☆第14話☆ 【彗星のはじまり】
昼食が終わって、いよいよ旅に出る準備が整った。
私も何年後、ここに帰ってくるか分からない。封印だけでもしておこう。
誰も近寄れないようにね。
そう思い家全体に魔法を放ち、瞬く間にその蒼い光は、巨大樹を包み込みこんだ。
「じゃあ、とりあえず馬車に乗ろうか。歩くだけは足が痛くなるし」
私は生粋の面倒臭がり屋だ。
ずっと歩くなんて考えられない。すぐにでも馬車を捕まえて、それになんとか乗り込みたい。
「何今の」
とアトラ。
「封印だよ。誰かに漁られても困るし」
「そ、そうか......」
私の行動に疑問を抱いた表情をしている。
そう思われても仕方ない。
自分の帰る家を封印するという奇行だし。
私からすると、不思議でもなんでもないけど。
寧ろ当たり前だと思っている。その方が安心して遠出できるから。
「こんな高度な封印が施せるなんて、やっぱり君は天才だ。見ただけでわかる。この封印、条件次第では対象者の身に何かが起きるね」
あまりバレないように改良したけど、ナータには気づかれてしまった。
「よくわかったね。でもその条件は簡単に満たせるものじゃないよ」
「何すればいいの?」
「私以外の人物が、この封印と同じ密度と質量の封印を施して飽和させる」
「なるほど。それでどうなるの?」
「天国に旅立つ」
「――――怖い!」
死ぬというのを理解したアトラが驚く。
そうそうないことだし、大丈夫だと思う。
「まぁこれは気にしなくていいから、歩こうか」
いつまでもここにいては仕方がない。とりあえず進まなければ何も始まらない。
「は? 馬車に乗るんじゃねぇの?」
「この辺りは通っていないんだ。だから馬車が通ってるとこまでは歩かなきゃいけない」
「じゃあアトラ、いつも通りそこまで走ってくれ」
とナータ。
「今の身体じゃ無理があるな。多分戦闘もまともに出来ない。走り終わった頃には、俺は木偶の坊になって使い物になってなさそうだ」
逆に今までは走って移動してたんだ......。
「なら、ますます歩く手段しかないね」
私はそう言って、下ろしていた鞄を持ち、歩き始めた。
「おい待て待て。その方向でいいのか? 一応地図があるからそれを見てから決めようぜ」
アトラが焦りながら私を止めた。
「どうして?」
「どうしてって......行き先もなしに進んだら、ただの迷子だろ」
「大丈夫だよ。この方角に街があるから。そこで南部行きの馬車に乗る」
私はそう言って、お構い無しに歩き出す。
私はこの大陸を知っているし、どこに何があるのかも大体分かる。
だから今までここで暮らしていたのだ。
「ナータ、確認してくれ」
「言われなくても、もう確認した。彼女の言う通り大丈夫そうだ。この先に貿易街がある」
「そうか......」
ナータはルンルン気分で歩き出すが、アトラが不安そうな顔で前へ前へと足を運ぶ。
私は不器用だ。他人の心情を動かせるほどの知識はあまり持っていない。
でも、これだけは伝えておこうと思う。
立ち止まり、振り返って言った。
「あなたたちの旅に邪魔はしないと約束した。そしてその目的も知ってる。だから思い切って行動しても、後悔はないと思うけど」
そう言うと、アトラの不安の眼差しが少し薄れたように見えた。
「そうだな。わかった、そうしよう」
そして何処か諦めと同時に覚悟が決まったのか、やれやれと言わんばかりの微笑で歩き出す。
それに引き続き、アトラの横にいたナータも共に歩き出した。
私は彼らの後ろ姿をじっと眺め、それが自然と目に焼き付いた。
旅はいつ始めても同じだ。
それは、目の前ではしゃいでいる二人を見ればよく分かる。
そして少し上を向くと、水色の空が広がっていて、所々に塗り忘れた空白が風に流されている。
ーーこれが起点。
それじゃ、旅立とうか。
私も私の旅がどういうものなのか、この旅の中でゆっくり感じてみよう。
「ーーそういやナータ、あのスライムは?」
「村に帰った」
「え、いつ?」
「ブラックラビッツのシチューを食べた夜」




