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みずき  作者: からり
4/11

4.斉藤 健也(関係者1)

 三国に俺のこと聞いたって?

 うん、あいつとは幼稚園からの付き合い。あいつが親に言われて中学受験するまでは、ほとんど毎日遊んでた。

 学校が別になってからは前ほどは遊ばなくなったけど。でも何だかんだ連絡は取り合ってた。

 あいつと二時間も話した?記者ってのも大変だね。やな奴だったでしょ?自惚れてるし、さりげなく自慢ばっか。

 思い当たるとこあるって顔だね。

 いいって、気、使わなくて。あいつとはもう会うこともないしね。

 三国はさ、ガキの頃から本質的に変わってない。根っからの悪人じゃないけど、ナルシストでずるいとこがあるんだよね。

 たとえば、お菓子が3個あって人数が4人いたら1個足りないじゃん?するとくじ引きしようって、三国は言いだす。

 でもそのくじを作るのも一番に引くのも自分、みたいな。自分に有利になるように仕組む。当たりくじがわかってるから三国はお菓子を絶対食えるわけ。

 幼稚園の頃は、そういうのが見え見えだったから仲間外れにされていた。俺も一人ぼっちでさ、余り物同士くっついた感じだったね。

 あ、言っとくけど俺は三国みたいに卑怯者でハブられてたんじゃないよ。ちょっと乱暴なとこがあったり家が複雑だったりしてね、どっちかっていうと恐れられていた。

 俺と三国は全然似てないけど、なんか気があった。俺はガキの頃からガタイが良かったから三国がいじめられると、かばってやったりもした。

 だけど、あいつ、周りをごまかすのが段々うまくなってね。小三くらいからは、いじめられなくなった。

 三国はアイドルっぽい顔立ちしてるし、家もそれなりに金持ちだから、ませた女子が騒いで王子様扱いし始めて、そっから調子に乗り出した。

 皆、あいつの外面の良さにころっとひっかかるんだよね。


 そういえばさ、三国のモテ自慢、聞かされた?

 むかつくっしょ、あれ。でもさらにむかつくのはさ、大体がほんとのことなんだよね。

 三国はキレーな顔でキレーな言葉で女をだます天才だからさ、落ちない女はいない。だけどいつも長続きしないんだ。新しい女ができるたびに紹介されたけどサイクル早すぎて顔も名前もほとんど覚えられない。

 三国も『ぶっちゃけやりたいだけ』とか言って俺の前では悪ぶってた。顔と体だけで選んでるから、女に問題あることも多くってね。

 ここだけの話、何人かは俺が誘うと乗ってきた。口も尻も軽い女が多かった。三国と付き合うのは金目当てって言い切る女とかもいたな。

 割りきっててあれはあれで面白いけどさ、あまりいい相手じゃないからさ、俺が選別してやったわけ。

 俺に誘われてひょいひょいついて来る女は三国みたいなお坊ちゃんにふさわしくないでしょ。

 だけど瑞希はちょっと毛色が違ったんだよね。

 三国も珍しく本気っぽくてさ。最初、俺にもつきあってること隠してて、でも我慢できなくて自慢し始めたって感じだった。話を聞いてて、どんな女だろうって興味をそそられた。

 でも三国と瑞希がつき合うようになって、紹介された時は、ん?って思ったよ。

 あの頃、三国の前の彼女や綾ちゃんも含めて、皆で何度か遊びに行ったことがあったんだ。そん時、オマケでついてきてた女子の一人だった。三国のやつ、そのこと黙っててさ、俺の驚いた顔見てニヤついてんの。

 なんでこんな地味なのと?っていうのが俺の正直な感想だった。

 もちろん瑞希はブスじゃないよ。世間一般的には可愛い方だろうね。

 でもさー、三国の前の彼女は売れっ子モデルでかなり派手な美人だったんだよ。珍しく性格も良くってさ。何でわざわざそいつをふって、瑞希を選んだのか訳がわかんなかった。

 だけど不思議だね。

 何度か顔合わせるうちにさ、三国が羨ましくて仕方なくなった。三国なんかにはもったいない位のいい女だって思った。

 親友の彼女じゃなきゃ、迷わずいってたね。

 え?どこがそんなに良かったかって?

 さぁ。どこだろ。言葉にするのは難しいな。

 普通より悪くないレベルの地味顔で、スタイルだって胸がでかいとか、足が長くてキレイとかでもない。

 だけど笑い方とか、ちょっとした仕草とかがさ。

 瑞希を見ていると妙にほっとするっていうか。癒し系ってやつ?とにかく一緒にいたいって思わせる何かがあったんだよね。

 ま、その辺は実際に会ってみないとわかんないと思うよ。


 野球部の関口?

