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第6話 可愛いの天才


 五歳になった。

 俺は日々、ハンドビームソードを鍛え続けている。


 このビームソードのいいところは、結果が視覚化されることだ。今日は手のどの部分まで伸ばせたかが明確になり、前に進んでいる感じが出てやる気が上がる。


 そして感覚を得ればかなり学びも早く、とうとう腕まで光の膜を纏えるようになった。アームビームソードだ。


 そのうち全身をビームソードにして、俺自身がビームソードになることも夢ではないかもしれない。


 そんな俺は今、メイドのシャーレと一緒に中庭に出ていた。

 ちなみに王城の空をよく見ると、虹の膜みたいなものがある。あれが城を守る結界だそうだ。


 百年以上壊されたこともなく、あの結界があるからこの城は安全が保障されているのだという。


 俺は光の霧を手に集める。

 すると手が光の膜につつまれて、ハンドビームソードになった。


「魔力にしか思えないのだけれど……見えてないのだよね?」

 

 シャーレに問いかけてみると彼女は首を横に振った。


「王子の仰ることは信じたいですが、私には王子の手に光は見えていませんね」


 俺は一歳から四年ほどこの光の霧を操る練習をしていた。流石にもうこの光の霧が目の錯覚とは思えない。

 だがやはり他の人間には光の霧は見えないのだ。


「ねえシャーレ。本当に僕の手は光っていないの?」


 言葉づかいは五歳児くらいを意識している。三十歳くらいの口調だと違和感あるというか少し気持ち悪いし。

 俺は落ちている葉を拾って、ハンドビームソードで斬って真っ二つにする。


 相変わらず葉っぱとか布しか切れないので、攻撃力は変わらずクソ雑魚である。見た目全振りみたいな力だ。

 そして葉っぱを切った手を見せびらかすが、シャーレは小さくうなずいた。


「はい。まったく光っていません」


 ……だが手に光の霧を集めても他人には見えてない。

 シャーレには以前にも、今のビームハンドソードで葉っぱ切りを見せたことがある。


 すると「王子、すでに風魔法を使えるのですか!? すごいです! 天才です!」と言われてしまった。

 葉っぱを切ったのは不可視の風魔法を使えたからと思われたのだ。


「王子。いいですか? 魔力を魔法なしで操るのは不可能なんです。魔法で魔力を変換するからこそ、外に出して影響を与える力に出来るのです。こんな風に」


 シャーレが指をクルクルさせると、指の先に小さな火が灯った。

 彼女は火の魔法を使ったのだ。


 魔力と魔法は電池と電化製品の関係みたいなものらしい。電化製品がなければ電池はなんの意味もない的な。

 シャーレは指をクルクルさせながら、火を俺の顔の前から動かしていく。


「魔力を魔法なしで操れた人がいたのは、伝説として残っています。そこの五つの英霊墓碑に眠っている『魔導の祖』ですね。ただ彼女も何十年の歳月を経て、死に際に習得したと言われています」

