......。


「なら、ますます歩く手段しかないね」


 私はそう言って、下ろしていた鞄を持ち、歩き始めた。


「おい待て待て。その方向でいいのか? 一応地図があるからそれを見てから決めようぜ」


 アトラが焦りながら私を止めた。


「どうして?」


「どうしてって......行き先もなしに進んだら、ただの迷子だろ」


「大丈夫だよ。この方角に街があるから。そこで南部行きの馬車に乗る」


 私はそう言って、お構い無しに歩き出す。


 私はこの大陸を知っているし、どこに何があるのかも大体分かる。


 だから今までここで暮らしていたのだ。


「ナータ、確認してくれ」


「言われなくても、もう確認した。彼女の言う通り大丈夫そうだ。この先に貿易街がある」


「そうか......」


 ナータはルンルン気分で歩き出すが、アトラが不安そうな顔で前へ前へと足を運ぶ。


 私は不器用だ。他人の心情を動かせるほどの知識はあまり持っていない。


 でも、これだけは伝えておこうと思う。


 立ち止まり、振り返って言った。


「あなたたちの旅に邪魔はしないと約束した。そしてその目的も知ってる。だから思い切って行動しても、後悔はないと思うけど」


 そう言うと、アトラの不安の眼差しが少し薄れたように見えた。


「そうだな。わかった、そうしよう」


 そして何処か諦めと同時に覚悟が決まったのか、やれやれと言わんばかりの微笑で歩き出す。


 それに引き続き、アトラの横にいたナータも共に歩き出した。


 私は彼らの後ろ姿をじっと眺め、それが自然と目に焼き付いた。


 旅はいつ始めても同じだ。


 それは、目の前ではしゃいでいる二人を見ればよく分かる。


 そして少し上を向くと、水色の空が広がっていて、所々に塗り忘れた空白が風に流されている。



 ーーこれが起点。

 


 それじゃ、旅立とうか。



 私も私の旅がどういうものなのか、この旅の中でゆっくり感じてみよう。

 


「ーーそういやナータ、あのスライムは?」


「村に帰った」


「え、いつ?」


「ブラックラビッツのシチューを食べた夜」

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