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野薔薇の棘 ミスティックローズ

人間はいろんな一面を持っている。真面目な高校生の浅倉旬太はクラスメートの二階堂レイナの秘密を知ったとき自分の知らない新しい窓が開く。アオハルショートショート作品。加筆修正版です。

 人は幾つもの顔を持っている。

 学校や職場にいる時の顔。

 家族団欒でくつろいでいる時の顔。

 友人たちと戯れている時の顔。

 1人の時の顔。


 どれが本当の自分なのだろうか?

 いいや、全てが本当の自分。


 自分のことがわからない時があるけれどわからなくて当たり前。

 10代の頃なんて可能性の塊である。

 自分の知らない自分がたくさん眠っている。




 高校2年生の二階堂レイナはクラス委員をしており

 教室で進路希望シートの回収に回っている。


「浅倉君、ちょっといいかな?進路希望シートの回収をしてるんだけれど、もらってもいいかな?」


 浅倉はあまり話したこともない二階堂に話しかけられて驚いたが、少し嬉しさもあった。


「ああ、じゃあこれ提出するね。二階堂さんありがとう」


 二階堂レイナは浅倉から進路希望シートを笑顔で受け取る。

 品行方正で明るい彼女は絵に描いたような優等生である。




 浅倉君は新聞部所属。授業の休憩時間に部活動の用事で2階奥の部室へと1人で向かっている。

 廊下を歩いていると部室近くの倉庫から


「ひそひそ」


 と小さな話し声が聞こえる。


 その倉庫の扉が少しだけ開いていた。


 好奇心に駆られて中を覗いてみた。

 照明はついておらずうす暗いが窓からの日差しで何とか中が見えた。


 そこには女子生徒と男性の2人がいた。


 女子生徒は男性の背中まで手を回し

 男性はその女子生徒の腰に手を当てて

 2人は抱き合っていた。


 あれはもしかして、二階堂さん?

 もう一人の男性は、

 片波先生じゃないのか?


 片波先生は20代の若い男性教師。体育担当。

 スレンダーだが引き締まった体形。

 あの二人は、何をしているんだ?

 浅倉は慌ててその場から走り出した。

 心臓が早鐘を打つ。



 その日のお昼休憩時間


 自席でお弁当を食べながら、ちらりと右斜め前の二階堂さんを視界に入れる。先ほどの倉庫での男性教師との光景が脳裏をちらつく。


 クラスメートの女子たちとわいわいといつも通りに過ごしていた。

 浅倉に話しかける男友達の声も頭に入らない。



 浅倉はお昼ご飯の後はいつも1人で校舎の屋上へ行く。

 金網越しではあるが屋上からの景色と風が気持ちがよい。


 二階堂さんと片波先生・・・。

 どういうことなのだろうか?


