虎論のアトリエ ~不思議な職業野球の錬金術士~
どうか怒らないでください。
先に謝ります。
ごめんなさい。
それと、この短編はコロン様主催企画『アフォの祭典』参加作品です。
日本に良く似たとある国の、とある場所に、1人の錬金術士が暮らしていました。
彼女の名前は虎論。永遠の17歳です。
「あーあ。せっかく金相場がいい感じなのにな~」
地獄のように煮えたぎる釜の中身を、そこいらにあった適当な棒でグルグルとかき混ぜます。
赤い液体が盛り上がり、永遠の17歳はそこに手を突っ込みました。
「まあ食べてはイケるけどね~」
釜から取り出したのはタイヤキです。
永遠の17歳は何でも錬金術で創れます。金銀宝石、あらゆる通貨、証券、利権その物。でも錬金術でそう言う物を生み出すと法に触れます。
ありったけのため息を吐き出した後、ピチピチとのたうつタイヤキに優雅にかぶり付きました。
永遠の17歳が創る食べ物は何でも美味しいです。けれど究極とか至高とか名乗る人たちがマスコミを通してバッティングするので、飲食店を開いてもお客さんが来ません。
生きている存在が彼女だけになった家で、錬金釜の火を落とした永遠の17歳は樽に腰かけます。
「たー……タンス」
作者が日和ました。元ネタのファンに怒られるのを恐れたのです。
「あーあ、錬金術士……廃業しようかなー」
コンコン。
アトリエのドアを誰かがノックしました。錬金術を、助けを求める人々はまだいます。
受信料の取り立ての可能性も考えましたが、その時はその時。平和的に錬金術で解決すれば良いのです。
読者の期待に反して、ドアを叩いたのは悪役的な存在ではありませんでした。悪役ではありませんが、世間では『親の七光り』と見下されている芸能人でした。
「初めまして。僕はあの有名な野球選手の息子で、僕自身も野球選手だったものです」
永遠の17歳は野球をほとんど知りませんが、有名な選手の名前くらいは知っています。
「南無三……」
「えっ」
「えっ」
気まずい沈黙だと永遠の17歳は思いましたが、七光りはメンタルが強いらしく話を続けます。
「実はね、かつて僕が所属した球団の監督に就任することになったのです」
「それはおめでとうございます」
永遠の17歳は、有名な燕のことは知っていました。
「燕さん……残念でしたね」
「えっ、そうだね。僕も寂しいです。彼は僕が育てた、と言っても良いような間柄でもなくもないですしね」
「錬金術で死者を甦らせることはできませんよ」
「いや……そんなことしませんよ。死者の復活なんて人がして良いことじゃないです。そんな真似したらパパがあの世から説教しに来てしまいますよ」
ボヤくばかりじゃなくて、そう言う厳しさもあったんだなぁ。故人を偲ぶ永遠の17歳は、瞳を潤ませました。
「ここにもパパを……グスッ……………………慕う方がいたなんて」
ID野球は錬金術の参考になった。そう言おうとしましたが、言葉になりませんでした。
永遠の17歳が渡したハンカチで、七光りは涙と鼻水と痰を拭き取りました。ちょうど君は1億人目だね、と落書きしたハンカチをあり得ないような笑みでそのまま永遠の17歳に返します。
七光りに悪意はありません。
燕がいればキレッキレの毒をぶつけたんだろうなぁ。
永遠の17歳は全力の錬金術で汚物を滅却しました。汚物はハンカチだったモノのことです。七光りではありません。
「……………………………いやぁ、噂通り………………豪快な方ですね。きっとあなたなら向いているはずです」
「向いているとは……」
「僕はあなたをチームに迎えるために来たのです」
「錬金術士を……野球チームにですか?」
錬金術で選手のサポートをしろと言うのでしょうか?永遠の17歳には合法的な手段が思い付きませんでした。
「あなたの錬金術の技術を生かして、どうか野球選手として低迷している我が球団を救ってください!」
何を言っているんだろう。
永遠の17歳は疑問に思いました。
ヤツは言いかねない。
野球を知っている人たちは……きっとそう思っているはずです。なお、カツ●リさんは野球をキチンと知っています。
とにかくヤベー感じがしたので、永遠の17歳は断ろうと思いました。ですが。
パチン。
七光りが指を鳴らしました。
ざわざわ、となんか聞こえて……多数の黒服が包みを抱えてアトリエに入って来ました。
自衛のために地球破壊爆弾を点火させようとした永遠の17歳ですが、包みの中のカネの匂いで踏みとどまりました。
ストーブリーグが終わり、いよいよ開幕です。
オープン戦で実力を証明した永遠の17歳は開幕投手に選ばれました。
某京ドームのマウンドに立った彼女は大きく深呼吸。緊張は一切ありません。
「「「「「B!B!A!B!B!A!B!B!A!」」」」」
客席のアンチが吠えます。
ジロリ。
「「「「「バーニングバーニングアフォ!バーニングバーニングアフォ!バーニングバーニングアフォ!」」」」」
「ならよし」
永遠の17歳の可憐な眼差しが、アンチの歪んだ心を一瞬で洗い流し、敬虔な信者へ導きました。
いよいよ試合が始まります。
日本初の開幕女性投手が足を高く上げます。そこから力強いオーバースロー。白球が大きくホップしてキャッチャーミットに納まりました。
ど真ん中。文句無しのストライク。
急速は170キロ。オープン戦と同じようにバッターは反応できません。
「錬金術投法にはまだ成長の余地がある……」
最終的にマッハ17に到達することになります。その頃には永遠の17歳投法と呼ばれます。錬金術的な理由でキャッチャーはノーダメージです。
様々な評論家が違法性を主張しましたが、兎の球団は無敵です。
「それにしても、いつマスコットが兎に変わったんだろう?」
心の中でも燕に黙祷して、永遠の17歳は些細な問題を考えるのを止めました。
開幕戦は完全試合でした。また9番打者として2ホーマー。後攻なので第3打席が回る前にサヨナラでした。他のバッターは3タコです。
「永遠の17歳は、永遠に不滅ですッッッッッ!」
ヒーロー……いやヒロインインタビューで永遠の17歳はそう答えました。
実際その通りになりました。兎のチームはV10を達成。永遠の17歳はFAを行使して燕のチームに移籍します。そこでもV10を達成し、今度はFAで竜のチームに移籍。
結局全てのチームでV10を達成。国民栄誉賞を貰いました。
引退試合のインタビューで永遠の17歳はこう答えました。
「グランドにはゼニが埋まってるっちゅうけど、それを掘り起こすのはまるで錬金術みたいやったわ~」
ちなみに七光り監督は、永遠の17歳へのボーナスを捻出するために……就任1ヶ月でリストラされました。
120年のキャリアの中で永遠の17歳は体格的にも成長し、永遠の170キロと呼ばれるようになりました。
「今度は相撲やで~!土俵に埋まってるゼニを、錬金術で掘り起こすんや~♪」
有言実行。それが錬金術士です。