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第20話 騎士団長の恐怖


 私はルミナス。レールアイン王国の騎士団長だ。

 若くして騎士団長になった身としては、自分が才能のある人間だと思っていた。


 少し遠くで修業する王子を見て、私の自信は粉みじんに砕けている。

 ベルティア・レールアイン様。第六王子として生まれて、特に誰にも教わることなく魔法を習得していく者。


 五つの英霊墓標に入り浸る姿は、まるで英霊たちの訓戒を受けているかのようだ。

 その英霊墓標の中で、魔導の祖と呼ばれる者が炎魔法に長けていた。


 王子もまた強力な炎を操ることから、魔導の祖の再来と呼ばれている。そしてそのあだ名に相応しい才能をお持ちだ。

 今も炎を撃ちまくっている彼こそが、世にいう天才なのだろう。


 そんなベルティア様が訓練所の端で撃つ魔法が凄すぎて、私たちは訓練を止めて彼を見守っている。


「……お前たち、ベルティア様に勝てる自信はあるか?」


 周囲にいた騎士たちに尋ねてみると、彼らは全員が首を横に振る。


「無理です。あの火炎魔法は防げませんし、回避も難しそうです」

「近づければ剣で勝てますが、それまでに無限に灰にされていますね……」


 私もそう思う。彼らではベルティア様に勝つのは無理だ。

 ……だが私ならば勝負になるはずだ。あの火炎魔法を防ぎきるのは難しくても、逸らしたり避けたりなら可能かもしれない。


 魔法使いとしては完敗しているが、剣での勝負に持ち込めれば勝ち目はある。

 ただ勝てたとしても痛み分けの辛勝だろう。それに負ける可能性もかなりある。


 身体も出来てない七歳相手にだ。もう一年も経てば勝てる可能性はゼロだろう。


「貴様ら、そんなことではダメだろう! 我らは騎士だぞ! 騎士が守るべき王子より弱いのでは!」


 例え王子がどれだけ天才であろうとも、私たちは騎士として彼を守るのが責務だ。


「それは分かってますけどねえ……」

「六人目の英霊候補とまで呼ばれる人ですよ? 凡人の俺たちだと厳しいですよ。元が違うのですよ。たぶんいずれドラゴンを召喚してしまいますよ」


 今年入って来た騎士たちがわめく。

 ドラゴン召喚術。かつて魔導の祖が、死の直前に思いついたと言われる至高の魔術だ。


 だがその魔法は伝えられず、見た者もいないと言われている。

 だが王子ならば出来るようになると踏んでいる。それほど王子の成長速度は凄まじかった。


「確かに王子は天才だ。以前に魔法の教師をつける話があったが、あまりに簡単に魔法を習得していくので流れたからな。下手に教師がつかない方がいいのではと」

「そんな話があったのですか。なんで魔法の教師がつかないのかと思ってたら」

「王子がいつも五つの英霊墓標の近くで訓練しているから、英霊たちから教えてもらっているという噂まであるからな。まあ流石にあり得ないが」

「そりゃそうです。故人に教えなんて受けられるわけないですよ。ところで騎士団長、どうして笑ってるのですか?」


 部下に言われて気づいたが私の口角が上がっている。

 なんなら両腕に力も籠っていた。王子を見て気が高ぶっているのだ。


 ……あのお方と戦ってみたい。私は数年ほど成長が停滞しているが、王子と相対すればなにか変われるのではないかと。


「騎士心が少しうずくだけだ」


 私は戦うのが好きだ。魔物の喉笛を切り裂いた時は興奮するし、盗賊と命のやり取りをして勝った後は幸せになる。

 私は強者との闘争を求めている。だから王子と戦いたい。


 相手が七歳だろうと王子だろうと関係ない。そう思えるほどベルティア様は魅力的な強者であった。

 騎士団長になったのも戦えるから。以前に王子がグリフォンを討伐した時は、魔物と戦えなくて少しがっかりしたものだ。


 そうして王子を見つめていると、目を疑うような出来事が起きた。


「あ、蒼い焔……な、なんだ今のは!?」


 王子は蒼き火炎放射を放ったのだ。

 青い炎ならば存在するのは知っている! だが今のはただ炎の色が変わっただけとは思えない!


 あの焔から感じるのは恐怖だ。自分の魂があの焔に根源的な恐れを抱いているようで、気が付けば腰につけた鞘の剣に手をつけていた。


 どうやら私だけではないようで、部下たちもまた同様に怯えた目で武器を構えている。


「だ、団長!? な、なんですか。あの焔、は……!?」

「ふ、震えが止まらないのですが……! お、俺も修行が足りませんね、ははは……」


 彼らの目は王子の蒼き焔に釘付けだ。

 だが仕方ない。私とて目が離せないのだから。


 やれ『天才』だとか『六人目の英霊候補』だとか、そんな肩書がどうでもよくなる。

 それほどまでにあの焔は恐ろしく、王子の異常性を一目で表していた。


「ふ、ふふふ。素晴らしいです、王子……!」


 ――戦いたい。王子と戦いたい。あれほどの怪物と剣を交えたい。

 だが王子が訓練所から離れていくのを見て、私はふと冷めた。


 ……落ち着け。騎士団長が王子と戦ってどうする。

 ましてや相手は七歳だぞ? 怪我をさせてしまったらマズイ。


 部下たちは王子が訓練所から去っていったことで、ようやく安堵したように息を吐いた。


「ふー……なんだったんですかねあの蒼い焔は」

「知らん。だが我ら騎士団は今日から訓練を倍にするぞ!」

「「「!?」」」

「守るべき対象である王子に、どんどん強さで離されていくぞ! そんなことになったら魔導騎士団の名折れだろうがっ!」


 そうして私は魔導騎士団を徹底的に鍛え上げることにした。

 騎士たちは文句を言ったが、「じゃあ第六王子に勝ったら許してやる」と言ったら唯々諾々と従った。


 部下たちも騎士としての誇りがあるからな。七歳に負けてる現状がダメなのは理解している。

 なので騎士団の訓練内容も一新したりで、より厳しい訓練にした。


 私はまだ知らなかった。そうして数年後、この騎士団が世界最強になることを。


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