 ずっと一人で考えを巡らせる。


 校門前の道路に軽自動車が左から右へと走っていくのをなんとなく目で追っていく。


 そこへ

 ツンツンと浅倉の脇腹を何かが触る。

 ポリポリと左手で搔く。


 またツンツンと何かが脇腹を触る。

 訝しげに思い後ろを振り返った。


「!!」


 そこには二階堂さんが真後ろに立っていた。

 びっくりして声を失う浅倉。びっくりしすぎてしりもちをつく。


「二階堂さん?な・・・、何でここにいるの?」


「そんなに驚かないでよ!私、お化けじゃないんだから」


 浅倉が昼食後いつも一人で屋上に行くのを知っていた二階堂。


 浅倉は立ち上がった。

 そしてそのまま階下へのドアに向かおうと歩き出す。


「先生とのこと、見てた?」


 浅倉の後ろ姿に声が聞こえた。


「あの、ええと・・・。」


 口ごもる。


「まずいところ見られたなあ。浅倉君は新聞部だから

 やっぱりこのことばらしちゃうのかな?」


 こんなことが公になったら大変なことになるだろう。


「誰にも言わないよ。でもさ、ああいうことはよくないと思うよ。相手は大人の男性だし、本気で相手にされなくて裏切られるかもしれない」


 教師といってもいろんな人がいる。

 心から尊敬できる素晴らしい教師もいれば

 どうしようもない教師もいる。


 しかし人間である。

 残念ながら相手が絶対に裏切らないという保証はないのである。


「火遊びが過ぎたなあ。いろいろまずいからもうこれっきりにする。だから見逃してくれないかな?」


「あんなことをもうしないって約束するなら、見逃すよ」


 ホッと胸をなでおろす二階堂。


「それだけを言いに来たの?」


「実は悪いことついでに、君を誘いに来たんだ。

 今から2人でちょっとだけ学校抜け出そうよ。私のとっておきの秘密基地を教えてあげるよ」


 気分が高揚しているのを感じている浅倉。


「秘密基地?でも学校を抜け出すのはどうかな?」


「まだ時間あるし大丈夫だよ。行こうよ」


 逡巡する。そして


「わかった、ちょっとだけ行こう。」


「意外だね。浅倉君はまじめだから絶対に反対すると思った」


 2人は自転車置き場に行き、浅倉が自転車をこぎ二階堂が後ろに座った。


 そろそろと裏門を抜けて学校の裏山へ行く。


 5分ほどでつく


 そこには森が少し開けたところに自動販売機と街灯。小さなお地蔵さんが一体鎮座。

 そして古びた木製のベンチが1つだけ置いてあった。

 ベンチの上では白い野良猫が寝息を立てている。

 ここは驚くほど静かで落ち着いた場所である。


「可愛い!猫がいるよ!」


 ベンチで丸まって眠る猫をなでる二階堂。

 2人が近づいても彼女が撫でても起きようとしない。

 大した度胸の猫である。


 猫をなでる彼女の笑顔を見る。


 優等生でありクラスメートの顔。


 若い教師と密会をする妖艶な顔。


 野良猫をなでる無邪気であどけない少女の顔。


 どれもが全然違う顔。どの顔が本当の彼女なのだろうか?

 この子のことがよくわからない。


 浅倉は自販機でジュースを2本買い、片方を彼女に渡した。


「オレンジジュース・・・。フフ、子供みたいだね。ありがとう」


 浅倉もベンチに座る。2人の間には眠り続ける野良猫がいる。


「浅倉君は将来の夢とかあるの?よかったら聞かせてよ」


「う~ん、今は大学に進学してその先は大きな企業に就職したいかな?そのために今は勉強も頑張っている。なんでそんなこと聞くの?」


 二階堂はオレンジジュースの蓋を開けて一口飲む。小さく息を吐く。


「私、将来やりたいこと何もないんだ。本当にやりたいこととかよく分からない。今自分が何を考えているのかもよくわからない。よくわからないけれど周りから言われたからクラス委員やったり、勉強したり、憧れの先生と火遊びしたり」


 火遊びのワードのところで午前中の片波先生とのシーンを

 思い出してしまう。


「でもなんか学校って変なところだよね?」


「変なところ?どういうところが変なの」


「みんな同じ制服、同じ世代、同じペースで進む同じ内容の授業、同じ時間に登校。小さい教室の中に同じがいっぱいある。そこに異を唱えたり、周りのペースについていけなかったり乱したりしたら不良とか落ちこぼれとか言われる。本当にそうかな?なんか違う気がするけれど。でも今の私にはどうしてよいのかわからない。」


 二階堂は猫をなでながらつぶやく


「あなたの将来の夢は何ですか?」


 こんな質問を野良猫にしたら滑稽だ。

 じゃあなぜ人間にしかこんな質問しないの?


「突然こんな話いっぱいされても困るよね。でもどうしても誰かとこんな話をしてみたかったんだ」


「僕はこれまでそんなことを考えたことがなかったな。学校から与えられた課題をただこなしていただけだし。」


 2人はそんな会話をして過ごした。


 浅倉は今日、自分の知らない自分を少しだけ発見できた。

 真面目な自分が学校を抜け出すなんて大胆なことができる自分。

 謎めいたクラスメートに惹かれている自分。


 人はいろんな側面を持っている。

 自分の知っている自分。自分の知らない自分。

 それは大人でも同じで、知らない自分がまだたくさん眠っているであろう。

作中に出てきた眠り続ける野良猫は作者の実際のエピソードです。昔広場の平べったいポールの上に


丸まった白い野良猫が寝ていて、近づいてもどれだけ撫でても「ぐーすか」と寝ていた猫がいました。


ここまで読んでいただいて有難うございました!

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