「……」

「あの『魔導の祖』である【ルミアスティ】ですら、それほどかかったのです。いくら王子が可愛いの天才でも、五歳でそれは厳しいでしょう」

「可愛いの天才関係ある?」

「私、可愛いは全ての頂点に君臨すると考えていますので」


 真面目な顔で言うのやめてくれないかな。

 ちなみに今の俺の容姿は確かに可愛らしい。だが他人の顔みたいなものなので褒められても別に……という感じだ。


 そもそも成長したら可愛いは誉め言葉じゃなくなる。消費期限付きの腐る才能(?)だからな。

 やはり他の才能が必要だ。


 それこそ『魔導の祖』が魔法によって墓碑に祀られているように。


「うーん。じゃあこの光の霧はなんなの?」

「宮廷医師の言うことを信じるなら目の錯覚ですね。たぶん王子が光の霧とやらが触れたものに対して、無意識に魔法を使っているのではと。天才ですね!」

「あの医師、ヤブだったりしない?」

「それを王妃様の前で言わないでくださいね。王子の一言で城の門に首が吊るされかねないので」

「嘘でしょ?」

「まあ流石にそれは冗談です。最悪でもせいぜい解雇されて、国中に悪評が広まって医師としての活動が難しいくらいです」


 人、それを致命傷という。

 第六王子の権力、思ったよりも強いな……迂闊な言動は控えよう。


「ちなみにあの医師はこの国で随一の医師と言われています。彼が分からないなら誰も分からないと思いますよ」


 四年間鍛え続けても、やはり光の霧の正体が分からない。

 これが日本の俺なら気になって眠れなくなっていた。まあこの身体だとすぐ眠くなるので、夜どころか昼も寝てしまうのだが。


「うーん。僕が『魔導の祖』を超えるほどの天才で、魔力を魔法なしで操れるとかは? それでこの魔力が光の霧とか」

「『魔導の祖』が千年に一度の天才なのですよ。その方よりさらに上となると、万年に一度の天才になりますね」


 う、うーむ。流石に万年の天才だと思えるほどの自信はない。

 するとシャーレは俺の耳元に口を寄せてきた。


 シャーレはかなり可愛らしいので少しドキッとしてしまう。


「ですが王子はもしかしたら、本当に万年にひとりの天才かもしれませんよ?」

「え?」


 予想外のことを言ってくるシャーレは、さらに言葉を続ける。


「王子は信じられないほど可愛いのに、五歳とは思えないほど利口ですから! でも周囲に信じてもらうならもっと派手なことが出来ないと。私は王子を信じていますけど、宮殿医師の診断で魔眼じゃなかったと出ていますからね」

「その診断を覆るほどのことが出来ないとダメってこと?」


 確かに宮殿医師の言葉ともなれば、五歳の王子よりも重いべきだろう。


「そうですね。私は王子を応援してますけど、いまも半信半疑なのは否定しません。なにせ光の霧は王子にしか見えていませんので」


 目に見えないモノを信じさせるのって難しいよな。


「ですが私は王子を天才だと思っていますよ! 葉が謎に切れるのは事実ですし、少なくとも切れ者であるとは思ってます!」

「それ切れるの意味違うよね?」

「キレッキレですね! 可愛い!」


 このメイド、本気で言ってるのか怪しいところである。


「まあベルティアちゃん! 中庭でなにをしているの!?」


 すると少し遠くで母の声が聞こえて来た。

 マリーがこちらに向けて猛進してきた。彼女の少し後ろからは、父であるロンディウスがしかめっ面で歩いてくる。


「少し中庭をお散歩していました。母上」

「まあ! なら私も一緒に散歩しましょうね!」


 マリーは俺の手を掴もうとしたので、慌てて手を光らせるのをやめた。

 あのままだとマリーの手が少し切れてしまうからな。包丁草を触った時みたいに。


 そして俺はマリーに引っ張られていく。


「……余は政務に戻る」


 そしてロンディウスは王冠のズレを直して、中庭から去っていく。

 今ではあの人も怖くなくなっていた。だって鬼の目にも涙じゃなくて、鬼の顔にも笑いを見たからな。


 ちなみにあの王冠は世襲制らしく、そのためサイズが合ってないそうだ。

 決してうちの国にお金がないから、新しい王冠を用意できなかったわけではない。


 しかし光の霧が見えてない人に、光の霧を信じさせる方法か……難しいな。

 そもそもこの光の霧が魔力なのかも断言できない。


 ……それとこの光の霧について、これ以上やっても微妙なのではないかと思い始めている。


 正体も分からず、制御できても柔らかいモノが切れるだけ。教えてくれる人もいないしで、徐々に練習するモチベが下がっているのは否定できなかった。


 俺はマリーと一緒に散歩をしていて、ふと『五つの英霊墓標』が目に入る。

 ――だが墓標は普段と様子が違った。漂う光の霧がすごく濃くなっていて、墓標本体がほとんど見えない。


「……?」

「どうしました王子?」

「い、いやなんでもないよ」


 あれはいくらなんでも異常だ。調べてみたいのだが今は周囲の目が気になった。

 光の霧は俺にしか見えないから、少し調べたりしている姿が変に思われかねない。


 なので俺はいちど自室に戻って、夜に部屋を抜け出して中庭にやってきた。

 綺麗な満月が空に登っていて、当然ながら誰もいない。


 これならば周囲の目がないから大丈夫だろう。そう思っていたのだが、


『そこのお前。この私が見えているな?』


 ――墓碑のひとつに女の人が座っていた。

 な、なんて罰当たりな!


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