 あー。

 三国のこと目の敵にしていたやつだよね。三国のずるさや自分勝手さは、直感的に分かるやつには分かるし、嫌がるやつはずごい嫌がるからね。王子様はご不満そうだったな。

 ん?

 ちゃんと調べたんだ、さすがじゃん。

 そ。野球部員に喧嘩を売ったのは俺と俺の友達。

 お坊ちゃん学校の連中と違ってこっちは喧嘩慣れしてるからさ、引き際も心得ている。

 だから誰も補導されなかったけど、あいつらは逃げ遅れて捕まった。狙い通り大会にでられなくなったみたいだね、笑えるよ。

 三国に頼まれたのかって?

 違うって。あいつがそんなこと思いつくわけないだろ。頼む度胸もないし。

 じゃぁなんでそんなことしたかって?

 言っていいかな、もう。時効だよな。頼んだ本人死んじゃってるし。

 瑞希に頼まれたんだ。

 俺はポリシーのある不良だからね。本当なら普通の奴に喧嘩なんか売らない。でもさ、あの関口も野球部員もクソだったからね。

 三国の彼女って理由で瑞希につきまとって、あんなクズとは別れろって脅していたらしいよ。

 瑞希、すっげ―怖がっていた。女、巻き込むんじゃねぇよ、って感じだろ。

 それに三国もひどい嫌がらせされていたらしいね。集団で呼び出して小突かれたり、持ち物隠されたりさ。

 三国のやつは見栄はってるのか、俺には一言も話さなかったけど、瑞希がこっそり教えてくれた。俺としては一肌脱いでやるしかないでしょ。

 もちろんこの事は三国は知らない。記者さんも言うなよ。


 何でそこまでしてやったのかって?

 うーん、なんでだろうね。

 やっぱ思い出ってやつかな。

 俺って昔いわゆる放置子でさ。母親はジョーハツして親父もほとんど家にいない。家でのいい思い出なんか一個もない。そうすると三国との思い出だけが子供時代のいいこと、みたいなね。

 うん、ガキの頃はつらかったよ。1日500円渡されてコンビニやスーパーで栄養の偏った弁当を買って薄汚いアパートの部屋で寝るだけ。

 ゲームもおもちゃもパソコンもスマホもない。テレビはあったけど勝手に見るなって親父に言われてた。

 もちろん言いつけを守ったよ。

 親父は俺にとって神様みたいなものだったからね。神様っていってもいい神様じゃない。荒ぶる神ってやつ。逆らうと罰を与えられる。蹴ったり殴られたり、金をもらえなかったりね。だから親父の言うことは絶対だった。

 そんな家庭環境だったから、俺は三国んちに入り浸ってた。おやつ食って、夕飯もしょっちゅう食わせてもらってた。

 今思えば迷惑なガキだよね。

 でも三国の母ちゃん、瞳さんっていうんだけど一回も嫌な顔したことなかったよ。

 親父が仕事かなんかで一週間くらい家にいないことがあったんだけど『うちに泊まれば?』ってあっさり俺を泊めてくれた。

 瞳さんは本当に優しい人だよ。表面的に親切とかじゃなくて、芯の部分から善人っていうか。

 だって俺なんか得体の知れないガキじゃん?

 母親はいない、父親も何してんだかよくわからない。

 瞳さん以外の世の中の母親からは、あの子と遊んじゃダメって影で言われ続けてたからね。

 瞳さんはそういう差別をしない人だった。のんびりしているのに流されないとこがあった。

 悪さをすると、叱られたり注意されたりもしたよ。でも俺のために言ってくれてるのが分かった。だから瞳さんの言うことは素直に聞けた。殴られるのが嫌で渋々従うのとは正反対だった。

 今の俺が多少なりともまともなのは彼女のおかげだし、すっげー恩を感じてる。

 これから先、瞳さんに何かあったら絶対助けに行くって決めている。俺なんかが彼女を助けなきゃいけないことなんて何も起きないと思うけど。一応ね、心構えだけはね。

 そうだな、俺が三国を守ろうとするのは瞳さんの存在のせいかもね。三国に何かあったら瞳さん、悲しむでしょ。

 母親代わり?

