第19話 禁術中級『蒼き焔の火炎放射』
「すみません。魔法の練習をするために練習場の一画をお借りしたいです」
さて俺はいつものように中庭、ではなくて騎士団の訓練場へ来ていた。
訓練場は学校のグラウンドみたいになっていて、騎士たちが広い場所で訓練するための場所だ。
「お、王子がこんなところで魔法の練習を……? いつも中庭でされているのでは?」
騎士団長の女性が少し困惑している。ちなみに彼女は訓練で汗をかくからか、少し露出の多い恰好をしていた。
王城にいる人はみんな身体をほぼ隠す服なので、肌を見せる騎士団長を目で追ってしまう……消えよ雑念!
「とある理由で中庭を使いたくないのです。なので魔法の練習のために貸してもらえませんか?」
とある理由は言えないので口には出さない。
今日は禁術の練習をしたいと考えている。俺の出せる蒼い焔は小さな火の玉サイズでしかない。
いくら消えない炎と言っても、これだけではあまり強くはない。火力がね?
俺は隣国ですら『六人目の英霊候補』と噂されているらしい。でも現状だと周囲が言ってるだけで有名無実でしかない。
だが禁術を使いこなせるようになれば実も伴うはずだ。
俺は有名になりたい。歴史に名を残して、みんなから惜しまれながら死にたい。
なので禁術の使いこなしとして、火炎放射を青い焔にしたい。
「わ、わかりました。では端の方をお使いください」
「ありがとうございます」
俺は騎士たちにお礼を言って、練習場の隅の方で魔法の練習を開始した。
「うーむ。やはり普通の炎になるな」
火炎放射を光の膜で覆うのが上手く行かない。
普通の火の球ならば、その形に合わせて光の膜を作ればいい。
だが火炎放射は形状が変わってしまうので合わせる膜を作れないのだ。
「ううむ。師匠に聞いてみるか? いやそろそろ驚かせたいよな」
俺がこの場で練習するのは、師匠の目から逃れるためだ。
中庭で練習をすると師匠が全て目にしているので、俺がなにを報告しても「見ていたぞ」で終わらされてしまう。
なので裏をかいて他の場所で練習して、出来るようになってから報告すれば驚かせることが可能なはずだ。
師匠が驚いて俺を褒める……かは微妙だな。あの人、基本的に褒めないから。
でも認めさせたいからな。
すると少し遠くで見守っている騎士たちの声が聞こえて来た。
「相変わらずおかしいだろ……七歳の魔法じゃないぞ」
「俺の炎魔法より遥かに強い……」
「魔導の祖に並ぶ魔法の天才じゃないか……いずれは同じようにドラゴンを呼び出すことも可能かもなあ」
おお、思いがけない副産物だ。
かなり褒められてて嬉しい。ただこれに満足してはいけない。
俺は努力し続けるのだ。そうしていつか六つ目の英霊墓標になりたい。
誰にも忘れられて死んだからこそ、死んでもなお敬われるような者になりたい。
今から死ぬことを考えるのはどうかと思うが、人間いつ死ぬか分からないからな。
さて何度も試すがやはり火炎放射は蒼くならない。正確に言うとごく一部が少し蒼く染まる時はあるが、火炎放射が形を変えるのですぐに赤くなってしまう。
火炎放射に光の膜が飲み込まれて、火種になってしまっているのだ。
光の膜は魔力であるため、魔法に飲み込まれるとその魔法を強化する。
さっきから騎士たちが褒めているのも、光の膜を飲み込んだ火炎放射が強化されているからだ。
そう考えると失敗を褒められていることになるので、ちょっと微妙な感じになってくる。
今度は弱めの火炎放射を放って、光の膜で覆うのを試してみる。
普通の青い焔の球だならそれでいけたからな。
だが光の膜はつど火炎に飲み込まれて、その火力を上げるのに貢献するのみだ。
「す、すげぇ……」
「あれだけの魔法を撃ち続けてるのにまだ魔力が残ってるのかよ。俺ならとっくに倒れてるぞ」
「王城の結界を割ったくらいだものなあ。天才ってのはああいうお方のことなんだろう」
騎士たちは休憩がてら俺の練習を遠目で見ている。
俺からすればまだまだ魔力に余裕があると言うか、これくらいなら一日中続けても魔力は大丈夫だ。
そもそも練習中に魔力が回復するから、一か月でも撃ち続けられると思う。体力の方がもたないから無理だが。
そうして俺は騎士団の訓練所に通い続けることにした。
一日、二日、そして五日と練習し続ける。が、やはりうまくいかない。
「たぶんイメージが間違ってる気がするな」
魔法の練習をし続けた経験から、このまま続けても難しい気がする。
形を変える火炎放射に対して、それに光の膜の形を合わせるのは無理。
ならば逆転の発想をすべきだと思う。
光の膜の方が変形し続けて、火炎放射の形に合わせていくようにするべきだ。
イメージするのはビニール袋。買い物帰りに色々と詰め込んでも、伸びることで大半のモノは入る。
ようは光の膜をゴムにするイメージで作ってみよう。
改めて火炎放射を出してそれを光の膜で包み込む。だが今度は光の膜を柔らかくして、のびーる感じでイメージ。
すると光の膜が火炎放射に追随するように形が変わっていき……火炎放射全体が蒼に染まった。
火炎放射はその後、またすぐに赤色へと戻ってしまった。だが今のはかなりよかった気がする。
試しにもう一度、もう二度、もう三度と試していると、
「よしっ!」
俺は蒼い火炎放射を維持することに成功した。
消えない焔なので取り扱い注意ということで、空に向けて撃ち上げている。
すると訓練所にいた全ての騎士たちが、俺の焔を見て唖然としていた。
「な、なんだあの炎は!? 青いぞ!?」
「わ、わからん。少なくとも俺は見たことがない……」
「め、目の錯覚かと思ったが、他の奴らも青く見えてるのか……」
褒められるのは嬉しいが、訓練の邪魔になってる気がする。
目的も果たしたしお暇させてもらうことにした。