 それは図々しいでしょ、俺なんかが。

 まぁでも、三国は俺にとって幼馴染っていうよりは、世話の焼ける弟みたいな存在だからさ。


 ……そういや瑞希って瞳さんに似てるんだよな。

 最初のうちは全然気づかなかった。でも何度も会ってるうちに妙に瞳さんとダブるんだよ。顔じゃなくてさ、性格とか雰囲気とかが似ててさ。

 三国は根本的にマザコンだからさ。瑞希を好きになったのも瞳さんに似ていたからかもね。本人、絶対に認めないだろうけど。

 俺も瑞希を好きだったのかって?

(彼は首をかしげ数十秒の沈黙のあと、ゆっくりと噛みしめるように言った)

 そうだよ。

 俺は瑞希を守りたかった。でもできなかった。

 あんたが知ってるかどうかわかんないけど、瑞希は家族との間に問題をかかえていた。でも離れられないでいた。


 瑞希が死ぬ何ヵ月か前、相談があるって呼び出されたんだ。

 真夜中だった。1時くらいだったかな。瑞希は家をこっそり抜け出して、俺んちの近くまで来ていた。

 俺の方はちょうど親父が仕事でいなくてさ、とは言っても、家に入れるのもあれだし、コンビニで待ってもらった。俺を見た瞬間、瑞希の不安そうな顔がほっとしたみたいに微笑んだ。なんか胸が熱くなったね。

 俺たちはジュースを買ってコンビニの隣の公園のベンチに並んで座った。はじめはどうでもいい世間話をしてさ。何でもない話なのに楽しくってさ。俺はちょっとばかり浮かれていた。

 そのうち会話が途切れて瑞希はぼんやり空を見上げた。月も星もでていないくすんだ夜だった。

『健也くんと一緒にいると落ち着く』って瑞希は言った。

 なんて答えればいいかわからずだまっていた。すると瑞希は静かに泣きだした。

 俺は気づいたら瑞希の肩を引き寄せていた。瑞希は逃げなかった。むしろ俺に寄りかかってきた。俺は瑞希を家に連れて帰った。

 最初で最後、一回だけだ。

 その時見たんだ。

 瑞希の腕や背中にはいくつもの痣があった。

 誰にやられたか聞いても瑞希ははぐらかした。でも「家族か」って聞くと瑞希の表情が凍りついた。

 あ、って思ったよ。瑞希にひかれた理由の一つがわかった気がした。俺たちは同じだったんだ。

 俺さ、もうすぐ学校辞めて働くんだ。親父がぶっ倒れやがってさ。入院費とか稼がなきゃなんなくてね。

 笑っちゃうよね。あいつ、俺を何百回も殴ってきた手を伸ばしてきてさ、泣きながらすまなかったとか言うんだよ。ふざけんなよ。

 でも仕方ないよね、家族だからさ。親父には俺しかいない。

 馬鹿みたいな話だろ。わかっている。

 でも離れられない。瑞希もそうだったんだと思う。


 夜明け頃、うとうとして目が覚めると瑞希はもういなかった。何度も連絡をしようか迷った。痣のことを聞きたかった。俺が守ってやるって言いたかった。

 だけど、親友が本気で好きな女と寝たってことがブレーキをかけた。ケジメはつけなきゃいけないだろ。

 それっきり瑞希とも三国とも連絡はとっていない。

 三国の野郎にとってはちょうどよかっただろうな。俺と縁を切りたいってずっと瑞希に愚痴ってたらしいからさ。自分で言えばいいのにな、子供の頃から結局あいつは変わらない。腰抜けのバカだ。

 でも本当にバカな腰抜けは俺だよね。俺はなんで瑞希を守れなかったんだろう、最低だよ、ほんと。ケジメだとかぐちゃぐちゃ考えてないで会いにいけばよかったんだ。

 家族の誰が瑞希に痣をつけたのかって?

 さぁ。わかんないよ。瑞希は教えてくれなかったし。

 記者さん、瑞希のことまだ調べるの?

 ふぅん。

 だったら白井にも話聞いてみる?

 ほら、三国の元カノ。瑞希のせいでふられたモデルの子だよ。

 俺に瑞希の自殺のことを教えてくれたのも白井なんだ。俺は三国とも綾ちゃんとも縁が切れてたけど、白井は綾ちゃんと友達やってるからさ。綾ちゃんが瑞希の自殺の件を連絡してきて知ったんだって。

 白井は勘がよくてさ、俺が瑞希を好きだってばれてたらしい。落ち込んでたら焼肉食べに行こうって連れ出されて。男とか女とか関係なくいいやつだよ。

 ……俺には教えてくれなかったけど、白井は瑞希の件で気になることがあるみたいだった。

 あんたが本気で瑞希の自殺の原因を調べるなら連絡とってやるよ。

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